最終話 第〇話
天上に群青が広がり、日の光が水母の傘に覆われた大地にやんわりと降り注ぐ。
キリはため息をつきつつ公園を重い足取りで歩いていた。
「あなたがシキジョウ・キリくんね」
突然、背後から声をかけられて振り返る。そこには見知らぬ女性が立っていた。見た目の年齢でいえば自分より少し上だろうが、見た目より老齢ではないかと思ってしまった。
「あなたは?」
「私の名はヒイラギ・レイア。少し前までは奥の院にいたこともあったけど、いまはセイオーム軍第一三独立部隊の総司令という役職にいるわ」
「その部隊の総司令が俺にどういった用ですか?」
「あなたをスカウトにきたのよ。うちの部隊に入隊してみない?」
「俺はフユクラードの人間ですよ」
「何か問題があるの?」と問われてキリは答えに詰まる。
「思い人は軍に行ったんでしょ。だったら私と来なさいよ」
「何でそれを?」
「フラれたまで知っているわよ」
キリは何も言えなかった。
「どうする? 実はご両親には許しはもらっているのよね」
「手回しが早すぎる……」
「あら、あなたのご両親とは古きからの知り合いよ」
見た目は一八歳ほどに見えるのだが……とキリは首を傾げる。
「あなたはおいくつなんです?」
「女性に年齢なんて聞くもんじゃないわよ。それよりどうする旅をするにはちょうどいいと思うけど?」
「……第一三独立部隊って何をするところなんですか?」
「世界の平和を守るために結成された正義の味方よ」
キリはレイアが冗談で言っているようにも聞こえず、反応に困ってしまう。
「だから無国籍なんですか……」
「現状で世界の平和を守るとはどういうことだと思う?」
「ハルキアとセイオームの間がきな臭いから、それを何とかするとか」
「正解ではないけど、間違ってはいないわ。現在、海皇陛下と皇后陛下がお隠れになった状態が続いているのは理解しているわね」
「もちろん。それはセイオームだけの問題ではいことも知っている」
「そうね。海皇陛下の存在によって五国は安寧の時を得ていた。その存在が秘匿されてしまった。そして海皇陛下には二人の娘――皇女がいるの」
「ひょっとして、それを何とかしようとしているのか?」
「そうだとしたら?」
ちょっと興味が湧いたかとレイアはキリの顔を覗きこんでくる。
「まずは話を聞いてみるところからはじめてみない?」
「それって話を聞いたら後戻りできないやつじゃないか」
「じゃあ、あなたはこれから何をするの?」
それを問われるとキリは何も答えられない。自分の記憶は相変わらず継承もなく、誰でもない状態だ。
「あなたの悩みも解決するかもよ」
その言葉にすがるではないが、ふと惹かれる言葉であった。
「……わかりました。とりあえず話を聞かせてください」
「交渉成立ね。それじゃあ車を手配するから。話も話だから軍港まで行くけどいいわよね?」
「ここまできて今更じゃないですか」
「それもそうか。じゃあ行きましょうか。車はすぐ来るわよ」
レイアは先導するように先を歩きだし、キリはその後を追う。
後に海皇となるキリは世の安寧のために生涯を捧げた。その傍らには王女たちや皇后の支えがあったという。多くの子息に恵まれ、彼らもまた父親の歩む道に倣った。
キリは崩御の後に神武と呼ばれた。
第0話 夜明けの序章あるいはプロローグ に続く。
これで最終話となります。ラストの一文のとおり最初からもう一度読み始めると回想になってという仕組みなのですが、後付けなのでうまくいったかは知らんということで。
ここまでお付き合いありがとうございました。




