晴れた空と虹
高ぶった気持ちのまま、私は退勤した。いつもより早く雄太を迎えに行くと、雄太は大喜びをしてくれた。いつもは暗くなってから迎えに行くので、雄太も疲れて眠そうにしているから、こんなに元気いっぱいで嬉しそうな雄太を見るのは久しぶりだった。
「ママ、今日は早いね!どうしたの?毎日この時間にきてよ!」
わかりやすく喜んでくれる素直な雄太がかわいい。
「いつもはお仕事があるからね。今日だけ特別だよ。」
雄太のおかげで私の気持ちも落ち着いていった。
家に着くと、学校から帰った康太が
「ママ!今日はどうしたの?」
と嬉しそうに近づいてきて言った。 最近、どんどん生意気になって、何事もめんどくさそうにしていた康太まで、喜んでくれていることがよくわかった。
早く帰るのはそんなに久しぶりだっただろうか。康太にはいつも1人で留守番をさせることが当たり前になってしまっていたけど、ずっと寂しい思いをさせていたんだな、と申し訳ない気持ちになった。
「すぐご飯作るね。宿題して待ってて。雄太もお兄ちゃんの邪魔しないで待ってるんだよ。」
子ども達の喜ぶ顔を見たら、イライラした気持ちも落ち着いた。怒りの代わりに心はどっと疲れているけど、子どもたちの無邪気な姿につられて、私も嬉しくなった。
早く帰ったのでいつもより時間に余裕を持ちながら夕飯を作ることができる。今日は子ども達が大好きなオムライスにしよう。仕事の後はいつも卵に包む余裕がなくてケチャップライスにしてきた。ごめんね。今日は沢山作って、おかわりにもちゃんと卵を巻いてあげるね。食べ盛りの康太は絶対喜ぶから。
康太と雄太は美味しそうにオムライスを食べてくれた。康太は、一皿目をすぐに平らげて、おかわりを希望した。私は嬉しくて、急いでおかわりを作った。
「康太ー、できたよー。」
テレビを見ていた康太は、片手であお皿を受け取った。その時、康太はオムライスを受け取った手のバランスを崩して、オムライスごとお皿をテーブルの上にひっくり返してしまった。
「わっ。」
康太は、しまったという顔をして、慌ててお皿にぐちゃぐちゃになったオムライスを手で戻そうとした。
「あっつ、あっつ。」
出来立てのオムライスが熱くて何度も手を出しては引っ込めて、必死でお皿に戻そうとしている。
「何してんの!!せっかく作ったのに!なんで落とすの!せっかく早く帰ってきたのに康太のせい最悪よ!だから康太は嫌なのよ!」
一瞬で頭に血が上った。押さえていた職場での怒りも全部まとめてもう一度湧き上がってきた。言い始めたら止まらない。 落としたオムライスだって康太はお皿に戻して食べようとしている。卵に包まれたオムライスも、私がニコニコして作ったおかわりも、康太は最高に嬉しかったのだ。自分で自分を責めているのに、康太の心をえぐるような言葉を大好きなママから浴びせられているのだ。
康太に悪気がないことはわかっている。自分を責めていることも、ママの気持ちが晴れることだけを考えて、グシャグシャのオムライスを食べようとしていることも。彼の罪滅ぼしの行動なのだ。誰よりも優しくて真面目な康太だ。問題行動も学校から注意されることも一度もない。反面、康太の心はとても繊細で、傷付きやすくて、映画でも絵本でも主人公に共感して泣いてしまうような優しい子なのだ。
康太はオムライスお皿に戻そうと屈んだまま下を向いている。なんとも言えないほど悲しい顔をして崩れたオムライスを食べようとテーブルについた。目にいっぱいの涙を溜めている。そんな康太を見て罪悪感を感じながら、少し心が晴れている自分が気持ち悪い。私はいつも康太の優しさを利用している。康太の心を壊して、自分の心を守っている。感情が納まらないのだ。この子を傷つけないと、自分は納まらない。
「ママだってあんたたちのために毎日働いて大変なのよ!ご飯ももう食べなくていいから!オムライスはもう2度と作らないから!」
そう言って、お皿に乗せたぐちゃぐちゃのオムライスを取り上げた。
「いやぁだ!食べる!食べる!ごめんなさい!いやぁだ!」
両目から涙をポタポタと落としながら、康太がオムライスを取り返そうとすがってくる。このオムライスを食べることで康太は、オムライスを落とした自分を許すのだろう。康太に自分を許させないために、自分を責め続けさせるために、私はオムライスを流しに捨てた。
あんなに大声で怒鳴って、ご近所でうわさになったりしないだろうか。子どもより先に体裁を気にしている自分は母親失格だ。失格だと認めるから、母親を辞めさせてほしい。
康太を追い詰めると、気分が晴れてきて、急に康太のことが心配になってきた。手を火傷しているんじゃないだろうか。あの子なら、痛くても大丈夫だと言うだろう。
「康太、手、熱かったんじゃないの?冷やさないとだめじゃない。」
優しくしたいのに、怒りながら言ってしまった。
その後も康太と雄太に優しくできなかった。雄太のお風呂と寝かしつけを、康太に押し付けて、私はソファに沈み込んだ。康太は私より雄太の扱いが上手だ。怒ってばかりの私より、雄太は康太の言うことをよくきく。ずっと家事に追われているせいで、雄太のことはいつも康太に任せてしまう。康太がいるから、なんとかやっていけているのだ。
静かになったリビングでソファに座ると、そこから動けなくなった。体は動かないのに、心はまだ落ち着かなかった。もはや何に対してどんな感情なのかわからない。頭も心もぐちゃぐちゃだ。考えようとしても思うように頭が回らない。
今日の出来事が思い出される。今までずっと真面目に働いてきた。利用者さんに誠実に向き合って来たし、高齢者ゆえの理不尽な振る舞いにも耐えて来た。
子ども達にも我慢させてきた。幼稚園で熱が出た時も、嘔吐してしまった時も、訪問を終わらせてから迎えに行ったし、雄太が幼稚園に行きたくないと号泣して暴れた時も、無理矢理教室に押し込んで出勤してきた。どんなに忙しくて余裕がない時でも、訪問記録と計画は誰よりもわかりやすいように細かく記載して来たし、みんなが働きやすいように物品の補充や事務所の整理も率先してやって来た。私は大切にされるべきスタッフだ。
所長も私のことを頼りにして、気難しい利用者や、クレーマー家族の対応は全部私に任せて来たじゃないか。
それなのに、私よりも前園さんの息子を信じるなんて。顔が熱くなって涙が溢れてきた。怒っているのか悔しいのか虚しいのか、自分でもよくわからない。
康太にひどいことをしたという自覚はある。八つ当たりだという自覚も。でも、私が受けた理不尽を、そのままあの子にぶつけないと気が収まらなかった。朝も夜もずっと怒られていて、あの子達にとってこの家はどんな場所なのだろう。あの子にとって私はどんな存在なのだろう。
康太も雄太も、こんな私を許すだろう。どんなに母親失格でも、二人は私のことが大好きだから。でも、私は私を許していいだろうか。
しばらく泣いてから、明日の仕事のために寝室に行った。穏やかに眠っている康太と雄太を見て、ほんの少しだけ救われたような気持ちになって、布団に入った。
今日は疲れた。大輔はまだ帰ってこない。
翌日の朝はなかなか起き上がれなかった。体が活動を拒絶していた。でも、仕事を休むわけにはいかない。無理矢理体を起こした。今日も一日が始まる。
夕方、幼稚園に雄太を迎えに行くと担任の先生に呼び止められた。
「雄太くんのお母さん!ちょっとお話があるんですけど。」
なんだろう。保護者会のことだろうか。
「雄太くん、最近お家でどうですか?」
「元気にしてますよ。」
反射的に明るく答えた。
「何があったというわけではないんですけど・・・。最近はクラスでは運動会の練習をしているんですけど、雄太君、なかなか上手く覚えられなくて。いつも1人で違うところに行ったり、他のことが気になったりしていて。雄太君、三歳児健診でも引っかかってましたよね。」
集団行動ができない、か。確かに3歳児健診で言葉や発達の遅れを指摘された。でも、全く喋れないというわけでもなかったし、よく笑っているし、それで終わっていた。担任の先生から何かを指摘されたこともなかった。私の子に限ってなにかあるはずがない。そう信じつつも、雄太への育てにくさは感じていた。
「確かに健診で指摘を受けたことはありますけど、それが何か?」
私の言い方に、先生が少したじろいだ。
「い、いいえ、ちょっと気になったので。幼稚園での生活のことはお手伝いをしながらできますけど、小学校に上がるとなると、ちょっと大変じゃないかと思います。それに集団行になるとさらに難しいみたいで・・・。小学校に上がる前に一度病院で相談された方が良いように思うんです。」
病院か。先生の言葉が身体中に重く刺さる。確かに雄太は落ち着きがない。年長なのにいろんなことが出来ない。服を上手に着られないし、ご飯もこぼしながらで上手に食べられない。どこでも飛び出していくし、待つこともできない。そんな雄太を朝も夜もずっと怒りっぱなしで、雄太は癇癪を起している。康太だけが雄太にとっての安心材料で、康太がいないと落ち着いて過ごせない。先生の言うように、確かに発達障害の可能性があると気になっていた。でも、だから何だというのだ?人と同じことができなくても雄太はよく笑うし、愛嬌があってかわいいし、生活に何も問題はないじゃないか。指摘してきた先生に腹が立った。
「病院に行ったらどうなるんですか。」
少し強い口調で言ってしまった。
「程度とかにもよるんですけど、療育に行けたり、加配の先生が付いてくれたり、雄太君がうまく小学校生活が過ごせるように助けてもらえるかもしれません。雄太君に合った支援に繋がります。こう雄太君がしんどい思いをしないで、雄太君らしく成長していける環境を作ってあげたいですし、お母さんにとっても良い環境になると思うんです。」
先生は、眉間にシワを寄せて必死そうに話した。
毎日怒るだけで私が雄太と向き合う余裕がないことに気が付いているのだろうか。虐待でも疑われているのだろうか。余計な心配が頭をよぎる。
確かに、雄太が発達障害なのであれば、病院に行って診断された方がいいかもしれない。雄太の不器用さも空気の読めなさもマイペースさも、雄太が自分として受け入れて、自分で生きていく力を育てなければいけない。先生の言うように、病院へ行って発達障害だという診断がついたら、行政のサポートが受けられる。その方が雄太は生きていきやすいだろう。加配の先生がつけば先生も私も楽になる。雄太にとってもいい環境が作れるのは間違いない。
でも、それは本当に雄太にとって良いことなのだろうか?
最近は、発達障害もその子の個性として受け入れて育てていく、という考え方が多い。芸能人で発達障害をカミングアウトする人も増えている。社会から守られている子どもの間は、いい環境を作れるだろう。
でも、大人になったら?発達障害への偏見が付きまとってしまわないだろうか。就職で損をしたり、仲間外れやいじめにつながってつらい思いをしないだろうか。
診断かつかなければ、雄太の不器用さも空気の読めないマイペースさも、彼の個性になる。でも、診断がついてしまうと発達障害への偏見に苦しむのではないだろうか。
病院に行くのが怖い。大輔はなんて言うだろう。
考えてみます、とだけ返事をして、その日は雄太を連れて家に帰った。
あれから、大輔に雄太のことを言えないまま、1週間が過ぎていた。
今日は所長に頼まれて午後から前園さんの訪問に行くことになった。前園さんから直接事務所に連絡があったらしい。 息子から泥棒を疑われたままなのに、今更、意味が解らない。でも、断ることもできず、訪問へ行くことを了承した。
前園さんの家に着いて車を降りると、庭のガーデンベンチに座った前園さんが出迎えてくれた。
「やぁ、丸山さん。久しぶりだね。」
いつものしわくちゃの笑顔で手を振ってくれた。ここに来るまでは、一言目は何を言えばいいんだろうとか、どんな顔をしていけばいいのだろうと、気まずさを隠すためにいろんなことを考えてきた。でも、前園さんの笑顔を見ると純粋に嬉しい気持ちになった。やっぱりこの穏やかで楽しいおじいさんが私は好きだった。前園さんは以前より痩せて小さくなっていた。声にハリもなく小さい。体力も呼吸機能も以前よりも低下しているのがわかる。
「前園さん、お久しぶりです。」
私はわざとらしい程に元気よくにっこりと笑って見せた。
前園さんは盗難について何も言わずに迎え入れてくれた。
この日は家事支援の依頼の日だった。トイレや居間、ベッドルームの掃除や片付けをして、冷蔵庫の中のもので簡単な作り置きのお惣菜を作った。ごぼうがあったので前園さんの好きなきんぴらごぼうも作っておいた。 何度も噛むと息が苦しくなりそうなので、いつもより細かく柔らかめに煮込んでおいた。
「おや、私の好物だね。覚えていてくれたんだね。ありがとう。」
前園さんが出来上がったきんぴらごぼうを見て言った。
「息がしんどいみたいですけど、食欲はありますか。きんぴらごぼうは前園さんの好物ですからね。食べやすいようにいつもより細かく柔らかめにたいてますよ。」
にっこり笑って前園さんを見た。
「君は本当に優しいね。それなのに、うちの息子が。なんてことをしたんだろう。本当にすまない。」
前園さんは、そう言っておでこが膝に着くほど深く頭を下げた。 ボンベから酸素を吸引する時のシュコーと言う音が、呼吸をする度に聞こえる。
「や、やめてください。その格好は息が苦しくなるでしょう。前園さんは私じゃないってわかって信じてくださっていたから、今日の訪問を希望されたんでしょう。私は気にしていませんから大丈夫ですよ。」
心にもないことを言った。気にしていないわけがない。本当ははらわた煮えくり返るような思いだ。私は前園さんの前に膝をついてしゃがみ、顔を覗き込んだ。
「そうじゃないんだ。そうじゃない。」
前園さんは頭を下げたまま、肩を振るわせた。
泣いてる?そうじゃないってどういうことだろう。しばらく呼吸を整えてから、前園さんは話し出した。
「妻のアクセサリーを盗んだのは、うちの息子だったんだ。」
前園さんの言葉が理解できなくて沈黙する。
「え・・・?」
お互いに、しばらく沈黙した。
「犯人は息子だったんだよ。それなのに、丸山さんに罪をなすりつけて。血のつながった息子よりも、こんなに僕のことを考えて親切にしてられる人なのに。本当に情けない。僕はどうしたらいいのか。どうやってお詫びをしたらいいのか。」
言葉がなかった。あの息子が犯人だったのか。無実が証明されたとわかって、心の底にあった重くて黒いものがスッと消え、体から力が抜けていくのを感じた。
「そうなんですか。」
力のない声が出た。
「本当に申し訳ない。」
前園さんは俯いたまま、肩を震わせて続けていた。
「どうして息子さんだとわかったんですか。」
私は聞いた。
「丸山さん、しばらく訪問に来てくれなかっただろう。気になって事務所に電話して聞いたんだよ。そしたら、息子が丸山さんを盗難で疑っているって知って。だから丸山さんを担当から外したと聞かされてびっくりしたんだよ。丸山さんがそんなことをするはずがないと言ったんだけど、所長のやつ、僕の言うことよりも息子の方を信じやがって。金庫を調べたら、中の大事な書類がなくなっていた。他にも、妻の形見のアクセサリーもなくなっていてね。所長に電話するまで、なにも気が付かなかったなんて。金庫の鍵の場所を知っているのは、僕と息子の2人だけなのだから、犯人は息子しかいない。息子に問い詰めたら、すぐに白状したよ。親子なんだからいいだろう、と。いいわけがないだろう。自分のしたことを人のせいにして、私服を肥やすなんて。なんて情けない。よりにもよって丸山さんのせいにするなんて。」
あぁ、あの息子も介護士を使い捨てだと思ってるんだ。
私たち介護士は、利用者からどんな理不尽なことをされても、泣き寝入りすることがほとんどだ。最近は、介護者を守ろうという流れもあるけど、私が勤めているような小さな事務所は簡単に介護士を切り捨てる。訪問介護は個人宅へ1人で訪問するのだから、証明のしようがない。だからずっと自分の心は殺して働き続けてきた。お金には換えられない。今回だってもちろんそうするべきだ。
ただ、今は返す言葉が見つからない。全身の力が抜けて、頭の中になんの言葉も浮かばなかった。
しばらく前園さんをなだめてから、その日は訪問を終えた。
週末、雄太の運動会が無事に開催された。
下の子はいつまでも小さいと思っていたけど、年長ともなればダンスや障害物レースも複雑になっていた。自分の肩ほどの高さの跳び箱を飛んでいる姿には、思わずウルっとしてしまった。隣で見ていた康太と大輔がそんな私を見て笑っていた。とても幸せな気持ちだった。
記念品のメダルの注文も去年までと同じ会社に注文し、当日の準備や片付けも幼稚園の先生方が率先して指示をしてくれたので、不慣れな保護者達もスムーズに行動くことができた。不必要な集会のほとんどはSNSのグループで連絡しあったので、学校に行くこともあの日以降なかった。
「丸山さん!運動会お疲れさまでした!」
役員の村上さん、田中さん、藤本さんが挨拶にきてくれた。
「丸山さんが会長になってくれてほんとによかったってみんなで話してたんですよ。私たちも仕事があるから、頻繁に会議があっても参加できないから困ってたんです。だからSNSグループで対応してくれて、ほんとに助かったねって。」
「丸山さんだって仕事してて大変なのに、こんなにサクッとまとめてくれて。ほんとにすごいねって話してたんですよ。」
3人で笑い合いながら、話してくれた。
驚いた。保護者会のメンバーで私だけが孤立していると思っていた。
今回の会議だって、自分の都合でSNSグループを利用して会議を減らしただけだ。なんだ、みんな思うことは同じだったんだ。こんな風に話しかけてもらえるなんて、うれしかった。
その日の夜は家族で運動会のお疲れ様会をした。雄太のリクエストで、手巻き寿司にした。お刺身ばかりにする予算がなかったので、魚肉ソーセージと納豆、豚肉を具材に足したけど、子どもたちは喜んで食べてくれた。値段なんて関係ない。
今日の運動会での雄太のことや、康太の幼稚園のころのことをみんなで話しながら食べた。こんなに笑いながら4人で過ごすのは、いつぶりだろうか。 とても幸せな時間だった。
片付けと残りの家事を済ませて寝室に行くと、大輔がテレビをつけたまま寝ていた。
雄太の発達障害のことは、まだ大輔に話せていない。あの時、暴落した株も、マイナス10万円のまま変わることはなかった。
でも、3人の寝顔を見ていると、不思議と充実した気持ちになった。
みんなを起こさないようにそっと寝室のタンスの引き出しを開ける。しまってあったビロードの青い箱を開けると、大粒のパールのネックレスとイヤリングが輝いていた。この家には不釣り合いなほどに高価であることが、よくわかる。うちにはこのネックレスに見合うような服も靴もない。
野々上理香子ならこのネックレスが映える素敵な服をたくさん持っているだろう。もうすぐ音楽会の準備のために保護者会の会議がある。私はまた仕事着のまま、メイクも直さず教室に駆け込むことになるだろう。
暗い部屋の中で、テレビの光を反射した大粒のパールは、虹色に輝いて見えた。私は、その箱をそっとまた元の場所に戻して、ベッドに横になった。




