第5章 20:00
-矢野摩耶の場合-
「見て」
坂本さんに案内されて、部屋らしき所を覗く。
あれは!?
何やら大がかりな機械の実験を行おうとしている。
そして。
その中にはバスジャック犯もいる。
中にいる人と普通に話している事から、仲間であるのは間違いないだろう。
「あれは?」
「要するにブラックホール生成器ね。陽子を高速に近いスピードでぶつけて素粒子を観測するのが本来の目的なんだけど、その際にミニブラックホールが出来るのも確認済みなの。もちろん出来ても質量が小さすぎて出来た瞬間に消滅しちゃうんだけどね」
確か聞いた事がある。
欧州原子核機関、通称CERN。
素粒子の観測実験の際に小さなブラックホールが生まれるという事で反対運動も行われたこともあるとニュースで見た事がある。
もちろん、多少なりとも科学の知識があればブラックホールが生まれたからといって、そのまま飲み込まれるという事はあり得ない。
それは本来ブラックホールというのは、もの凄い質量を圧縮して生まれたエネルギーが必要だから。
当然そんな物が無い場合は、生まれた瞬間に自分のエネルギーを吸収して消滅してしまう。
「じゃあ、そうやってあれはブラックホールを維持しているんだ?」
おそらく地球上にはそんな膨大なエネルギーは存在しない。
ブラックホールを維持するほどのエネルギーがもし存在するとすれば。
世界中のエネルギー問題すら簡単に解決してしまう。
それ1個で地球全体のエネルギーを何百年も維持出来るからだ。
もちろん、そんな夢のようなエネルギーが存在する訳が無い。
「残念だけど、そこまでは私も分からないわ。分かるのは維持しようと失敗して、逆に暴走してしまう事だけ」
逆に暴走だって!?
「おそらく、何かのエネルギーを用いて大きさをコントロールしようとしたけど、ブラックホールが飲み込むエネルギーの方が大きくてこの地球をも飲み込もうとした。という推測は考えられるけど、問題はそこじゃないわ」
「そこじゃない?」
「私の問題はただ一つ。この実験を止める方法」
そうか。
どんな理由かとかはそこまで大きな問題じゃない。
起きる事がわかっているなら、まずは止めるのが先。
これから先に起きる事の原因究明なんて、出来る訳も無い。
もっとも、あいつらのデータを盗む事が出来れば、ある程度の予測は出来るかもしれない。
だが、残念ながら僕にはそんな知識も技術も無い。
「始まるわ!」
機械が動き始めた。
あれはまさにLHC。
この日本の地下で極秘に作っていたというのか。
実験を行っているパネルがここから見える。
だが、あの操作盤のある所へ行くのは無理だ。
実験を見守る研究員も含めると、軽く20人は見える。
もちろん、ここから見えない位置にもいると思われる。
どう頑張っても、あそこへたどり着く方法は思いつかない。
失敗すると分かっている行為を止められないなんて。
実験室で何かがぶつかった!
あれが陽子?
そして。
全てを吸収しようとする黒い空間が生まれた。
あれがブラックホール。
光すらも飲み込むほどのエネルギー。
歓声が上がる。
その次の瞬間だった。
突然黒い空間が広がりを始めた!
「失敗ね」
淡々と坂本さんが言う。
そうか、この光景を坂本さんはすでに見ているのか。
そしてその言葉通り。
黒い空間は全てを飲み込んだ。




