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07 不安という名の希望

 全員がもう一度部屋に集まった。

 行方不明となったマイを除いて。


 俺とアーバストが戦って散らかった部分は、どうやら決起隊の隊員たちが片付けてくれたようで、壊れた椅子やテーブル、破れたカーペットなどが臨時的に他の部屋にあったもので補填されている。


「「「……」」」

 そんな部屋の雰囲気は昨日よりも淀んでいて、メンバーは集まったはずなのに終始無言。

 その場にいるだけで今にも身がはち切れてしまいそうだ。


「始める前に俺から一つ、ここにいるメンバーに訊いておきたいことがあるんだがいいか?」

 誰かがキッカケを創る必要がある。

 そう感じた俺は思い切って発言することにした。


 レオナルドは一斗の発言で僅かだがホッとした表情を浮かべたあと、他のメンバーを見渡して反対の意思がないことを確認する。

「……なんでしょうか、一斗殿?」

「実はな、ここに集まったメンバーのぶっちゃけ話をきいておきたくてよ」

「というと?」

 一斗の意図がレオナルドにはわからなかった。


「お互い本当は思っていることがあっても言えてない……とすると、それが不平不満として溜まってるんじゃないかと思ってな。実際のところどうよ、ヘッケルさん?」

「私か!? 不平不満というか……戸惑いを感じているよ。その……バスカルのことというよりもーー」

「マイのことか?」

「え、ええ。町を救ってくださったことや人柄としては何も疑うところはないのですが、隠していることが多すぎて信じきれていない自分が正直います」

「そんな!?」

 ヘッケルの発言にティスティが過敏に反応したが、反論できずにいる。


「その意見には悪いが俺も賛同かな。今回の件について、マイの存在はかなり厄介だ。取り扱いが難しすぎる。マイだけではなくて、バスカルや昨日突如現れたアーバストとかいうやつの言動からすると、三人は親密な関係だったことは明白だ。そんな相手の言うことを『ハイハイ』と信じる方が無理ってもんだろ?」

「……レオナルドはどうだ?」

 一斗はレオナルドに話を振った。


「……一斗殿から提案をいただくまでは、作戦を決行することしか頭にありませんでした。いや、むしろそう考えるようにしたかったのかもしれません。本当のところは、『信じたい気持ちがあるだけで、実はマイ殿に最初から騙されていたんじゃないか?』と思ってしまっている私もいます」

「まさか、レオナルドさんまで」

 ティスティはヘッケルやラインに続き、レオナルドまでマイを否定的に捉えていることにショックを受けた。


「じゃあ、ユーイたちはどうだ?」

 明らかに落ち込んでいるティスティに対して、一斗は何事もなかったかのように話を進めていく。


「他の二人はどうか知らぬが、妾はマイのことについてはどうでも良いと思っておる」

「なんですって!」

 ユーイの発言に対して、ティスティはガタッと椅子から急に立ち上がり反応した。

 ラインやレオナルド、ヘッケルも声までは上げなかったがユーイに反論する姿勢を示している。


「なんでそんなに怒っているのだ、お主たちは? そこの娘が怒るならまだしも、そなたちは信じられない相手ではないのか?」

「「「そ、それは……」」」

 図星を突かれて三人は押し黙った。


「妾はもう一度バスカル様と直接話をしたい。しかし、ただ真っ向から行くだけでは返り討ちにあうかもしれぬ。だから、もし共戦できるのであればとは考えておるがな」

 ユーイは目線を三人から一斗に移した。


「我はユーイ殿に付いていくだけだ」

 ヴィクスは腕を組んだ姿勢のまま端的に答えた。


「私は……バスカル云々よりも、姫様のことが気になります」

「それはソニア女王のことかや?」

「ええ、そうよ。私は女王になられた直後に彼女から受けた恩があります。その時は偽名を使って接してくれていましたが、なんとしてでも救出したいと……サクヤ様をーー」

「サクヤだと!?」

 ナターシャとユーイの会話に突然ラインが割り込んだ。


「は、はい」

「待て待て、ライン。ナターシャが怖がってるぞ」

 ナターシャはいきなりラインが鬼気迫る表情で迫ってきたので、怖さのあまりオドオドしてしまったので一斗がフォローに入った。


「悪いな、嬢ちゃん。もしかしたら、おれの知っているサクヤと同一人物かと思ってな」

「同一人物じゃよ」

 今度はユーイが会話に割り込んだ。


「ユーイ、お前も何か知っているのか?」

「当たり前じゃ。妾を誰だと思っておる。この国の事情は誰よりも知っておるぞ。何せフィダーイーは暗殺というよりも諜報に長けた部隊だったからな。現国王であるソニア・ウル・フィオリーナ女王はまだ王女だったとき替玉を用意して、九年前に王都を抜け出した。そしてーー」

「おれとキールが決起隊を結成した直後に合流したってわけだな」

 決起隊結成当初、キールと二人きりで行き当たりばったりで行動していた頃をラインは懐かしく思い出す。

 そこにサクヤが加わったことで、次第に少人数ながらも隊としてのまとまりが出来てきたのだ。

 キールと同様突然いなくなったから、もう二度と会えないと思っていたので、生きているとわかっただけでもホッと安心した。

 そのラインの様子が変化したのを察したレオナルドも、安堵の胸をなで下ろす。


「と、とにかく。私の目的はサクヤ様を救出すること。それを最優先させていただきます」

 ラインが思い出に浸っているところを横目に、相変わらずオドオドした様子はあるもののナターシャは自身の想いを告げた。


「そうか。じゃあ、最後になっちまったがティスはどうだ?」

「私は……自分のことを信じれていない私のことを、マイはずっと信じてくれていたわ。隠し事していようがいまいが、今度は私がマイのことを信じる番だと思ってる。だから、私はマイが考えてくれた作戦を支持するわ」

 胸に温かいものを感じ、そっと自分の胸に両手をそっと添えてみる。

 それだけでさっきまで落ち込んでいた気持ちが、自然と向上としていくのを感じるティスティだった。



「ところで一斗よ、なぜこのタイミングでこのような不安を増長させるかもしれない質問をしたのじゃ?」

 ユーイの一斗に対する問いかけに対して、他のメンバーも「そういえば」といったような表情を浮かべて一斗の返答を待った。


「それはな……俺は言いたいことが言いたかったからだ」

「「「はっ?」」」

 一斗の答えがあまりにも予想外だったため、全員が素っ頓狂な声を上げた。


「だってよ、今の話を聴く限りでも作戦を決行することに対する想いって、それぞれが別の想いを抱いていただろ? マイのことを気にしている奴もいれば、そうでもない奴もいて。一見すると同じ目的を持っていると思っていたやつでも、それにかける想いはそれぞれだとしたら、俺はそれぞれが抱いている想いを大事にしてほしい。そのことが、今回の作戦を成功させる鍵になるはずだからな」

「なるほど。寄せ集めの我々で無理やり目的を統一して連携をしようとしても、逆にそのことでお互い足を引っ張りかねない。ならば、各々の目的を達成できるように作戦を考えれば良いと……そういうことですか、一斗殿?」

 一斗が言ったことを、レオナルドが自分の言葉で整理していく。


「まぁな。それに、マイのことを信じているかどうかよりも、状況の不透明さに不安になっていることをまずは自覚しないと、俺らは互いを想像で判断し合って疑心暗鬼になり、自滅するだけだ。俺はこんなところで死ぬつもりも、世界を終わらせるつもりもない」

「私もそんなつもりはないわよ、一斗。マイが本当はどう思っているのかは、直接会って確かめるわ」

「ティス……ああ、そうだな! とにかく時間が惜しい。今すぐ作戦を整理し直して、決行しようぜ」

 一斗がそう言いながら周りを見渡すと、話し始める前とガラッと場の雰囲気が変わっていることがわかる。

 一見すると、それぞれの想いはバラバラなはず。なのにメンバー間がまとまってきている感じがして、最初のアプローチが成功したのを実感できた一斗だった。





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