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07 好き勝手2

 ◆一斗サイド


 俺は三人と別れた後、元々声を掛けていたメンバーに再度声を掛けた。


 これからゼロからイチを創っていく。その想いから俺はこの場所を『はじまりの部屋』と名付けた。

 リハクに頼んで用意してもらった建物の、この部屋に集まってもらう。

 部屋の中央には円卓があり、それぞれの席に座ってもらっている。


「みんな、今日は急遽集まってくれてありがとよ! 今後の方針が決まったから、そろそろ動こうと思う」


 改めて集まってくれたメンバーを見渡す。

 クレアシオン王国からは、ケイン・シーナ・レイ・ロイド・ククル。

 リンドバーク帝国からは、チヒロ・エルク・カティア・セシル。

 鬼王国からは、羽生・梓。

 そして、ティスティ・シェムル。

 このメンバーでまずは始動することに決めた。


「今いるメンバーを大きく2つに分ける。まずは、チヒロ・ティスティ・シェムル。以上三名は、外交組として三国内外の交渉を担当してほしい」

「わかった」

「了解だよ!」

「了解」


 本来なら責任者である俺が出向くところだが、あいにく俺には外交とか、駆け引きとかは超苦手だ。

 それに愛嬌もないし、初対面の印象は悪いのはわかっている。

 だからこそ、これまでリハクの執務官として動いていたチヒロや、社交マナーに詳しいシェムルの協力が不可欠になる。


「続いて、残りメンバーは国内組として、三国が交流できる場を創っていってもらいたい。まずは、要望のある軍事訓練と建築や鍛冶といった生産活動に力を入れる方向で。こちらの取りまとめは、羽生にお願いしたい」

「承知した」

「そして、羽生の補佐としてケイン、お前にお願いしたい」

「わかりました、一斗先生!」

「この国内組は正直言って人材不足だ。だが、どの国もこちらにさける人材はいない。だから、俺がどうしても一緒に動きたい人材だけ無理やり引っ張ってきた。このメンバーならやれると思ったから」


 そうなのだ。

 俺が元々個人的に誘ったティスやシェムルはともかく、チヒロや羽生に至ってはそれぞれの国の重臣。

 どうしても必要だと思い何度でも食いつく覚悟で誘ったが、案外本人も、その国のトップにもあっさりオッケーをもらい、ちょっと拍子抜けした。


「外部要因もあって、一ヶ月で形にする」

「「「一ヶ月!?」」」

「あぁ、一ヶ月だ。もちろん完成形が一ヶ月ではない。あくまで形にするのが、だ。第1フェーズってところだな。まずは、スピード感をもって、本気で取り組んでいる姿勢を国内外に示す。中途半端に時間をかけてしまうと、また外部から茶々を入れられかねないからな」

「<マーヤー>ですね?」

「あぁ、そうだ。奴らは絶妙なタイミングを狙ってやってくる。まるで先を読んだかのように」

「でも、今回の和平交渉には関与してきませんでしたよね?」

「あぁ、ケインの言う通りだ。当然奴らの耳に入っているにも関わらず――レイ、なぜだと思う?」

「……邪魔する必要がなかったから、でしょうか」

「お、さすがレイだな。俺も同じことを考えていた」

「どういうことです? 敵対する相手が強くなる方が相手にとっては不利になるから、邪魔したくなるのではないですか?」


 ロイドの疑問ももっともだ。


 だが――


「ククルはどう思う?」

「……仮にあえて和平交渉を妨害しなかったとするのであれば、理由は二つ考えられます。一つは、肥らせてから狩る方が効率的だと考えたから。もう一つは、烏合の衆が集まっても、勝手に空中分解すると考えたから。どちらにしても、三国協定は無意味——好都合だと思われているのではないでしょうか」

「そうだな。ただでさえ、我々と人族は、これまでずっと争いしかしていない。加えて、主義主張も異なる。そんな火に油を加えても結果が見えていると考えるのも頷ける」

「ククルや羽生の言う通りね。それじゃあ、あなたがやりたいことは、その対応を逆手に取りたいのかしら?」

「シェムルにはお見通しのようだな。俺は相手がどういう思惑だとうと、速やかな三国の連携を進めるつもりだ。だが、もし相手があえてちょっかいを出してこなかったなら、出してこなかったことを後悔させてやるのも面白いかなってよ」


 そうだよ。

 逆に手出しができなるくらい大きくなって、無駄な争いを回避する手立てができるかもしれない。


「一斗、楽しそう」

「楽しい? 当たり前だろ? 俺は楽しいことしかしねぇよ。でだ、国交樹立に向けて、俺らが指針とするのは『どうやったら楽しくなるか』とする」

「つまり——どう言うことですか?」

「俺らはお互いの国ことを知らない。そんな中で相手のことばかり考えていたって、所詮お互いの腹の探り合い。何か不測の事態が起きれば疑心暗鬼に陥ることだって、十分考えられる。だったらどうする? まずは、俺らが交流を楽しむ。楽しいことや面白いこともまた、他者へ次々と伝わっていく。それに、自分が楽しいとやりがいを感じて取り組むことであれば、自然と本気になれるはずだ」


 これは挑戦である。

 あえて具体的な目標とかを立てずに、個々のやりたいこと・やってみたいことを立てずに計画を組み立てていく。

 今回のように関係者が多すぎると、それぞれの思惑を考慮してから動くと時間がかかり過ぎる。

 しかも、仮に思惑を確認できたとしても、時間が経過してしまえば、変わってしまう可能性もある。

 力入れたものの、無意味に終わる可能性が高いものよりも、未知だがやりがいのあることを俺はしたい。


「ってなわけで。これから俺はちょっと用事で抜ける。チヒロ・羽生がそれぞれ中心となって、どんなことをベースにして、何からまずは始めたいか考えておいてくれ。1時間したら戻る」

「ちょ、ちょっと一斗殿!?」

「あ、一つ言い忘れてた! 国内組の軍事訓練については、レオナルド・ライン・マヒロに、あと鬼徹が視察に来ることが決まってる。楽しみにしててなー、ほな!」


 国内組は何か言いたそうだったが、もちろんスルー。

 その点、外交組はこの展開が読めていたようで諦め顔だった。

 どうせ俺はまとめ役には向かない。

 そんな奴が進行役をしても、どこに着地したらいいかわからん。


 だが、俺にだってわかることはある。

 それは、相手が好きでやっているか。楽しんでやっているか。

 俺が大事にしていることだから余計に。


「……さてと、そろそろ行くか」


 俺は部屋を出て、ある所へと足を運ぶのであった。




 *




 実は、本当は決まっていた用事というのはない。

 だが、直感で感じ取ったことを確めに行く必要があると感じたのだ。

 しかも、その感じ取ったのは良いイメージ出はなかったから、あえて一人で出向くことにした。


「さてと……もういいだろ? そろそろ姿を現したらどうだ?」


 城下町のあえて人目のつかないところまで移動した俺は立ち止まり、周囲にいるだろう存在たちに声を掛けた。


「……世渡一斗、だな?」


 すると、暗闇から低い声の男が話しかけてきた。


「だったらどうする?」


 そう答えた瞬間に、俺の周囲を黒装束の連中が十名取り囲んできた。


「大人しくついてこい」

「あいにく名乗りもしない強引な勧誘は受け付けないことにしてるんだ」

「……多少手荒になっても構わん。拘束させてもらうぞ」

「やれるもんならやってみな」


 ちょいちょいと手で挑発したら、案の定一気に飛び掛かってきた。

 予想通りだったので、スレスレで避けて闇に隠れることにする。


「何っ!? いないぞ?」

「どこにいった!? まさか逃げたか?」

「いや、ここで逃げるなら最初から我らをこの場所に連れてこないはずだ」


 おっ、よくわかってるじゃないか。

 完全に氣を絶っているから、こいつらには気付かれることはないだろう。

 とはいえ、長く付き合うつもりはないから、ここらで一発決めるかな。

 そうと決めたら、俺はゆっくりと謎の集団たちの前に姿を現した。


「……なぜ姿を見せた?」

「なぜだと思う? ①退屈だったから。②あんたらじゃあ役不足だから。③隠れる必要がなかったから。あ、複数回答もありだぞ?」

「き、貴様ーッ!」

「<氣伝波きでんは>」

「ウッ」


 黒装束の者たちは全員意識を失い、バタバタッと倒れていく。


「①②③、すべて正解だ。さぁ、邪魔者はいなくなったぞ、ラティーナ」

「さすが、一斗様。よくお気付きになりましたね」

「さすがに二度目となれば、な。まぁ、勘ってやつだ」

「あら、そうでしたか。ウフフ」


 上品な笑い声と共にラティーナが姿を現す。

 ラティーナ――<マーヤー>のトップで神出鬼没。

 今もそうだが、まったく殺気や凄みは一切感じず、貴族令嬢という雰囲気が最もしっくりくる。

 だが——まだ三度しか会っていないが、得体の知れない。

 圧倒的なマナ量を秘めていて、氣功術や魔法とは違う何かを使うことができる。

 おそらく禁術、だと思うが。


 しかも、平然と使えることから、まだ隠し球があるはずだ。


「この度は、この者たちの無礼お詫びいたします」


 優雅に謝罪を入れてくるラティーナに、場違いを感じるが、なぜか突っ込めない雰囲気がある。


「組織のトップなら、手下どもの手綱はしっかり握っていてもらわないと困るんだが」

「お恥ずかしい話ですが、我々の組織も一枚岩ではないのです。一斗様、あなたを脅威に感じるく——ものたちもおります」

「ッ!?」


 ラティーナは倒れている者たちに目線を向けるが、一瞬ものすごい殺気を感じて身震いした。

 おいおい、このギャップはやばいだろ。

 しかも、出かかった言葉から察するに、俺への対応とはまったく違う別人格が存在しそうだ。


「……で、今日の話は何だ? あんたらのことでも教えてくれるのか?」

「本日はこの者たちが一斗様を襲うと知り、急いで駆けつけた次第であります」

「……そうか」

「信じていただけるのですか?」

「真実だろうと嘘であろうと、俺とお前にはどちらも損得はない」

「まぁ、なんてドライな」


 ちぇ、皮肉で返したのに、なぜか喜んでやがる。


「本当は、鬼ヶ島での出来事を――」


 余裕があると思いきや、今度は煮えきれない感じな様子。

 鬼ヶ島での出来事は<マーヤー>が引き起こした、と認めているは発言。

 だが、どこか今までとはちがう。


「過ぎたことに俺はとやかく言わない。これからどうしたいか、それだけだ。今日のところは、後ろで殺気立っている奴らを連れ立って立ち去ってくれ」

「ありがとうございます。私も他の方から邪魔されるのは本意ではありませんので」


 ちらっと遠くの方を見つめ、またこちらに視線を戻す。


「バレてたか。まっ、お互い様ってこった」


 降参のポーズをとると、ラティーナは嬉しそうに微笑んだ。


「なんかお前と会うといつも拍子抜けするが……まぁ、吐き出したいことがあれば話くらいは訊くからな」

「ッ!? なぜそんなことを……だって、貴方様は私とは敵同士のはず」

「敵? 残念ながら俺には敵も味方もいない。一緒にいたいと思うやつかそうでないか、だけだ。あんたとはゆっくり話したいと思っている」

「……」


 一瞬嬉しそうな表情を浮かべたが、すぐに元の微笑みを浮かべる。

 そして、何も言わず上品にお辞儀して、倒れていた黒装束のものたちと共に姿を消していった。


「ふぅ、やれやれ。毎回ヒヤヒヤするぜ。牽制センキューな、ユーイ」

「問題ないぞ」


 スッとユーイは俺の後ろに現れる。


「相変わらず得体が知れないな、あいつは」

「あぁ、その通りじゃ。かなり距離をとっていたが、妾のことを完全に認識しておった」

「だな。だが、ラキューナが姿を見せてくれたおかげで、あいつらの動向がだいたい掴めた。戻るか」

「うむ」


 俺はユーイと共に、はじまりの部屋がある建物へと戻ることにしたのであった。




 *




 一斗が去った後、部屋はシーンっと静まりかえった。


「……さて、羽生さん。まずは、何から始めましょうか?」

「あ、あぁ」

「ケイン、私記録とろうか?」

「シーナ、頼む。レイたちも羽生さんの近くに集まってくれ」

「「「ハイっ!」」」

「チヒロさん、私たちは何から決めましょうか?」

「んっ。一斗が言ってた、何を私たちはベースに活動するか。それを決めよう」

「そうね。でないと、何をしようか決めれないものね」

「……」

「羽生様、いかがなさいましたか?」


 周りの状況についていけず呆然としている羽生に、梓は声をかける。


「梓よ、お主はこの状況に何も驚かないのか?」

「はい。私は最近の日常でしたので、もう慣れてしまいました」


 梓は1週間だけとはいえ、ずっと一斗に付き添ってきたのだ。


 一斗のその場その場の対応には、最初梓も戸惑い、慌ててばかりだった。

 けれど、だんだん周囲は平然としているのに気付き、以来自然と受け入れることができるようになっていた。


「そ、そうなのか。一斗殿を理解することを思うと、人族への和解は簡単に思えてきたんだが」

「その気持ちわかります、羽生さん! 師匠は何考えているかわかりませんわ」

「カティアの言う通りです。けれど、そこが魅力的です」


 カティアとセシルは羽生に近寄る。


「だよなぁ。一斗師匠の無茶振りは最初まったく意味わからないけど、結局俺たちのタメになっているよな」

「そうそう!」

「レイ君はどう思う?」

「一斗さんは……楽しんでいるだけだ。だが、それが良い」


 なるほど、と羽生はレイの返答を聞いて妙に納得できた。

 朝の鍛錬に参加しなければ、きっとそうはなかったかもしれない。


 一斗は確かに無茶だと思うことを、鍛錬で提案してくることもある。

 そう、あくまで提案。

 羽生にもレイにも、みんな拒否はできる。

 なんせそもそも鍛錬は強制してやるものでないと、一斗自身が言っているからだ。


 しかし、羽生は拒否したことがない。きっと他の者もそうだと思った。

 なぜなら、提案してくる本人がものすごく楽しそうにしているから、ついこっちはヤル気になってしまう。

 全然できなくて悩んでいると、適当な人物からアドバイスするように取り計らってくれていると、羽生はケインからきいた。


 そういえば、深刻そうに悩んでいる一斗も見たことはない。

 だから、一斗は『どうやったら楽しくなるか』というようなあえて抽象的な指針を立てたのかもしれないと、羽生は感じた。


「あやつは私たちにも思う存分楽しんで動いてほしいと望んでいるのであろう。つまり、本気で取り組むと一斗殿は決めた、ということだ。あとは、我ら次第だな」


 そう言って、周囲を見渡すと、国内組だけでなく、外交組も羽生の話に耳を傾けてくれていた。

 そのことを、羽生は純粋に嬉しいと感じている。


(そうか、だから一斗殿はこの面子を揃えたのだな)


 羽生はこの集まったメンバーと共に、今すべきことが見えた気がした。


 この後、一斗を除いたメンバーの議論は白熱し、この日の夜遅くまで続くのであった。


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