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重工のメカロニカ  作者: 赤間世穹
第二楽章:交錯

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第5番:準備万端

 セリウムは堂々とした佇まいで、導師をさっと観察した。

 「僕は基本的に武器や防護服の生成、様々な事象が起きた場合の解明や研究、君のような異種やエリアMにいる海生脊椎動物の研究解析などなど様々な事をここの研究室で行なっている。基本的に記録(アーカイブ)を参照するが、それはエリアMにあるメカロニクス鉱力研究所跡地に遺された、いわば異種共の残骸を拝借して行なっているのだ」

 「ランタノイドのリーダーとしてそれらを、一人で?」

 「いやいや、基本的な部分はランタノイドチームがやることだ。専門的に踏み込んだ部分は僕の領域さ」

 彼らランタノイドが行う研究や生成は他の元素体(エレメンタム)にとって要となるものだろう。先程の金の話の時はかなり大人しそうに見えたが、セリウムはかなり静と動の差が激しい。

 「……と、僕の話はこれくらいでいいか? 君たちもこれに用があるんだろう?」

 セリウムの背後にはアルカリ調査部隊の子供たちや鉄、ベリリウムが何故かわくわくとした様子で待っていた。そこから少し離れた場所に鉛が待機しているが、こちらを見て呆れているように見える。

 「オレ! オレ、カリウム! すっげー気になってたんだ! なぁ、ルビジウムもそうだよな?」

 カリウムはかなり元気があるようでナトリウムのように異種である導師にかなり興味津々だ。対してルビジウムはカリウムの背後に隠れ、おどおどと挙動不審になっていた。話を振られて「えっ、いやっ」とかなり焦っている。

 「まったく、カリは落ちつきがなさすぎです。ボクのようにきぜんとしたたいどをですね」

 「うるせーなぁ。てかフランはどうしたよ」

 「エカ・セシウムなら自室です。彼はよわいですから、そもそもさそったところで来ませんよ」

 エカ・セシウムとは一般的には呼ばれないが、これはフランシウムのことだ。同位体の中で最も長い半減期でも二十二分というかなり短い時間しかこの世に存在できない元素だが、それがここにいるというのか、俄には信じ難いが、セシウムの言う「よわい」というのは、ここでは病弱的な扱いなのか、それとも精神面が弱いと言うことか、いずれにせよ一日二日、それ以上の時間に存在できると言うのはかなり奇跡的な事だ。有り得るのか、そんなことが。

 導師は彼らの会話を聞きながら悦に浸っていた。

 「でさ、おまえってウランってしってるか?」

 カリウムは不意に導師にそんなことを聞いた。

 ウランは原子力発電に用いられる、身近で危険な元素の一つだ。導師の記憶では過去の地球で用いられていたが、直接関わる機会は無かったようにも思う。

 「ウランそのものは知っているけど、ここのウランは知らないよ」

 「そっかー。じゃあおまえはあのけんきゅーじょのひとたちとはちがうな!」

 子供らしい発想と言うべきか、楽観的だがかなり心強く感じる。にかっと笑うカリウムを見ると思わず笑みが溢れる。

 「でも、でも、記憶が無いだけかも……」

 カリウムの背後からぼそっとルビジウムは言うが、セシウムにきっ、と睨まれるとひぃっ、と怖がって縮み込んだ。

 「ボクだってまだかくたるしょうこはないと思っていますから、完全に信用しているわけではないですが、せんせいが言っていたので、きっとだいじょうぶだと思います」

 セシウムは勤勉で頭の良い子供と言う印象を受けた。しかし見た目も中身もまだまだ子供で、派閥に挟まれてさぞ息苦しいだろうと思った。とはいえ金はその中でも最高権力者で、研究者としても元素そのものとしても格が上で、証拠が無いにしろ有無を言わさぬ空気がある。高いカリスマ性のせいか、あの言葉の重みは誰であろうと痛感するだろう。そんな金を信用するのも仕方が無いことだろうと思った。

 「ねーぇ、わたちもおしゃべりちたいの!」

 頬を膨らませてナトリウムがリチウムの腕に抱かれつつ、じたばたと暴れていた。

 「おまえはすぐつっぱしるだろー?」

 「しないもん!」

 「はいはい、お子さまはお口をとじましょうね」

 「んもー!」

 カリウムとセシウムに交互に言われ、更に暴れた。リチウムもかなり大変だな、と導師は同情した。

 「えーっと、もういいかー?」

 口を挟まないように見守っていた鉄がおずおずと挙手をして言った。

 「すみません、鉄さんにベリリウムさん。ボクらはこれでしつれいしますね」

 「だなー、オレらもおつかいいかなきゃだし」

 「ごめんね、ドクター」

 ばいばい、と手を振ってリチウムは他のアルカリたちを連れて出て行った。その後ろ姿はまるで保育士のようだ。一番手のかかるナトリウムをずっと抱えて行動するのはなかなか骨が折れそうだが、彼らは別行動をすることがあるのだろうか。

 鉄は導師の頭をバンバン叩きながら「いやーあいつら、まじかーわいーよなぁ!」とデレデレの様子。鉄はかなり他の部隊の元素にも思い入れがあるようだ。

 「ほいじゃ、準備するから来てくれ」

 そう言って鉄はベリリウムと鉛を連れて歩いて行き、導師もすぐに追いかけて行った。

 セリウムはじっと、最後まで観察していた。本当に彼が記憶喪失なのかどうか、これから元素体とどう関わっていくのかどうかを。


   *


 鉄たちが来たのは寮のエントランス。一室には遠出する為の用意が一式揃えられているようで、ランタノイドのお使いチームや調査チームも既に来ていた。お使いチームには先程会ったカリウムやルビジウム、他にもまだ知らない元素体がいた。

 「カリとルビーは会ったよな、他の二体がケイ素とマグネシウムだ」と鉄は紹介してくれた。その声に気づいたマグネシウムがこちらに手を振ると近づいてきた。

 「アタシはテラ部隊のマグネシウム。よろしく、ドクター! ドクターも補給チームなの?」

 「俺が誘ったんだ〜」

 嬉しそうに鉄は導師の肩を抱き寄せて笑った。

 「へぇ! 次は一緒に当番したいなあ」

 「順番だぜー?」

 「わかってるよぉ。あ、ほら。ケイ素も!」

 マグネシウムに声をかけられたケイ素は物静かなタイプのようで全く返事もしないが、導師をじっと見ると、静かに近寄った。

 「……ハーフの、ケイ素」

 それだけ言うとぺこりと軽く頭を下げた。

 「補足するね、ハーフ金属の、特殊工作部隊の隊長さんなんだ。これでも凄腕の技師なんだよ!」

 マグネシウムが自分のことのように自慢げに話すのを、そんなことはないと言いたげに首を横に振るケイ素は謙遜しているのか、表情が読みづらいが水銀とは違って無口なだけで、意外と取っ付きやすいのかもしれないと思った。

 「よろしく」

 「調査チームも紹介しとく……あれ、もういねぇや」

 「また次のときでいいんじゃないかな?」

 「だなー。んじゃ、俺らも準備するか!」

 マグネシウムたちお使いチームの四体は先に寮を出ていき、鉄たちは準備を始めようとしたが、鉛が既に始めていた。

 「そういやちゃんと紹介してなかったよな? こいつが鉛!」

 作業している鉛の首に腕を引っ掛けてぐいっと抱き寄せる鉄に、かなりいらっとしたようで鉛は肘で思い切り腹の辺りを突いた。痛そうだなと思ったら鉄よりも鉛の方が痛がっていた。

 「おいおい大丈夫か?」

 「お前のせいだ!」

 見兼ねたベリリウムが、「鉛はプア技術支援部隊の隊長なんだ。私はマグネシウムと同じ部隊の、テラ後方支援部隊の副隊長やってるベリリウム。改めてよろしく」と補足しつつ自己紹介をした。

 「よろしくね」と導師が言うと無表情ながらも口元は少しだけ綻び嬉しそうに頷いた。

 「でなー」と続きを話そうとした鉄に「もう話したからいいよ」とベリリウムは言い、「いつの間に!?」と驚く鉄を置いて鉛が先に用意した物を導師に見せながらまた説明を始めた。

 「これがタブレット型の補給道具。それぞれの元素の一週間分の栄養が入ってる。私の場合はベリリウムが一週間分この中にぎゅって詰まってるってこと」

 人で言うサプリメントのような物だろうか、しかしそれとも違う。彼らの補給はあくまで体内と同じ元素を何らかの方法で摂取することにある。人よりももっと単純な方法で賄えるのか。

 「多分、一個行く前に飲めば問題無いけど、馬鹿は二つ三つ食べて行くこともあるね」

 馬鹿、とは多分鉄のことだろう。ベリリウムはそう言った時にちらりと鉄の方を見た。本人は気付いていないのかそれとも気にしていないのか、同じように作業をしているが、言った通り二つタブレットを飲み込んだ。

 「……あれは、大丈夫なの?」

 「鉄は頑丈になるだけだからまあ良いんじゃないかな。基本的にはそこまで問題では無いと思うけど、危ない子はいるね。他の準備、と言ってもこれと言ったものは無いな。掘る為の道具と、クリスタルを保管するものを持ってくだけ」

 掘る為の道具と言って取り出したのは一見すると普通のツルハシのようだが、カウント表示がついており、掘った分がカウントされる仕組みなのだろう。そして保管するものと言って取り出したのは、前に導師が道具を貰った時に一緒に手渡されたポケットが多くついた大きめのバッグと似たようなもので、そこは普通のバッグなのかと思っていると、バッグの脇にツルハシを差し込み、その近くの小さなポケットにタブレットを入れるとベリリウムが再び説明をしてくれた。

 「この入れ物は、この大きい口の方に入れると……あ、鉄、それ貸して」

 鉄が持っていたツルハシに指差すと「これか?」と言って鉄は不思議そうに手渡した。

 そのツルハシをバッグの主要の大きな口の方へ入れるとすぐにミニチュアサイズになった。

 「何これ、え?」

 まるで魔法の様だ。地球も高度な技術を有しているがそれでも限界がある。やはり科学は面白い、ここまでのことが出来るのか。導師はかなり感動していた。

 食い入るように見ている導師に鉄はかなり嬉しそうに「すげーよな!」と言った。ベリリウムは「そこまで興味持つとは思わなかった」と少し引き気味だが。

 一方で鉛は早く行きたいのか出入口でとんとんと足を鳴らしながら待ってくれていた。

 「あ、ごめん鉛」

 「ふん」と不貞腐れたようにそっぽを向く姿は少し子供っぽく感じた。

 「んじゃあ俺らも行くか! 待たせたな鉛!」

 「エリアPまで飛ばすよ」

 そう言うとさっさと出て行った。

 「じゃ、俺と行くかドクター」

 「どうやって?」

 「どうって、()()()?」

 「え……?」

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