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71、ヘキサール王国の近況報告

何度か視点が入れ替わります。

○とあるメイド


 どうも。私はヘキサール王国の王城でメイドをしております、アイシャといいます。

 ここ二ヶ月ほど、王城の人達は慌ただしく動いて、活気づいています。

 というのも、二ヶ月前に世界を魔王から救ってくださる勇者様方が召喚されたのです。

 忙しくなるのも、無理はないことでしょう。


 かく言う私も最近は忙しく動き回っています。

 王城のメイドは勇者様のお世話でみんな忙しいのですけど、私は少し違う理由があるのです。


「アイシャさん、窓拭き終わりました」


「よろしいです。次は武器倉庫の掃除です」


「わかりました」


 そう! 私! 最近出世したんです!

 普通のメイドからメイド長になったのは、ちょうど一ヶ月前。

 前任のメイド長が長年勤めているお婆さまで、業績がぐんぐんと伸びている私が後任に抜擢されたのでした。


 そこで疑問となるのが、なぜ私の業績が伸びたのか。

 それには、あるひとりの勇者様が関係しています。

 失敗ばかり、ドジばかりだった私をここまで育てあげてくれた鬼ちk……少し厳しめの勇者様。

 トーヤ・アシハラ様です。


 召喚された当初はユニークスキルをもたない勇者様のひとりということで期待されておらず、出来損ないの私が担当となりました。

 しかしアシハラ様は恐るべき勢いで成長され、ユニークスキルがなくとも問題ないほどの戦力となりました。

 さらに王城の人達に大きな影響を与えていたようです。

 書庫のお爺さん、料理長、兵士さん達まで、なぜかアシハラ様に心酔しているようなのです。

 恐っ! と思いましたがアシハラ様は他の人にはない何かを持っている、そんな雰囲気の方です。

 どこか納得してしまう自分もいました。


 ですが、そのアシハラ様はもうここにはいません。

 一ヶ月前に、ダンジョンで亡くなってしまったのです。

 そのことを知った勇者様方は、ひどく混乱されていました。


 「信じられない」「あの芦原が死ぬなんて」

 そんな声が多く、私も同感でした。

 正直あの方が死んでしまうところなんて想像もつきません。

 騎士団長様からの死亡報告を聞いても、現実感がなかったのです。

 だからでしょうか。今こんなに落ち着いていられるのは。


 ………アシハラ様がいなくなってからの一ヶ月間、めざましい成長を遂げられた勇者様が四人います。


 『聖剣の主』アキラ・キドウ様。

 『癒しの聖女』アマナ・ミヤモリ様。

 『聖獣使い』チクサ・コナミ様。

 『万変人魔』シンスケ・ミサキ様です。


 特にアシハラ様と関わりの深かった四人だそうですが、キドウ様を除いてみなさんこれまでと変わりなく……いえ、アシハラ様がいなくなり、却って生き生きとしているような気がします。

 ………本当は、みんなアシハラ様のことが嫌いだったんでしょうか。

 初めはそう思いましたが、どうやら違うようです。


 『芦原の死を無駄にしないために、力を合わせて魔王を倒すんだ!』という他の勇者様に向けての演説を聞いていると、早くもアシハラ様の死を割り切ったかのように聞こえます。

 それとも……アシハラ様はまだ生きているのを知っているかのような。


 もしアシハラ様が生きているのなら、ちゃんとお礼をしたい。

 そんな希望にも似た予感が、私の胸に渦巻いているのです。





○とある聖剣使い


 僕は勇者の代表として、聖剣に選ばれたものとして、一生懸命努力してきたつもりだ。

 恐ろしいこの世界に召喚されて落ち込んでいるクラスメートを励ましたり、魔物との戦いでは先陣を切ったり、とにかく僕は、みんなを照らす光になりたかった。


 でも……あの事件が起こってからは、本当に今のままでいいのかと疑問に思った。

 芦原君の最期の言葉に、僕は囚われていた。


 芦原君は、王国の真意を僕に伝えた。

 王国にとって勇者は、戦争のための道具で、いいように利用されているだけだと。

 直接そう言われたわけじゃない。

 でも、会話の端々で王国の裏の目的が示唆されていた。


 すぐに否定しなければならないと、心が叫んだ。

 そうでないと、僕は自分が正しいと信じることができなくなるから。


 しかし……自分自身が正しいと信じる僕の心にさえ、彼はヒビを入れた。

 価値観の違いを突きつけられて、どうしていいかわからなくなった。

 ……いや、それは今まで散々目を逸らしてきたことだ。

 頑張れば、いつかみんな笑って帰ることができる。

 誰一人欠けずに。


 それはとんでもなく甘い考えだって気がついていたのに、僕は現実を受け入れようとしなかった。

 現実を見ることは今の僕達にとって心をえぐるように辛いことだから。

 だから、『頑張ろう』って甘い言葉で誤魔化して、この世界に染まってしまわないようにと、必死に逃げていた。


 でも、僕は、僕だけは、そんな考えでいてはいけなかった。

 一度でも芦原君達を殺そうとしてしまった僕は、そんな考えをもつ資格はなかったのに。


 あのとき僕は、自分の正義を粉々に砕かれた絶望に身を任せ、狂ってしまった。

 完全に、逃げてしまったんだ。


 その後どうやって正気に戻ったかは覚えていない。

 気がついたら王城にいて、この国の王女であるシェルミラの前に立っていた。


 朦朧とした意識の中、実は先生や三崎君もユニークスキルを持っていたことを知る。

 そして……芦原君だけが消息不明だということも。


 そのときの僕の心の複雑さは、言葉では言い表せないほどだった。

 感情の波がぐるぐると渦を巻いている中…………ただただ空虚な表情をしていた天奈を見て……。

 そう、天奈を見て、僕は希望を感じた。

 感じてしまったんだ。


『ああ、やっと邪魔なライバルがいなくなる………』

 心に浮かんだ仄暗い歓喜に、僕は吐き気を催した。

 それがきっかけで、僕は彼の言葉の本当の意味を理解することができた。


 もう間違えない。

 自分の正義に溺れることはしない。


 そう、誓った。





○とある教師と、とある聖女


 この一ヶ月間、いつ切り出そうか迷っていた。

 けれど今日偶然、宮森さんと二人っきりになる機会があったから、思い切って話しかけた。

 本当はもっと早くに話しておくべきだったのだろうけど、あの空虚な瞳を見るとどうしても躊躇ってしまった。

 けれど、これは芦原君からの頼みでもある。

 覚悟を決めようと、私は一歩踏み出した。


「宮森さん、少しお話いいですか?」


「? はい、なんですか先生?」


 宮森さんは花のような笑顔で返事をしてくれた。

 …………彼女は、普段こうして明るく振る舞っているけれど、それが本心からのものではないと、私や一部の人は知っていた。

 ひとりのときに、時折覗かせる空虚な無表情。

 それに底知れない、深い影を感じて私は一ヶ月もの間、芦原君についてなにも話せないでいた。

 どこまでも危うい彼女に触れるのが、恐くて。


 ……教師失格かな。

 それでも、私は芦原君が信頼してくれた先生。

 生徒の不安は、ちゃんと晴らしてみせる。



「それで、話ってなんですか?」


 私達は、椅子と机のある個室に移動した。

 王国の監視がついていないのは、聖獣達にお願いして確認してある。


「はい。……芦原君のことです」


「………………」


 にこやかに微笑んでいた宮森さんから、表情が抜け落ちた。

 周囲の空気から一瞬にして温かみが剥がれ落ちたような感覚に、本当に話してもよかったのだろうかと一瞬不安になる。

 固く口を結んで迷いを追いやり、続ける。


「芦原君は……彼は、生きています」


「………………」


 勇気を振り絞って告げた事実に、宮森さんはただ無表情を貫くだけだった。

 そのことに私は戸惑う。

 驚くかと……驚かなくても何か反応はするだろうと思っていたのに。


 いや、いきなりすぎて理解が追いついていないのかもしれない。

 思い直した私は、丁寧に説明することにした。


「一ヶ月前のダンジョン演習のとき、私と芦原君、そして三崎君は罠にかかりました。宮森さんもご存知の落とし穴です。その先でなんとか生き延びた私達は、地上を目指しました。三崎君は自力で帰ることができたようですが、私と芦原君は別行動となってしまいました。それでも生き延び、芦原君のおかげで私は地上に帰ることができました。芦原君は私を地上に送り返したあと、私達の迷惑になるからと王国を去りました。どうして芦原君が迷惑になると言ったのかというと………」


「先生」


 真実を打ち明ける私の回想を、宮森さんは遮った。

 その声は、不気味なほどに落ち着いている。


「先生、話してくれてありがとうございました。でも、そこから先は結構です。もう知ってますから」


「え………?」


 『もう知ってる』……?

 それは、どういう意味なんだろう。

 突然の衝撃に、言葉が継げなかった。


「もっと早く話してくれるかと思ったんですけど……もう話してくはくれないのかと心配でした」


「え………あの、それは、どういう………」


「先生か三崎君がこうしてあの日なにがあったのか教えてくれるのを、私は待っていたんです」


 私はイマイチ要領を得ることができなかった。

 冷静になろうとしても、疑問が頭の中で渦巻いて落ち着けない。


「も、もう少しわかりやすく説明してくれませんか?」


 教師としての面目が丸つぶれだけど、質問しないわけにはいかなかった。


「……あの日、ダンジョン演習に行った日。帰ってきた私は、部屋の机の上に手紙が置いてあることに気がつきました」


「あっ……」


 そこまで聞いて、もうなんとなく次の展開が予想できていた。


「芦原君からの手紙です。そこにほとんどのことが記されていました。王国の思惑や、先生達のユニークスキルのことも。ただ、ダンジョン演習以前に書かれたものだったようなので、ダンジョンの中でなにがあったのかはわかりませんでしたが。芦原君が死なないっていうのは、確信していたことですしね」


「そうだったんですか……………。え、でも、それじゃ……」


 話の中に違和感を見つける。

 それは私にとって、見過ごすことはできないものだった。


「芦原君は……なぜ手紙という手段を使ったんですか? 王国の監視がないことがわかっているなら、直接話してもよかったハズです」


 宮森さんの返答次第では、芦原君は初めから王国を離れる覚悟を……いやそれどころか、もっと酷い事態を想定していた可能性だって………。


「ダンジョン演習から戻ってはこれないと確信していた。もしくは、戻るつもりはなかったんでしょうね。私に伝える時期をずらしたのは、王国に警戒を悟られないようにでしょうか」


「なんで、そんなこと……」


 彼女の口調は、どんどん冷たいものになっていく。

 私は気圧されて、短い言葉を返すのに精一杯だった。


「芦原君にとって、主人公に相応しい人がここにはいなかったから。ここが……王国が、このクラスが、劇的・・じゃなかったから。多分、それだけだと思います」


「主人公……劇的……? 宮森さん、すみませんけどあなたが何を言っているのか理解できません」


 放っておけばどこまでも沈んでいってしまいそうな宮森さんの様子に、私は嫌な予感がした。

 暗い空気を払うように話すと、それが功を成したのか、宮森さんの目に光が灯る。


「あっ、ごめんなさい。芦原君はちょっと特殊な人で、うまく説明できないんです。……まあ要するに、王国にいても楽しくなかったんだと思います。だから、ひとりで出ていってしまった。もちろん、先生達の安全のためでもあるんでしょうけど」


 宮森さんの中だけで完結してしまったような彼女の言葉。

 私は複雑な気持ちで俯いた。

 教師として、生徒のことは誰よりも理解しているつもりだったのに。

 それなのに、今になってますます生徒の気持ちがわからなくなっている。

 少し強い力を手に入れて、驕っていたというの?

 みんなをまとめるのは私だと、そう思い込んで、結局一人一人に目を向けられないでいる。


 ……そんなの、許せない。

 芦原君の期待に応えられないなんて、嫌だ。


「教えてください。芦原君は、どんな人なんですか?」


 とても大人びていて、いつも物事を俯瞰するように見ている、人当たりのよい、謎めいた生徒。

 それが私の芦原君の印象であり、地球にいたころから現在までずっと変わらない。

 けれど、宮森さんとの会話でそれは違うのではないかと思い始めた。

 だからまず知る。

 ここにはいない芦原君に代わって彼と親しい宮森さんに聞くことで、なにかが掴めるかもしれない。


「と、唐突ですね。なんでいきなり……」


「このまま芦原君の……いえ、生徒のことを理解しないままでいるなんて、教師失格ですから。この機会にちゃんと聞いておこうと思ったんです」


「……わかりました。私が知っていることでよければ、お話しします」


 宮森さんはゆっくりと語り始めた。


「最初に芦原君と会ったのは、小学校のころです。私は両親の仕事の事情で転校してきて、芦原君とはそのとき同じクラスになったんです」


 小学生時代からの知り合いと聞いて、少し驚いた。

 まさかそこまで遡るとは思っていなかった。


「私は当時、内気だったので、なかなか友達ができませんでした。そこで話しかけてくれたのが芦原君です」


 宮森さんに友達がいなかったという事実にも、また衝撃を受ける。

 誰とでもすぐに打ち解ける今の姿からは想像できない。


「芦原君は好意的に接してくれたので私はすぐに仲良くなり、よく会話を交わしていました。芦原君はすごく容姿が整っていたので嫉妬されたりもしましたが、私にとって唯一の友人だったので……」


 ほんのり頬を赤く染めて話す宮森さんは、少し照れているように感じた。

 もしかしたら、そのときから芦原君に好意を持っていたのかもしれない。

 宮森さんはわかりやすいというか、もはや隠す気もないみたいだし……。


「そうして過ごしているうちに、私は段々芦原君に対して違和感を持つようになるんです。なんというか、言い表しにくいんですけど……私の行動ひとつひとつが、羨ましがられている? ような感覚で……」


「羨ましがられている?」


 それはなんとも、よくわからない言葉だ。

 宮森さんの表情を見ても、本人でさえきちんと理解してはいないようだった。

 それほどの違和感というのは、一体どうすれば出せるのだろう。


「一度、気になって聞いてみたんです。すると『宮森さんが本の主人公みたいだから』と、言われました」


「………それは、どういうことでしょうか?」


「私も最初はわかりませんでした。というか、中学校で離れ離れになり、高校で再開するまでその意味はわからないままだったんです」


「今はもう、わかっているんですよね?」


 聞けば聞くほど不可解になってゆく芦原君という生徒に関しての宮森さんの評価は、未だ謎に包まれたままだった。

 私は問い詰めるように答えを求める。

 しかし、追求が許される時間は突然終わりを告げた。


「はい。芦原君は………」


 ゴンゴンッ! と、乱暴なノックの音が響く。


『失礼します! 勇者の皆様を王女様がお呼びです!』


 王城の兵士さんが来たようだ。

 あと少し、あと少しで答えが得られるところだったのに。

 歯軋りで苛立ちをぶつけてから、返答する。


「わかりました。今向かいます」


 そう言って立ち上がる。


「…………行きましょうか」


「…………そうですね」


 宮森さんも釈然としない表情を浮かべていたが、苦笑いと共に立ち上がった。


 芦原君がいなくなって丁度一ヶ月。

 今になって彼に関しての謎が深まる。

 やっぱり直接会って話をしてみないとわからないこともあるかもしれない。


 今、どこにいてなにをしているんだろう。

 王国に帰ってくるという約束を覚えていればいいけれど……。


 もやもやとした感情は取れない。

 けれど、それを振り払って謁見の間へと向かう。





○とある人魔



 重苦しい!!


 俺は内心で叫んだ。

 謁見の間に流れる空気は、俺の胃をじわじわと苦しめる。

 召喚された当初から謁見……というかクラスの集会は度々あった。

 その度にいちいち長ったらしい挨拶をするもんだから、慣れようにもなかなか慣れない。

 そのくせ話自体は大したことでもないんだよなぁ……。


 そう思っていた時期がありました。

 今、俺の目の前では険悪な雰囲気の睨み合い……とまではいかないが、クラスメートが互いに牽制しあう光景が繰り広げられている。

 他人事のように言っているが、もちろん俺も無関係ではない。

 むしろ割と中心人物だ。


 どうしてこうなったのか。

 それは、ほんの数分前まで遡る。


 この国、ヘキサール王国の王女であるシェルミラに呼び出しをくらい、勇者は全員謁見の間に集まった。

 いつものように『平均レベルが~~を超えました! この調子で頑張りましょう!』のような、どうでもいいことをわざわざ長々と語るんだろうなー。などと考えていた俺プラス約三十名だったが、今回は話の入り方からしてなにやら毛色が違った。

 どことなく謁見の間で立っているおっさん達もピリピリしていて、ついに王国の危機かなにかか? と期待半分心配半分で俺は本題が告げられるのを待った。


 緊張感が漂う中、王女はこんな発表をした。


 ──勇者の内の誰かに国外へ遠征に行ってもらう、と。


 これには全員が驚いた。

 ダンジョン演習を除いて今まで王城から出してもらえたことは一度もなかったからだ。

 いきなり外国と言われても、まだ不安が残るだろう。


 しかしやっと冒険らしい冒険ができると興奮している者も少なくはなかった。

 俺も、警戒しながらもちょっと楽しみにしていたのだ。


 ただし、全員が行けるというわけではない。

 勇者の内、王国が選んだ何人かだけの少数で遠征を行うらしい。


 さて、誰が選ばれるのか……。というところで、みんな我が我がと内心で主張し、または押し付けるため、牽制しあっているわけだ。

 王女も、あんま焦らすと収拾つかなくなるぞ。


「遠征に参加するのは六人。二週間後に、カラゼアラ共和国に向かってもらいます。メンバーは……」


「ちょっと待ってください」


 王女の言葉を先生が遮る。

 先生も、最初のころとは見違えるくらいに活躍してるんだよな。

 こうして意見できるくらいに積極的になって。


「まだ目的を聞いていません。どうして国外へ行く必要があるんですか?」


「目的は……勇者様のお披露目です。みなさまの姿を一度見せることで、魔王と戦うことへの希望を持ってもらうのです」


「でも、私達が召喚されたということはまだ発表されていないんですよね? そんな状態でどうやってお披露目を行うんですか?」


 なに!?

 まだ俺達が召喚されたことは一般に知られてないのか!?

 今の先生の指摘で初めて知ったんだが……。


 まあ先生は凍弥に警告を受けてからずっと王国のことを怪しんでいたようだし、いろいろ調べているのかもしれない。

 俺以外にも知らなかった奴は多いんじゃなかろうか。

 現に王女は笑顔の裏に苦い表情を隠しているようだし。


「………いえ、実はカラゼアラに行ったとき会って欲しいのは王族と中枢の貴族のみなのです。各国の重鎮にはみなさまの存在を明かしていますので。つまり、挨拶のようなものですね」


「そうだったんですか。失礼しました」


 ぺこりと頭を下げながらも先生の目は獲物を狙う鷹のようだ。

 ……隙あらば責めまくるつもりなんだろう。おお、こわい。


「それで、メンバーなのですが……」


 王女は発表を始める。

 内訳は、男子が三人、女子が二人だった。

 選ばれた者は喜んだり不安がったりと、様々だ。

 でも、あと一人まだ発表されていない。

 まだ俺の可能性は残されている。

 ワンチャンおなしゃす!!


「最後は、コナミ様です」


 などと期待してみたが、まあ裏切られるだろうとは思っていたさ。

 小さく舌打ちをしたのは………まあ、あれだ。クセだ。


「わかりました。生徒達の指導者として、精一杯頑張ります」


「ええ。お願いいたします」


「ちょ、ちょっと待って。シェルミラ、なぜ先生なんだい? 先生は僕達にとって必要な人なんだよ」


「それはわかっていますが、仕方ないことなのです。勇者様方の実力者四人の内、キドウ様は国宝である聖剣の持ち主として、ミヤモリ様はみなさまの癒し手としてここを離れていただくわけにはいきませんし、ミサキ様は……その……国の重鎮に挨拶するのは向いていなさそうですので」


 輝堂の問いに王女は申し訳なさそうに答えるが、本音は悪巧みをするのに先生が邪魔だから遠ざけたいんだろう。

 でもまあ、確かに理由としては納得のいく……。


「って、俺だけ理由が雑じゃねぇ!?」


「三崎君、自分のユニークスキルの名前を思い出してみようよ」


「うぐっ………、わ、わかった。………釈然としないよなぁ……」


 『魔石変態』……。

 どうせ王城にあるLV9の鑑定水晶じゃ本当の名前はわからないんだから名前は適当に誤魔化そうとしたんだが、先生が興奮気味に暴露しちまったからなぁ。

 クラスで笑い物にされるし、名前の割に強くてちょっと引かれるし、なぜこうなったし……。


「み、ミサキ様には別の任務がありますので、本当はそれが理由なんです。ええ」


「……本当に本当なんだろうな?」


「もちろん!!」


 この腹黒王女も傷ついた人間をフォローするという常識は持ち合わせているようだ。

 ………全然いらない情報だけどな!





○とあるメイド


 今日も勇者様方のお世話をさせていただく、平穏な日常が広がっています。

 でも、それはいつか過ぎ去ってしまうものだと私は知っています。


 勇者様方の目的は魔王を倒すこと。

 ここで力をつけたら、いずれ旅立ってしまいます。

 そのときは……どうなってしまうのでしょうね。

 世界は、こんなに平和でいられるのでしょうか。


 それは、みんながみんな、心のどこかで感じている不安だと思います。

 考えてみれば、王城ここは不安ばかりです。

 本当に勇者様達は無事魔王を倒してくれるのかという、私達の不安。

 魔王を倒せば本当に故郷へ帰ることができるのかという、勇者様方の不安。

 自分達がやっていることは……魔族を滅ぼそうとすることは本当に正しいのかという、ここにいる全員の不安。


 その不安を消し去ることができるのは、王族の方々だけ。

 だから私達は、自分にできることを精一杯やるしかない。

 それがまた不安を大きくすると、わかっていても。


「ガラじゃないですね」


 楽天主義が信条の私がこんなことを考えるなんて、明日はスライムでも降るんでしょうかね。

 とにかく今は、仕事に慣れなければいけません。


 メイド長って意外と多忙なんですよ?

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