第31話 颯爽登場、正義の味方――ギルド・オブ・セブンソード その2
「――よしっ! 敵はすべて倒したわね!」
馬車を襲っていた武装集団をすべて斬り伏せた直後、ヨッシーは再び声を張り上げて指示を飛ばした。
「フウナは上空で周囲を警戒! 佐々木はその場で待機! 宮本と柳生、塚原と滝沢は二人一組で安全確認!」
ヨッシーの凛とした声が響き渡ったとたん、七天抜刀隊のメンバーたちは一斉に行動を開始した。フウナは馬車の上空を大きく旋回しながら周囲を見張り、佐々木は仲間たちの動きに目を配りながら抜刀の構えを取っている。ヨッシーは馬車の中を1台ずつ見て回り、あとの4人は倒れた敵すべてにとどめを刺していく。
「よし! 戦闘終了! フウナ! 降りてきていいわよ!」
「あいあーい」
ヨッシーが戦闘の終わりを宣言したとたん、全員が妖刀を鞘に収めた。フウナはすぐに短いスカートを手で押さえながらヨッシーの隣にふわりと着地。男子たちは馬車の近くで腰を下ろし、円陣を組んで休憩を取り始める。
「それで、あなたが襲われていた馬車の代表さん?」
ヨッシーは自分を呆然と眺めていた中年男性に声をかけた。すると男は慌てて頭を下げて口を開く。
「は、はい! 助けていただきありがとうございました! なんとお礼をすればいいか――」
「ああ、お礼なんて別にいいです。それより、この辺に村はないですか? 私たち、長旅で疲れたので宿に泊まりたいんですけど」
「えっ?」
男は一瞬、呆気に取られた。武装集団にいきなり襲われ、仲間全員の命が風前の灯火だったところを通りすがりの人たちに助けてもらったという、男にとっては息もつかせぬ目まぐるしい展開だった。当然、7人の少年少女たちにはいくら感謝してもしきれない。だから心の底から感謝の言葉を口にしようとしたのだが、それをあっさり受け流されてしまったので思考がついていけなかった。しかし何とか頭を切り替え、目の前に立つ黒髪の少女の質問に答える。
「えっと、そうですね……この道の先にはしばらく村はありません。南の国境からまっすぐ北に3時間ほど歩けば宿場町があるんですが、この道は国境から北西に作られたばかりの道なので、開発がほとんどされていないんです」
「ああ、そうだったんですか。すいませんが、ちょっと待ってください」
不意にヨッシーは男に手のひらを向けて、隣のフウナに顔を向ける。
「そういや、途中で分かれ道になってたよね。誰がこっちの道に行こうって言ったんだっけ?」
「えっと……たしか塚原じゃなかった? ボクチン、こっちの道だとおもいまーすって言ってたと思うけど」
「ああ、そういやそうだったわね」
ヨッシーはポンと軽く両手を叩き、男子たちの輪に向かっていく。そして塚原の背中を何度か蹴りつけてから戻ってきた。
「それじゃあ、ここから引き返さないと宿はないということですね?」
ヨッシーは何事もなかったかのように再び中年男性に尋ねた。すると男は遠慮がちに微笑みながら提案する。
「ええ、たしかにそうなんですが、今から引き返すと到着は夜中になってしまいます。それに、街道沿いにモンスターはほとんどいませんが、さっきみたいな野盗がいないとも限りません。ですので、よろしければうちの集落に来ませんか?」
「え? 集落? この先に集落があるんですか?」
「はい。まあ、集落といっても家は10軒にも満たない、50人ほどの小さな集まりなんですが」
「50人? そこには50人しかいないんですか?」
ヨッシーは男をまっすぐ見上げて訊き返した。その態度に男はわずかに首をかしげながら素直に答える。
「ええ、そうです。全部で8世帯の54人です。この道が作られたので、新しい宿場町を作るために街から移り住んできたばかりなんです。それで今日はみんなの日用品を仕入れに行って、戻る途中だったんです」
「なるほど。そういうことだったんですね――」
ヨッシーは近くの馬車に目を向けた。たしかに幌付きの荷台には大小様々な木箱や大きな袋が積んである。各馬車には男が2人ずつ御者台に座り、誰もが命からがら助かったといった表情を浮かべて座っている。
「それでですね、うちの集落はここから歩いて2時間ほどなので、日暮れまでには到着すると思います。まあ、宿屋ほど快適なところではありませんが、助けていただいたお礼にベッドと夕食ぐらいならご用意できますので、よかったらいらっしゃいませんか?」
「そうですか……。それではせっかくですので、お言葉に甘えさせていただきます」
親切に誘ってくれた男に、ヨッシーは少しだけ思案してから丁寧に頭を下げた。すると男は嬉しそうに微笑み、仲間を集めて話を伝える。それから馬車の男たちは全員で死んだ男たちの体を調べ、財布や武器などの目ぼしいものを拾い集めて荷台に放り込み、死体を道の脇に転がした。
「あの死体はどうなるんですか?」
馬車と一緒にゆっくりと歩き出した男に、ヨッシーも足並みをそろえて歩きながらふと訊いた。
「山の動物が食べると思います。道沿いの森は軍隊が定期的に狩りをしているのでモンスターはいませんから。一応明日、国境の警備兵に報告には行きますけど、死体の始末はしてくれないと思います」
「そうですか。そういうところはシンプリアと同じなんですね」
「そうですね。たぶんどこの国も同じようなものだと思います。それよりあなた方はシンプリアの出身なのですか?」
男は自分たちと一緒に歩き出した7人の少年少女を見ながら尋ねた。
「はい。今回はちょっとした仕事の依頼を受けたので、クランブリンの王都まで出向くところです」
ヨッシーは赤くなり始めた空を眺めて言葉を続ける。
「それで少し教えてほしいんですけど、この辺にダンジョンはないでしょうか?」
「え? ダンジョンですか?」
「はい。うちの男どもがダンジョンに行きたいってうるさいんです。だからもしこの辺にあったら、王都で仕事をした帰りにでも立ち寄ってみようかと考えていたんです」
「ああ、なるほど。たしかにあなた方の強さなら、そういうことを思ってもおかしくはないですね」
男はヨッシーたちを見て一つうなずき、それから北西の空を指さした。
「えっと、ここから北北西に300キロほど行ったところにイラスナ火山という大きな山がありまして、その少し手前に古代の遺跡群があるんです。その遺跡の一つがエンデルメル地下神殿というダンジョンになっています」
「エンデルメル地下神殿ですか……」
ヨッシーは真剣な表情で、男が指さした方向に目を凝らした。
「そこはどういうダンジョンなんですか?」
「それが、私も噂でしか聞いたことがないので詳しくはわかりません。ただ、シルバーゴーレムとかいう、とても強いモンスターが多く出るそうです。そいつは地下神殿を守る守護者で、邪悪な存在に反応して動き出すと言われています」
「――おおっ! ゴーレムかぁっ!」
離れたところを歩いていた塚原がいきなり嬉しそうな声を張り上げた。
「ギルマスギルマスぅ~! ボクチン、ゴーレム見てみたいっす!」
「おいどんも、おいどんもぉ~!」
「わがはいも、わがはいもぉ~!」
「あのバカどもは……」
一気にわいわい騒ぎ始めた男子たちを見てヨッシーは思わず額を押さえた。
「すいません。すぐに黙らせますので、気にせず進んでください」
ヨッシーは男に一言断りを入れてから、男子たちに近づいていく。すると男とその仲間たちはヨッシーたちを見て目元を和らげ、馬車をゆっくりと進ませる。
ヨッシーたち7人は歩く速度を落として馬車の列の後ろに移動し、ゆっくりとついていく。それからヨッシーは仲間の6人を見渡しながら口を開いた。
「いい? みんな。私たちは仕事でクランブリンの王都に行くの。せっかく指名で仕事がくるようになったのに、ここで失敗したらまた貧乏生活に逆戻りよ。私たちは、ここにいる7人全員が一生暮らしていけるだけのお金を稼ぐ必要があるの。ここは地球じゃないんだから誰も助けてくれないって、もう身にしみてわかってるでしょ。稼げる時に稼いでおかないと、あとで惨めな思いをすることになるのは私たち自身なんだから」
「それはわかっていますけどぉ~」
いきなりの説教に、塚原が不満そうに唇を尖らせながらヨッシーに言う。
「せっかくみんなそろって異世界に転生できたんだから、ダンジョン見学ぐらいしてもいいと思うんだよねぇ~、ボクチンは。みんなもそう思うっしょ? ね? ね?」
塚原はそう言って、全員に目を向けた。すると滝沢と柳生はうんうんとうなずき、佐々木と宮本は軽く肩をすくめる。フウナはキョトンと首をかしげてヨッシーに顔を向け、ヨッシーは渋い顔でさらに言う。
「あんたたちねぇ、こっちの世界に来てもう9か月も経つんだから、いい加減そろそろ落ち着きなさいよ。まったく……。魔法とかモンスターに浮かれるなとは言わないけど、はっきり言って浮かれるな」
「「「どっちだよっ!」」」
思わず塚原と滝沢と柳生が声をそろえて突っ込んだが、ヨッシーは瞬時に3人の腹に拳を叩きこんで黙らせた。
「うるさい! このお笑い三人組! 部長の言うことは絶対なんだから文句言うなっ――あっ、しまった」
その瞬間、ヨッシーは思わず両手で口を押さえた。しかし、時すでに遅し――。フウナも含めてその場にいる全員がニヤリと笑い、塚原が真っ先に声を張り上げた。
「はーいっ! ギルマスチョンボぉーっ! 昔のことを口にしたーっ!」
同時に塚原は腰に提げていたひょうたん型の革の水筒を取り出し、滝沢が差し出した木のカップに中身をドロドロと注いでいく。それは粘度の高い白濁液で、塚原と宮本以外はとっさに指で鼻をつまむほどの異臭を放っていた。しかし男子たちはすぐにリズミカルに手を叩き、声をそろえてはやし立てる。
「「「はいっ! チョンボっ! チョンボっ! ギルマスチョンボっ! はい・はい・はい・はいっ! の・み・ほ・せっ! はい・はい・はい・はいっ! の・み・ほ・せっ!」」」
ヨッシーは滝沢が差し出してきた臭い液体を、これ以上ないほど険しい表情で見下ろした。そしておそるおそるカップを受け取ると、目をつぶって一気に飲み干した――直後、地面に四つん這いになって一気に吐き出した。
「うおぅぉぇ……うえっうえっ……うおおおおぉぉええぇぇぇ……」
長い黒髪の少女は涙と鼻水を流しながら、胃の中のものをすべて大地に垂れ流した。その姿を見て仲間たちは大爆笑。夕焼けに染まり始めたのどかな山道に、少年少女たちの楽しそうな笑声が漂った。
「これ……ほんとにヤギの乳なの……? 気を失いそうなほど臭いんだけど……」
「はーい! ヤギの乳風のなにかでぇーすっ! 毒ではないので飲んでも問題ありませぇーんっ!」
一気に顔面が青ざめたヨッシーに、塚原は満面の笑みで答えた。ヨッシーはフウナに支えられてよろよろと立ち上がり、自分の水筒で口をゆすいでそっと吐き出す。そしてニタニタと笑っている男子たちを憎々しげににらみつけて、馬車のあとを追って歩き出した。
そうして夕日が地平線に沈みかけたころ、ようやく小さな集落が見えてきた。
「ヨッシー、ついたみたいだよ~」
「どうやらそうみたいね」
フウナと並んで歩いていたヨッシーは、夕焼け空の下に見えるいくつかの家を眺めて呟いた。
「たしかに家が10軒ほど。全部で54人ってのは嘘ではなさそうね……」
「つまり、100人以下だね、ヨッシー」
「100人以下でござるか、ヨッシー」
「100人以下みたいだな、ヨッシー」
「100人以下っすね! ギルマス!」
「100人以下っすか! ギルマス!」
「100人以下っしょ! ギルマス!」
フウナに続いて男子たちも次々に同じセリフを口にする。その言葉にヨッシーも淡々と応える。
「ええ、間違いなく100人以下ね。ということはセブンルールに違反しないからペナルティも発生しない。当然、番人に追跡されることもないし、収容所送りになることもない。問題はすべてクリア。ゲームマスターに報告する必要すらない――」
ヨッシーは血のように赤く染まった空を見上げ、息を吐き出す。そしてさらに言葉を続ける。
「……それじゃあ、みんな。私たちは正義の味方よ。私たちは、私たちにとっての正義の味方よ。そして私たちの正義とは、私たちが一生暮らしていけるお金を稼ぐこと――。あとは言わなくてもわかるわね?」
その言葉に、6人全員が低い声で返事をする。そしてヨッシーが歩きながら右腕を横に払うと、全員がヨッシーの右側に並び、足並みをそろえて前進する。
「さあ、みんな、いくわよ。七天抜刀隊――戦闘準備」
その瞬間、7人の顔から表情が完全に消え去った。そしてヨッシーに続いて全員が順番に腰の刀を抜いていく。
「ヨッシー皆本、妖刀・薄緑抜刀――」
「フウナ数見、妖刀・空姫抜刀――」
「佐々木イジロウ、妖刀・黒光長竿抜刀――」
「ムサイ宮本、妖刀・桃竹鳩宗抜刀――」
「ボクチン塚原、妖刀・光陰裏卜珍抜刀――」
「バッキー滝沢、妖刀・爆血村々抜刀――」
「柳生ムネニク、妖刀・満臭萌肉丸抜刀――」
赤い夕陽の光を受けて、色とりどりの妖刀は不気味な輝きを周囲に放つ。7人の少年少女たちは次第に歩く速度を上げて、少し前を進む馬車の列に近づいていく。その時ふと、塚原がヨッシーに訊いた。
「……ギルマス。レアな女の子がいたらもらってもいいですか?」
「別にいいわよ。朝までにきっちり始末するならね」
「了解。ボクチン、やる気が出てきちゃいましたぁ」
塚原が昏い笑みを浮かべると、他の男子たちも思わずニタリと口を歪める。それからすぐに全員が表情を引き締め、歩く速度をさらに上げる。そして馬車の最後尾に追いついたとたん、ヨッシーが淡々と号令を下した。
「七天抜刀隊――戦闘開始。いつもどおり全員殺して、根こそぎ奪って売り払うわよ」




