第5章 4話
-山田・クリス・恵子の場合-
ついに実験が始まった。
LHCが稼働する。
もう間もなくあの実験は失敗する。
そしてブラックホールが暴走し、この秋葉原はおろか地球全体をも飲み込むでしょう。
そもそもブラックホールが飲み込める範囲というのは、理論的には線引き出来ない。
ある範囲を境にくっきりと判別出来るようなものではない。
第一ブラックホールというのは光すらも飲み込むほどのエネルギー。
実際に観測出来る訳が無い。
そして、吸引力というのは少しづつ影響力があるもの。
つまり引っ張る力とそれに反発する力があり、反発する力の方が多い場合のみ吸収されない。
その時点で影響されているとも言える。
そしてブラックホールの力というのは単一のものではない。
あくまで光をも飲み込むというだけで、その範囲での強弱すら測る事も出来ない。
だからこそ、線引きが出来ない。
人間の体重計でゾウの体重が測れないように、ある程度よりも上という事が分かるだけで、どれくらいあるのかを測るのは不可能。
だからこそ坂本が言った秋葉原を飲み込むくらいならまだマシとも言える。
あっ。
ついに陽子がぶつかる!
ついに発生した。
あれがブラックホール。
目視で確認するのはこれが初めて。
CRENの実験の時は目視で確認するより前に消滅してしまう為、超ハイスピードカメラで何万分の一秒を撮る機械等を使わないと確認が取れない。
そして宇宙にあるとされているブラックホールも、光が無い空間がそれだと言われているだけでブラックホールそのものが見える訳では無い。
でも、これこそが正真正銘本物のブラックホール。
小さいけれど何もない黒い空間が出来ている。
今まさに光を飲み込み反射する事すら出来ない為、黒く見える空間。
人間の目は光の反射が無い限り黒いと認識してしまう、その為にそう見えるもの。
あれがブラックホール。
ほんの僅か、感動を覚えていた。
私もしょせんは科学者。
未知なるものを確認した時に感動してしまうのは、科学者の性。
だけど、それはすぐに終わりを告げた。
その黒い空間が広がりを始めている。
研究者たちが慌てて操作をしている。
だけど、いくら制御しようとしても何も影響が無いかのように広がっていく。
まさに、人間の手のは余る力。
「失敗ね」
ぽつりと坂本さんが言う。
確かに。
現場は混乱している。
だけど、ブラックホールはどんどんと大きくなって飲み込んで行く。
すでにLHCの機械は飲み込まれている。
もうこうなれば止められるものなんて無い。
全てを飲み込む空間。
ここにいる人達は、今初めてその正体に気づいた。
あれは人間がコントロール出来るものじゃない。
単に全てを飲み込む空間だって事。
そして。
その空間はこの研究所すら飲み込もうとしていた。




