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12 脱出劇

 羽生たちが戦闘を開始した頃——一斗とラキューナの戦いは続いていた。



「まさか、いくら<リクター>の素質があるとはいえ、ここまでとは」

「はぁはぁ。エヘヘ……それほどでも、ねぇぜ(これは、マジで相性悪いぜ)」


 俺は息をゼエゼエ切らしているのにも関わらず、ラキューナはまだまだ余裕がありそうだ。

 それに——


「何だよ、その異常なマナ量と、精霊の数は?」


 火の魔法を使ってきたと思いきや、次は水。さらに、地・山。

 四精霊の加護持ちであることは明らか。

 ここまでくると、希少な精霊である他の精霊である雷・冷・木・天も——


「はい、一斗様のご推察通り。私は時空精霊を除く、八精霊すべての加護を持っております」

「そんな滅茶苦茶な」

「滅茶苦茶なのは一斗様の方です。私が一度用いた魔法にすぐに順応し、反撃を仕掛けてくるなんて……ですが、それでこそ一斗様です」

「お褒めに預かり光栄だぜ」


 確かに<燃犀之明ねんさいのめい>ですぐにラキューナの魔法を解析し、対応はしている。

 だが、ラキューナもすぐに違う攻撃に切り替えてくるから、はっきし言ってやりにくいことこの上ない。

 鬼徹のような圧倒感はないけれど、バリエーションが多く、戦い慣れているかのように攻撃が読まれてしまうので、予想以上に鬼徹より厄介に感じてしまう。


「とはいえ、あまりにも戦いが楽しすぎて、目的を忘れるところでした」

「? それは一体どういうことだ?」

「うふふふ、こういうことですわ」


 ラキューナは懐から何かのスイッチを取り出し、俺が制止する前にすかさずボタンを押す——が、しばらく経っても何も起きない。


「何をした?」

「いえ、もう邪魔になった存在をこの際抹殺しようかと思いまして」

「——まさか!?」

「あのお二人には悪いですが、一緒に死んでもらいます」


 俺がユーイたちの後を追おうとするのを、ラキューナは電撃で妨げてきた。


「一斗様、ここも危険です。貴方様には逃げていただかないと」

「……俺があいつらを見捨てると思ったか?」

「いいえ。ですが、あと5分足らずで爆発するようにセットしてあります。このままでは間に合いませんよ?」

「そうでもないわ!」

「「!?」」


 ラキューナは自身に魔法が迫っていることを察知して、大きく後退する。


「マイ!」

「一斗、行って! ここは私に任せて」

「……わかった! また後でな」

「えぇ、また後で」


 俺はマイがラキューナを牽制してくれているうちに、ユーイたちが進んだ扉の向こうへと一気に駆け抜けた。


「くそっ! 待ってろよ、マヒロ、ユーイ」




 ◇




 私とユーイは、地下に繋がっていた階段を降りた先で、隠し港を発見。

 そこには、大きな船が停泊しており、大勢の人間が乗車している最中のようだ。

 その中に私がよく知る人物を発見した。


「見つけたわよ、クワイフ!」

「お前は、マヒロ!? なぜここに!?」

「ユーイもか……まさか、ラキューナのやつしくじったな!」


 偉そうな格好をしている二人が、わかりやすく反応してくれたおかげで標的が定まった。


「ユーイ、念のため確認するわ。今まさに乗船しようとする中に、ガジルはいる?」

「あぁ、いるぞ」

「わかったわ。ソニア女王及びリハク宰相の暗殺未遂事件の容疑者として、クワイフ・ガジル両名を逮捕します」

「ぬかせ。この人数を相手にして、どこまで偉そうなことを言えるかな?」


 クワイフが手を挙げると、出向の準備をしていた有象無象が私とユーイを取り囲む。


「ざっと100名程度かしら? ユーイ、私が活路を開くわ」

「承知した。後は任せておけ」

「じゃあ行くわよ、<水牢ウォーター・プリズン>」


 私は水の精霊の加護が強く、水魔法をメインにして戦うスタイルだ。

 一斉に襲いかかってくる敵を、水魔法で一気に一網打尽にする。

水牢ウォーター・プリズン>は、捕捉した対象を水の牢屋に閉じ込める。今までは

 せいぜい5人程度しか有効範囲はなかった。

 しかし、<天之瓊矛(あめのぬぼこ)>があれば、広範囲に渡って魔法を行使することができるようになったのである。


 私たちを取り囲んでいた奴らは、そのまま海に放り投げてやった。

 すると、クライフ・ガジルまでの道が一気に開ける。


「ば、馬鹿な……」

「……」

「さて、年貢の納め時じゃな」

「ヒ、ヒィ〜!」

「急いで出航だ! 早くしろ!」

「承知いたしました!」


 勝ち目がないと悟ったのか、クワイフ・ガジルを含めた残りの敵は慌てて船に乗船して、出航の準備を始めた。


「そうはさせないわ——」

「待て! マヒロ・ユーイ!」

「「一斗!?」」


 相手の動きをさらに封じようとしたところで、ラキューナを相手にしているはずの一斗が私たちを引き留めた。


「理由は後で話す。とにかく急いでここから脱出するぞ」

「で、でも——」

「承知した」

「くっ! (主犯格を目の前にして逃げるの!?)」


 一瞬そう思ったが、ユーイが素直に一斗の後に続いて脱出を始めたため——



「あ〜、もう! わかったわよ!」


 あれこれ考えるのは止めて、私も脱出することにした。



 それから先は怒涛の脱出劇だった。

 扉を開けてすぐの所でマイと遭遇——今まではマイ様と呼んでいたが、年も近いからと言うことでお互い気さくに呼び合う関係になった。


「早く、私のところへ! <空間転移スペース・シフト>」


 一斗、ユーイ、私の順番でマイの側まで駆け寄ると、マイはすかさず転移魔法を詠唱。

 次の瞬間、侵入した建物から遠く離れたところに転移していた。


「一体何があったのじゃ、一斗」

「じきにわかるさ」

「何が——」


 私が尋ねようとした矢先、さっきまでいた建物の方角からズガンッという爆発音が聞こえてきた。

 そして、遠目で見ても、爆発は建物全てを巻き込み一瞬で崩壊した。


「間一髪ってやつだな」

「私たち、こういう展開多いわよね?」

「……望んでもいねぇのにな」

「「……」」


 一斗とマイは何事もなかったかのように、すぐにいつも通り振る舞っている。

 対して、私とユーイは突然の出来事に、開いた口が塞がなかった。


「ほらっ、そんなところに突っ立っていないで、さっさと城に帰るぞ」

「一斗、いきなり急かしてもダメよ。マヒロ・ユーイ、後から事の顛末は話すわ」

「「わかった(わ)」」


 遠くで粉塵が舞い上がっている敵アジト跡を、改めて見つめていると——いつ間にか私のよく知る景色であるカリストロ城の城下町にたどり着いていた。


 ……もう何が何だかわからないわ。


 結局、今の私が認識できることは、任務は失敗したけれど、命は助かったと言うこと。


<はじまりの部屋>で羽生さんたちと合流して、お互いの無事を喜び合うことで、ようやく思考が元に戻ってきた。


「じゃあ、マイが最終的にあの怪物を追い払ったの?」

「追い払った、といえば追い払ったのかしら」

「何? なんか曖昧ね」


 マイは合流する前の出来事を話してくれた。



 〜〜〜



「あなたがイレギュラーのマイさんですね?」

「あら、私のこと知ってるのね」

「えぇ、それはよく。異世界を渡り歩くことのできる稀有な存在であり、一斗様にとって最も近しい存在」


 笑顔で話してはいるが、彼女を覆っているマナはそうではない。

 怒りの波動を発しており、全身ビリビリっと震えてきた。


(なるほどね……一斗が自分では勝てないと言った訳がわかったわ)


 異常なまでのマナ量もそうだが、彼女の存在自体が人間というよりも精霊に近い。

 というよりも、精霊よりも神聖なオーラを感じる。


「一斗は私のパートナーよ。あんたはお呼びじゃないから、さっさと立ち去りなさい」

「……わかりました。今回はそうさせてもらいましょう」

「!?」


 ラキューナを挑発して、こっちに気を向けさせたつもりが、予想に反してあっさり引き下がろうとしたのである。


「ですが、一斗様の近くは私こそが相応しい。そのことを次会う時には思い知らせてあげますわ」


 聞き捨てならない台詞を吐いた後、ラキューナはスッと姿を消した。

 周囲の気配を探るが、一斗たちの方には行っていないのは確かだ。

 油断はできないが、ひとまず今は脱出のために一斗を追うことにしたのであった。



 〜〜〜



「つまり……マイは一斗の浮気相手を鼻であしらった、と言うわけね」

「えぇ、そうよ」

「何が『そうよ』だ! それに、いつ、誰に俺が浮気をしたって言うんだよ! ……って、お前らみんな笑うなー!」


 やっぱり一斗を囲んでみんなで集まると、まるで我が家に帰ってきたかのような安心感があるわね。

 まぁ、失敗してしまったのは仕方ない。

 思考を切り替えましょう。

 クワイフとガジルを捕まえることができなかったが、重要参考人を羽生さんたちが捕縛したという話だ。


 ラキューナは取り逃したけれど、これで<マーヤー>の本拠地は潰すことができたから、ようやく和平への道に力を入れることができる。

 この時の私はそう思っていた——が、その考えが甘かったことを、私はすぐに思い知ることになるのであった。

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