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第六二章 投手の背番号、捕手のポジション

台湾出身の陸坡と申します。


この小説は、もともと台湾華語で執筆したものをAI翻訳を通じて日本語に変換しています。そのため、不自然な表現や誤った言葉遣いなどがあるかもしれませんが、どうかご容赦ください。

同じ物事であっても、人が思い描くイメージと現実とは、往々にして異なる。


何を基準に判断するかも、学校によってさまざまだ。


たとえば、日本の学校でよく掲げられる「文武両道」も、その一つだった。


阪海工のような公立の工業高校にとっての文武両道とは、体育や音楽に打ち込む生徒であっても、部活動のために学科の成績や専門資格の取得を疎かにしないことだった。


必要な資格を無事に取得し、卒業後の進学先や就職先を確保できているなら、阪海工のような工業高校では、それだけでも十分に文武両道を実現していると見なされる。


もちろん、専門分野と学業の両方で優秀な成績を収める生徒も、時には現れる。


野球部の友達や南極と親しい、吹奏楽部二年生のトランペット首席、青木陽奈がその一人だった。


彼女の成績は、進学を重視する高校に置いても、十分に抜きん出ている。


一方、生野高校のように、学業と部活動の両立を掲げる学校もある。野球強豪校として広く知られているわけではないが、本当の意味で文武両道を実践しようとしている高校だといえた。


大阪を代表する強豪校、履正社や大阪桐蔭なども、私立の進学校として名高い。


しかしスポーツ推薦で入学した野球部員の場合、授業の組み方や求められる学業成績は、一般入試で入学した生徒とは大きく異なることが多い。


簡単に言えば、野球推薦や野球留学で入学した選手たちが、自分たちとは異なる授業や生活を送っていることを、一般の生徒も当然のように理解しているのだ。


こうした制度は、見方によっては学校の名声を高めるための役割分担でもある。


進学実績は、入学試験で入ってきた成績優秀な生徒たちに任せる。


野球部や吹奏楽部の全国大会での実績は、それぞれの部活動に所属する生徒たちに任せる。


学校は進学実績を積み重ねながら、部活動でも全国的な知名度を獲得できる。ある意味では、双方に利益のある仕組みだった。


当然、そのような制度の中へ入っていく保護者や生徒たちも、事情をよく理解している。


――はずなのだが。


「えええっ! そうなのか!?」


大阪桐蔭野球部二年生の主力投手の一人、神谷蒼士は、グラウンド脇にあるトレーニング室の外で昼休みを過ごしていた。


一緒に野球をしている二人の仲間からその話を聞いた途端、驚いて大声を上げる。


あまりに声が大きかったため、同じように昼休みを取っていた周囲の野球部員たちから、一斉に睨まれてしまった。


神谷は慌てて立ち上がると、腰を曲げて帽子を脱ぎ、全員に謝った。


神谷がまた突然叫びださないように、比較的親しい二人の部員は、人の少ないトレーニング室の裏側へ移動してから話を続けることにした。


先ほど文武両道の話を持ち出した仲間が、改めて尋ねた。


「お前、本当に何も知らなかったのか?」


「何も知らないまま桐蔭へ来ることを決めたなんて、神谷って本当に変わったやつだよな」


「俺は二人の試験の成績が悪いのは、単純に二人が馬鹿だからだと思ってた」


神谷は、あまりにも当然のような顔でそう言った。


その態度が余計に腹立たしく、目の前にいる遠藤と河野は、思わず神谷を殴りたくなった。


もっとも、すでに一年以上も一緒に過ごしている。


遠藤は神谷と同室で、河野は教室で神谷の後ろの席だ。


二人とも、神谷の無神経な性格には、とっくに慣れていた。


「桐蔭に来る人は、みんな試験の成績で入学するんだと思ってた。だって、野球も進学も有名な学校だろ?」


「頼むから、一年以上も通っておいて、俺たちの成績が一般生と同じだなんて思わないでくれよ。そうじゃなきゃ、野球部のみんなが、どうしてあれだけの時間を練習に使っていると思ってるんだ?」


河野が突っ込んだ。


「だから俺は、みんなが勉強せずに、時間を全部野球へ使ってるせいで、そんなに馬鹿になったんだと思ってた」


神谷は心の底からそう思っていたらしく、何の悪気もない顔で言い放った。


その言葉は矢のように、河野と遠藤の胸を平等に貫いた。


河野は思う。


この神谷という男は、どうしてこんなに無邪気な顔をしながら、ここまで悪意に満ちた言葉を口にできるのだろう。


こいつの特技は、野球のほかに、人を怒らせることなんじゃないか?


あっ。


河野は突然、あることに気づいた。


三人はいつも一緒に行動している。


だから神谷が何かを口にするたび、三年生の先輩たちが、揃って複雑そうな表情で自分たちを見ていたのだ。


どうやら自分と遠藤は、完全に神谷の巻き添えを食っていたらしい。


「神谷。お前を褒めるのは癪だけどさ」


長打力を買われている二年生の外野手、遠藤が言った。


「入学金を全額免除されて、奨学金まで受けているお前なら、入試の成績だって相当よかったんだろ? 今じゃチームの主力で、勉強の成績まで冗談みたいにいい。お前が当たり前だと思っていることは、大阪桐蔭全体で見ても、かなり珍しいんだよ」


「それなのに、何も知らずに来たなんてな……。いくら何でも、神経が太すぎるだろ」


河野はため息をついた。


しかし、ふと別の可能性を思いつき、神谷へ尋ねる。


「まさか神谷、お前……女を追いかけて桐蔭へ来たんじゃないだろうな?」


「ああ、あり得るな。吹奏楽部や一般生の間でも、お前のことはよく話題になってるし。まさか本当に、学校の中に彼女を隠してるんじゃないだろうな! お前、いつの間に……」


遠藤は、以前廊下ですれ違った女子生徒たちの会話を思い出した。


「神谷先輩って、本当に格好いいよね!」


「もしかして、□□先輩と付き合ってるのかな?」


「あ、その話なら聞いたことある。でも、別の○○さんも、神谷先輩にこっそり告白したらしいよ」


そんな噂を思い返した瞬間、遠藤は急に興奮し、神谷の練習着の襟元をつかんだ。


「許せねえ! 神谷!」


「待って! 遠藤、遠藤! うわあああっ!」


大阪桐蔭高校には、少なくとも彼らが知る限り、恋愛を明確に禁じる校則はなかった。


しかし野球部員たちは、恋愛どころか、学校、グラウンド、寮を往復するだけの生活を送っている。


そのうえ、野球部に入ってくるマネージャーまで、揃いも揃って男ばかりだ。


彼女を作るどころか、女子という生き物とどう会話すればいいのかさえ、忘れかけていた。


「違う、違うんだ! 学校に彼女はいない!」


神谷は慌てて説明した。


「本当か? 俺たちを騙そうとしてないだろうな、神谷」


「本当だって。学校には彼女はいないよ」


神谷はそう言いながら、遠藤はどうしてこんなに興奮しやすいのだろうと考えた。


そして続けて、何気なく付け加えた。


「一応、まだ彼女ってことになるのかな。大阪の別の学校にいるけど」


「お前! やっぱり俺を馬鹿にしてたんだな、神谷!」


神谷に校外の彼女がいると知り、ようやく収まりかけていた遠藤の怒りが再び燃え上がった。


そばにいた河野も、慌てて暴走する遠藤を止めに入る。


神谷の馬鹿!


遠藤には、彼女なんていないと言っておけばよかっただろ!


つい最近、遠藤は地元にいる彼女から振られたかもしれないと、泣きながら話していたばかりだった。


それからしばらく落ち込み続け、行き場のない感情をすべて打撃練習へぶつけていた。


そもそも彼ら野球部員は、携帯電話を使える時間さえ限られている。


自由時間が終われば、決められた時刻までに部屋の保管箱へ入れ、鍵をかけなければならない。寮の管理人も確認に来る。


毎日、練習か勉強ばかりで、休憩時間まで制限される閉鎖的な生活だ。


彼女と定期的に連絡を取ることもできないのだから、別れを切り出されても無理はない。


それなのに、なぜ神谷は、このタイミングで彼女がいることを認めるのか。


まさか自慢しているのか?


いや、違う。


こいつはそもそも――


遠藤が彼女に振られたこと自体を、すっかり忘れているのだ。


河野には、それが正解に思えた。


「ああ、あっ! で、でも、最近はそろそろ別れそうな感じもするんだ。向こうはいつも、俺にあまり返事をしてくれないし。やっぱり、やっぱり駄目なのかもしれない」


遠藤に襟元をつかまれ、揺さぶられながらも、神谷は自分と彼女の近況を説明した。


「別れる」という言葉を聞いた途端、遠藤は何かの合図を聞きつけたように手を離した。


「えっ? 本当か?」


「うん。今の俺たちって、かなり微妙な関係だから」


神谷は息を吐いた。


さすがチームのスラッガーと呼ばれるだけのことはある。これ以上手を離してくれなかったら、本当に遠藤に身体を壊されるところだった。


「そうか、そうか。お前でも彼女に振られることがあるんだな」


神谷も振られそうだと知り、遠藤はなぜか、ひどく上機嫌になった。


神谷の肩を叩きながら言う。


「あまり落ち込むなよ。やっぱり、みんな同じなんだな」


「遠藤のやつ、女が絡むとものすごく怖いな」


河野が言った。


神谷も頷く。


「怖すぎる。もう絶対に、あの人の前で女の話はしない」


「そういえば、今日だったよな。夏の大会の背番号発表」


河野は突然そのことを思い出し、遠藤と神谷を見た。


「二年生の中なら、お前たち二人が一番、背番号をもらえる可能性が高いんじゃないか?」


「えっ? そんなわけないだろ。チームには強い二年生が大勢いるんだ。河野だってそうだろ?」


遠藤が言った。


「ははっ、冗談はやめてくれよ。俺が本当に背番号をもらえたら、夏じゅうずっと喜んでいられると思う」


河野は謙遜した。


「いや、だって三年生の先輩たちも言ってたぞ」


神谷は河野を見つめた。


「河野一輝は、すごくいい捕手だって。第二捕手の座に入れるかもしれないって。ああ、やっぱり桐蔭のみんなはすごいよな。でも、勉強の成績が悪いところまで、ものすごいんだよな……」


神谷は首を傾げた。


「どうしてなんだろう?」


遠藤と河野は、ほぼ同時に叫んだ。


「黙れ!」


「これより、夏季大会の登録メンバーと背番号を発表する。まずは、一番――」


今年は六月末から夏の訪れが早かった。


異常なほど蒸し暑く、蝉の鳴き声も、無視できないほど大きく響いている。


その日の練習が終わったあと、阪海工の部員たちは、白井部長と片岡監督から、全員を集合させるとあらかじめ告げられていた。


夏季大会の登録メンバーに選ばれ、背番号を手にする選手が、ついに発表されるのだ。


プロ野球選手の場合、希望する背番号を球団へ伝え、参考にしてもらうこともある。


しかし高校野球の背番号には、それぞれ明確な意味があった。


普段の練習試合で使用していた背番号が、正式な大会では割り振り直されることもある。


これまで試していた守備位置も、正式メンバーの発表によって固定される可能性がある。


夏の府大会で、先発の主力選手として出場できるかどうか。


それが決まる発表なのだから、多くの球児にとって、息が詰まるほど緊張する場面だった。


「一番、投手。藤田迅真」


やっぱり、藤田先輩なんだ。


その場にいた部員たちにとって、とうにわかりきっていたことだった。


それでも監督の口から正式に名前が告げられると、感じ方はまったく違う。


続いて、先発メンバーが次々と発表されていく。


並ぶのは、三年生の先輩ばかりだった。


「二番、捕手。佐久間圭一」


佐久間先輩は、もともと藤田先輩とバッテリーを組んでいる。


これも当然の選出だった。


「三番、一塁手。日下尚人」


やっぱり、この守備位置か。


日下は心の中でそう思った。


しかし、次に二塁手として呼ばれた名前には驚かされた。


「四番、二塁手。村瀬智也」


待て。


村瀬が二塁を守るのか?


日下は目を見開き、監督の前まで小走りで進み出て、背番号を受け取る村瀬を見つめた。


「五番、三塁手。川原慎」


村瀬の眉が、わずかに引きつった。


これまで自分が主に守ってきたのは外野だった。


内野の経験がないわけではないが、いきなり川原が守っていた二塁へ配置されたことには、さすがに驚いた。


もっとも、指導者たちの狙いは、おおよそ理解できる。


三年生の中で、中継ぎや第二の投手を任せられるのは、自分しかいないからだ。


正直なところ、中学時代に所属していた野球クラブでも、村瀬は外野より内野を守っているときのほうが、ずっと優れたプレーを見せていた。


それでも責任から逃れ、少しでも楽をして過ごしたかったために、自分から外野手を選んだ。


高校の野球部へ入っても、二人の指導者には、そのことを見抜かれてしまったらしい。


すっかり把握されているな。


村瀬は苦笑した。


しかし考え方を変えれば、二塁という位置は、打者を観察するにも、走者の動きを見るにも都合がいい。


最前線で敵情を探る場所としては、悪くない。


村瀬をこの位置へ動かしておけば、藤田に何かあったとき、そのまま投手丘へ上げることができる。


その場合、三塁の川原を二塁へ回すことも可能だ。


あるいは既存の守備位置を動かさず、控えの後輩を二塁手として入れる方法もある。


ただし、その場合は、後輩と連携できる遊撃手が必要になる。


それなら、おそらく――


「六番、遊撃手。中西亮太」


「あっ! は、はい!」


もともと左翼手だった中西も、自分が遊撃手になったことに驚いていた。


まさか、いきなり内野へ回されるとは思わなかった。


以前の親善試合や練習試合で遊撃手を務めたときの自分を、片岡監督が評価してくれたのだろうか。


うわあ、もしそうなら、すごくうれしい!


しかも二塁手は、親友の村瀬だ。


親善試合でも、村瀬との連携はかなりうまくいっていた。


中西にとって、この配置は幸運というだけでなく、予想をはるかに上回るものだった。


左翼手だった中西が、遊撃手へ移った。


守備の配置も、以前の親善試合とは異なっている。


ということは、打順も変わるのだろうか。


田中龍二は考えた。


だが、この変更をまったく予想していなかったわけではない。


投捕を組む藤田と佐久間を除けば、ほかの三年生は、誰もが一定期間、別の守備位置を試していた。


片岡監督がチームへ来てから、選手たちが複数の守備位置をこなせるか、計画的に試されてきた。


中西と村瀬を動かしたのも、二人の間にある優れた何かを片岡監督が見つけ、それぞれの位置へ固定したからに違いない。


龍二自身も、打撃練習では、これまで使ったことのないさまざまな打ち方を試してきた。


最近の片岡監督が、守備だけでなく、打撃面の成長も観察していたのなら、外野の位置は十中八九――


「七番、左翼手。木村陸斗」


「はい!」


木村は声を張り上げた。


あまりに大きな返事だったため、そばにいた吉岡は少し驚いた。


しかし、自信に満ちた木村の表情を見て、いい顔をしているなと思う。


木村は、いつも元気いっぱいだ。


柔らかく、ふわふわとした雰囲気の自分とは、まるで違う。


吉岡はそう考えていた。


ほかの部員たちとは違い、自分が先発に入れるかどうかについて、背番号を待つ緊張感はまったくなかった。


この数か月、日下と川原が自分のために特訓へ付き合ってくれたことには、とても感謝している。


それでも、自分が先発になるのは、やはり難しいだろう。


「八番、中堅手。吉岡大河」


えっ?


吉岡は思いがけず、先発メンバーの中に自分の名前を聞いた。


周囲から、すぐに拍手が湧き起こる。


吉岡は慌てて列から出ると、片岡監督の手から背番号を受け取った。


そしてチームの中にいる日下と川原が、安堵した表情を浮かべていることに気づき、吉岡も笑顔になった。


ん?


吉岡のやつ、外されなかったのか?


背番号を手に戻ってきた吉岡を見つめながら、田中龍二は、指導者の意図を理解できずにいた。


自分が監督なら、吉岡と中西は間違いなく先発から外す。


二人を見下しているわけでも、試合に出る資格がないと思っているわけでもない。


ただ二年生には、二人よりも力があり、その守備位置を任せられる戦力が何人もいるのだ。


遊撃手の柴門。


投手としても内野手としても経験豊富な宇治川。


打率が高く、長く外野手を務めてきた流星。


さらには、自分の弟である田中廉太でさえ、二人より使い道がある。


龍二には、指導者たちの考えがまったくわからなかった。


しかし自分は監督ではない。


二人を先発へ入れた以上、指導者なりの狙いがあるのだろうと考えるしかなかった。


「九番、右翼手。田中龍二」


「はい!」


指導者に名前を呼ばれ、田中龍二は返事をした。


田中龍二は、現在の阪海工で最も優れた強打者だった。


以前行われた和歌山県立向陽高校との親善試合でも、龍二はほとんどすべての試合で安打を放っている。


スイングの速さだけではない。


打球を外野の守備の隙間へ運ぶ技術にも長けており、向陽高校の守備陣を何度も苦しめた。


一度だけ、龍二が内野へ弾む打球を放ったことがある。


遊撃手の左側を抜け、そのまま左翼へ転がっていくと思われた。


しかし三遊間へ、一人の選手が飛び出した。


その選手は素早く打球を止めると、一塁へ送球し、龍二をアウトにした。


向陽高校で「ハム」というあだ名を持つ遊撃手、広瀬一睦だった。


「続いて、残りの登録選手を発表する」


片岡監督の言葉を聞き、一、二年生たちは揃って息を呑んだ。


以前から、下級生が先発に入る可能性もあるという噂は流れていた。


しかし後輩である彼ら自身も、阪海工が三年生を優先して先発へ起用する可能性が高いことはわかっていた。


一、二年生にとっては、これから発表される残りの登録枠こそが、本当の競争の始まりだった。


「十番、第二投手。宇治川翔二」


「はい!」


宇治川は大きく返事をし、小走りで監督の前へ進み、背番号を受け取った。


蓮は、列を出て背番号を受け取る宇治川を見ながら思った。


やっぱり、二年生投手の一番手は宇治川か。


阪海工野球部の伝統では、十番という背番号は、基本的に第二投手であることを示していた。


藤田先輩が降板しなければならなくなったとき、あるいは監督が投手交代を決断したとき、いつでも代わってマウンドへ上がらなければならない。


ただし、現在の阪海工における十番の意味は、少し曖昧になっている。


背番号四番の村瀬先輩が、親善試合では先発投手や中継ぎ投手を務めていたことを、全員が知っているからだ。


一番を背負う藤田先輩が、異論の余地のないエースであることに変わりはない。


十番は名目上、第二投手の背番号かもしれない。


しかし実際にどのような場面で起用されるかは、監督が投手陣をどう運用するかによって変わってくる。


蓮は、そばにいる林友達の表情にも目を向けた。


友達は息を止め、片岡監督の手にある十一番の背番号を見つめている。


これが、投手の背番号を手に入れられる最後の機会だった。


阪海工では通常、十番と十一番を、エース以外の主力投手に与えている。


すべての学校で同じ慣例があるわけではない。


しかし阪海工の選手なら、誰もがその意味を知っていた。


「十一番――」


片岡監督が口を開く。


自分が先発に選ばれるはずがないことは、友達にもわかっていた。


控え投手の座を懸けて、宇治川と競わなければならないことも理解している。


それでも十一番を手に入れられたなら、少なくとも――


少なくとも自分は、一人の投手として、宇治川と互角の位置にいる。


投手としての実力は伯仲しており、どちらが上とも下とも決められない。


そう信じることができるはずだった。


「十一番、第三投手。日空南極」


えっ!


どうして!?


一年生の列にいた岩崎隼人は、片岡監督が日空南極の名前を呼び、林友達の名前を告げなかったことに、一瞬呆然とした。


頭の中に、次々と疑問が浮かぶ。


どうして日空先輩なんだ?


林先輩は?


どうして十一番の投手が、林先輩じゃないんだ!


投手について考えるとき、岩崎の目には、もともと友達しか映っていなかった。


彼の世界では、三年生が引退したあとの二年生投手陣で、真っ先に選ばれるのは、当然のように友達だった。


しかし監督と指導者が下した判断は、岩崎の想像とは明らかに異なっていた。


三年生の列にいる藤田迅真も、林友達へ視線を向けた。


友達が失望する表情を見たくなかったのか、すぐに目を伏せる。


すると隣にいた佐久間が、小声で注意した。


「こんなときに、そういう余計な動きをするな」


佐久間は迅真の尻を軽く叩き、きちんと片岡監督のほうを向かせた。


十一番を受け取る日空南極の姿を、最後まで見届けろということだった。


南極は二年生の列から進み出た。


列を離れる直前、友達の表情が目に入った。


期待に満ちた顔で名前を待っていた友達は、呼ばれたのが自分ではないとわかった瞬間、瞳をわずかに見開いた。


そのまま数秒間、呆然と立ち尽くす。


強く握り締めていた野球帽から、指の力が少しずつ抜けていった。


帽子が地面へ落ちる。


それでも友達は前を見たまま、ぴくりとも動かなかった。


その姿を見た南極は、すぐに手を伸ばして慰めようとした。


しかし、隣にいた宇治川が腕をつかみ、首を横に振る。


今はやめておけ。


そう伝えるように、宇治川は南極の背中を軽く押した。


先に進み出て、十一番の背番号を受け取れということだった。


十一番は……日空南極なのか?


控え投手の背番号を手にするのが自分ではないと知った瞬間、友達は、この空間から切り離されたような感覚に襲われた。


時間の流れが、突然止まったようだった。


先ほどまで無視できないほど騒がしかった夏の蝉時雨も、この瞬間だけは真空の中へ消え、何一つ聞こえなくなる。


残ったのは、列から出た南極が片岡監督のもとへ駆けていく足音。


そして最後に響いた、南極の返事だけだった。


「はい!」


周囲から拍手が上がった。


けれど、友達の耳には届かなかった。


ただ、南極が背番号を受け取る姿だけを見つめていた。


この瞬間、世界には、投手の背番号を手に入れられなかった自分と――


阪海工に残された最後の主要投手の背番号を手にした日空南極。


その二人しか存在しないように思えた。


「友達……」


拍手をしていた金井榮郎も、心配そうに友達を見た。


そして同時に、そばで小さなノートへ何かを書き込んでいた小林芝昭が、珍しくペンを止めたことにも気づいた。


小林は何の表情も見せないまま、ただ黙って林友達を見つめていた。


友達……。


十一番を手にして戻ってきた南極は、本来なら喜ぶべきだった。


しかし、友達が投手の背番号をもらえなかったことを考えると、少しも喜ぶ気になれない。


友達の隣へ戻ったあとも、何度も横目で様子をうかがった。


何かを言わなければと思う。


けれど、どんな言葉をかければいいのか、まるで思いつかなかった。


そのとき、友達が重いため息をついた。


その音に、南極の身体が緊張する。


次の瞬間、友達は南極の腰を強く叩いた。


前を向いたまま言う。


「おめでとう、日空」


「うん……」


南極には、そう答えることしかできなかった。


「続いて、十二番――」


一、二年生の間に生じた動揺には構わず、片岡監督は名簿を読み進めた。


いよいよか。


佐久間は思った。


横目で藤田の様子をうかがいながら、無意識のうちに、藤田が投球に使う利き手を握っていた。


阪海工野球部の全部員の中で、このあと、歴代の阪海工で第二捕手が背負ってきた十二番を誰が受け取るのか知っているのは、佐久間と藤田、そして指導者たちだけだった。


「十二番、第二捕手。林友達」


「えっ?」(蓮)


「ええっ!」(流星)


「どういうことだよ!」(宇治川)


「えっ? 十二番って確か……」(柴門)


「ええっ? 友達が十二番?」(榮郎)


「えええっ! 監督、本気なんですか?」(廉太)


「…………」(小林)


控え捕手として呼ばれた名前を聞き、二年生の列は、ほぼ同時にざわめいた。


驚いたのは二年生だけではない。


事前に知らされていた藤田と佐久間を除き、三年生の多くも意外そうな表情を浮かべている。


普段は何事にもそれほど大きな反応を示さない村瀬智也や、いつも反応が少し遅れる吉岡大河でさえ、友達を控え捕手にするという監督の判断には、明らかに驚いていた。


「あ……あ……? えっ? ええっ?」


一年生の岩崎は、あまりに予想外の配置に、思考を完全に停止させていた。


驚愕が、そのまま顔に書かれている。


隣にいる神崎も、投手だった林先輩がなぜ控え捕手にされたのかと、かなり驚いていた。


しかし一年生は、入部してからまだ数か月しか経っていない。


岩崎ほど激しく衝撃を受けている者は、少数だった。


「ぷっ……面白いな。投手を捕手にするなんて。やっぱり阪海工を選んで野球を続けて正解だったよ。そう思わない、山崎?」


庄島は笑いをこらえながら言った。


「お前、林先輩が呆然とする顔を見たいだけだろ。本当に性格が悪いな」


三白眼の山崎明良が、隣の庄島を睨んだ。


もっとも山崎自身も、投手として名前を呼ばれなかった直後に、今度は捕手として選ばれた友達が、どのような気持ちでいるのか、気にならないわけではなかった。


「と、友達?」


友達の名前が呼ばれた瞬間、南極は真っ先に振り返った。


意外なことに、友達も同時に顔を上げ、南極を見ていた。


二人の視線が重なる。


互いの顔に、まったく同じ驚きが浮かんでいた。


どういうこと?


友達の目が、そう尋ねているように見える。


南極も、視線だけで答えた。


俺にもわからない。


でも友達、とりあえず前へ出たほうがいいんじゃないか?


「林友達!」


「あっ、はい!」


片岡監督にもう一度名前を呼ばれ、友達はようやく我に返った。


慌てて小走りで片岡の前へ向かい、その手から背番号の布を受け取る。


受け取った瞬間、友達は片岡監督の顔を見た。


その表情から、少しでも意図を読み取ろうとしたのだ。


しかし片岡は一度頷いただけで、何も説明しなかった。


これまでずっと投手だった自分が、今回の夏季大会では、第二捕手として登録メンバーに入れられた。


友達には、まったく予想できなかったことだった。


しかし、友達が疑問を抱えていても、名簿の発表は止まらない。


続いて名前を呼ばれたのは――


十三番、一塁手控え、浅村蓮。


十四番、二塁手控え、田中廉太。


十五番、三塁手控え、小林芝昭。


十六番、遊撃手控え、柴門玉里。


十七番、外野手控え兼代打、豊里流星。


そして――


「十八番、第四投手。岩崎隼人」


「は、はい!」


自分の名前を聞いた岩崎は、慌てて列を出た。


どうして自分が呼ばれたんだ?


えっ、どうして?


俺はまだ一年生なのに。


二年生の先輩たちもいるし、一年生にだって、ほかの選手がいる。


林先輩がどうして捕手になったのか、そのことさえまだ考えていた岩崎は、今度は自分の名前が名簿に入っていたことで、もともと混乱していた思考をさらに乱された。


背番号を受け取った途端、過去に自分が選ばれたときの感覚が、突然よみがえった。


背後で誰かが自分のことを話している。


何人もの人間が、ひそひそと囁いている。


岩崎の呼吸は、急激に浅くなった。


なぜあいつがチームの代表になれるんだ。


どうして選ばれたのが、あいつなんだ。


そんな声が、次々と耳元へ押し寄せてくる。


一年生の列へ戻る途中、その無数の囁きに呑み込まれそうになった、そのときだった。


「岩崎、おめでとう……」


「えっ?」


岩崎が振り返る。


自分よりずっと小柄な人影が、祝福の言葉をかけていた。


林先輩?


岩崎は、自分を祝ってくれた林友達を見つめた。


林先輩自身も、複雑な状況に置かれている。


監督の配置に、いくつもの疑問を抱いているはずだ。


それでも岩崎が背番号を手にすると、自分の後ろを通り過ぎようとする彼に、きちんと祝いの言葉をかけてくれた。


その言葉に、岩崎は瞬時に励まされた。


途切れ途切れの囁きは、今も消えていない。


それでも少なくとも今は、ここにしっかり立っていなければならない。


自分が選ばれたこと。


背番号を与えられたこと。


その現実を、きちんと受け止めなければならない。


どうやら俺が何かする必要はなさそうだ。


林先輩には、本当に感謝しないとな。


その様子をこっそり見ていた神崎条は、一年生のエース投手をどう励ますべきか考えていた。


助かったとは思う。


しかし、自分の言葉が林先輩ほど岩崎に届かないことには、少し嫉妬してしまう。


「まったく。たまには俺のことも見ろよ」


「えっ? 神崎、何か言った?」


「何でもない。おめでとう」


列へ戻ってきた岩崎隼人に、神崎は小さく不満をこぼした。


しかし岩崎には、その声がよく聞こえていなかった。


「十九番、外野手控え。建山千晴」


片岡は、そのまま名簿を読み進めた。


これで一年生から選ばれたのは、岩崎隼人と建山千晴の二人。


そして片岡は、最後の一人を発表するため、名簿の一番下に書かれた名前へ視線を落とした。


「二十番、外野手控え兼代打。立花公平」


「はい」


一年生の立花公平が列から進み出て、最後の背番号を受け取った。


片岡が二十枚目の背番号を渡し終えたあと、白井が簡単な説明を行った。


これで阪海工の夏季大会登録メンバーの発表は正式に終了し、この日の野球部の練習も終わった。


立花か……。


まさか立花とは……。


あいつが選ばれるのは、少し意外だな……。


ん?


立花の名前が呼ばれた瞬間、一年生の間で小さくない動揺が生じたことに、神崎は気づいていた。


考えてみれば、立花公平という選手については、ほかの一年生が話しているところを、ほとんど聞いたことがない。


多くの知り合いがいる建山でさえ、立花のことはめったに口にしなかった。


神崎自身も、以前に何度か挨拶を交わした程度だ。


立花公平について知っていることは、「おはよう」と「こんにちは」を数回言い合った、それくらいしかなかった。


阪海工野球部には、髪型に関する厳しい規則はない。


それでも部員の多くは、定期的に髪を短く切っている。


一年生の中で、岩崎のほかに標準的な野球部らしい坊主頭にしているのは、立花公平くらいだろう。


神崎は、立花が黙って前へ出て背番号を受け取り、また黙って列へ戻る姿を見ていた。


最後の背番号の発表は、ひどく静かだった。


どこか気まずささえ感じられるほどに。


「建山先生。あの立花も、前の中学校で一緒だったチームメイト?」


神崎が尋ねた。


「えっ……あいつは途中から硬式野球のチームに入ってきたんだ。前は軟式をやっていて、そのあと硬式へ変えた。別に変なやつじゃないんだけど、ほとんど喋らないし、あまり雑談もしないから、どう接すればいいのかわからないんだよ」


建山は頭をかいた。


「みんな、あいつを嫌ってるわけじゃない。でも、立花がいることを、つい忘れちゃうことが多くてさ。その点は、ちょっと申し訳ないと思ってる」


野球部の面々は、普段から騒がしく過ごすことに慣れている。


その中に極端に静かな人間が一人いれば、どうしても見落とされやすかった。


「そうなんだ。なるほどね」


神崎は答えた。


以前、先輩から聞いたことがある。


阪海工の名簿で最後の一枠は、優れた代打要員に与えられることが多い。


立花公平が最後に呼ばれたということは、打撃に関しては、二年生の先輩たちにも劣らないと、指導者たちが判断したということなのだろう。


「そういえば神崎、お前は名簿に入れなかったのに、全然残念そうじゃないな?」


建山は不思議そうに尋ねた。


普通なら、ひどく悔しがるほどではなくても、出場名簿に自分の名前がなければ、少しくらい落ち込むものだ。


「ああ、それ? へへっ。俺、自分は大器晩成型の選手だと信じてるから」


神崎はおどけたように答えた。


「そ、そうなんだ……」


その返事を前に、建山は何も言えなくなった。


やっぱり、名簿には入れなかった。


榮郎は心の中で思い、小さくため息をついた。


二年生の中で登録メンバーに選ばれなかったのは、自分一人だけだった。


一年生の後輩まで名簿に入っている。


つまり最後まで、指導者たちは榮郎を戦力として見なさなかったということだ。


それでも、自分なりに努力はしてきた。


だからといって、誰かに文句を言うこともできない。


「『自分はもう十分努力した』なんて考えている限り、お前は永遠にそのままだよ」


「えっ? あの……柴門?」


「友達の心配をするより、自分がどうして名簿に入れなかったのか、少しくらい考えたら?」


柴門は、いつものように容赦なく言った。


榮郎は柴門の目を見る。


なぜか少し怖かった。


もしかして、柴門は怒っているのだろうか。


でも柴門自身は、登録メンバーに選ばれている。


それなのに、どうして怒る必要があるのだろう。


「だって、みんなすごいから。僕なんかじゃ、たぶん……」


「だったら、そいつらより強くなって、名簿に入ってみせろよ。このどうしようもない馬鹿」


「そ、そんな急に、ほかの人より強くなれるわけないだろ! 柴門に怒られたって、どうにもならないよ!」


そこまで言ってから、榮郎は気づいた。


自分は今、柴門玉里に口答えしたのだ。


榮郎が言い返したあと、二人の間には気まずい空気が流れた。


それ以上、どちらも一言も話さなかった。


同じように気まずい空気に包まれていたのが、第三投手の背番号を得た南極と、控え捕手の背番号を受け取った友達だった。


友達は十二番の背番号を見つめたまま、何も言わない。


南極は、どのように声をかければいいのかわからなかった。


以前、宇治川から言われたことがある。


南極と友達は、最初から最後まで、投手の座を争う競争相手なのだと。


佐久間先輩からも、遠回しに同じことを示された。


それでも南極は、野球部で友達と毎日一緒に過ごすことを、あまりにも当然のことだと思っていた。


仲間や先輩たちから言われたことなど、ほとんど聞き流していたといっていい。


あまりに自然だったからこそ、二人が同じ投手として過ごす関係は、これからもずっと続いていくのだと、南極は勘違いしていた。


その均衡が崩れるまでにかかった時間は、わずか数秒だった。


「友達……」


南極は小さく名前を呼び、自分の手にある十一番の背番号を見た。


自分の背番号を友達と交換したところで、きっと友達は喜ばない。


むしろ、もっと怒らせてしまうかもしれない。


いくら常識に疎い南極でも、それくらいはわかっていた。


「南極、友達」


二人の沈黙を破ったのは、十番を手にした宇治川だった。


「片岡監督と白井部長が、俺たち三人を監督室へ呼んでる」


友達と南極は、互いの顔を見た。


目の前にいる宇治川も、二人を見返す。


それでも三人は、監督室へ着くまで、ほとんど言葉を交わさなかった。


宇治川は、自分と南極という二人の投手、そして突然捕手になった友達に関係する話だろうと考えていた。


指導者たちが、三人の役割をどのように決めるつもりなのか、宇治川にも予想できない。


藤田先輩と佐久間先輩は、長い時間をかけてバッテリーとしての呼吸を築いてきた。


それに対し、自分たち三人は、短期間でどれほどの連携を作り上げられるのだろう。


宇治川には疑問だった。


そして、もう一つ気になっていることがある。


友達は本当に、南極の投げる球を受けたいのだろうか。


指導者たちも、南極の速球が時速百五十キロに迫っていることは知っているはずだ。


佐久間先輩でさえ、南極の球にはかなり不満を口にしている。


受けるだけでも大変で、そのうえ面倒な球なのだ。


しかし、問題はそれだけではない。


捕手が南極の投げる一球一球を、長期にわたって処理し続けられるか。


途中で我慢の限界を迎えず、辛抱強く向き合い続けられるか。


林友達を捕手として、あの球へ対応させることは、本当に適切なのだろうか。


考えれば考えるほど、宇治川にはわからなくなった。


それでも三人は、やがて監督室へ到着した。


友達が中へ入ると、白井部長はパソコンへ向かい、選手たちの守備位置に関する情報を入力しているようだった。


最終的な選手名簿は、監督や指導者が決めれば、それだけで提出できるものではないらしい。


学校側の承認を受け、担当教員が選手の在籍状況、健康状態、出場に必要な書類を確認する。


すべてに不備がないことを確かめてから、高野連へ提出しなければならない。


一連の手続きは、煩雑で複雑だった。


隣にいる片岡監督も、机の上に積み上げられた大量の資料へ目を通していた。


三人へ壁際の長椅子に座るよう指示する。


数秒後、片岡は資料を置き、ようやく三人へ話しかけた。


「三人とも、今回の夏季大会の正式登録メンバーに選ばれ、背番号を受け取った。でも、この配置には、それぞれ疑問があると思う」


片岡は友達を見た。


「特に林友達。私に聞きたいことが、たくさんあるでしょう?」


背番号を発表したとき、友達が十二番を受け取りながら、複雑な目をしていたことに、片岡は気づいていた。


しかし友達一人のために発表を中断して説明すれば、正式な名簿発表の儀式を、林友達のためだけに止めたように見えてしまう。


それでは、ほかの選手たちに対して公平ではない。


だから片岡は、あとから個別に説明することを選んだ。


先に決定を下し、本人には事後承諾を求める。


明らかに、そのようなやり方だった。


そのせいで主将の藤田から反発されたことも、片岡はわかっている。


それでもこうしなければ、自分が思い描いている新しいバッテリーの可能性を、自ら潰してしまうことになる。


「林友達」


片岡は、友達の目を正面から見つめた。


「私は、あなたの投手としての能力を認めていないわけではない。でも、あなたには優れた捕手になれる特徴と素質がある。だから私と白井部長は、あなたに捕手としての練習を始めてほしいと思っている」


そして、宇治川と南極へ視線を移した。


「そのうえで、宇治川と南極――」


二人のうち一人を選び、バッテリーを組んでもらう。

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