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20 決着と終着 後編

「駄目だよ、一斗。女の子よりも先に諦めたりしたら」


 反射的に声のした方に振り返る。


「一度格好つけたなら、最後まで私たちに格好良いところを見せてよね」


 黒の長髪でツインテールにしていて、見た目は非の打ち所がないくらいの美少女。

 髪の色と同じ黒いローブを着て、見覚えのある杖を持っている。

 そこには、ずっと会いたかった存在が微笑みながら姿を現していた。



「「マイ!?」」

「はいはい、詳しい話はあとでね。今はあれを先に片付けるよ!」


 マイの杖が向く先には、依然高速で接近する隕石があった。


「私が少しだけあれを止めるわ。ティスはそのまま魔法を維持。トドメは一斗――いいわね?」

「わかったわ、マイ!」

「当然だッ!」


 感動の再開は後回し。

 なぜ覚醒しなかったマイが突然現れたのか、そんな理由は今はどうでもいい。

 ただ、以前三人で旅していたときのような感覚が戻ったことが、俺を奮い立たせた。


「行くわよ、〈静止する世界フリーズン・ワールド〉」

 マイが魔法を唱えると、どんな原理かわからんが、あれだけ怒涛の勢いで迫っていた隕石が上空1キロメートル付近でピタリと静止した。

 あたかも、最初からそこに浮かんでいたかのように。


「一斗、今よ!」

「あとはお願い」


 なんだよ、この待ってましたと言わんばかりの展開。

 お膳立てしてもらって、トドメの美味しいところだけもらうなんて――こんな展開オイシイんだーーーっ!



「任せろーッ!」

 俺は勢いに任せ、炎の壁を一気に駆け上がる。


 そして――


「これで終わりだ」

 直径100メートルくらいある隕石に手の平を合わせる。

 その上で、内部から破壊するイメージを込めて一気に氣を解放。


 スパァンッ、という破裂音とともに隕石は完全に粉砕。


(や、やったぞ……)

 それだけ見送ると、もう体が限界だったからか、意識が遠のいていく。


 意識が途切れる最中、体中を暖かい何かで包まれた感じがした。



「お疲れ様、一斗」




 *



 意識が戻ったときには、また布団に寝ていた。


 意識を失うこのパターン、もう何度目だろうか。

 さすがに意識を失い過ぎだとは思うが、別に好きで失っているわけではない。


 最後まで立っていれたら格好は付くが……まぁ別に俺はヒーローって柄じゃないし。

 これでも上出来だろう。



 起き上って周囲を見渡してみると、ここはティスとともに通された客室だった。


 他には誰もいないようだが――


「一斗、起きたッ!?」

「こらっ! 抜け駆けはダメよ、ティス」


 と思ったら、騒がしい二人が息を荒立てて部屋に乱入してきた。



「おはようございます、一斗様。よく眠れましたか?」

 睨み合ってる二人をスルーして、枕元まで来た梓が声をかけてくれた。


「おぅ、まだ疲れはあるがな。どれくらい寝てたんだ?」

「一斗様は丸一週間寝ておりました」

「一週間!? 俺はどれだけ寝れば気が済むんだ」

 スッキリ寝れた感があるとは思ったが、一週間も寝たきりになっていたとは。


「それだけご活躍だった証拠ですよ」

 癒しの笑顔で労ってくれる梓の存在は、とっても有難い。

 一家に一台ならぬ、一家に一人梓がいれば世界平和なんて簡単に実現するだろう。


「かずと~、私たちもいるんだけどー」

「こんな美女二人がいるのに、いい度胸ね」

 対して、かなりご立腹な二人組。


 これだよ、これ!

 笑顔でいるはずなのに、半端ない威圧感!

 下手な殺気より全然怖い。

 だけど――なんかこのやりとり自体がとても懐かしく感じて嬉しかった。


「むぅ、なんでそんなに嬉しそうなの?」

「だってよ。またこんなやりとりが出来ることが、なんか嬉しくってな――お帰り、マイ」

「……ただいま、一斗♪」

 俺が素直に言うのが意外だと言わんばかりの表情だったが、すぐに満面の笑みで返答してくれた。



 *



「聞きたいことは色々あるが、まずはあれからどうなった?」

「それはね――」

 俺が気を失ったあとのことを、ティスが教えてくれた。


 どうやら、隕石による被害は完全に防げたようだ。


 ただ、あの場にいた面子の意識が隕石に向いているうちに、いつの間にかバロンとその仲間が行方不明。

 それに、鬼徹の弟である夜叉も。


 バロンたちに連れていかれたと思っている連中もいたようだが、俺はちがうと睨んでいる。

 なにせ鬼人族が、俺たちの状況をあまりにも知っていることが怪しすぎる。

 諜報戦に長けているのかもしれないが、今回の事態は鬼人族たちの包囲網を簡単に突破されたため起きている。しかも、鬼人族アジトの中枢にだ。内通者がいたと考えるのが自然である。


 そう考えれば、先日の首都カリストロへの侵攻を容易に許してしまった理由とも話が繋がる。



 それよりもだ、今は本題は別にある。


 結局襲撃により途中で中断された和平交渉は、改めてリンドバーク帝国首都カリストロで開かれることとなったようだ。

 しかも、クレアシオン王国の女王ソニアも出席することで合意。


 さらに、今度は鬼徹と羽生が二人だけで和平交渉に挑むらしい。


 ここからが俺には本題なのだが、なぜか各国の中立的立場の人間として俺とマイが、和平交渉の場に参列することに決まったのだ。

 どうやら鬼徹直々のご指名らしいが、なんでマイもなんだろうか。


「それは、彼らとは前大戦時に色々あってね」

 ということで。

 詳細については会議の場で説明してくれるようだから、今すぐにでも訊きたい気持ちをグッとこらえることにした。



「毎回のことなんだが、俺の知らないところで俺にも関わることが勝手に決まってないか?」

「え~、だって――」

「それが一斗だもん」

「「ねー♪」」

 ねー、じゃねーよ!

 俺はどこにも属していないはずなのに、なんでここまでみんな巻き込みたがるんだ?


「一斗様だからです。皆様もきっと貴方様にはいてほしいのでしょう」

 梓よ、お前もか。

 いてほしいと思ってもらえるのは嬉しいが……せめて俺の意志くらい確認してほしかったなぁ。



「な~にいじけてるのよ、一斗?」

「うっせー。それよりもだ……今さらだがマイ、お前はどうやって目覚めたんだ? それにここまでどうやって来たんだ?」

「あ~、そのことね。恐らくは貴方にかかっていた封印がすべて解けたことで、私の力がすべて戻ったことが目覚めた原因かな」

 マイは俺のみぞおち辺りを指差しながらそう答える。


「それとどうやってここまで来たかというと、<空間転移スペース・シフト>でよ」

「ん? 確かその魔法は、目印を付けたところにしか転移できなかったんじゃなかったのか? しかも、その目印は丸一日で消えるって」

「そう。よく覚えててくれたね、一斗。確かに今まではそうだったけれど、力を完全に取り戻したことで、『一度行ったことのある場所であればいつでも転移できる』ようになったというわけ」

「ということは、マイはここには一度来たことあるの?」


 ナイスフォロー、ティス。

 そうだよな、一度行ったことある場所じゃなきゃいけないっていうんなら、一度この鬼ヶ島に来たことがあるということになるからな。


「うん、あるわ。それがさっき話した通りよ。彼らとは前大戦時に色々あったの」

 そう言うと、マイは窓辺に歩いていき、懐かしそうに景色を眺める。


「あ~わかった! その話は会議のときっていう約束だから、この話はここまでだ」

「ありがとう、一斗。でも、一斗は私のことをすごく心配してくれてたんだね?」

「心配? べ~つにー。どうせしぶといマイのことだから、ほかっておけば勝手に目が覚めると思ってたぜ」

「なんですってー!?」

「なんだ~?」

 ついこの返しが嬉しくって、いつもの癖が。


「本当にあなた方は仲が良いのですね」

「梓さん、一斗とマイの言い争いは日常茶飯事ですから。彼らのことは放っておいて、また城内を案内してくださいよ~」

「えっ、えっ!?」

「ごゆっくりと~」

 ティスは梓の背中を押して、部屋の外へと出て行った。

 俺たちにウインクして。



「「……」」

 しばらく沈黙が続く。


「ふぅ~、やっぱりあの子にはかなわないわね」

「だな」

 いつも俺たちの傍にいてくれて、力になってくれて、気にかけてくれている。

 今回の遠征も一杯世話になったから、帝国に戻ったら何かお礼をしないとな――


「……どうした、マイ?」

 考え事していたら、マイが急に俺に抱きついてきた。


「よかった……またこうやって生きて会えて。本当に……よかったわ」

「……俺もだ。またよろしくな、麻衣」

 マイから伝わってくる温もりが今まで以上に有難く感じて、彼女を強く抱き返した。


「うん……こちらこそよろしくね」


 しばらくの間、静かに二人ずっと抱き合い、幸せな時間を過ごすことができたのであった。



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