27、VS魔物軍団
光が晴れて見えたそこは、まさに地獄でした。
いやいやいや、ちょっと待って。
えーと、状況を整理しよう。
まず、信介君達と合流して順調に探索できていたと思ったら、突然視界が白く染まって……。
気付けば、目の前には大量の魔物が。
とりあえず、先生は口を半開きにしてフリーズ中。
これは仕方ない。
次に、魔物を一気に解析してみた。
種族:ゴブリン LV:4
HP:56/56 MP:32/32
筋力:27 耐久:21 魔攻:6 魔防:9 敏捷:34
スキル:棒術LV1
こんな感じの奴らがざっと見てみた感じでも数十匹。
さらに……。
種族:オーガ LV:7
HP:372/372 MP:50/50
筋力:467 耐久:311 魔攻:31 魔防:62 敏捷:27
スキル:棒術LV4、身体強化LV6、咆哮LV3
ヤバいのが三体ほどいた。
「………」
「………」
「「………」」
順に俺、先生、魔物達。
この場の全員が突然の出来事に反応しきれていない。
驚きっていうか唖然。
……ナニコレ。
固まってる場合じゃない。
相手も驚いてる今がチャンス。
隠密スキル全開。
そっと先生の手をとって何事もなかったかのようにゆっくり歩く。
失礼しました~。
「グオオオオオオオオオ!!」
「キャーーーーーーーー!!」
「駄目でした」
敵意剥きだしの視線が集中する。
無数の魔物軍団を倒しきるのは、今のコンディションでは厳しい。
こうなったらとにかく走る。
足が尋常じゃなく痛むけど、この際気にしていられない。
「あ、芦原くん、後ろ!」
「グギャ!」
迫るゴブリンを切り付ける。
どす黒い血を撒き散らし、ゴブリンは倒れる。
「うっ………!」
先生には刺激的すぎたかな……。
「先生、大丈夫ですか?」
「大…丈夫、です。このくらいで、立ち止まれません!」
それは頼もしい。けど、無理はしないで欲しい。
先生を気遣いながら、素早い動きで近づいてくるゴブリンを警戒する。
それと同時に、強力なオーガ達を突破する方法を考える。
何でもいい。何か、何かないか……?
名前:トーヤ・アシハラ 年齢:16 種族:人族(勇者) LV:6
HP:381/381 MP:34/800 SP:31
筋力:381 耐久:281 魔攻:680 魔防:580 敏捷:420
スキル:、MP変換、剣術LV5、空間魔法LV3、HP高速回復LV1、MP高速回復LV10、解析LV1、魔力撃LV2、MP吸収LV7、気配察知LV3、隠密LV2、思考加速LV2、大陸語LV10
いつの間にか思考加速なるスキルが増えていた。
必要SPをみても俺と相性がいいみたいだったから、気付かないうちに習得できていたんだろうね。
しかし、それでは現状打破の一手としては薄い。
可能性があるとすれば魔力撃だろうけど、MPの残りがほぼ無いので使い物にならない。
空間魔法にも同じ事が言える。
ならば……。
前方で逃げる俺達を待ち構えているゴブリンの集団にあえて突っ込んでいく。
ゴブリン達は予想外の行動に面食らう。
そして、胸目掛けて一閃。
運の良いことに、二匹一緒に倒せた。
木の棒を振りかぶる個体が視界のはしに映る。
回避行動へ移る前にもう一匹のゴブリンを掴み、その個体に向かって投げる。
もつれあう二匹。
すかさず胸へと剣を突き刺す。
何かが流れ込んでくる感覚を感じとり、一旦ゴブリンの密度が薄いところへと移動する。
胸を狙ったのは効率よくMPを吸収するためだ。
どうやら魔石に近い部分だと吸収しやすいみたいで、ゴブリンは心臓に魔石がある。
というか、今は魔石を刺し貫いちゃったんだけどね。
これが一番効率がいいんだから仕方ないね。
とは言え、じっくりゆっくり丁寧にMPを吸収している余裕はない。
なのでその吸収量はLV7のMP吸収でさえ一突きで一体10MPが限界だ。
それに、先生のこともあるのであまり無茶な動きは出来ない。
俺は敏捷の増加による馬鹿げた反射神経に物を言わせて剣の射程範囲内に近づく敵だけを切り裂きながら一心に前へ進む。
呼吸は荒く、足がジンジンと危険信号を発している。
返り血によって薄い灰色に近かったローブはもはや暗紅色へと染まっている。
視界にまで血の侵食が及んだころ。
見えた。
角だ。この魔物部屋の角。
前方のゴブリンの振り下ろした棒を剣で受ける。
「邪魔」
全力で頭突きをかまして、倒した。
そして、壁に背を向ける。
先生も同じように背後からの奇襲の可能性を無くした。
「ハァ……ハァ……」
「芦原くん……! 大丈夫!? 血が……っ!」
ここまで来るのに何度かゴブリンの攻撃を受けてしまったけど、まあ先生は無傷だしいいかな。
「軽傷ですよ。耐久は低いですけど一応それなりにはありますし」
微笑を浮かべて言った。
心配させて動きに影響が出るのは避けたい。
という思いもあったけど、やっぱり辛そうな先生を見ていられない。
だから、こんな状況だけど、いや、こんな状況だからこそ安心して欲しい。
「ごめんなさい……私が……不甲斐ないばっかりに………」
ちょっと失礼だけど、俺は少ししゃがんで先生と目線を合わせて言った。
「大丈夫です。これでも勇者ですので。さっき見た三崎君の変身のように、自分もすごいスキルを持っているんですよ。……あと、先生も」
「え……? ……あ、危ない!!」
気配察知で得た情報に寄れば、ゴブリンの一匹が背後から俺に攻撃を加えようとしていた。
「グギャア!」
全く、さっきからゴブリンゴブリンゴブリンゴブリン………鬱陶しい。
遅いんだよ。いくらステータスの中で敏捷が一番高いと言っても、勇者の人外じみたステータスと思考加速スキルを持つ俺に敵うわけがない。
故に、この一瞬。お前が俺に攻撃を仕掛ける、この一瞬で、操作を終えることも出来る。
『火属性魔法:必要SP20』
取得。
刹那、俺は理解する。
『火』という世界の『法則』をねじ曲げる術を。
視線だけをゴブリンに向け、詠唱する。
「ファイアボール」
俺とゴブリンとの間に直径10cm程の火球が顕現し、醜悪な小鬼の貌を焼き尽くす。
思考加速により引き延ばされた時の中、俺はそれを眺めていた。
「ま、魔法!?」
ふうーん。
火属性魔法って、空間魔法と違って凄く使いやすい。
必要SPも馬鹿みたいに少なかったし、やっぱり俺と相性良いのかな。
ダンジョンでの襲撃を回避するにあたって、直接戦闘に影響するスキルは剣術くらいしか伸ばしてこなかったけど、火属性魔法、取ってもよかったかもね。
さて、こうなれば俺は集団戦にめっぽう強い。
というより、俺はこっちに来てから集団戦ばっかりやってる。
驚く先生を背中に確認して、誰にともなく告げる。
「さあ、そろそろ終わりにしよう。壁際に逃げたのは背後からの奇襲を防ぐため。今から俺は、完全な固定砲台と化す。俺が準備を終える前に、倒しておくべきだったね」
耳障りな鳴き声を漏らすゴブリン達を、俺は視界の中でロックオンする。
これから始まるのはゴブリン達にとっての地獄。
自分から奪われたMPによって、その身を焼かれるのだ。
「ファイアボール、ファイアボール、ファイアボール」
次々と詠唱を完了させていく。
けれど、そのスパンは先程よりも長い。
それもそのはず、さっきのは不完全な詠唱で十分な威力の無い魔法だったからね。
まあそれでもゴブリンは倒せたけど。
勇者の魔攻ってやっぱりこわい。
即ち、十分な詠唱をした今度のファイアボールは先程とは比べものにならない威力を誇る。
直径30cmの火球が連続で生み出され、周囲にばらまかれる。
その炎を浴びてゴブリン達は既にその数を最初の半分以下にまで減らしていた。
「す……すごい! すごい! すごいよ芦原くん! もう……すごい!!」
先生。国語の先生。
語彙力、なさ過ぎでしょ。
でも、そんな状態になるのも分かる。
なにせこの光景はそれほどまでに圧倒的なのだから。
そのとき、ついに奴らが動き出した。
この場に三匹しかいない存在。
ゴブリンとは一線を画するその魔物の名は……。
「オーガ……」
「グオオオオオオオ!!」
先生に袖をぎゅっと掴まれるのを感じ、より一層深く構える。
大丈夫だ。やることは変わらない。
地面を揺らしながら鈍重そうな巨体をこちらに近づけてくるのは、三体のうち一体のオーガ。
さっきの倍以上の時間をかけて詠唱し、威力重視の一撃を放つ。
「………ファイアボール」
出来上がったのは直径50cm程の火球。
単純に詠唱時間が長ければ良いというわけではないらしく、その火球は予想よりも小さかった。
しかし、火球は勢いよく飛び、オーガの顔面に着弾した。
巨体のよろめき具合から察するにさっきまでとは段違いの威力のようだ。
「グオアアアアアガアアアア!!!」
たった一発、魔法を食らっただけだと言うのにその叫びは大ダメージを受けたかのようだった。
そう、俺はここに着目した。
魔法への耐性。
即ち、ステータスの魔防の低さに。
耐久が311なのに比べ、オーガの魔防は62。
実際俺も筋力より魔攻の方が高かったので、ゲームよろしく脳筋相手には魔法! という感じで戦ってみた。
結果は言うまでもなく、火属性魔法の有用性も確かめることができて……いやほんと、よかったよかった。
「「グオオオオオオオ!!」」
おっと、まだ油断は出来ない。
ゴブリン達も倒し切れていないし、まだまだここからだね。




