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26、一段落

三崎君視点です。

 凍弥が上層への階段を上っていった。

 正直、嫌な予感しかしねぇんだが……。

 まあ、凍弥が大丈夫だと言っていたから多分大丈夫なんだろう。


 あいつは普段ボーッとしててもいざとなったら自ら進んで命を投げ出す……かと思いきやとことん合理的で用意周到に危機を脱するタイプだからな。

 この一ヶ月の付き合いでそれがよく分かった。


 ふと、隣で壁に背を預け眠っているこなみんの顔を見る。

 あ、こなみんっていうのは先生の愛称な。

 親しみやすい外見と性格から、うちのクラスではほとんどの生徒がそう呼んでいる。

 まあ、本人の前でそれを言ったら怒るから言わないが。

 あと芦原も先生と呼ぶのであいつの前でも呼んでいないが。

 一人だけ呼ぶのは恥ずかしいからな。


 こなみんは所謂合法ロリというヤツで身長約140cm(俺調べ)、そして小学生と見紛うほどの童顔というガチで驚く見た目をしていて、普段から飛んだり跳ねたりするものだから完全にみんなのマスコット的存在となっている。

 ……それも、こっちに来てからすっかり無くなっちまったけどな。


 それにしても、愛嬌のある顔だよな。

 だが、そんな中にも大人の色気がうっすら見え隠れしていて、眠っているものだからそれが顕著に……。

 って、なんつー思考してんだ俺は!

 いかんいかんここは魔物が跋扈するダンジョン。

 煩悩に支配されてちゃすぐ殺されちまう。


 そこんとこ凍弥は全く問題なさそうだよな。

 俺もあいつを見習わなきゃだな。

 ……いや、やっぱダメだ。

 あんな今世紀最大の超鈍感天然野郎、見習える気がしねえ。


 宮森さんが凍弥に好意を寄せているのに、あいつはそれに気づいてないっていうのは、召喚されるまで凍弥と関わりの無かった俺でも薄々気づいてはいたが、まさかあそこまで重症だとは思ってなかったぜ……。

 あんなのはもう鈍感っていう言葉で片付けられるようなのじゃないな。

 ただの男の敵だ。


 ……なんかムカムカしてきた。

 俺が自分の握りこぶしを睨みつけていると、こなみんが目覚めようとしていた。


「う、ううん………」


「おぉ、起きたか、こなm……先生」


 おっと、あぶねえ。


「え……三崎くん……? ここは……」


 まだ意識が朦朧としているようなので、ゆっくり丁寧に現状を説明した。





「では、今は芦原くんが戻ってくるまでここで待っている状態なんですね」


「そうっす。でもここは魔物も徘徊してるんで、常に警戒してなきゃいけないっすから、おちおち休んでもいられないっすね」


 ゆっくり説明したせいか、さっきみたいに取り乱すことなく先生は落ち着いて話を聞いてくれた。


「芦原くん、無茶なことをしなければ良いんですけど……」


 このように、こなみんは普段は生徒思いの良い先生だ。

 ここ最近は自信を無くしちまってあまりそんな素振りを見せなかったんだが、ショックな事が多過ぎて逆に冷静になったんだろうか。


「大丈夫っすよ。あいつはやばくなったらすぐ逃げるでしょうし。さっきみたいな突然の崩落でも起こらない限りあいつが対応に遅れることはないっす」


 その時、天井から鼓膜が破れるかと思う程のとてつもない轟音がした。

 いや、フラグ回収早えって!!





 どうする? 凍弥はこの轟音について何も言っていなかった。

 っつーことはこれは凍弥の予期していなかった出来事。

 それか、俺に話さなくても問題ない出来事ってことだ。


 流石に後者は無いだろうから……いや、まあ例え後者だったとしてもとりあえずここから離れなきゃだよな。

 だが、あんまし遠くに行きすぎても帰れなくなりそうだから、近すぎず遠すぎずのところがいいだろうな。

 やべえ、俺ってこんなに状況判断がうまかったか?

 凍弥のがうつったんだろうな。

 でなきゃ俺の数々の黒歴史は回避できてたハズだ。


 が、先生は俺と同じとはいかねえ。


「え、な、何!? どうなってるの? 何この音! ど、どうしようどうしよう!?」


 あたふたしてる、かわいい……。

 じゃねえぇ!!!

 消えろ!! 煩悩!!!


 おもいっきり自分の顔を殴る。


「三崎くん!? どうしたんですか!?」


「なんでもないっす! とにかく、ここから離れましょう!」


 俺はこなみんの手をとって駆け出した。

 震動と轟音のせいか、幸い魔物は一体も襲ってこなかった。



 ある程度離れたところで、さっきとは比べものにならないほどの大音量が脳を揺らした。

 何なんだよお!!!


「や、やべえ、天井崩れて来てる……早くこっちに!!」


「え、ええ!? あの……」


 ん? 崩れた岩の中に人影が………ぁぁああ!?


「凍弥ああ!!??」


「(ビクッ)」


 あいつ何してんの!?

 じゃなくて、早く助けねえと!


 全速力で走る。

 そしてスライディング!


「おりゃあああああ!」


 ドサッ


「「ぐふっ」」


 か、間一髪間に合ったぜ……。

 背中で倒れている凍弥に話しかける。


「お前……俺が助けること予想してなにも対策してなかったろ……」


「そこは信頼の証、ってことでひとつ。でも実際、本当に余裕無かったんだけどね」


 またぬけぬけと……。


「まあ、もういいから……いい加減降りてくれねえか? 男を乗せる趣味はねえし、っつーか重い!」


「あー、ごめん。足の骨が折れてるみたいでね。うまく立てないんだ」


「はあぁ!?」





 上層へ戻る階段は埋もれてしまったので、他の帰り道を探している。

 俺とこなみんは問題なく進めているんだが、凍弥は脚を引きずりながら歩いている。


「なあ、凍弥。ホントに大丈夫か? やっぱ俺が背負ってくぞ?」


「いや、HP高速回復を取得したからさっきまでより大分楽になったよ。もう足は引っ張らないと思う」


 マジでチートだよな、MP変換……。

 俺の魔石変態も強力なスキルなんだが、使い勝手が悪いからな。

 それに凍弥ならバランスの良いスキル構成とかも考えてそうだし、全く、どんな化け物になるんだろうな。


「あの、二人は本当にそんなすごいスキルを持っているんですか? あのとき芦原くんに助けてもらったことは覚えているんですけど、まだ信じられなくって……」


 こなみんは戦闘を見ていないからな。

 困惑するのも無理はない。

 上層の床が崩れて落ちたときこなみんは凍弥の空間魔法を体験していたが、あれはちょっと分かりにくいよな……。


「まあ、そうっすね。なんなら今やってみましょうか?」


 そう言ってゴブリンの魔石を取り出す。

 そこで凍弥の心配する声が上がる。


「変態は体力の消費が大きいんだよね? あまり無駄遣いしないほうがいいんじゃない?」


「『魔石』を省くな! あと、途中で解除出来るみたいだから一瞬やるぶんには問題ねえ。魔石自体はいくらでもあるしな」


 まあゴブリンのしかないけどな。

 ってか、このダンジョンでゴブリン意外の魔物を見たことがないな。

 いちオタクとしてここは色んな魔物で魔石変態を試してみたいんだが。

 例えばドラゴンの魔石でも手に入れて『竜形態ドラゴンモード!』とかやってみたいところだが、俺は自分のステータスを見てそんなことが言えるほどの馬鹿ではない。


 そんなことを考えながら、無駄に首をポキポキ鳴らして二度目の魔石変態を使う。


「じゃあいくぜ。魔石変態、ゴブリン!」


 そこですかさずヒーローの変身ポーズをビシィッ! と決める。

 俺の体は光に包まれ、全身の形が変わっていく感覚を味わう。

 

 光が収まり、立っているのは三崎信介の体にゴブリンの特徴を合わせ持った俺だ。

 何故か凍弥が呆れた視線を送っている気がするが、こなみんが目を輝かせているのでよしとしよう。


「す、すごい! 変た……変身なんて、本当にすごいスキルじゃないですか!」


「ええ、そうですよね。戦闘能力も大幅に上昇していますから、とても強力なスキルです」


 ふ、二人してそんなに褒めるなやい。

 思わず頬が緩んでしまう。

 飛び跳ねているこなみんがかわいいのもあってな。


「でも……なんでこんなすごいスキルをいままで隠していたんですか?」


「この力を王国に知られると厄介な事になりそうですからね。これは自分の予感ですが、奴らの本当の目的は、魔王討伐なんかじゃなく、勇者の力をもっと別のことに使うことのような気がします。現に、正義をうたいながらこうして非道な手を使ってきていますしね」


「そうなんですよね……私がもっと早く気づいていれば……」


 予感っつーかラノベの知識も入ってるよな、テンプレだし。

 俺も人のこと言えねーが。


「でもまあ、信介君は違うみたいですよ」


「え?」


 突然こちらに目を向け凍弥が言った。


「な、お、俺は頭が悪いから王国のこと気づいて無かったんじゃないかとか言うつもりか? ちげーし! ちゃんと気づいてたし!」


「いや、違うよ。ユニークスキルが無いと思われてた俺と先生の事を心配して、わざと隠していたんでしょう。自分がユニークスキル無し組に入ることで少しでもみんなからの悪感情を分散させるために」


「そ、そうだったんですか!?」


 なんで分かるんだよ……。


「あー……。まあ、そうだな。そんなこと面と向かって指摘されるとハズいだろ……」


「感謝してるよ。ありがとう」


「そうだったんですね。ありがとうございます」


 自分の顔が赤くなっているのが分かる。

 羞恥に耐えられなくなって、たまらず後ろを向いた。


「そ、そんなことより、さっさと出口探そうぜ。ほら! 早く!」


「ふふふ」


「くすっ」


 大股の一歩を踏み出したその時。


 足元が急に光ったと思ったら、


 後ろからも光が溢れて、


 慌てて振り向くと、


 そこにはすでに、


 誰もいなかった。

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