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次の日、ミゲルが起きて食堂へ降りると、リリアンが昨日のことはなかったように元気に働いている。

しかし、よく見ると目元は腫れて充血している。一晩泣き明かしたのだろう。

それでも、生活のため、父の残した宿を守るために、子供にできる範囲で働いているのだ。


これから、ミゲルの犯した過ちを正していく。

ただし、申し訳ないとは思うが、本当のことは打ち明けられない。

世界中のどこからでもアイテムが盗める能力など、口が裂けても言えない。

今後のすべての窃盗の容疑者になるし、そもそも王宮の宝物庫からも盗めることが知られれば、まず命はない。


結果として、ミゲルはこの選択肢を選んだ。


「リリアンちゃん、ちょっといい知らせがあるんだけど」

「え、なあに?」

「ずっと役に立たないと思ってたスキルがあったんだけど、それで、熊のぬいぐるみの場所を探せるかもしれない」


突然の都合のいい知らせに、リリアンはちょっと信じられないという顔をする。

まあ、当然だろう。


「そんなスキル聞いたことないけど……なんてスキルなの?」

「<アイテムサーチ>っていうんだ。いままで何の役に立つのか疑問だったけど、こういう時のためだったんだと知ったよ」


<アイテムサーチ>。

どこに何があるのかを知るスキル。そういうことにした。


「ほとんど使ってなかったから、約束はできないんだけど、調べてみるよ。ちょっと待ってね」


ミゲルはそう言って、うーんと唸り、スキルを使用しているように見せる。

そして、半信半疑の顔のリリアンに向かって言った。


「リリアンちゃんの部屋の中、壁とベッドの隙間に挟まってると思う!」


言われたリリアンは、さっそく自分の部屋に戻り、しばらくすると満面の笑みで熊のぬいぐるいみを抱いて戻ってきた。


「ミゲルさん、あった、あったよ! ありがとう!」

「お、良かった。ちゃんとあって安心したよ」


おかしいなー、ちゃんと探したはずなのになーと首をかしげているリリアンを見ながら、気づかれないようにほっと息をついた。

あるのは当然だ。ミゲルがスキルを使って置いたのだから。


ミゲルは昨晩寝て考え、やはりスキルを使って手に入れたものはすべて返すと決意した。

主に金目のものを取っていたが、不思議なことに、銅貨の1枚に至るまで、アイテムボックスから1度も出していない物であれば、元々どこにあったものなのかを知ることができたため、返すのは比較的簡単だった。


問題はリリアンのぬいぐるみと、宿代として使ってしまった銀貨だろう。

ぬいぐるみはこれでやっと返せたが、使ってしまった銀貨はどうしようもない。

稼いで返すしかないが、たしか阿漕な商売で嫌われている商人の金庫から持ってきたはずなので、真面目に返すかは悩み中だ。


「ミゲルさんの<アイテムサーチ>、すごいねぇ」


ぬいぐるみを抱いてご満悦のリリアンがミゲルを褒める。


「なくしたものを見つけるだけだよ。たいしたことないよ」


本心だった。

本来の<アイテム ボックス>は確実にチート。

完全犯罪を簡単に行えるズルいスキルだが、アイテムを取らず、「探す」だけにすると決意した今は、たいして役に立つとは思えない。


「じゃあそれならさ、私のお気に入りのスプーン、探してくれない? しばらく前から、見当たらないんだよね」


お気に入りとはいえ、ぬいぐるみほどの思い入れはないのだろう。

軽い口調で依頼してくる。


「人にスキルを使わせるときは、普通お金払うんだからな? 特別だぞ」


と言いつつも、リリアンを悲しませた罪悪感から、進んで探すことにする。


探すために必要な具体的な形状や、どこでなくなったかの心当たりを聞き、<アイテム ボックス>のスキルで調査する。

すぐに、キッチンの洗い場の床の隙間に挟まっているスプーンのイメージが頭に浮かんだ。

リリアンに場所を説明すると、すぐに目当てのスプーンを見つけて戻ってきた。


「ミゲルさんすごい、あったよ! やっぱりすごいスキルだよ!」


リリアンがはしゃぎながら戻ってくる。

お気に入りであったことは間違いないのか、嬉しそうなリリアンを見て、ミゲルも嬉しくなる。


少しは、罪滅ぼしになっただろうか。


「あら、何の騒ぎ?」


リリアンのはしゃぐ声を聞きつけて、母のリラも会話に入ってきた。

興奮気味に、熊のぬいぐるみがミゲルのスキルで見つかったこと、なくしたスプーンもすぐに見つけたことを説明した。


熊のぬいぐるみについてはマッチポンプなので居心地が悪い。


「あら、そんなスキルがあったのね。それならちょっと私も探してもらおうかしら。あ、お金は払うわ」

「あ、いえいえ、先ほどのは冗談です。いつもお世話になってますし、探しますよ」

「そうなの? でも、なくしたのはずっと前だから、そもそももうどこにもないかもしれないけどね」


そう言って、リラはなくしたものをミゲルに説明した。


なくしたのは結婚指輪。

まだ旦那さんが生きていたころの5年前。銀でできたシンプルな指輪。

なくした場所は……わからないとのこと。


「わかりました。ちょっと探してみます」


なくした場所がわからないと難しいかと思ったが、<アイテム ボックス>で家の中にはないことを確認し、次に庭を探したところ、「銀の指輪」と場所が頭に浮かんだ。


「見つけたかもしれません」

「……え?」

「ちょっと説明しにくいので、直接行きましょう。あと、スコップとかありますか?」

「花壇の手入れ用のであればあるけれど」

「それを貸してください。では、裏庭に行きましょう」


ミゲルはそう告げると、リラ、リリアンとともに裏庭に向かった。


裏庭には、シーツなどの洗濯物が干されている。

それ以外は、草も生え放題で手入れがされていないことがわかる。


「ちょっと恥ずかしいわね。ごめんなさいね、手入れが行き届いてなくて」


リラはそういうが、当然だろう。

母一人子一人で宿を切り盛りするのは大変なはずだ。


ミゲルは黙って手入れのされていない草むらに向かった。

おもむろにしゃがみ込み、木製のスコップで草の根元を掘り始める。

ほどなくして土の中から何かを摘み、リラに手渡した。


「ありました。多分これかと思います」

「……え?」


リラは一瞬、虚を突かれたが、手のひらに乗せられた銀色のモノの土を払い、慌てて確認する。


銀色の環。

その内側に刻まれていたのは、日付と短い文章。


日付は、リラと夫の結婚した日。

そして、文章は。


「『ずっと一緒にいることを誓う』。ああ、あなた……」


リラはうずくまり、静かに涙を流し始めた。

リリアンは、そんな母の背中を、昨日自分がしてもらっていたように優しくさする。


(これはこれで、役に立つのかもしれないな…)

ミゲルはそう思いながらその二人を背にし、そっと部屋へと戻った。


「ふう、これで一旦区切りはついたかな」


どっと疲れを感じ、ベッドに身を投げ出す。


「まあ、道を踏み外さないで良かったよ……」


そう独り言ちると、


『まったくだな』


頭の中に強烈に響く声があった。


「だ、誰っ」

『おぬしを転生させた神、と名乗れば想像がつくか? 恩を仇で返すとはこのことよ』


その一言で状況を理解し、ミゲルの顔は一瞬で青ざめる。


『前世の善行により我の権能の一部を貸し与えたが、よもやそれで我の神器を狙うとは、な。結果として思いとどまったようだが、本来は考えるだけで天罰を与えるべきものだ』


ミゲルはひたすらに畏怖し、震えるのみ。


『まあ、改心は人の特権だ。今回のみ赦そう。』


『次は、ない』



気が付くと、日が暮れかけていた。

寝ていたというよりも、気絶していたのだろう。

一方的に話されただけで、耐えられないプレッシャーであった。


まだ震える手で水差しからぬるい水を飲み、少しだけ落ち着くと、ミゲルは一人呟いた。


「ギリギリ助かった……。やっぱり真面目に生きよう」


そして、ずっと疑問に思っていたことがふと頭に浮かんだ。


世界中にアクセスできるのに、なぜアイテム「ボックス」なのか?

もしかしたら、ここは神が好きに弄れる「箱庭」だからではないのか?


いや、これ以上は、やめておこう。




半年後。


街中の、人通りが少なめの悪い立地に、1軒の店ができていた。

雨漏りする屋根と隙間風が通るあばら家に、簡単な看板が立てかけてあった。


『失せもの探し』


100パーセント近い的中率で口伝に話題になり、最近は別の町からもやってくる者もいる。


カギをなくした。指輪をなくした。貴重品を盗まれた。

そういった探し物を、詳細な特徴や、いつ、どこでなくしたのかを詳細に説明すれば、驚異的な精度で言い当てる。


珍しいスキルで、見つけてもらった客は素晴らしいスキルだと大絶賛するが……それだけだ。

結局は「探すだけ」のスキル。やっかむものもいない。

しかし、ある程度必要とされることは間違いないので、見下すものもいない。


ミゲルは安月給の肉体労働からは解放され、失せもの探しのボロ店でのんびりした日々を送っていた。

貴重品の場所を言い当てると、まれに「お前が盗んだのではないか?」などと言われることもあるが、「それなら売り払ったほうが早いし儲かる。意味がない」と反論すれば黙る。

子供でも分かる理屈だ。


思い出の品などを見つけてあげると、思わぬ額の礼金をもらったりするので、懐は比較的あたたかい。

ただし、戒めと贖罪もかねて、リラの宿から住処は移していない。

なお、使い込んだ銀貨の持ち主の商人は、この間詐欺で捕まったので、返さないと決めた。


そんなある日、フードを深くかぶって顔を隠した人物が店を訪れた。

護衛らしき剣士が4人、周囲を警戒している。

明らかにワケありだ。


ワケありフードが店に入り、ミゲルに話しかけてくる。


「ここは失せものをほぼ確実に見つけられると聞いた。探してほしいものがある」


ミゲルは、いつもの通りに答えた。


「はい、ここは探し物の場所を、私が答えられる場合のみお答えします。ただし、お答えできない場合もあるのでご容赦ください。私の命にかかわるので、ね」

読んでいただきありがとうございます。


↓長編も書いていますので、よろしければ読んでいただけると嬉しいです!

【逃亡王子の放浪記 ~世界の果てを見に行く方法~】

https://ncode.syosetu.com/n2929ms/

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