第5章 6話
-水谷優子の場合-
秋葉原が終わる時刻は刻々と迫っている。
それなのにも関わらず何も出来ない。
そんな自分がもどかしい。
「ねぇ。あれを止めるのが無理だとして、何故私をここに連れて来たの?」
私は正義感は人一倍あると自負している。
けどそれだけで、能力的には何か優れているものがあるとは思っていない。
演説力とか説得力とか、そういうのは得意な方だと思っている。
けど、今の彼らを止める言葉は全く見当たらない。
何故なら、彼らは成功すると信じているから。
そういう盲目的に信じている場合、説得は難しい。
おそらく、失敗した光景を見て初めて後悔するタイプ。
それまでは彼らを論破する材料がこちらには無い。
よっぽど説得力のある証拠を見つけないと無理。
「さあ。それは私も分からないの。ただ今日の出来事で死んだ事を回避した事を覚えている人がヒントじゃないかと、聞かされたの」
ヒント?
「私が?」
「ええ。タイムトラベルした最初に会った人、山田・クリス・恵子という人物がそう推測したみたいなの。少ない材料でかなり詳しい事まで考察していたから、おそらく間違っていないとは思うんだけど」
そうだとしても、私が必要だというのが分からない。
今回、私はただ店の売り上げを盗んだ犯人を捕まえようとしていただけ。
そこで不思議な体験をしたのは事実。
でも、それがどうやってこの実験を止める事へと繋がるのかが分からない。
「見て。そろそろ実験開始よ」
こっそりと覗き見る。
中にいる科学者たちは一番奥にあるガラスの向こう側の機械に集中していて、こちらには警戒すらしていない。
あまり大きな動きをしなければ、この位置なら安全に見る事が出来る。
じっと見ていると、もの凄い音が鳴り響く。
そしてガラスの向こう側の空間に、何かがぶつかったような衝撃が起こる。
あれは?
やがて、そこに黒い空間が現れた。
それを見た科学者たちは歓喜している。
「あれは?」
「ブラックホールよ」
あれが!?
初めて見たけど、なんだか不気味。
光をも飲み込むとされている黒い空間だから当たり前かもしれないが。
突然、警報音が鳴り響く。
気づかれた!?
いや。
ブラックホールを見ながら慌てて操作をしている。
何やら色々と大声を出しているけど、専門的過ぎて分からない。
「失敗ね」
隣にいる坂本さんがぽつりと呟いた。
その次の瞬間だった。
ブラックホールがどんどんと広がっていく。
まさに暴走という言葉が相応しい。
彼らは実験をした事を後悔しているだろう。
でも、時すでに遅し。
ブラックホールは全てを飲み込もうとしていた。




