冬休みのはじまりに
クリスマスイブの朝、澪は、早朝の新幹線で東京へ旅立った。年内最後の録音が、今日からの三日間にわたって行われるのだ。
『行ってきます』
『気をつけてな。今日は、なるべく早く寝ろよ』
『うん。ユウも、風邪ひかないでね』
短いやり取りの最後に、澪から一枚の写真が送られてきた。新幹線の窓の外に広がる、薄い朝焼けだった。
『きれいだな』
『でしょ。ユウに、一番に見せたかったの』
その言葉に、思わずスマホを握りしめたまま、しばらく動けなかった。
*
その日の午後、俺は健人と三上に、駅前のファストフード店に呼び出された。
「悠人、頼みがある」
「どうした、改まって」
「年が明けたら、初詣、みんなで行かないか。四人で」
健人が、期待に満ちた目で身を乗り出してくる。
「四人って、俺と、お前と、三上と」
「もちろん、雨宮さんも! 実行委員の打ち上げ、ちゃんとできてなかっただろ?」
「そうだな。改めてやってもいいかもな」
三上が、ポテトをつまみながら頷く。
「澪は、年明けも東京の予定が入ってるかもしれない。聞いてみるよ」
「頼む。無理にとは言わないけど、できれば、みんなで行きたいんだ」
健人は、いつになく真剣な顔でそう言った。
「雨宮さんって、なんか、最近すごく楽しそうな顔するようになったよな。俺たち、ちゃんと仲間になれてる気がしてさ」
「……ああ。そうだな」
それが、秘密を抱えたままの友達に向けられる、まっすぐな信頼だと分かっていたから、俺は胸の奥が、少しだけ痛んだ。
「あと、カラオケリベンジも、初詣のあとで絶対やるからな」
「まだ諦めてなかったのか」
「当たり前だろ。俺の人生の目標だ」
「じゃあ、決まりな。初詣、四人で!」
「まだ決まってないって」
「いいから、決まりな!」
健人は嬉しそうに笑って、ジュースを一気に飲み干した。
*
その夜、澪から、東京のホテルの窓からの夜景写真が送られてきた。
『今、ホテル』
『お疲れ。初詣のことだけど、健人たちから誘われた。四人で行かないかって』
『え、行きたい』
『返事、早いな』
『だって、みんなで初詣、絶対楽しいもん』
それから、少し間を置いて、もう一つメッセージが届いた。
『発表の前に、ちゃんと話そう。二人に』
『ああ。俺も隣にいる』
『うん。ありがとう、ユウ』
窓の外には、冬の星空が広がっていた。年が明ければ、Rinの名前が、日本中に知られることになる。その前に、一番大切な友達に、真実を打ち明ける。
長かった「オーディション編」は、こうして静かに幕を下ろそうとしていた。そして、年明けとともに始まる新しい物語が、すぐそこまで迫っていた。
第60話まで読んでくださって、ありがとうございます!
最終選考の結果発表から年末までを描いた「オーディション編」は、ここで一区切りとなります。ここまで読み続けてくださった皆様に、心から感謝を。次話からは年明け、物語は新しい章へと進みます。
いつもブックマーク・評価をありがとうございます。次話もお楽しみに。




