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06 好き勝手1

 ◆一斗サイド


 カリストロに戻ってきてから1週間以上経つが、のんびりする暇もない毎日が続いている。

 なぜかって?

 それは俺が一番ききたい!


 ガスタークでの一件以降、明らかに俺に対する用事ではないことに巻き込まれているのだ。

 主犯は、ソニア、リハク、鬼徹を始めとした首脳陣だが、なんだかんだで何かあるごとにいつの間にか俺が主要メンバーに加えられている。

 それは、今回の国交樹立への動きもそうだ。


 ……まぁ、あれは俺がしっかり内容を確認しなかったのが悪いが、俺の思考を読んだ完璧な作成。

 絶対にマイとティスが絡んでいただろう。


 だが、二人がそうあることを望んだといたら……いまはこの与えられた環境は楽しんでやるのも悪くないかもしれない。


 ただーし、俺に一任したからには、誰にも文句は言わせねーし、そもそも文句を言う暇すらないようにしていくからな。


 フッフッフ。


 というわけで、早速根回しといきたいところだが、ついでに各国の首脳陣が求めていることを三人から改めて訊いた。

 三人に共通していること――まずは、他国のことを知る機会が欲しい、だった。

 一度も人族との交流がなかった鬼王国はもちろんだが、クレアシオン王国とリンドバーク帝国も実は国交についてはほとんどなかったらしい。


 それはなぜか?


「我が国クレアシオン王国ではアルクエードによる恩恵がすべてという、ある意味国是のようなものがありましたから。他国どころか、自国の人間とすら関わりは希薄になっていたのです」と、女王ソニア。


 そう言われてみれば、まさにアイルクーダのまちが最初そんな感じだった。

 唯一ハルクの親方だけがちがったが、あんな状況で交流が生まれるとは誰も思えないだろう。


「私たちの国にはアルクエードを普及していた教団の本拠地がありましたが、なぜかアルクエードを使おうという流れにはなりませんでした。その代わり、帝国内での領土争いはずっと続きましたが。なので、他国と下手に関わって、余計な火種を起こしたくなかったのかもしれません」


 アルクエードによる支配も勘弁してほしいと思うが、争いの絶えない世界も御免こうむる。


「……我ら鬼人族は元々他人種と関わることを極端に避けてきた。『信じても裏切るのが人族』と教わってきたのも事実」


 なるほどな。

 鬼人族はそもそもこれまでも一度も人族と関係を結んでいないんだったな。


 んっ、一度も?

 なんか引っかかるな。


 アルクエードによる恒久な平和を望んだクレアシオン王国。

 戦争により国力を増強してきたリンドバーク帝国。

 人族との関わりを絶ち続け、人族の殲滅を望んだ鬼王国。


 何も関わりがないけど、関わり続けている。


「なんで、そもそも人族と鬼人族は争うんだろうな?」

「「「それは……」」」

「いや、答えが知りたいわけじゃないんだ。ただ、相容れないことを無理やり一緒にしようとして、逆効果に終わってきたんじゃないかと思ってな」


 なんたって、俺自身思い当たる節がある。

 以前いた世界では、俺の考えを常に部下に押し付けてきた。

 それで上手くいった部下もいたにはいたが、大半は折りが合わず、すぐに辞めたり、部署を異動したりしていた。

 その時は「この根性なしが」「もっと本気になれよ」と言ってきたし、思ってきたが……こうやって第三者として関わってみると、上手くいかない関係の構図がよくわかる。


「魚好きだけど肉は嫌い。肉は好きだけど魚は嫌い。そんな二人を引き合わせるのに、どちらかを立てれば、もう一方が立たないのは至極当然のはず。だから、二者間での和解は決裂しやすいんだろうぜ」

「なるほど……では、なぜこれまで三者同盟みたいな動きはなかったのでしょうか?」

「俺はあったと思うぞ。もちろん潰れてきたが。自然に見えるような形で」

「ッ!? 何か含みのある言葉ですが……つまり——」

「あぁ、何者かが関与し続けている可能性もあるってことだ。もちろん組織レベルで。まっ、今はまだ確証は得られていないから、妄想レベルだけどな」


 とは言ったものの、個人的にはそう考えた方が色々辻褄が合う。

 これまでの歴史でも相容れないものと戦うように直接的には仕向けられていないだろうけれど、間接的には戦うような流れにさせられてしまっている。


 思考操作。

 別に魔法とかそう言ったものではなく、人の思考を巧みに誘導するように。

 相手が捕捉できていないからこちらから手出しは当然できないし、無理矢理反抗するのも相手の土俵に立ってしまうかもしれない。


「だが……もしそうだとするなら、これから我らはどうする? 其奴らと戦うのか?」

「そうそこだよ!」

「んっ、どういうことだ?」

「何かあったら戦うとか、意見の合わない相手は何とかしようとする——それこそが相手の思惑にハマっている気がしてな」

「では、このまま見過ごしますか?」

「いや、そんなことはしない。だからこそ、もっと知りたい——この世界、エルラルドという惑星のことを。そして、お前たちのことを。俺たちは知らなすぎる。隣人だけではなくて、近くの人間でさえ」


 俺だって、一番身近な存在であるマイやティスのことですら、実はあまりよくわかっていないことは多い。

 当然ソニアやリハク、鬼徹のことも。


「まっ、ちょっと話は外れちまったが、あんたたちに話を聴かせてもらって、国交樹立に向けた指針はできたよ。また整理したら報告する。じゃ、またな!」


 そう言って、俺は首脳陣が集まっていた部屋から出てきた。


 ふむふむ。

 無理にお互い理解できる場を創ろうと思っていたが、それはよしておこう。

 変に各国の関係を良くしようとするから、余計に思考の迷宮にハマった気がする。


 やっぱりここは当初の予定通りに行くか——




 *




 一斗が部屋を出で行った後の貴賓室。


「いやはや、一斗殿は相変わらずですな」

「リハク様の仰る通り、彼は自由で、気ままで。だからこそ、鋭い」

「……そうだな」

「彼はもう動き始めるでしょう。我々はどう動きましょうか?」


 ソニアは話しつつも、一斗の言ったことを咀嚼しようと心の中で試みている。

 試みているが、なぜか思考がうまくまとまらない。


 まとめようとするのが無理なのか、そもそも考えようとしているのが理解できないことなのか。


(どれも正解のようで、どれも間違っている気がするわ。きっと彼が言ったことを考えるには、まだ必要なピースがきっとある)


 仮に世界の歴史に干渉し続けた存在がいたとして、彼らが何を企んでいるのか。

 どんな連中なのか。

 判断材料がまったくないのだから、ソニアがわからずにいるのはもっともなことだ。


 それは、リハクや鬼徹も同じである。


「……とにかく今は国交樹立が最優先だろう。だが、並行して諸外国や<マーヤー>とかいう組織のことも情勢を探っておきたい」

「鬼徹殿、<マーヤー>についてはあなた方の方はすでにお詳しいのではないでしょうか?」

「……恥かしい話だが、我は奴らのことは何も知らないのだ。我の愚弟である夜叉が仕入れた情報を基にして、我々はこれまでは動いていた。つまり、状況的証拠だけで言うならば——」

「貴殿の弟君と<マーヤー>は結託している、と」

「左様」


 ガスタークでの一件以降の鬼人族と<マーヤー>の動向から察しても、その意見にはソニアもリハクも同意見だった。


「それに、あやつなら鬼ヶ島での一件でも、裏で手を引いて我らの領土に奴等を招き入れることは造作もなかったであろう」


 鬼徹の推測を裏付けるかのように、あの一見以降夜叉に関して何も進展がない。

<マーヤー>に攫われたという見方もできなくはないが、何も要求してこないのはおかしい。

 勘付かれたと察して、身を隠したと考えるのが自然である。


「彼らのことは我々の諜報部隊がずっと追い続けています。あなた方の諜報機関と連携して動くように指示を出しましょう」

「それは助かります。そういえば、貴国の諜報部隊は国の組織とは独立しているとか」

「えぇ、リハク様の仰る通り独立しています。なので、実は私にも直接指示できる権限はないのです」

「「ッ!?」」


 苦笑して答えるソニアに対して、リハクと鬼徹は驚く。

 無理もない。

 今ここに集まっている三人は、国でも最高権限のある者が集まっているからだ。


「それには内部事情もあるのです。我が国では、つい一年前まではバスカルのすべて支配下にありました。当然政治や軍事、諜報もすべて。そこで、国家再編にあたりある人に助言をもらったのです。『あんたにすべてを権力が集中すると、いざというときに身動きがとりにくくなる。女王には権力ではなく、魅力があればいい』と」


「一斗殿ですな」「一斗だな」

「ウフフ、はい」


 ソニアは二人の反応に笑みがこぼれる。


「最初は彼の言っている意味がわかりませんでした――が、今になってようやくわかったことがあります。何かを最終決定するには、各分野に精通している必要がある。けれど、私はまだ未熟なので、どの分野においても一流とは程遠い。だからこそ、色々な現場に実際に赴き、学び、体感した方が、逆に今何を成すべきなのかが判断できるようになってきたのです」

「そういうことでしたか。そんな貴女様だからこそ、ライン殿やレオナルド殿、ユーイ殿が忠誠を誓っているのですね」

「ラインとレオナルドはそうですが、ユーイは忠誠というよりも忠義で動いています。私ではなく彼の」

「そういえば、ユーイはあなた方と敵対していたと聞いた。まさか、その敵対関係をなくしたのも――」

「はい、一斗殿です。本人は否定していますが。謙遜とか謙虚ではなく、『そんなつもりはなかった。ただ、話してみたかっただけだ』と」


 そんな一斗だからこそ、ソニアは以前は敵対関係にあったユーイを託せるし、彼女の処遇を一任できたのである。


「奴はそういう男だ。我に対しても同じだったからな。奴の前では種族や地位、名誉などはなんの意味も成さぬ」


 殺し合いをした関係ではあったが、それでも一斗はなんの躊躇いもなく、鬼徹との会談を了承した。

 そうしてくれると鬼徹は判断したからこその会談ではあったのだが。


「ですな。一斗殿もう少し地位や名誉に興味があれば、我が国に引き込めるのですが。これは、籠絡しかないですかな」

「あら、リハク様。奇遇ですわね」

「……」

「(やはり、ソニア様だけではなく、鬼徹様も……これは計画を急がねば)」


 このことについても、三者とも同じようなことを考えている。

 つまり、一斗はまた自分の知らないところで巻き込まれていくのであった。


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