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異世界に転生したようだ。
ある日、見慣れない景色を思い出した。
自分の知識にあるのは、街中を行き交う車と人々、舗装された道路、高いビル。
しかし、今自分がいる安っぽい宿から見える景色は、石と木でできた、古びた町並みだった。
こういった状況を異世界転生というのだと、思い出した過去の知識の本にあった。
自分の記憶をたどってみると、自分はミゲルという18歳の男性で、ここから馬車で2日はかかる田舎から出てきたようだ。
転生前の自分がどんな人物であったか、記憶を思い出そうとしたが、どうしても思い出せない。
転生前のエピソード記憶だけは、すっぽり抜け落ちている。
結論として、自分は「異世界の知識だけを持っている、ミゲルという田舎から出てきた人間」であるようだ。
ミゲルが田舎から出てきた理由はわかる。
この世界には「スキル」というものが存在し、人々はそれを有用に使い、生活している。
剣・槍などの戦うスキルを持つ者は兵士や冒険者に。
農業・大工・商人などのスキルを持つ者はその職業に。
魔法などのスキルを持つ者は、戦うこともできるし研究職になることもでき、引く手あまたであった。
スキルは、人にもよるが2、3個。4個を超えるようであれば、将来有望としてもてはやされる。
その世の中で、ミゲルは2つのスキルを持って生まれた。
それは、アイテムボックスと、<アイテム ボックス>。
アイテムボックスというスキル。
これは、見えない空間にモノをしまうこのできる、ファンタジーによくあるアレだ。
非常に便利だがしかし、多くの人が持つ、特に珍しくもないスキルだ。
商人や運び屋などを行う人は当然のこと、さまざまな職業でも有用なスキルである。
ただ、それを活かせるのは、他のスキルがあってこそ。
ミゲルが持っているもう一つのスキルは、なんと同じ<アイテム ボックス>だった。
表示のされ方が少し違う気がするが、どちらにせよアイテムボックス。
同じスキルが2つ持つなど、聞いたこともない。
12歳になってスキルが発現したとき、動揺のあまりミゲルは両親にも本当のことが言えず、「アイテムボックスと剣のスキルだった」と嘘をつき、「冒険者になる!」と宣言して村を出た。
しかしスキル恩恵が少ない者には、この世界は甘くない。
実際に冒険者になってみたものの、魔物には勝てず、薬草集めや清掃、力仕事などでその日暮らしをするのが限界だった。
今住んでいる安宿も、父親が早逝し、母子で切り盛りしている宿の力仕事を手伝うことで、安く住ませてもらっている。
ミゲルという人物は、そういう人間だった。
「アイテムボックスと<アイテム ボックス>かぁ……」
前世を思い出したタイミングで、ふとその2つの違いを考える。
これまでは、ある意味ミゲルのコンプレックスであるため、<アイテム ボックス>についてよく調べたことはなかった。
そのため、通常のアイテムボックスはLv.4まで上がり、収納容量も増えて、それなりに重宝しているが、<アイテム ボックス>は全く使っていないため、Lv.1のまま。
だが、前世の常識を思い出したところ、表記が違うことに非常に違和感を覚えた。
「まったく同じ機能なら、まったく同じ表記になるはず。何か違うところがあるのでは?」
そう考え、<アイテム ボックス>のスキルを使用してみた。
唐突に【ミゲルの部屋】というメッセージと、目に見えている今いる部屋とは別に、第三者の視点でミゲルの部屋のイメージが頭に浮かんだ。
頭のイメージの中で、机の上にある水差しを取ろうとしてみたところ、目の前の水差しが一瞬にして消えた。
「!!!」
消え方は、通常のアイテムボックスと変わらない。
ただし、通常のアイテムボックスは手に触れないと発動しない。
しかし、<アイテム ボックス>はまったく手に触れずに発動した。
もしかして、と思い、部屋にあるものを片っ端から取り込んだところ、面白いように目の前からモノが消えていく。
そして<アイテム ボックス>の中には、【ミゲルの部屋】のどこにあったものであるかのイメージとともに、部屋の中のものが収納されていることが理解できた。
「これは……実は凄いのでは?」
ミゲルが面白がって部屋のモノを出し入れしていたところ、<アイテム ボックス>がLv.2になったことを感じた。
ワクワクしながら<アイテム ボックス>Lv.2を使用すると、頭に浮かんだのは【リラの宿屋】のメッセージとともに、ミゲルの住んでいる宿屋内の全体イメージであった。
「も、もしかして……」
ある予感に自分の手が震えるのを感じながら<アイテム ボックス>を操作してみると、やはり他の部屋のイメージが浮かんでくる。
そして、その部屋にあるものを取れることを理解した。
確認のため、試しに宿屋の娘がよく持ち歩いている熊のぬいぐるみをイメージしたところ、娘の部屋のベッドの上にあることを感じる。
そして、そのぬいぐるみを取ることをイメージすると、目には見えていないが、ベッドの上からぬいぐるみが消え、<アイテム ボックス>の中に収納された。
そして<アイテム ボックス>からぬいぐるみを取り出したところ、ミゲルの手の上には、宿屋の娘のリリアンがいつも持っていた熊のぬいぐるみが乗っていた。
「……これは……凄い。凄すぎる!」
ミゲルは<アイテム ボックス>の規格外さ、そしてその可能性に気づき、狂喜した。
それからはもう、迷うことはなかった。
使用すればするほどLv.が上がるスキル。
通常であれば何度か使用すると気力がなくなるため続けて使うことはできないが、<アイテム ボックス>はなぜかそれすら該当しなかった。
ミゲルは昼夜を問わずスキルを使用し、<アイテム ボックス>のレベル上げに勤しんだ。
読んでいただきありがとうございます。




