第5章 5話
-矢野理香の場合-
そこはまるで映画を見ているかのような所。
色んな機械があちこちにあり、コンピューターみたいのもある。
そして、中央にガラスがありその向こうにも見た事のない機械がある。
「あれは?」
「聞いた話だと、大型ハドロン衝突型加速器」
え?
「何それ?」
「なんでも陽子と呼ばれるものを光に近いスピードでぶつける装置らしいの。本来はぶつけた時に発生する素粒子ってのを観測する為の実験機らしいんだけど」
なんだか良く分からない。
「その、素粒子?ってのが秋葉原を滅ぼすの?」
「違うわ。あれは素粒子を作る為じゃないの、何か改良したのか本来では使わないものを使ったのかは分からないけど、あれはブラックホールを作るための装置」
ブラックホール!?
それだったら私も知っている。
宇宙にある、全てを飲み込むもの。
確か、光すらも脱出出来ない存在だって聞いた事はある。
それを作る!?
「そんな危険なのをどうして!?」
「彼らの目的はブラックホールのエネルギーをコントロールして、それでタイムトラベルが可能かを実験するの」
タイムトラベル?
「なんで、そこでタイムトラベルが?」
「タイムトラベルを可能にする為の理論の中にブラックホールを使ったのがあるから」
えぇ!?
「私も専門的な事は知らないわ。でもいくつかあるタイムトラベルを可能とする理論の中にあり、そのブラックホールをコントロール出来ると思ったから、この実験を開始しようとしているの」
そんな、まさか。
「ブラックホールがコントロール出来る訳なんて無いよ。どうして光をも飲み込むほどの力を!?」
「さあ。それも私には分からない。知っているのは、彼らはそれが可能だと思って実験を開始する事。そして、案の定失敗して暴走するって事」
暴走。
その
言葉を聞いてゾッとする。
ブラックホールなんて力が暴走したら、それを止める術なんてある訳が無い。
それぐらいは私でも分かる。
でも彼らは暴走するなんて事を微塵も思っていないって訳?
「ねぇ。今から話せば止まるんじゃ?」
「無理ね。今の私達は部外者。しかもコントロール出来ると思い込んでいる。どうやって説得するの?」
「それは・・・」
言葉に詰まる。
確かに私は科学的な事に対して詳しい訳でもない。
難しい言葉を使われたら何も言い返せないかもしれない。
しかも、そもそもコントロール出来ると思い込んでる人達にどうやって暴走すると説得出来るのだろうか。
「一応ね。コンピューターのシミュレーションで何度も試しているみたいなの。でも、当然実物で実験する時には想定外の事が起きる。しかし実際に目で見るまでは信じようとしないのが科学者。説得は無理ね」
そんな。
あっ。
ついに機械が動き始めた。
やがて、目の前で何かがぶつかった。
そして生み出される黒い空間。
あれがブラックホール。
とても怖いと思った。
何故なら、そこには黒い空間以外に何も無いから。
全てを飲み込もうという存在だと、本能が呼びかける。
科学者たちが何やら騒いでいる。
「失敗ね」
ぽつりと坂口さんがつぶやいた。
その言葉通り。
その黒い空間は、あっと言う間に広がり、全てを飲み込んだ。




