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08 王都潜入

 ◆ フィレッセル城 エントランスホール前

「急がないとやばそうだな。あの光景はナターシャが言っていた『バスカルが引き起こしている現象』なのか?」

「……ええ、恐らくわ」

 一斗の問いにティスティは深刻な表情で答える。


 現在、一斗・ティスティ・ユーイ・ヴィクスの四名はザイカル王国の王都フィレッセルに潜入中である。

 王都に辿り着くまでに広がっていた光景――荒れ果てた草木や山々に干からびた川。 ついこの間までは何も異常のなかった自然が、ここ数日で突如として衰退していることが誰の目にも明らかだった。

 なぜこのような現象が起きているかの推測が、ナターシャによって語られた。


 バスカルが引き起こしている現象――つまり、それはエルドラドを外部からの干渉を遮断し、マナの供給を遮断するというものだというのだ。

 通常、マナは生きとし生けるものすべての間を流れており、それは動植物だけに限らず土や水、風、火なども例外ではない。

 もっと大きなスケールでいうと惑星間でもマナの流れは起きているとされ、お互い干渉しながら影響を受け合っている。

 そのため、通常惑星全体としてのマナが枯渇するなんてことはあり得ない――なのだが、300年前に勇者が唱えた禁術によって編み出されたアルクエードは、外部との干渉を遮断する領域を作りだすことで"願いを叶える"という奇跡を起こしている。

 もちろん外部からの影響を遮断したからといって、不変なマナが枯渇するということはない。


「それでも、枯渇している影響が表面化しているということは、何者かが意図的にマナの流れを操作しているに違いないわ」

 というのが、ナターシャが出した結論。

 このままバスカルを放置していては自分たちの命だけではなく、エルドラドに生息しているすべての生き物が死に絶える危険性があることが示唆されたのだ。


「それにしても、この城のことを詳しく知っているユーイやヴィクスがいるとはいえ、こんなにあっさり潜入できていいのか? 無駄な時間ができなくて助かるが……罠とか――」

 一斗は王都の潜入があまりにも上手くいきすぎたことに逆に不安を感じている。

 確かに城門や城下町には何人も見張りがいたが、まったく気づかれる様子がなかった。


「それはないぞ、一斗よ。ここまですんなり進めたのは妾が持っているこの双剣<大喬だいきょう小喬しょうきょう>の能力<魅了テンプテーション>のおかげじゃ」

 ユーイは懐から双剣を取り出した。


「能力の名前からだいたい効果は察することができるが……一体どんな効果があるんだ?」

「なぁに。妾の周囲にいるものを妾の虜にして操ることができる効果じゃよ」

 言いながらユーイは双剣を自分の胸元前で交差させると、そこからマナが放射状に放出されているのを一斗は感じた。

 今回ユーイは薄手のマットレザーを着用しており、その上に上下離れた水色をベースとした花柄の衣装を着ている。

 隠密としての行動が多かったユーイは動きやすい格好を好み、必然的にティスティにも引けを取らない抜群のプロポーションが露出されることになる。

 その姿だけでも魅了されそうになるわけだが、立ち振る舞い一つ一つも華麗でついつい同性のティスティも見惚れてしまうこともあるくらいだ。


「やっぱりね……って、周囲ってことは俺やティスも含まれている――」

「シー、一斗。大声出すと気づかれちゃうよ」

 ユーイがさも当然かのような発言に素で驚きの声をあげてしまった一斗は、途中でティスティの手で口を塞がれた。


「お主を虜にできるくらいならあの戦闘で出来ておったわ。ラインは後少しというところであったが」

「ちょいちょい危険な発言止めてもらえませんかね、ユーイさん?」

「そんな危険な人物と一緒に行動しようと提案したのは、お主ではなかったかや。一斗よ」

「ウッ」

 悪びれる様子が一切ないユーイに対して、一斗は何も言い返せず押し黙るしかない。


「それは、きっと一斗のマテリアル特性に関係しているのだろう」

「マテリアル特性?」

 ヴィクスの発言がよくわからなかったティスティはそのまま聞き返した。


「我もよくわからぬが、ナターシャが別れる前にぼやいていた。『一斗さんはすべての精霊との相性が良い。あんな変わった人はこれまで出会ったこともない実に興味深い存在だ』と」

「変わった人って――」「「確かに」」

「私も一斗みたいな変わった人は初めてよ」

「妾もじゃ」

 ヴィクスの話にツッコミを入れようと思ったが、すかさずティスティとユーイがナターシャの意見に賛同したため一斗は開いた口が塞がない。


「精霊だけではなく、氣の扱いもそうだが。それらの源であるマテリアル特性が、双剣から発せられる魅了<テンプテーション>を無力化している可能性が高い」

 ヴィクスは感心した様子で一斗の方を向きながら、持論を話す。


「はぁ。ヴィクスよ、汝は本当に一斗のことが気に入ったようじゃな」

 呆れたような――けれど、どこか嬉しそうな顔でユーイは呟いた。

「どういうことだ?」

「ヴィクスが聞かれてもいないことを話したり、こんな長々と話したりすることはこれまで一度もなかったのじゃよ」


 ユーイの一言を聞いて、改めて一斗は真っすぐヴィクスと向き合う。

「少なくとも俺はヴィクスのことを気に入っている。一度拳を交えた相手でもあるし、借りもあるしな」

「フッ、あれは元々我が借りていた借りを返したまでよ」

 一斗が右手の拳をヴィクスに近づけると、ヴィクスはそれに気が付いて同じく拳をつくり一斗と拳を合わせる。目が潰れてしまっているため表情はわかりにくいが、ヴィクスは確かに喜んでいるとティスティも感じた。


「さて。和んでいるところに水を差すようで悪いけど……これからどうするの、一斗?」

 ティスティは一斗の肩をタッチして、これからの行動の確認をとる。


「そうだな……今回の作戦は、二つの作戦が成功する必要がある」

 今度は三人と一斗は向き合った。


「妾らの作戦と、ラインたちの作戦じゃな?」

「あぁ、そうだ。けれど、まず優先すべきはソニア姫を確保することだ」

 ティスティ・ユーイ・ヴィクスは一斗の発言に頷いて答える。

 なぜソニア姫の確保が優先すべきと判断したかというと、ナターシャの話では『バスカルが<桃源郷>を完成させるためには、王家に代々伝わる家宝が必要になる』ということだ。

 その家宝の在り処についてはもちろんユーイも掴めていないし、バスカルもまだ掴んでいないだろうと一斗たちは推測している。もし掴んでいたとしたら、ソニア姫を生かしておく必要がないからだ。

 不幸中の幸いで、ナターシャはフィダーイーとして活動する前までは牢屋に幽閉されていたようで、道案内には困らないということだ。

 しかし、ナターシャだけに任せるのは心許ないと思っていたら、「おれとレオナルドが一緒に付いていってやる」とラインが言ってくれたことで、別動隊はナターシャ・ライン・レオナルドの三人で編成されている。


「あっちのグループの作戦が一分一秒でも早く成功させれるように、こちらでも何か手を打つことはできないか――ユーイは何か考えがあるか?」

 一斗に尋ねられ、考える仕草をするユーイ。


「……少なくともバスカル様は我々フィダーイーがいれば、潜入は造作もないことであることは見抜いているはずじゃ。だが、フィダーイーよりも戦闘力のある部隊は存在しないことを考慮すると――妾たちは一気にバスカル様の元へ駆け抜けつつ、敵の注意をこちらに引き付けるのはどうじゃ?」

「今回は時間がない……それが得策だろう」

 ユーイの意見にヴィクスが賛同し、一斗とティスティもうなづくことで同意を示す。


「じゃあ……まずはあいつらから派手に撃退するとしますか!」

「「あっ!?」」

 ティスティとユーイが静止しようとしたときには、時すでに遅し。

 意気揚々と一斗は敵に突っ込んでいった。


「オラオラ~、そこをどけー!」

「あ、あいつは!?」

「手配書に載っていたやつの一人だ! 侵入者だ! 他の一味もいるかもしれないぞ、兵力をこっちに集中させろ!」

「「ハッ!」」

 一斗の大声に反応した見張りの兵士三人が一斗に対して応戦する構えをとるうちに、しだに他の部屋からわんさかと兵士が雪崩こんできた。


「……あやつは馬鹿なのか?」

「ごめんなさい」

 完全に呆れて言い放ったユーイの発言に対して、否定ができないティスティは頭を下げてすかさず謝った。


「汝が悪いわけではないのだがのう。お主も苦労しているな、ティスティよ」

「えぇ……でも」

「ん?」

 ティスティは活き活きと敵に真っ向勝負を挑んでいく一斗を見て、次第に苦笑から満面な笑みと変わっていく。


「そんな一斗がいたからこそ、私は救われたわ」

 そして、一斗と同じような笑顔を浮かべながら、ティスティも一斗の後に続いた。


「我らも、ですな。ユーイ殿?」

「お主、何を!?」

 いつの間にか隣にきていたヴィクスの一言に狼狽しながらも、頬を赤らめた。

 ヴィクスはユーイの反応に満足したのか、さらにティスティの後に続いた。


(これまで命令がない限りは動くことすらなかったお主が、自らの意志で動くとは……本当に変わったな、ヴィクスよ)

 取り残される形となったユーイは、命令がなければ自分の傍から離れることのなかったヴィクスの行動を悲観するというよりも、なぜか嬉しいと感じている自分に気が付く。


「フム。それは、妾も同じか」

 見下すような笑みではなく、純粋に今湧き上がってくる感情から出る笑みを浮かべながら、ユーイは自らの意志で先に突っ込んでいった三人を追いかけるのだった。



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