彼の成長と後悔
同窓会の会場に向かうタクシーの窓に、
夕方の街が流れていく。
仕事は相変わらず忙しい。
父親の会社で任される仕事も増えた。
海外で学んだことも、
ようやく形になってきた。
10年前に誓った通り、
胸を張れる男になれた——
はずだった。
「……はず、なんだけどな」
胸ポケットに入れたままの封筒が、
小さく重い。
開けられなかった。
今でも。
昔の自分なら、
勢いで破っていたかもしれない。
好奇心に負けて、
深く考えずに。
でも今は違う。
10年で積み上げた自信がある。
陽キャを演じなくても、
自然と人が寄ってくるようになった。
求められる役割を
無理に背負わなくてもよくなった。
それでも——
彼女の封筒だけは、
触れるたびに10年前の自分に戻される。
名前を書けなかった弱さ。
すり替えてしまった後悔。
そして、
忘れられないままの想い。
タクシーが止まる。
会場の前には、
懐かしい顔がいくつも見えた。
「おー、会長!
相変わらずイケメンだな!」
「仕事すごいんだって?
やっぱ違うわ〜」
軽い声が飛んでくる。
昔と同じ。
でも、彼はもう“陽”を演じない。
ただ笑って、
自然に返すだけでいい。
それでも、
胸の奥では別の声が響いていた。
——来てないよな。
やっぱり。
彼女の姿はどこにもない。
わかっていた。
来ないだろうと。
彼女はそういう子だった。
それでも、
ほんの少しだけ期待していた自分がいた。
胸ポケットの封筒が、
その期待を静かに責めるように
熱を持っていた。




