強欲な罪 マモン
『力がみなぎる。俺の欲が満たされていく。だが、満たされると同時に乾きも感じる。足らない。どんどん魔力を寄越せ』
次々と悪魔が街の人たちを連れ去り、それを喰らっていくマモン。
「スカーレット。竜化であいつのところまで運んで貰えるか?」
「う、うむ。だが、マモンに勝てるのか?」
「やれるさ・・・。やらなきゃいけない。この国の物語にあいつはもういらないんだ」
ゾッとする目に妾は思わず寒気を覚えた。これほどまでに主様の感情が逆立ったことがあっただろうか。妾が死にかけた時よりも更に凄みを増している。成長と共に力が増しているということか。
「分かった。妾が運びつつ周りの悪魔も倒していこう」
「お母さん、お父さん。私も行く」
「いいのか? あいつはお前を―――」
「それでも、行くよ。だって、この人達を救いたいから」
救世主として生を受けた宿命か。段々と立派になっていく娘を見ている様で、少し寂しい気持ちになる。だが、感傷に浸ってる場合では無いな。
こうしている内にも街の人間が襲われている。
「では、行くか」
妾は服を脱ぎ、全裸の状態で歩みを進める。突然の裸に周りの人間たちは驚くが、知ったことではない。そして、竜化する。
手に主様を乗せて、一直線にマモンへと向かう。
「悪魔の数が尋常じゃなく多い。恐らく魔力に比例して無限に増殖してる。倒しながら一気に進むぞ!!」
次々と襲い来る悪魔たちを薙ぎ倒しながら本体に近付いて行く。全く強くは無いが、数が多いな。
『消え失せろ! 灼熱の吐息!!』
口から放たれる熱線で周囲の悪魔を一掃する。・・・それでも、数が減らないか。大魔法で一気に仕留めるのが効率的ではあるが。
「・・・終焉の破局」
主様の大規模魔法で更に数を減らす。更に精密さと魔力の密度が増している。かなり強力な魔法だ。
「私も負けない。ウロボロス、力を貸して。光闇の導き」
ジャンヌによる新たなる魔法。ウロボロスの黒の魔力とジャンヌの純白の魔力の融合によって生み出される魔法は、天から降り注ぐ羽へと変化した。
美し過ぎる羽だが、それに触れた悪魔は消滅。逆に人間は全ての傷が回復した。
「破魔の力を持ちつつ、癒しの力がある魔法。凄い魔法だな」
『主様、もうすぐマモンに近付く。どうするんだ?』
「・・・ここまで運んでくれてありがとう。スカーレットとジャンヌは街の人への被害を抑えてくれ。俺は、あいつをぶん殴る!!」
妾の手から飛んだ主様は、そのままの勢いでマモンの顔面へと拳を繰り出す。あまりにも予想外な一撃。マモンですらも攻撃と呼ぶには小さすぎるその攻撃に油断をする。
巨大なマモンに人間サイズの攻撃なんて効かない! 今、主様を・・・!
「何油断してんだよ。俺―――我を誰と心得る? 竜神だ!!」
主様の振り上げた腕が竜へと変質し、マモンの顔面へと突き刺さる。その一撃は山をも破壊し、音をも置き去りにしたと言われる竜の神様の一撃。
マモンの巨体が倒れる。
『バカな・・・! 小さき存在であるはずの人間の攻撃がなぜ、俺に効く!?』
「我は、竜神。たかだか悪魔如きが出しゃばるなよ?」
『ふざけるなーーー!! 竜神だと? 俺は、七つの大―――』
「うるさい奴だな」
再び殴り飛ばされるマモン。下から打ち上げられたことにより、マモンの巨体は空中に浮かび上がる。あの質量を浮かび上がらせるほどの力があるのか。
『主様、まさかまた力に・・・』
「スカーレット、ジャンヌ。戦いの余波に巻き込まれないように街の人間を避難させてくれ」
『意識が、あるのか?』
「ああ。少しだけ口調は変わっているがな」
『・・・なるほど。マモンが作り出している悪魔は任せてくれ。ジャンヌ。街の人の手当てと避難を』
「うん! お父さん、必ず勝って!」
「もちろんだ」
竜の羽を羽ばたかせて、主様はマモンへと近付く。妾達は周りの悪魔に狙いを定めて倒していく。
『煉獄の炎に焼かれよ。炎獄!!』
「白き魔法によって皆を癒します。オールヒール!!」
主様・・・勝って・・・。
「うおおおぉぉぉーーー!!」
『クソがー!! もう負けたくない・・・もう2度と負けないだけの力が欲しい!!』
拳を繰り出す中で、マモンの欲は最高潮へと達していた。負けたくないという欲。力が欲しいという欲によって、システムは全てを上書きする。
『なんだ・・・これは・・・』
どす黒い闇がマモンを包み込む。そして、闇が晴れた場所にいたのは小さくなった人型のマモンであった。
「素晴らしい・・・。これが力の圧縮か」
「小さくなったところで」
繰り出された拳を見ずに受け止めるマモン。その衝撃で地面が凹み、辺り一面が衝撃波で吹き飛ぶ。さきほどまでとの違いにグレンも戸惑いを隠せない。
何だこの異質な力は。今までとは違う。
「もう今までの俺と思うな。魔力の圧縮、力の圧縮により、強さを手に入れた」
「なるほどな。だが、お前の負けだ」
極小の黒い玉が次々とマモンの周りに出現する。その玉を不思議そうに見つめるマモン。
「何だこれは? こんな物で負けると?」
「力の圧縮、魔力の圧縮。お前の強くなるための結果は正解だ。だが、我もその極地に至っていないとでも?」
終焉の破局による攻撃。いくつにも増殖した玉が次々とマモンへと襲い掛かる。だが、結果は無傷。あれだけの攻撃を受けたのにも関わらずマモンは何も無かったかのように立っている。
「無駄だ。今の俺は前までとは違う」
ドゴォン! という音が響く。衝撃波によって周りの建物が破壊される。グレンとマモンの拳がぶつかり合った。
「絶対に勝つ!」
「勝つのは俺だ! 強欲に際限は無い!」
いろいろな場所で鳴り響く轟音と衝撃波。その光景を国民たちはじっと見つめる。この国のために傷付きながら戦う部外者。そう、彼はこの国の人間では無い。だからこそ、分からなかった。なぜ戦うのか。なぜ必死になって守ってくれるのか。
けど、そんなことはどうでも良い。彼が戦ってくれるという事実が全て。なら、国民は自然と手に力が入り、姿勢を前かがみににして見守る。頑張れ・・・頑張れ・・・! 応援する声がどんどんと周りから発せられた。
「はぁ・・・はぁ・・・」
竜神へと変化したグレンだったが、力の使い方を覚えたマモンは圧倒的で、傷付いて膝をつく。
「見ろ。滑稽だ。関係の人間に助けを求めている。自らの力の無さを嘆きながら死ぬことしか出来ないのに助けを求めだす。愚かな人間共だ」
「我・・・いや、俺は、戦う」
「戦う? あんな人間達を置いておけば問題無いだろうに」
「確かに関係無い。俺はこの国の人間でも無いからな。だけど、目の前で命が奪われるのを黙って見ていられるか。
俺は・・・世界を救うヒーローになりたいんじゃない。誰かが笑顔でいられて、誰もが生きることが出来る世界にしたい。ただそれだけが出来る存在になりたい。それが、俺の戦うべき理由だ」
「そんなことで! そんなクソほどしょうもない理由で戦うだと? 笑わせる! ・・・何だ?」
マモンに次々と石がぶつけられる。下を見ると、国民が次々とマモンに対して石を投げていた。
「私たちのために戦う彼を笑わせはしない」
「お前は誰かを傷付けるだけだ! けど、彼は傷付きながらも俺たちを守ってくれる!」
「お兄ちゃんのことを悪く言わないで!」
「見えるかい? 私たちは君に感謝してる。だからこそ、この力を使って欲しいんだ」
国民達が一斉に腕を上げる。すると、腕から光が伸びる。無数の光が次々とグレンへと向かい、グレンの力が更に高まった。
「これは・・・魔力?」
「あぁ、数少ない魔力だが、君の戦いは国中に放送されていた。俺たちの魔力を君に託そうと思う。
だから、勝ってくれ。頼むことしか出来ない! だけど、君に・・・君に託したいと思ったんだ」
国の願いを受け取り、グレンは立ち上がる。その背中には国中の人々が共に戦ってくれる。竜神とも違う力で彼はマモンと対峙する。




