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77、探索 乱魔聖窟

 左側には、緑の髪をしたアストリアさん。

 右側には、青の髪をしたアスタルテさん。


 少しもブレず全く同じ歩調で歩く様子は、もはや芸術的だった。

 森を抜けた今はそれほどでもないんだけど、蔦や草が足に絡まるような歩きにくい森の中でも、流石はエシュネト様の従者というべきか、シンクロが乱れることはなかった。

 うーん、すごい……。


 現在、魔気に侵されてしまった森を浄化するために聖水というものを乱魔聖窟と呼ばれる洞窟に取りに行っているところ。

 なんでも、森に満ちている聖気が地下水に溶け込んだものが聖水だという。

 濃縮された聖気は、魔気に効果てきめんらしい。

 そういうわけで、俺とアストリアさん、アスタルテさんは森から少し離れたところにある洞窟に潜っている。


 それにしても、この洞窟……。

 事前に聞いていた通り、属性魔力が荒ぶる荒ぶる。

 属性魔法スキルで制御できるから大丈夫なんだけど、属性魔法が使えない人が来たら船酔いもかくやという勢いで倒れてしまうんじゃないかな。

 まさに、魔法使い専用の洞窟だね。


 と、そういう事情があって今回アリスは連れてこられなかったわけだけど。

 俺としては非常に残念だ。

 こうして特殊なイベントがあるんだから、アリスの勇姿を見られるかと思ったんだけどね。

 まあこればかりはどうしようもないので、早いところ用事を済ませよう。


「ところで、二人は人族なの?」


 敬語を使うと、従者なので結構だと言われたので普段の口調で話している。

 それなら俺にも敬語はいらないと告げると、二人とも了承してくれた。


「それは違うわね」


「私達はエルフなのよ」


 精霊の従者なんてしている二人はどんな種族なのか、興味本位から尋ねてみたんだけど、殊の外面白そうな回答をいただけた。

 エルフ。

 俺の中ではまさにファンタジー種族の代表といったイメージだ。


 この世界エルフがいることは知っていた。

 でも、これまで出会ったことはなかった。

 いや、正確には出会っていたのかもしれないけど、俺がエルフだと認識した人はまだいない。

 だから少し驚いたと同時に興味が湧いた。


 聞いた話だと、エルフの特徴はお約束に漏れず長い耳と白い肌。

 そして魔法を得意とする長寿の種族らしい。

 両隣の二人も綺麗な白い肌をしているので、外見の特徴は一致している。

 でも耳は……二人共それほど長くはないように思える。

 特徴的な長い耳というのは、誇張した話だったのかな。


「正確には、ハーフエルフね」


「人族の血が混ざっているから、耳はそれほど長くないのよ」


「ハーフエルフ……」


 俺の視線から疑問を察したのか、二人は慣れた様子で説明してくれた。

 なるほど、ハーフね。

 ネット小説なんかを読むと、よく他種族との混血のエルフという設定で描かれている。

 二人は人族とのハーフらしい。


 納得した反面、不可解なこともある。

 この世界においてハーフエルフという表現は適切じゃないのではないか、と。

 なぜそう思ったのか。

 それは、種族間のハーフは存在しないと聞いていたから。

 例えば、獣人族と人族が子供を作ると、産まれてくるのはどちらか一方の種族……つまり、獣人族か人族の子供になるらしい。

 半獣人などといったものはいないし、エルフが特別、というのも聞いたことがない。


「…………」


 興味はある。

 ただ、本人達が触れてほしくないと言うのならば、それを無視してまで聞くような不躾なことをするつもりもない。


 表情に微かな暗い影を落としながら歩く二人の様子を目に入れながら、瞬きとともに思考を切り替える。


「ここね」


「入り口よ」


 どうやら、目的の乱魔聖窟についたみたいだ。





 乱魔聖窟はダンジョンではない。

 そう聞いてはいたけど、案の定というべきか、ちゃっかり魔物はいた。

 まあ、人間がいなければ魔物はどこにでも湧くのだから、大して驚くことじゃない。


 でも、襲い掛かってくる魔物すべてが魔法を使ってくるのには流石に目を疑った。

 魔法っていうのは、複雑な作業なんだ。

 それこそ、人間でも扱いに苦戦するほどに。

 孤児院の子供達がいい例で、魔法スキルを持っていても感覚だけで詠唱はできない。

 だから一部の魔物しか魔法は使えないんだけど……。

 それを、この洞窟ではすべての魔物が使ってる。

 使えなければ・・・・・・生きられない・・・・・・とはいえ、やっぱり実際目の当たりにすると戸惑うよ。

 ……その分MPをたくさん持ってるから俺としては若干嬉しいんだけどね。


「それにしても、ゴブリンが光属性魔法を使うのは違和感があるね」


「そういう場所だものね」


「エシュネト様の影響よ」


 そう、魔物が魔法を使うどころか、その属性がおおよそ魔物のイメージと掛け離れているのも戸惑う原因。

 基本的に光と土。たまに水属性が混じっていて、特にゴブリンは凶悪な顔と神聖な感じの光属性との対比がとにかく似合わなさすぎてもう……。


 どうやらエシュネト様が原因のようだけど、そこそこ森から離れたこの洞窟にまで影響を及ぼしているなんて、一体どれほどの力があるんだろう。

 一度戦闘を見てみたいね。


「魔物ね。次は私達が相手をするね」


「トーヤさんばかりに負担をかけるつもりはないよ」


 自然な動きで戦闘態勢に入ると、二人同時に魔法の詠唱を開始する。

 その一瞬で感じられる魔力の密度は高く、相当な練度の魔法使いであることを証明していた。


 こちらに突進を仕掛けてくる魔物の名前はデミ・ユニコーン。

 名前の通り角の生えた白馬だ。

 ちなみにユニコーンとは完全に別種であるらしい。


「トルネードピアッシング」


「ストリームインフェクト」


 発動宣言も同時。

 アスタルテさんは勢いよく流れる水流を創り出していた。

 荒々しくうねる水流が白馬を取り囲み、束縛。

 そのまま形を変えていき、完成したのは堅牢な水の檻だった。


 動きを封じられたそこへアストリアさんの竜巻が突き刺さる。

 あらゆる障害をものともしないと感じさせるほどの質量を纏った暴風は、一点集中、白馬の角に向かう。

 精密な操作により吹き荒れる竜巻は完璧に制御され、白馬は呆気なく立派な角を折られ……ついでに眉間を正確に撃ち抜かれてその命を散らした。


 相手に魔法を使わせる間もなく見事な連携で即殺した二人の腕前は、素晴らしいとしか言いようがなかった。


 発動したのはそれぞれ、旋風属性魔法と水流属性魔法。

 風と水の上位変化だ。

 俺も未だ、魔法スキルの上位変化には至っていない。

 SPを使えば取れることを抜きにしても、スキルをここまで成長させられるのはすごいことだと思う。


「本当に見事な連携だね。詠唱速度も威力も、かなりのものだよ」


「あなたに褒められると少し嫌味ね」


「でも、ありがとうと言っておくよ」


 魔物の使う魔法は厄介だけど、すぐに倒してしまえば問題ない。

 普通に考えれば無理のある理論だけど、それを可能とする技量がこの二人にはある。

 頼もしい限り……なんだけど、そう考えると疑問が浮かぶ。


「俺が同行する意味というのが、未だにわからないんだけど」


「女の子二人だけで魔物蔓延る魔境へ向かえというのね?」


「ここは、男の人は黙って護衛するべきだと思うよ」


「む、確かに気遣いが足りなかったかな。これまで魔気に侵食されることなんてなかっただろうし、やっぱり用心は必要だよね。ごめん」


「……全部わかっているなら、わざわざ聞く必要があったのかしらね?」


「……女の子のあしらい方は、エシュネト様より優れてるよ」


 会話を楽しもうとしただけなのになぜかジト目を向けられてしまったことはさておき。

 この乱魔聖窟に聖水ができるメカニズムは、森に浸透したエシュネト様の放つ聖気が地下水に混ざり込んでこの洞窟内にある泉へと集まるというもの。


 地下水に浸透するのは聖気のハズだけど、魔気が浸透することだってあるんじゃないかと考えた。

 森が魔気に侵されていたのならば、その可能性は十分にあるハズ。

 それが原因で予測できない事態が起こるかもしれない。

 そんなときのために俺が護衛としてつかされたんだろうね。


「ともかく、エシュネト様の判断は……」


 この洞窟では、自然と足元の注意が疎かになる。

 まるで光ごけが生えているかのようにぼんやりと光る洞窟。

 それでも、ずっと奥の空間まで明瞭に見えるわけじゃない。

 そして余計に、遠くの闇が強調されて視線と意識が奥に引き付けられるからだ。


 そんなわけで、足元の警戒が薄くなってるところへ、闇属性魔法とかが飛んで来ることだってある。


「……多分、正解だと思うよ」


「「!!」」


 直進する液体のような漆黒の塊を、魔力闘気を纏わせた刀の一閃で無効化する。

 同時に、氷属性魔法を詠唱開始。

 まだ近くにいるであろう術者を探し出すため、気配察知を強めに展開。


「ここまで接近されて気づけないなんて、やっぱり異常事態のようね」


「でも……どこにも魔物は見当たらないよ」


 魔法は、続けて飛んできた。

 回避と防御を織り交ぜて対応していく。

 相変わらず何もないところから発動しているように見える。


 気配察知をさらに強化。

 まだ見つからない。


 やり方を変えてみよう。

 思い出すのは森で精人達を見つけたときの感覚。

 精人達は、周囲の聖気にうまく溶け込むことで気配を希釈させていた。

 この術者も、同じタイプかもしれない。


 入り乱れる属性魔力を読むのは、思いの外大変だ。

 さらにそこから微弱な反応を見つけるとなると、かなり苦労する作業だった。


 光、土、水属性の流れ。

 その中に微かに感じる……闇。

 見つけた。


「アイスランス」


 氷槍が突き刺さる。

 詠唱終了を合図に射出された氷槍は、確かな手応えを術者である俺に伝えてきた。

 一見すると、それは何もない虚空で留まっているように見える。


 しかし、やがて氷の属性魔力が標的へ侵食していくとともに、それは姿を現した。


「これは! ……レイスね」


「び、びっくりしたよ」


 巧妙に気配を隠して行動していたのは、レイスと呼ばれる魔物だった。

 その身には闇色の襤褸を纏い、青白い無貌が不気味さを際立たせる。

 以前、霊体系の魔物と戦ったことはあるけど、レイスはそれよりも格上みたいだ。


 隠滅スキルを高いレベルで所持しているし、種族の特性として透明化もできるようだから、ただでさえ属性魔力が乱れて気配が読みにくい乱魔聖窟では厄介なことこの上ない。

 けど、姿を見せた以上脅威度は格段に下がる。


「バーニング」


 結局、すぐに火属性魔法で倒した。

 でも……。


「すぐ近くにこんな魔物がいるとなると、一瞬でも気を抜けないね」


 そう、今回はたまたま気づけたけど、次も同じとは限らない。

 闇属性魔法を使うという点でもレイスが異常なことは明白だし、奥に進むなら万全の準備を整えてからにしよう。

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