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重工のメカロニカ  作者: 赤間世穹
第三楽章:世界

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第15番:不思議な力

 魔法使い、この世界において五色に分かれたオーラを持ち、その色の属性の不思議な力を扱える人間。一般に知られていた時代は確かにあった。ニュース番組などで魔法学校の行事が報道されたこともあったほど、その地域では身近に感じられるものだったことだろう。しかし実際にこの目で見ていない人々はやはり容易く信じる事は出来なかった。導師も情報は持っていたものの、この目で見ていないものを信じることは難しかった。だが魔法以外にもこの世界には超常的な現象は存在している。実際にまだ未解明のものが世界には溢れているのだ。総てが科学で説明出来るのかそうでないのか、知らないものを知るのは科学者としての本文だろう。とはいえ魔法について知る機会はあまりにも少なかった。

 そして今直面している現象、金が体内に異物を埋め込まれたということ。そして遠隔操作や声を届けることが出来るかどうかという疑問。物理的には不可能だが魔法ならば可能かもしれない。導師は以前読んだ魔導書を思い返した。物体を操る事自体は魔法使いで言えば初歩的なもので、誰でも出来る基礎のようなもの。だがこの場合基礎の応用とも言い難い。星の外から鑑賞しているとして、どうやってこちらを見るというのだろう。それも魔法の一種だろうか。だとすれば何かを介して覗きながら遠隔で埋め込んだというのか。

 そもそも金はどのようにしてこの星に来たのかに遡るともはやそれが正解かもしれないと思えた。彼と白金は落ちた隕石から産まれた。原初の母胎と呼ばれる隕石には違和感があった。他の母胎の名称は以前やってきた学者たちがつけたものだろうが、原初の母胎と言うのは学者たちがつけたにしては関連性が薄い気がする。皆それぞれ母胎のイメージや地球と関連したような名前をつけているが、隕石だけは「原初」とだけついている。初めから存在していた、総てここから始まった、そんな意味があるように思うが、それをやってきたばかりの学者がつけるだろうか。

 隕石をわざと落としたとしたら。

 その瞬間から、彼らはこの姿で産まれることが決まっていたのではないだろうか。

 それが出来るのはやはり魔法使いだろう。だが宇宙空間にいるとは考え難い。魔法使いも人間だ。別の星か、もしかしたらこの星の中にいるかもしれない。 ──いや、不可能だと思われることすら彼らには出来てしまうのかもしれない。

 金には簡単に魔法使いとはどういう存在か、そして推論を話した。

 「──つまり、我々はその魔法使いの実験の為に造られた存在だと?」

 「可能性の話だけど、そうとしか……」

 「ふむ……確かに、この状態の前から埋め込んでいれば可能だろうが、私が“こうなる”と推測していたのか、全て計算通りということか」

 「実際に声が聞こえたとなればその異物を通して声を届けてたのかもしれない。 ……確かに、この姿になる事が予測できていたのかは私たちが推測出来る範疇に無いと思う。だけど、その人物は確実にここを“見てる”と思う」

 導師の推論は場をざわつかせた。やはりナトリウムとルビジウムはよくわかっていない様子だが、ルビジウムは皆の様子に不安になったのか泣き出した。

 「るびー、だいじょーぶだよ」とナトリウムは頭を撫でるが、ルビジウムは嗚咽をもらしながら泣き続けている。

 「……まぁ、ともあれ我々はどうすべきかを考えねばならない」

 「ウラノピスキスがいるからこそ行けない場所がある、もしかしたらその場所に何かがあったりするのかな……隠したいものがあるとか」

 リチウムは閃いたように言い、鉄も確かに! と頷いたが、他の皆はうーんと唸った。

 「わざわざ隠す必要あるかな」

 「実験でしょ? 僕たちを試してるなら何かしら残してるかも」

 「考えづらいが、仮にその張本人が我々が考える人物像(ヴィジョン)ではなく、全く想像のつかないようなものだとすれば、あるいは」

 金の言葉に、導師は一瞬考え込む。

 「……人間と、君たちの違い」

 「違い?」とリチウムは聞き返した。

 「感情の数、かなって。人間には善意と悪意があって、その上で様々な感情を持って行動するし話すんだ。でも君たちはほとんど裏表がない。悪意を持たないのは基本的な動物、悪意を持つのは人間だけ……そう言われることがある。だから、魔法使いと言えど人間だから、もっと複雑な思考回路があるかもしれない。 ……し、ナトリウムみたいに直線的な感情と思考回路の可能性もある」

 「なるほど。人はもっと複雑か」

 「あー! 分かんねえ!!」

 髪をくしゃっと掻きながら鉄は叫んだ。

 「もうアイツら倒しちまえばいいよ!」

 「それはそれで危険だから話してるんだけどね」と苦笑しながらリチウムは言った。

 「……導師、君はどうすべきだと思う? 君の言葉で、我々を導いてくれないだろうか」

 金は真っ直ぐ見据えて言う。導師はその瞳に弱かった。ただどうすべきか、どうするのが正解なのかわからなかった。

 彼らの願いは争いではなく平和。ならばそれでいいのでは無いだろうか。無闇に争う必要は無い。人間ならばここで戦いに行く者もいるだろうが、エネルギー源の鉱石が定期的に再生するとはいえ、彼らは人間ほど頑丈ではない。いっそのこと全て忘れてしまえればいい。

 ──私はただ、知りたいだけだ。この星の事を。

 導師は言った。

 「──無理に突っ込まなくていいと思う。このまま、日常を過ごせば……」

 「でもよぉ、干渉してきたんだろ? やばいじゃんか!」

 「私としては、間接的にでも奴の声が聞こえた、干渉されたのは不快だ。奴の思い通りにさせたくない」

 鉄と金はそう言うが、リチウムやセシウムはうーんと唸っていた。

 「なんかむずかしいよなぁ、からかってんじゃねーの?」とカリウムの言葉で導師ははっとした。

 「確かに、ただ弄んでいるだけかもしれない。全て計算済みで、こうしている間にもきっとこっちを見ている」

 「……やはり、直接会いに行くしかないだろうか」

 金はふとそんなことを呟いた。

 技術力としては可能だろうが、外部の環境にどれだけ対応するのか計り知れない状況でのそれはかなり危険だろう。あまり現実的とは言えない。

 不意にユグニウムが導師の頬を舐めた。驚き抱き上げると、次は頬擦りしてくるその姿に妙な安心感を覚えた。飼っていた犬や猫を思い出し、何だか懐かしくなった。

 「ユグ、君は元の群れに戻りたいと思う?」

 導師の問いに、ユグニウムは答えずにただ導師の躰に頭を擦り付け、手に尾を絡めている。ここにいたい、ということだろうか。

 幼いながらに何かを感じ取っている、ルビジウムとどこか似ている。

 ナトリウムは身を乗り出してユグニウムの背を撫でた。

 「一先ず、研究結果が出るまで待つか」

 そう言って金は立ち上がり、広間を出て行った。

 「なんかなぁ、ドクターはなんであんなこと言ったんだ?」

 鉄の言葉にずきりと胸が痛んだ。理由は定かではないが、彼はウラノピスキスを全て排除すれば終わるとでも思っているのだろうか。

 「鉄、もし仮にあそこにいる彼らを駆逐したとして、それで終わると思う?」

 静かに問いかけると、鉄はうーんと考え始め、あっと声を出した。

 「もしかして、またこっちに増えたりするのか?」

 「どれだけの数棲息しているかは不明なだけ、蟻の数だけいたとしたら、ただこちらが消耗するだけで何も誰も得しない。だから無闇に手を入れるのは得策じゃない」

 蟻の数という例えは理解出来ないだろうが鉄は何となく察したようで「確かにそうか」と納得した。

 「でも、ボクたちにできることってないんでしょうか」

 セシウムは腕を組んでずっと考えていたようで不安そうな表情で言った。

 「ただもしも、万が一にでも攻めてきたらと考えたら、その時の為に準備をしておくのはいいかもね」

 そう言うもセシウムはそうですね、と返事をしつつまだ不安そうだった。

 「ゆーぐーあそぼー」はナトリウムは呑気にユグニウムの尾を引っ張っている。

 「……うぅ、ぼくたち、どうなるの……?」

 ただ一人、ルビジウムはずっと泣いていた。


  *


 その鱗や皮膚は、放射線や温度変化などの変質的な宇宙空間に対応する強靭な生体高分子で構成され、鰭には複数の超小型の噴出口(スラスター)があり、そこから超高密度のプラズマが噴出される仕組みで、尾や鰭は推進力を利用して舵を漕ぐ為の装飾、そしてそのエネルギー源となるのはソーラーパネルのような特殊細胞によって吸収される恒星の光。光は貯蓄され電気自動車のような充電の役割を担う。電磁波探知能力を備え、あらゆる電波を拾い、更に視覚も発達している為、赤外線や紫外線を捉え、周囲を把握することが出来る。岩石を食べることがあるがその理由は判明していない。

 この銀河棲生物はかなり特殊な、宇宙空間に適応した生物であることが分かった。

 セリウムは硬く閉ざされた皮膚の一部を採取した物を試験管に入れ、様々な反応を見た。そもそも採取するのにかなり手間を掛けたのでかなり頑丈な造りである事は承知だったが、あらゆる物質に一切反応しないのを改めて見ると、戦闘部隊そのものが気休めでしか無かったことを思い知らされた。

 完全に倒すことは不可能だ。だが、外部の光が届かないこの星で、この生命体が活動できるには理由があるはずだ。その栄養源さえ分かれば対処できるだろう。

 もう一度Mへ行くべきだろうか。金へ頼んで配置してもらおうか、そう悩んでいると、視界の端から何かが覗き込んでいるのに気が付いたセリウムは「見学か?」と話しかけた。

 「おやおや、そんなことないですよぉ。セリウムの旦那ぁ、何かお困りかなぁと思いまして」

 手を擦り合わせて下からにこにこと覗き込む銀にセリウムは苦笑した。

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