あさごはん。
「んぅ…?」
どうやら、眠っていたみたいです。
目が覚めたそこは、ふかふかのふとんの中でした。
んん?
畳に直接敷くのはふとんに間違いないけど、ベッドに使う寝具もふとんよね?
じゃあ、ふとんとベットの違いって何? --と、ちょっとした疑問が浮かびます。
それはともかくとして、これはベッドです。
だって……ねえ。
これはあれです。
お姫様ベッド!!
ほら、ベッドの四隅に柱があって屋根があってレースのカーテン? があるあれです。
すごいね。
お姫様ベッドなんて初めて使いましたよ。
柱の一本一本まで細密な彫刻が彫り込まれています。
屋根の内側まで掘られています。
うーん、お金掛ってます。
寝起きでも何だか妙にテンション上がりますね。
ゴザの上にムシロじゃないんですよ?
ふわふわでふかふかです。
と言うかね、中世ヨーロッパ風異世界なのに、前世のわたしのふとんよりふわふわでふかふかってのはどういうことよ!? って声を上げたくなっちゃいます。
目が覚めたので、辺りを見渡してみます。
ここはーーわたし用にあてがわれたお部屋ですね。
お姫様ベットのレースのカーテンは閉められていますが、うっすらとベッドの外の様子が透けて見えます。
眠る前と同じ部屋です。
レースのカーテンを開け、お姫様ベッドから這い出すと、窓に目を向けます。
外は明るく、小鳥の鳴き声が聞こえますので、朝でしょうか?
いつの間に寝てしまったのでしょうか?
くぅーーと、おなかが鳴りました。
昨日は、ここ教会に来る前に干し肉とスープを口にしただけで、あとはこの部屋に来てお菓子をおなかいっぱい食べました。
その後の記憶が無いので……どうやらそのまま眠ってしまったようですね。
うーん…モノを食べながら寝るなんて、まるで子供じゃないですか! …いえ、子供でしたか。
ううん。違います!
疲れていたんですよ!
マール村から初めての遠出で3ヶ月もかけて王都。
疲れがたまっていたんですよ。きっとそうですね。
窓を開け……ようとしましたが届きません。
ええそうですよ!
届きませんよ!
もう諦めました。
ちっちゃいから仕方ないじゃないですか!
「ああ、聖女様、お起きになられたのですね」
1人憤慨していると部屋の中にミレッタが入って来ました。
あ、コニーも一緒ですね。
「おはようございます。ミレッタ、コニー」
「おはようございます。聖女様」
「おはよう。聖女様」
ミレッタは、あいさつの後、窓へ行き窓を開けました。
朝の気持ちのいい空気が部屋の中に入り込みます。
くぅーーと、おなかが鳴りました。
ミレッタとコニーに聞かれました。
顔が赤くなるのがわかります。
「ふふ。朝食の準備が出来ていますよ」
ミレッタはそう言って、いったん部屋を出て行くと、すぐさま戻って来ました。
ワゴンを押して来ていて、その上に朝食が乗っています。
ミレッタがテーブルの上に朝食を並べている最中に、わたしはコニーに抱えあげられて、椅子に座らされました。
窓や、ドアノブに届かないほどちっちゃいとは言え、椅子くらいは座れます。
昨日のお菓子の時だって自分で椅子に座りました。
そうコニーに言いましたが、「椅子によじ登るのはさすがに見ていてちょっとな…」と渋い顔をされました。
どうやら、王都の婦女子は椅子によじ登ったりはしない模様。
椅子によじ登られるくらいなら、抱き上げて椅子に座らせる方が、まだ小さいからと言い訳が立つ模様。
言いたい事は分かるけどさ…田舎の村娘Dに、ホント何を求めてますか。
ミレッタがテーブルの上に朝食を並べ終えたようです。
焼きたてなのでしょう。まだ余熱を感じるパンに、湯気が立ってる野菜スープ。
大きめのお皿にはトマトソースがかけられたオムレツが、どーん。
その脇にはくるくると丸められたハムに焼いたウインナー。ブロッコリー添え。
ミルクとオレンジジュースがあって、ジャムとバターが備え付けられています。
おおお……
ホテルみたいですね!
ホテルなんて泊まった事無いけど。
でも…
これって、一人分ですよね。
わたしの朝食を用意してくれたみたいですから、ここに並んでるのはわたしのでしょうが、テーブルの上にもワゴンの上にもミレッタやコニーの分はありません。
「わたしの分だけですか…?」
「ええ、そうですよ」
「ミレッタやコニーの分は?」
「私たちは、もう済ませてありますよ」
どうやらわたしの分だけと言うのは間違いないようです。
「もしかして、わたしがお寝坊さんなので、それででしょうか…?」
気になったので聞いてみました。
「いえ、私たち修道女や修道士、神学生は大広間で皆と一緒に朝食を摂るんですよ」
「わたしは一緒しないの?」
「いえ、大広間で食事するのは、まあ、普通の修道女や修道士、神学生なのです。遠方から来た礼拝者も大広間ですが、王族や貴族、身分の高い者は個室で摂られるのが普通ですので」
「ここでは、そういう決まりなら仕方ないのですが…わたしは出来ればみんなと一緒にご飯が食べたいです」
もちろん、プライベート空間は欲しいけど、いつも一人が好きなわけじゃない。
コミュニケーション障害と言うわけでも無いし、できれば食事とかはみんなで楽しく食べたい。
マール村では家族みんなで食事が当たり前だったし。
「ふふ。決まりと言うわけではないですよ。では、今度からみんなと一緒に食事がとれるか確認しておきますね」
「護衛と言う面から見れば、あまり良くは思えないが…」
コニーは、強くは反対してないけど、あまり良くは思ってないみたい。
「だからって、四六時中一緒に居るわけにはいかないでしょう? 聖女様だってずっと部屋の中に閉じ込めておくわけにもいかないし。どこかで妥協しなくちゃだめよ」
「……ふむ」
結局、みんなと一緒の食事は上の者に確認をとってからーーという事になりました。
あまり無理を言っても、ミレッタとコニーが怒られちゃいますものね。
「代わりに、今日の夕食からは私たちも聖女様と一緒に採る事にしますよ」
ミレッタの用意してくれた朝ごはんは非常に美味しかったです。
「聖女様。今日は、予定がございます」
朝ごはんも終わり、オレンジジュースをくぴくぴと飲んでいた時に、ミレッタが話しかけてきました。
予定ですか。
なんでしょうか?
「詳しい話は、このあとレヴァン様がいらっしゃるので、その際にお聞きすればいいのですが、国王陛下との面会があります」
「王様?」
「はい」
「えー…と。王様って凄く偉いのではないでしょうか? 会おうと思っても会えないと思うのですが…」
「私も詳しい話は伺っておらず…申し訳ございません」
そう言ってミレッタは目を伏せてしまいました。
怒ってるわけじゃないので、そう畏まらなくてもいいのに…
朝ごはんもすっかり終わり、食器類の片付けも終わってしばらく。
レヴァン様が来るという事で、寝室から客室の方に移動したわたしの元に、ミレッタの言った通りレヴァン様が尋ねて来ました。
「聖女様、昨夜訪ねた折にはもう、お休みだったようで。お加減はいかがですか?」
わたしはミレッタを見ました。
「はい、昨夜レヴァン様がお尋ねになりましたが、聖女様はお休みになられていたので…」
それは失礼な事をしてしまいました。
村娘Dのわたしに、こんなに良くしてくれるレヴァン様。
せっかく訪ねて来たのに、わたしが寝ていたので帰らせてしまったようです
「レヴァン様。それは、申し訳ない事をしてしまいました」
わたしはぺこりとレヴァン様に頭を下げます。
「頭をお上げください。聖女様! 長旅でお疲れだったのです。致し方ない事ですので」
レヴァン様はそう言って、ゆったりと笑みを浮かべます。
「それと…私には様付けは不要ですよ。いえ、教会に所属する者には、すべからく聖女様は呼び捨てで構わないのですよ」
「ですが…、それは年上の方に失礼なのではないのでしょうか?」
レヴァン様はすっごい年上だし結構偉い方だと思うのですが…そんな人まで呼び捨てでいいのでしょうか?
ミレッタやコニーはレヴァン様がそういう風に命令したのでしょうが、結構偉いはずのレヴァン様も呼び捨てと言うのはどうなのでしょうか?
中世ヨーロッパ風異世界では女は、年上の男の人や偉い人には様付けがデフォルトだったと思うのですが?
「ほっほ。こんなじじいにまで礼を尽くしてくださるとは。聖女様はお優しく、礼儀正しく有られますなぁ」
レヴァン様は目尻を下げてゆったりとほほ笑んでいます。
なんと言うか、初孫を見るおじいちゃんみたいなカンジです。
「非常に嬉しく思うのですが、聖女様が教会の者を様付けするのは色々と触りがありますのでな。ではこうしましょう。呼び捨てに抵抗があるようでしたら、さん付けでお呼びください」
「さん付けですか…分かりました」
教会と言うのは宗教ですので、色々と決まり事や何かがあるのでしょう。
良くしてもらっているのに、あまり無理は言えませんよね。
「あ、そうです。わたしの事も聖女様と言うのは控えてもらえないでしょうか?」
「は?」
「いえ…聖女様というのは何と無く他人行儀過ぎると言いますか、わたしの名前そのものが『聖女様』っぽく感じてしまいます」
「では、なんと呼べば…」
「普通にミリィと呼んでもらいたいです」
レヴァンさんは悩んでいます。
名前で呼ぶくらいなんでも無いでしょうに…
「わたしを立ててくれて、敬意を表してくださるのは分かるのですが、みんながみんな尊称で呼ばれると、疲れちゃいます…せめて近しい人には名前で呼んでもらいたいのですが…ダメでしょうか?」
「ううむ…分かりました。恐れながらお名前でお呼びさせていただきましょう。ですが、流石に聖女様を呼び捨てにするわけにもいきませんので『ミリィ様』と」
すでに村娘Dとしては破格の待遇なのです。
出来れば様付けも止めてもらいたいのですが、ここは仕方ないとあきらめます。
「ありがとうございます。ミレッタとコニーもお願いしますね」
「ええっ! わ、私たちもですか?」
ミレッタとコニーがレヴァンさんを見ます。
レヴァン様…いえレヴァンさんが頷きました。
「ごく親しい者のみという事でお願いします。気安い事は我らにとって非常に嬉しい事なのですが、お立場や対外的にも色々と触りがありますからな」
これでミレッタやコニーから聖女様と固っ苦しい呼び名で呼ばれずに済みます。
「ああ、そうそう。これからお会いになられる国王陛下には、一応、様付けをしていた方がよいでしょうな」
「?」
レヴァンさんの言った事の意味がよく解りません。
王様って一番偉い人ですよね?
その人に様付けするのは当たり前じゃないでしょうか?
わたしの疑問顔にレヴァンさんは続けます。
「この天光降教は国教ですので国王陛下と言え教徒なので、本来聖女様が様付けする必要はないのですが、国主という事でもありますからな。様付けするのは礼に適っているからにすぎません」
「相手を立てるという事ですね」
色々とよく解らない事がありますが、相手を立てましょう…って事は分かりました。
「そうです。聖女様は理解が早く、すばらしいですな」
そう褒められると照れちゃいますね。
現代日本人として当然ですよ。
相手を思いやれないDQNじゃないですからね。ふんすっ。
「ところで、王様って一番偉い人ですよね? 面会があるって聞いていますが、そんな人にそうそう会えるものなのですか?」
「陛下が事の他、ミリィ様に興味を持っておられましてな。ミリィ様は昨日は王都に着いたばかり故、お疲れだという事でお止めしていたのですが今日になっても、会わせろと仕方がないのです。ついには『疲れているのならこちらが合いに行く』と」
「はあ…」
「お忍びという事なら、突然来たので不在ーーという事も出来たのですが、きっちり『公務』という事で予定に組み込んでしまって…『公務』という事は相手方に事前連絡もされます。流石に断れませんで…」
なんと言いますか…ずいぶんと行動派な王様です。
普通、王様って相手を王宮に呼びつけるものじゃないかしら?
それで、玉座にふんぞり返って「ふん、よく来たな! 顔を上げるのよ許してやる」で、その後は「ふん、下賤な者らしく貧相な顔だな!」とかって言うんじゃなかったっけ?
あと、他のパターンだと、「魔王を倒してくれ」って依頼を出すのに、単なる棒っ切れと布の服と50円しかくれない人だよね?
一番下っ端の兵士でさえ剣とか鎧装備してるのにさ、木刀ですらないんだよ? 棒だよ?
布の服ってのもそうだよね、皮ですらないなんてさ。
というか、その日の朝に『今日行くから』って、アポ無しと同義だと思うのですが…それも王族という事なのでしょう。中世ヨーロッパ風異世界だし、王道という事なのでしょう。
「それで、王様とはいつ面会となるのでしょう?」
「実は、もうすでに陛下は大聖堂にてお待ちでしてな」
王様、行動早すぎ!
「えー…っと、それは物凄い失礼では…? もうずいぶんお待たせしていると思いますが…」
「なに、レディを尋ねるのです。レディは身支度に時間が掛るものゆえ、紳士は待つのが当たり前です」
「それでも待たせすぎでは…?」
「当日の朝にいきなりレディを尋ねて、『遅い』と文句を言うようでは、逆に程度を疑われますよ。地位が高い紳士ほど、どっしりと待つのが紳士たる者の務めです」
あ、やっぱり当日朝の突撃は非常識なんだ。
王様だから表だって文句を言われてないって事なのかな。
ところで、身支度云々以前に、わたしは今着ている服しか無いわけなのですが…
2016/05/18 19:15 誤字修正
各箇所にある『ベット』→『ベッド』に修正いたしました。
誤字の報告ありがとうございました。




