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重工のメカロニカ  作者: 赤間世穹
第二楽章:交錯

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第4番:異種と説得

 朝礼のアラームが鳴った。広間にはぽつぽつと元素体(エレメンタム)が集まり始めるが、真っ先にスピードを上げて着いた鉄は朝からかなり気分が良かった。

 「よっしゃあ! 一番乗りぃ!」

 「鉄、うるさい」

 次いで来たのは鉛だった。溜息をつきつつ、待っていた金と白金に挨拶をする。

 「ハロー、先生」

 「やぁ、相変わらず早いね」

 「君たちは補給チームだったね。良い結果を楽しみにしているよ」

 金の言葉に了解の意を込めて頷く寡黙な鉛に反して、鉄はモニターの前で他のメンバーを確認していた。まるで幼い子供のようで鉛はまたひとつ溜息をついた。

 「なぁ、ベリリウムも一緒だって! 俺あいつ好きなんだよな、結構面白いしさ!」

 ベリリウムはテラ後方支援部隊の副隊長で、鉛と似て感情表現が苦手な方だ。しかし仲間想いで内に秘める情熱は人一倍大きい。鉄とはかなり相性がいい能力を持っていることもあり、鉄とベリリウムは仲が良かった。

 鉛は鉄のはしゃぎぶりに既に疲労していたが、先生たちは微笑ましそうに眺めている。

 「導師(ドクター)を連れて行くんだろう? 部屋まで迎えに行かなくて良いのか?」

 金の質問に「あっ!」と言うとすぐに広間を走って出ていこうとするのを鉛が止めた。

 「通信」

 「あ、そうだ! へへ、忘れてた」

 この単細胞は考えるということをしないな、と呆れてじっと鉄を見遣る鉛を意に介さず、鉄は通信を始める。暫しの呼出音の後、導師が応じたようで、鉄はとても嬉しそうに「Selam(やぁ)! ドクター。今から広間に来いよ! 朝礼始まるからさ!」と言うだけ言って通信を切った。

 「多分すぐ来るぜ!」と陽気に鉛にサムズアップをする。

 「何の話だ?」

 すると背後から鉄の顔を覗き込むように身を屈める姿に、鉄は「うおっ」と驚いて跳ね退いた。

 「ベリリウム! びっくりさせんなよなぁ」

 「ごめん。声掛けても気付かなかったみたいだから」

 「そうか? それは悪かったな」

 「嘘だよ」

 「嘘かよ!」

 「ところでさっきのは?」

 「通信か? ドクターにこっち来てもらおうと思ってな!」

 「ドクターか、まだ会ってないな。どんなやつ?」

 「けっこーすんなり馴染んでたよなぁ」

 「そうなの? ふーん」

 ベリリウムと鉄が話していると、元素体たちがほぼ全員集まり、それぞれの部隊で点呼を取り始めていた。気が付けば鉛も自分の部隊の列に戻っている。

 「ベリリウム、話はそれくらいにしな」

 なかなか来ないベリリウムに痺れを切らしたカルシウムが呆れたように声を掛けた。

 「あ、ごめん」と軽く謝り、カルシウムについて行った。

 鉄はベリリウムを一瞬見送った後、トランジ部隊の方へ向かい、「トランジはいるよなぁ!?」と大声で確認をとった。

 「()以外ならいますよぉ」と銀が応えると、Tamam(大丈夫)!とサムズアップした。

 鉄はそのまま列の最前で立ち、先生たちの動向を見守る。

 先に口を開いたのは金だった。

 「我が導師が広間に来るまで暫し待って欲しい」とだけ言うと再び口を閉ざした。

 導師の話はある程度広まっていたが、噂を耳にした程度で会ったこともない異種の存在を好ましく思わないものもいれば、やはり興味の対象とするものもいる。ざわざわと騒めく中、出入口付近に一番近くにいるアルカリ調査部隊のカリウムが「お! きたぜ!」と声を上げた。するとその声で場は一気に静まり返った。

 かなりの数が集まっている中、導師は特に動じる様子は無く、毅然とした態度で金の元へ真っ直ぐ向かった。少し気になるようで部隊をちらりと一瞥する導師に、鉄はすれ違いざまにハイタッチを交わした。

 「我が兄弟、導師よ。よく来てくれた」

 「招いてくれてありがとう」

 「いや何、君はもう我々と協力関係にあるのだから遠慮は必要ない。次からも是非に参加して欲しい」

 「分かった」

 そう交わすと導師は白金とは逆の金の隣に立った。

 導師を初めて見た元素体たちはまた騒めきだした。

 「あれが異種?」「触れてみたい」などの声が上がる中、既に会って話している元素体たちはさっさと集会を終えて話しかけに行きたいようでそわそわとしているものもいた。

 金は高らかに、空気を震わす。

 「聴け、皆の者」その声に瞬時にまた静まりかえる。「彼は導師(ドクター)、エリアMにかつて飛来し、今は氷に眠る()()()と同種のもの」

 そこまで言うと、カルシウムが即座に反応した。

 「あのアクチノイドを生み出した奴らと同種だって!? ナトリウムを危険に晒したやつの仲間か!?」

 導師は驚いてカルシウムを見た。怒りに震えるカルシウムはじっと睨みつけ、わなわなと拳を握り込んでいる。

 「落ち着け、カルシウム」

 金の一声に一瞬息を呑むも、「でも!」と反論しようとする。だが金はそれを許さず「聴け」と一喝した。

 「彼は我らと異種の存在、しかしそれだけで敵対するのはおかしな事ではないか? 導師は今記憶を失っている。だが科学に関する知識だけは強く残っているようで、我々の知らない知識を披露して見せた。既に会っているものたちはそれを証明するだろう」

 「だからと言って……」

 カルシウムは納得が出来ないようだが、信頼する金の言葉に耳を傾け、かなり動揺していた。

 「カルシウムの気持ちも分かる。他にも同じように感じるものもいるだろう。ならば私を説得してみせてくれ。協力関係になろうというのは私の勝手な判断に過ぎない。よって、何か意見があるならば全て私が聞こう。言っておくが、彼はこの中で最も無力だ」

 重く響く金の言葉に皆押し黙ったまま、カルシウムもカルシウムのように導師反対派につくものも、金の言葉には何も言えなくなってしまった。

 ただひとつを除いて。

 「彼は本当に記憶を失っているの?」

 その姿を見せず、ただ声だけが聞こえる。

 「先に話した通りだ」と金はそれ以上の事は言わない。

 声は沈黙の後、「過去の異種とは違う証拠は?」と放った。

 「違うという証拠も無ければ、同じという証拠も無い。だから言ったろう──私を説得してみろ、水銀」

 ただ事実を述べているに過ぎないと言う風に金ははっきりと言う。そして、その名を白金の方を向きながら呼んだ。

 白金は少し呆れたように肩を落とし、足元に視線を向けた。そこには水滴程度の水銀があった。

 「仮に、彼が何かしらを企てていたという証拠や、噂程度でもいい、そういった何かしらがあれば私に言え。もう一度言う、彼は我々の技術が無ければ簡単に崩壊する(死ぬ)。言葉を変えようか、我々が手を貸すことによって彼もまた我々に手を貸してくれると言うのだ。だからこそ、彼を崩壊させる相応の理由があるのならば、私を説き伏せてみろ」

 指導者と言う立場からこその言葉か、依然として態度も声色も変わらないがかなり強い言葉を使っている。それだけ思い入れがあるのか、それともただ彼ら元素体を試しているのか、白金は最初から最後まで口を挟むことは無かった。

 白金は掌に水銀を乗せると鉄に渡した。鉄は包むように持つとにやにやと笑みを浮かべながらその手の隙間から覗き込んだ。

 「…………ふむ。まあ、直ぐに名乗り出る度胸のあるものはいないとみた。さて。これより、画面に映るチームに別れて別行動となる。ランタノイドと待機班は普段通り過ごしてくれ」

 続いた「以上、解散」の言葉で張り詰めた緊張が解けたように呼吸を但し、各々動き始めた。

 導師はかなり気圧されていた。勿論、口を挟む気は一切無かったものの、金の凄さに舌を巻いていた。この中の最高指導者である金が身の保証をしているのだから、これで心置き無く己の知的好奇心や探究心に身を委ねられる。そうだとしても、敵視するものが少なからずいるという現実はどうも受け入れがたかった。ここで何があったというのだろう。

 導師が呆然と立っていると、セリウムが唐突に近寄った。ヘルメット部分に思い切り、ばんっと白衣の袖で叩き、その視界を遮った。かと思えば、音がするほど勢い良く袖を退けると「ばぁ!」と満面の笑みで顔を近づけた。

 「わっ」

 「ハッハー!! 実に愉快!! コレがかの()()()()()の同種だってー? 有り得ない有り得ない〜否! 有り得る! 微々たる数値は正直だ!! ゼロが6つ以上ついたとしても1があれば有り得るのだ!!」

 今度はその怒涛の寸劇に気圧され、思わず口が半開きになっていた。

 「その間抜け面、実に面白い!」

 「いや見えてないでしょ……」

 「そうだ、申し遅れた。僕はセリウム、ランタノイドのひとつだ。ランタンよりもこの僕が! ランタノイドを仕切らせてもらっているよ」

 セリウムはオーバーな身振り手振りで自己紹介したかと思えば紳士のように手を差し出し、導師に有無を言わさぬ勢いで手を取り「ハイよろしくー」と握手を交わした。

 「何者……」

 「それはまた次回!!」

 「え……?」

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