後悔のかたまり
封筒を机に置いたまま、
彼はしばらく動けなかった。
開けようと思えば開けられる。
昔の自分なら、
勢いで破っていたかもしれない。
でも今は違う。
海外で経営を学び、
父親の会社で修行し、
「どうせ跡継ぎだろ」と言われながらも
努力で評価を勝ち取ってきた。
結婚相手も家に決められそうだったが、
それも自分で選ぶ権利を父親に認めさせた。
——10年前に誓った通り、
上っ面じゃない自分に変わってきたはずだ。
なのに。
封筒に触れる指先が、
ほんの少し震えていた。
「……無理だな」
声に出すと、
余計に胸が痛んだ。
10年前の自分は、
胸を張れる男になると決めて
「好きです」を書いた。
その決意に、
今の自分は追いついているはずなのに。
彼女の封筒をすり替えた時点で、
胸なんて張れない。
開けたら、
もっと自分が嫌いになる気がした。
だから、
開けられなかった。
封筒をそっと押し返すように、
机の端へ寄せた。
そのとき、
スマホが震えた。
画面に表示された名前を見て、
思わず息が止まる。
——生徒会の副会長だったやつ。
「おい会長。
卒業10年だし、久しぶりに集まらね?
みんなタイムカプセル届いたって騒いでるぞ」
昔と変わらない軽い調子。
でも彼の胸の奥は、
ざわついたままだった。
封筒を見つめながら、
彼はゆっくり息を吐いた。
「……行くよ」
そう返した指先は、
後悔のせいか
ほんの少しだけ震えていた。




