クエスト
「国からの依頼だからか確かに強そうな人達ばかりだな」
「まぁ、妾と主様に敵うのはいないのだ」
「スカーレットはそうだろうけど、俺はなー・・・」
俺とスカーレットは依頼があった場所へと集まった。そこには屈強な戦士達が多くいた。かなり強そうな人達ばかりだ。
しばらくしたら1人の男が近付いてきた。
「おいおい。女連れなんて舐めた小僧だな」
「あーっと・・・何かマズかった?」
「はっ! 仕事は男のもんだそれなのに女がいたとあったらいけねぇ。すぐに帰りな。そんな舐めた態度の小僧と仕事をやったらこっちまで命の危険がある」
そうだそうだと何故か周りの野次が飛び出す。おいおい。そんなことを思われてたのか。けどなぁ、俺よりも強いスカーレットを帰す方がマズいと思うんだけどなー・・・。
「妾の主様を愚弄するとはいい度胸だな」
「主様?」
「そうだ。主様は妾の旦那。お前よりも強いぞ」
「何ぃ!? おい小僧。仕事が始まるまで暇だったんだ。相手しな!!」
「どうしてこうなるんだ・・・」
「主様なら大丈夫。主様の中ではレイリアが強さの基準になっている。けど、あの娘だけが特別なだけ。その感覚を知るいい機会だ。
信じてるぞ主様」
スカーレットは恥ずかしげもなく俺のほっぺにキスをしてきた。ぬあー!! こいつ不意打ち過ぎるだろ。しかも、今ので相手さん更に怒ってるし。
「てめぇ、覚悟しろよ」
「はぁ・・・お手柔らかに頼むよ」
確かにスカーレットの言う通り、俺の中での強さの基準は全てスカーレットとレイリアだけだ。それ以外の人の強さの基準が分からないでいた。
あの2人はこの世界でも屈指の強さ。特にスカーレットは竜だ。その強さはもはや別格と言ってもいい。
さて、どうなるのか・・・。
「くたばりな!! 小僧!!」
「いきなり武器を出すのかよ」
背中に背負っていた斧を振りかざして思い切り振り下ろしてきた。それだけのことだが、この巨体から繰り出される一撃は地面を抉った。
「ほぉ? この仕事に呼ばれるだけあって戦闘のド素人って訳じゃなさそうだな。今の一撃を避けるか」
「どうも。けど、あの攻撃だったら何度でも一緒だぜ。隙が多すぎる」
事実、さっきの攻撃は止まって見えた。恐らく、この体が優秀過ぎるんだ。戦闘になったと同時に感覚が研ぎ澄まされていくのが分かる。
「それでいい。主様は戦闘経験が無い天才なだけ。なら、戦闘経験を得たらどうなるか。結果は一つだ」
振り下ろされる斧の全てを避け切る。ゲームのQTEで鍛えられた現代っ子を舐めるなよ。
「な、なぜだ。なぜ当たらねぇ!!」
「直線的過ぎる攻撃、攻撃前の動作の分かりやすさ。避けるのなんて出来ないことないさ」
「クソッタレがーーーーーー!!」
何度やっても同じだった。攻撃を全て避け続ける。そして、俺は攻撃後の隙が出来た体に一撃をお見舞いする。
男は2、3mほど吹き飛んで意識を失う。
「ふぅ・・・この体が凄すぎるのか」
「いいや、主様自身の強さもある。げえむ?とやらで鍛えられた感覚と完全無敗にまで鍛えられたその体が重なったことで、かなりの強さになったのだ」
「なるほど。要するにこの体すげぇって感じなのね」
俺は息を整えてその場に座る。命がけの戦いになってしまったからか疲れた。あの一撃を受ければ死んでいたな。
これが、生死を賭けた戦いってやつか。
「まだまだだな」
「あんたは?」
「同じ仕事を受けし者なり。貴殿の動き拝見させて頂いたが、まだまだ動きが荒い。だが、極めれば・・・失礼した。
連れのお嬢さんは―――強いな」
「俺より遥かに強いからな」
「某もまだまだ修行が必要ということか」
腰に刀を携えた侍のような男はその場を後にした。雰囲気から只者じゃないってのは分かる。スカーレットも同じだったようで男を見て感嘆する。
「凄いな。あの男、相当極めている。恐らく、レイリア並みだと思う」
「そんなにか・・・」
「うむ。今の主様では勝てない」
まぁ、俺より上なんていくらでもいる。だからこそ強くならないといけないんだ。
「もうそろそろ仕事の依頼人が来てもいいはずなんだけど」
「・・・来た」
『我がクエストを受けてくれたこと嬉しく思う!! 少しいざこざがあったようだが、そんなことは些細な物だ。
さて、クエストの内容だが―――』
「あれって受付のおっさんじゃないのか?」
「受付の人間と言うだけでは無さそうだぞ、主様。周りの人間がいかにもな感じだ」
「・・・なるほど。あれが、この国の王だったのか」
周りには鎧を着て完全武装した側近が何十人もいる。そして、その中央にいる男もまた鎧を着ている。だが、それよりも特徴的なのが―――
「あれが、帝国の王から授かったとされる宝剣 ガイアか。一説では大地を裂くって言われてるんだっけか」
「その通りだ主様。外界と内界の大戦時に使用された剣で、数々の武勲を上げている伝説の宝剣。存在感だけで異常だと分かる」
確かにその通りだ。離れているのにあの剣が放つ存在感は異常だ。けど、それと同等に存在感を放っている王もまた異常ということか。
『討伐系のクエスト。討伐する魔物はエンペラーアンデッド』
「なんだそれ?」
「死霊の大ボスだぞ主様」
「へぇー・・・死体とかの総支配者ってことか。強いのか?」
「それぞれはそんなに強くはない。けど、エンペラーアンデッドが恐ろしいのは数にある」
「数?」
『エンペラーアンデッドが発見された時の手駒はおよそ300体。だが、現在ではその数を順調に拡大している』
一人のクエスト受注者から質問が飛ぶ。
「何体ぐらい確認されているんだ?」
『現在の手駒は―――約1万体』
「1万だって・・・」
「クエスト難易度AAA級ってことかよ」
周りのクエスト受注者がどよめき始めた。そんなにヤバイことなのか?
「主様に分かりやすく教えるなら、レイリアよりも少し弱いぐらいの軍勢になっているところかな」
「なるほど。なかなかヤバイってことね」
「簡単に言うとそういうことだね! さすが、主様!」
そんなやり取りしてる場合じゃないな。にしても、そんな軍勢にこれだけの人数で大丈夫なのか? 2、30人ぐらいしかこっちはいないぞ。
『エンペラーアンデッドは今宵にも街の周辺に現れる。これ以上野放しにすれば確実に軍勢を増やすだけになる。そうなれば、S級以上の難易度になりかねない。
討つならここでしかない! 我こそはと思う者よ! 稼ぎ時だ!!』
王の喝と同時に喝采が起きる。1対1だと修行にならないしある意味ではこのクエストで良かったかもな。さて、エンペラーアンデッドか。楽しみになってきたぜ!