エンペラーアンデッド
「今度は寒い~」
「主様は我儘だな」
「そうは言うけど、この温度差は凄いぞ。さすがは砂漠ってことか」
昼は暑さで死にかけていたのが、夜になると寒さで今度は死にかけてる。日本では感じられない寒暖差はさすがに厳しいな。
「ふぅー・・・にしても、エンペラーアンデッドか。どういった魔物なんだ?」
「名前だけは立派に聞こえる魔物。実際は群れないと何も出来ないんだけど」
「群れるか。1万の軍勢って凄いのか?」
「多い方だと思う。けど、人とかもっと死んだ大戦時代だったらその5倍の軍勢を率いてたのもいたから何とも」
「なるほど。その魔物自体に強さは無いけど、数が尋常じゃないってことか」
「数の暴力って言葉が相応しい魔物。まぁ、妾達からしたら自身が強くない時点でどうかと思うけど」
手厳しい意見を聞きながら今回のクエストの内容を反復する。
討伐の対象はエンペラーアンデッド。このモンスター自体の力は強くない。が、その脅威となるのは数。エンペラーアンデッドが従える今回の死霊の数は約1万。クエストの難易度にすると、AAA級。
AAA級は最上位難易度から2個だけ下の難易度。つまり、相当の難易度ということになる。
「すぅ~・・・はぁー」
「緊張しているのか? 主様」
「そりゃ、緊張するさ。戦いなんてしたことが無いんだ。そんな俺の最初の戦闘が高難易度なんて」
「まぁ、緊張はするなと言う方が無理だろう。今回の顔ぶれは相当の手練れだからそんなに気負わなくても主様なら大丈夫!」
「あ、ありがとう」
スカーレットがどれだけ励ましてくれても緊張は抜けない。死ぬかもしれない戦闘。そこに乗り出すんだ。怖がるなって方が無理だ・・・。
スカーレットが目の前に手を出して、俺に手を合わせるように求めてくる。
「主様、妾の手に主様の手を合わせるのだ」
「こ、こうか?」
「うむ! こうすれば手の震えが治まる。そうして、こうすれば・・・!」
「ははは。恋人つなぎかよ。さすがに恥ずかしいな」
合わさった手の指をスカーレットが絡ませてくる。細くてか弱い手。女の子の手だ。竜だ何だと言っても女の子なんだなって感じる。
そうして、しばらくの間、俺は手を繋いでいた。
「ありがとう。スカーレットのお陰で大分、緊張が解れたよ」
「どういたしてましてなのだ! 主様、最後に一つだけ」
「どうした?」
「自我を失うな。頑張って!」
「ど、どういうことなんだ?」
意味深なスカーレットの言葉を聞いたと同時にスカーレットに背中を押されてしまい、クエストの開始場所へと着いてしまった。
自我を失うな? 何が何やらサッパリだ。
「貴殿も来たか。見よ、あれがエンペラーアンデッドの群れだ」
「さすがに1万の軍勢ってなると壮観だな」
「確かに、な。だが、気を抜けば死ぬかもしれぬ戦場だ」
「ああ。絶対に生きて帰る!」
「ふっ・・・。悪くない決意だな、紅 煉」
「え?」
エンペラーアンデッドの1万という軍勢の足音で最後まで聞き取れなかった。あの侍のような男・・・名前を聞いて無かった。今度会えたら聞かないとな。
「さぁ、やるか!」
俺は、勇猛果敢にエンペラーアンデッドの軍勢へと突っ込んで行った。
「さて、主様はどうなるのか」
「竜王女。ここにいたか」
「国王 プラマハーか。何の用だ?」
「竜の王女がいるんだ。挨拶するもんだろ」
「・・・そう。だったら、消えて。妾は主様を見届けなければいけないから」
「ほほー・・・あれが、竜王女の主様か。なるほど。筋は悪くは無い。だが、戦闘の経験不足が否めないな。たかだか死霊に後れを取っていやがる。
竜王女はグレンがエンペラーアンデッドを討てると思うか?」
「別に誰が討ってもいいんだろう? だったら主様がわざわざ討たなくてもいい。あの死霊と戦うだけでも経験になる」
「確かに誰が討ってもいい。けど、他の冒険者はエンペラーアンデッドを狙わない」
「何?」
「それどころかグレンを導く」
「・・・そうか。お前の差し金か」
「そうだと言ったら?」
「今すぐここから消えることだな。竜に丸呑みされて死にたくはあるまい?」
「いけねぇなー・・・。自分の方が優位だと思ってる種族ってのは」
「まるで自分の方が強いとでも言いたそうだな」
「いいや、そうは言ってない。が、人間の可能性も舐めるな」
「? どういうこと?」
「人間は弱き種族だった。そう、だったのだ。だが、人は可能性を何度もこじ開けてきた。結果、人間は他種族に引けを取らないほどの力を得た」
「そうだったとして何の関係がある?」
「グレンは今宵、可能性をぶち破る!!」
「意味が分からない。なぜ、お前が主様の手助けをする?」
「そんなもの決まってる。面白いからだ!!」
「何がどうなってる・・・?」
俺の前の道が切り開かれて行き、エンペラーアンデッドへの道が出来ていた。なぜこんなことを?
「国王からクエストの変更があってな。エンペラーアンデッドの取り巻きを倒すごとに報奨金上乗せと来た。だったら、こっちと戦うでしょ!」
「そういうこと! だから、一番ゲロマズなエンペラーアンデッドは新入りにやるよ」
「何がどうなってるか分からないが、そういうことなら・・・」
俺は、切り開かれた道を進み、エンペラーアンデッドの目の前に到着する。
でけぇ・・・。これが、アンデッドを束ねる皇帝か。だが、スカーレットの話では強さはそれほどではないって話だった。
実際はどうなんだろうか。
「さて、やるか!」
「グオオオォォォーーー!!」
エンペラーアンデッドの咆哮と同時に周囲にいたアンデッドが一斉にこちらを向く。おいおい、まさか・・・。
「同時攻撃はズルいだろーーー!!」
何百という数のアンデッドによる一斉攻撃。俺は、死すらも覚悟した。




