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20話、恐怖、赤札だ!地獄の無限労働の巻『前編』


朝のまどろむ一時は、

私にとってとても重要であり


心の平穏を保つ為には欠かせない。


「パパ!何処か連れてって!」


光音も最近はっきりと話せる

様になってきた。


いつもならいる覚さんや柊さんは、

急な仕事が入ったらしく急ぎ出掛けて

もう二週間も連絡が来ない。


狛犬のコマチも窓際で日向ぼっこをしている。


とても気持ち良さそうに寝息をたてていた。


「う〜ん…よし!今日は休みだから公園に行くか!」


鈴木太郎は、北島三郎さんの『与作』を口ずさみ弁当の準備をする。


鈴木

「よさくぅ~は木をきる~。」


光音

(とんとんとん、とんとんとん。)


間の抜けた親子の協奏曲。


迷惑そうにしているコマチであった。


光音の背丈が私の腰まで伸びてきた。


一年も経たないが妖怪故に


成長期も早いのだろう。


時々思うが私達は光音が女の子だと決めつけて育てている。


現に柊さんのご両親も私の母も可愛い動物のぬいぐるみや


ピンク色で花柄模様のスカートなどを買ってくる。


特に私の母は娘が欲しかったそうでとにかく光音には激甘である。


後四年。月日が経ち、もしも

性別が男の子になってしまったら…。


柊さんのご両親と私の母は落胆するのであろうか…。


私は性別がどうなろうと元気でいてくれればそれで良いと達観していた。


柊さんも同じ気持ちだろう。


覚さんはちょっとわからない。


以前に子供用のダンベルと

自分が愛用しているメーカーの

熊のタンクトップを買って

光音に着せようしていた。


何故か昔話の金太郎に見えて

しまう。


ツボに入り私は大爆笑をする。


その事で私に泣いて怒る光音。


柊さんも笑っていたのに…。


それ以来、熊のタンクトップは封印されていた。


和やかな日常を狂わせる一通の赤いメール。


宛先人は労務人材派遣課からだった。


「あ…赤札だ!赤札が来てしまった!!」


嘆く私に驚く光音とコマチ。



手と額から流れる汗。


身体が拒否反応を起こし震えてしまう。


これを見ている者は、なぜ私がここまで怯え恐怖しているのか?


と疑問に思うだろう。


AYAKASHI本部、労務人材派遣課『別名、強制労働斡旋所』


人材不足により施設運営が困難と判断された場所に適切な人物を派遣する部署である。


そして適切だと判断された場合送られるのが『福祉派遣労働員』の通知なのだ。


別名”赤札”と呼ばれ一度送られてしまうと最低1ヶ月は家に帰れない。


住み込みで働かなくてはならない。


かつて一回だけ栃木県のとある場所に介護職員として派遣されたのだが…。


3ヶ月間住み込みで平均12時間働き、しかも休日など無い。


こんな暴挙を見逃し

労働基準局は一体何をしているのか?


何度考えたかわからない。


だが所詮は”一公務員”。

国に雇われた私では太刀打ち

できないパンドラの箱である。


ちなみに労働基準局と局長と

労務人材派遣課の課長は、

姉弟だと言うことを知っているのは一部の者だけであった。


なら、そこまで酷いものならば拒否すれば良いのでは?


そう思ったあなたは、決して間違いではない。


だが…、時として正論がまかり通らないのが社会のルールだとわかって欲しい。


もう一度言おう国に雇われた

以上、今の時代では公務員には拒否権など無い。


国の命令で働けと言われたら

死ぬまで働くのが我々公務員の定めなのである。


私は、急いで実家の母に連絡を取った。


コマチと光音をしばらく預かって欲しいと…。


私が呼ばれるという事は、恐らく覚さん達も私と同じく赤札を突き付けられた労働に準じているのだろう。



私の実家へ光音とコマチを預け勇ましく戦場へと向かう。



「ちょっとあんた!行き先わかんってんの?」


母の一言で我に返る。


「とりあえずAYAKASHI本部に言ってくる。」


それだけを伝えると雲外鏡さんに連れられて本部へと向かう。


雷鳴鳴り響き、瞳から光を失いさ迷い唸る同士達。


私の前に倒れる。


「逃げ…ろ。太郎、ここは地獄だ。」


倒れた者の口にすねこすり達が

無理矢理と、カッパ印の栄養剤『反強魂』を押し込む。


「ギャおーーーひゃあー!」


いきなりと叫び立ち上がる。


血走る目は焦点があっていない。


「ふ、ふふ。おっ仕事、楽しいな…!」


持ち場へと戻っていく。


私は心を落ち着かせ

エレベーターの前に行き21階『労務人材派遣課』のボタンを押す。


なぜか手が震え汗が止まらない。


先ほどの哀れな同士達を思い出す。

「は、はは…落ち着け太郎。」


財布に入れてある光音の写真を眺める。


チーン。


途中で止まるエレベーター。


そこへ窶れ虚ろな目をした

筋肉の塊が足元もおぼつかずに乗り込む。


見覚えのある熊さんのキーホルダーが胸ポケットから覗く。


思わず私は驚愕してしまう。


「覚さん!?」


目の焦点が合わない覚さん。


鈴木太郎

「な、一体どうしました?」


「あぁどうやら新型ウイルス

『YOH2型 』が流行っているせいだろうな。」


少し質問の意図と違うが恐らく疲れているのだろう、そこは気にしない。


ちなみに新型ウイルス『YOH2型』とはインフルエンザと症状が全く同じだが一つだけ違う事がある。


それは妖怪も人間も動物も皆感染してしまう。


しかも妖怪の方が症状も重い。


39℃の高熱が一週間程続くと

今度は気管支炎が発症し咳が続く。


主に高齢者と長年生きている

妖怪達ほど、重症化しやすい。


各施設や企業で大流行しており

まさにパンデミックと呼ぶに相応しい。


私はなぜ呼ばれたのかうっすらとわかってきた。


チーン。


覚さんが11階『妖怪産業経済推進課』で降り。


入れ代わりで髪を逆撫でて

荒れる柊さんが乗り込む。


鈴木太郎

「柊さんお疲れ様です。」


「…本当に疲れています。」


他に言葉が浮かばない沈黙が続く。


チーン。


17階『治安維持指導課』に

降りる柊さん。


小声で気をつけてと伝える。


振り向かずそのまま走って行く。


チーン…。


目的地21階『労務人材派遣課』へとたどり着く。


軍隊のような号令が聞こえてくる。


「いいかー!オールフォーワン、ワンフォーオールだぁ!」


「イエッサ!」


「どうした!!声が低いぞ!腹に力を込めろ!!」


「イエッサ!」


「よし!腕立て伏せ100回!」


「サーイッエッサ!」


扉を開ける前からもう

嫌な予感しかしない。


私の背中に何か強くぶつかる。


ふらつき扉を開けてしまう。


窓口の人間は迷彩色のベレー帽を被っていた。


ぶつかった何かを確かめると

同じく頭を抱え痛そうに擦る

風間理さんの姿があった。


風間理

「あっ、鈴木さんお久しぶりです。」


軽く会釈するとそのままベレー帽を被る妖怪に奥の部屋へと連れられて行く。


窓口の人間に私は赤いメールを見せ、何処に派遣されるかを尋ねた。


「あ…あぁ。茨城県堺町の高齢者福祉施設『まはろ沖縄』です。」


「期間はそこが落ち着くまで、となっています。お気をつけて!」


「みんなは一人の為に!一人はみんなの為に!」


私に敬礼すると声高らかに叫ぶ。



私も敬礼し復唱する。


こうして…地獄の日々が始まったのである。


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