やっぱりパンが好き そのいち
ほぼ一年ぶりの更新……!
さすがに次は来年ということにはならないようにしないと……!
父方の祖父母が米農家で、美味しくない米を買ってきた夫を説教した過去を持つ(拙エッセイ「映画と米とセロリと」参照)、白米LOVEな私だが、同じくらいパンも大好物である。
高校生の時、将来の夢はパン職人だった。
料理部に入って、顧問の先生から製菓製パン学校の一日体験入学ができると教えてもらい、製パンコースを受けたことがきっかけだ。習ったのは、ドイツのクリスマスのパンであるシュトーレン。これがとても楽しくて、美味しくて、元々好きだったパンの魅力にはまった。
高校三年の世界史の授業で「ドイツパンの歴史」を嬉々として発表したのも、覚えている。数年後、会社員として働いていたときにたまたま会った高校の同級生から、「パン職人になった?」と聞かれ、無性に切ない気持ちになったことも。
結局、漠然と憧れていただけの私はその道を突き進む勇気もなく、四年制の一般的な大学に入学する。
そこでは、自由な大学生活や楽しいサークル活動が待っていた。もちろん、青春を謳歌するには資金も必要なわけで。せっかくなら自分の好きなものに囲まれたいと、チェーン店のパン屋の販売担当として働くことになった。
結局卒業するまでの四年間がっつり勤め上げた。最終的には、朝の開店作業や夜の閉店作業、消耗品の在庫管理、カレーパンやあんドーナツなどを揚げたりコロネにチョコレートやカスタードを詰めたり、パートや学生アルバイトのいざこざを解決したり、パン生地をこねて焼く以外は何でもできるようになった。アルバイトの範疇を越えているんじゃないか? と、首をかしげることも多々あったが、それはそれでとてもいい経験だと今でも感謝している。
パン屋のアルバイトをしていると、印象深いお客様が何人も現れる。
「テレビでタ○リさんと共演したことあるんだよ〜」が口癖の人、「もうここに来たの五回目だよ? そろそろ買うパンが何かわかるでしょ?」と常連扱いしてほしがる人、お安くパンが買える日に二十個以上のパンをうず高くトレイに積み上げてくる人……。
ちょっとアレな、いやその、癖が強かったからこそ、今でも思い出せてしまう。
その中でも、店員全員の癒しだったお客様がいた。
「こんにちは。レモンパンと、ミルクのお紅茶をくださいな」
ニコニコと柔らかな笑みを浮かべた、上品な出で立ちの年配の小柄な女性だ。決まって毎週金曜日の夕方頃に現れ、イートインスペースで食べるためのレモンパンと紅茶を注文する。
私たち店員はそのお客様のことを、「レモンパンのおばあちゃま」と密かに呼んでいた。
「このお店のレモンパンが大好きでねぇ、お買い物にこの街へ来ると、必ず買っちゃうの」
「ごめんなさいねぇ、いつも少ししか買わないお客で」
「今日はミルクティーにしようかしら。ふふっ、迷っちゃう」
「とても美味しかったわ。いつもありがとう」
「レモンパンのおばあちゃま」の存在や言葉は、働いている店員にとってかけがえのないものだった。
一度だけ息子さんだという男性といらしたことがあるが、本名もどこに住んでいるのかも他の家族がいるのかも、何も知らない。それでも、どんなに混雑して忙しくてもおばあちゃまに会えれば元気になるし、金曜日はレモンパンの残りが少なくなるとそわそわする。
もう十五年近く前の話だ。それでも、当時のアルバイト仲間と会うと必ず「レモンパンのおばあちゃま」の話になる。
本当に素敵な女性だった。今もお元気でパンを召し上がっていることを心から願う。
最近、駅前のパン屋の期間限定のチョコパンにかなりはまっている。仕事帰りに何度も寄っているので、店員たちに覚えられているかもしれないと思うと少し気恥ずかしい。
癖の強い客にはなっていないはずなので、もしかしたら「チョコパンの人、また来たね」と囁かれていたりして。
焼きたてのパンの香りは最高です!
今回はパン屋のアルバイト時代のお客様のお話でしたが、一から手ごねでパンを作ったり、ホームベーカリーを購入したり、発酵なしのお手軽レシピで作ったり、パンシェルジュ検定二級を持ってたり、まだまだパンの話はつきませんので、「そのに」もそのうち書きます。
パン屋が舞台の話も設定としてあたためていますが、リアルの余裕ができて資料を集めて書き出すのは、いつのことやら……(涙)