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21、探索開始

 それは 洞窟というにはあまりにも昏すぎた

 昏く 禍々しく そして 威圧的過ぎた

 それは 正に深淵だった



「そんな感じの物を想像していたんだけど、意外と、なんというか……生活感があるね」


「奇遇だな、俺もだ。ファンタジー空気読め! と言いたい」


「私も、危険っていうからおどろおどろしいのを想像してたんだけど……」


 馬車に揺られて連れて来られたダンジョンは、予想を大きく外れて管理の行き届いた様子の場所だった。

 というか、街だった。

 ダンジョンが単体である訳ではなく、ダンジョンの入口である洞窟を囲むようにして都市が形成されていた。

 よく聞く迷宮都市というヤツだ。

 その栄え具合は並の町よりも数段上であるらしく、ヘキサール王国の最北端、国境近くにあるこの都市は迷宮資源の産出地であると同時に国の防衛拠点にもなっているらしい。

 ちなみに生まれて初めての馬車の感想は、『街中はいいけど山道が地獄』でした。

 ボラ○ノールはよ。


 で、肝心のダンジョンそのものは入口から松明やランプがそこかしこに取り付けられていて、俺の中のダンジョン像をぶち壊してくれた。

 探索に必要な携帯食料などを売る売店は結構賑わっているようで、いかにも冒険者といった風貌の人達が多く出入りしている。

 お、もしかしてあの緑色の液体がポーションかな?


「なんか、これから危険なところに行くっていう実感が湧かねえな……」


「ダンジョンから産出される魔物の素材は国の経済にとって重要らしいからね。客寄せみたいな意味もあるんじゃない? まあそれ以前に、街のど真ん中に洞窟がいきなりあるっていうのは不自然過ぎるからってのもあるとは思うけど……」


「でも、結構街の人達は馴染んでるみたいだね。ほら、このあたりに露店とかもたくさんあるよ」


「にしても『ダンジョン焼鳥』とか『ダンジョン護符』とか売ってるのは流石にどうかと思うけどな……。武器、防具屋ならまだ分かるが……」


「ゲームと全く同じというわけにはいかないよね」


 ここにきて現実とファンタジーとの差をまざまざと見せつけられる。

 雑貨屋に中古品の鎧を持って行くと、ゲームでは買い取ってもらえても実際には買い取ってもらえない。

 それは当たり前のことで、目の前の光景も同じ。

 人が集まるところは、自然と利便性が増していく。

 頭では理解できているんだけど、どうにも納得いかないなあ。


 三人で雑談していると、続々とクラスメートが集まってきた。

 みんなも、ダンジョンを見ていろいろと違和感があるらしく、首を傾げたり叫んだりとまあ似たような反応だった。

 最後に先生を乗せた馬車のグループが到着し、それを見届けた団長さんが大きな声で呼びかけた。


「それではこれから、ダンジョンへと進入する! 我々が常に警護するからと言って、油断しないように!」


 今日の団長さんは鎧に身を包み、巨大な大剣を持って完全武装だ。

 周りから見れば憧れの対象であるはずのそれも、俺からしてみれば嫌な予感しかしない。


「いよいよだな」


「うー、直前になって緊張してきた……。こんなことじゃ駄目だよね、やる気出さなきゃ」


「いや、そんなことはないと思うよ」


「え?」


「緊張してるってことはそれだけ慎重になれるってことだからね。少なくともここでは良い状態だと思う。その点、みんなは少し……気楽過ぎなんじゃないかな? 様子を見る限り心の準備ができてない。

戦いで重要なのは剣や魔法の腕だけじゃなく、怖じけづかない精神こそが大切だ。って訓練でよく言われていたハズだけど、いざ魔物を殺すとなって躊躇うようじゃ危険だよ。

まあ俺も生き物を殺したことなんてないから、偉そうなことはいえないんだけどね」


「まだゲーム感覚ってことか。確かに、安全マージンの取れた訓練なんかじゃなくて、今からするのはホントの命の奪い合いだもんな。そう言われてみれば、どいつも覚悟が足りてなさそうな顔してるなぁ」


「うん……そうだよね。命を、奪う。………そのための訓練。今回だけじゃない、これからもずっと戦う。だから、今覚悟を決めないと……」


 自分に言い聞かせるようなその言葉には、命を賭けることだけの重みがあるように聞こえた。

 魔法があって、強くなって、調子に乗ってしまう。

 それを助長するようにステータスなんてものがあって、それでも自分を見失わない宮森さんは十分立派だ。


「…………よし! もう大丈夫! ありがとう、芦原君! 覚悟、できた!!」


 親指をぐっと立て、そのままみんなが集まっているダンジョン前まで走っていってしまった。


「…………。俺達も行くか」



 そして全員が整列したところで、団長さんの点呼があってダンジョン内部へと全員で進んでいった。

 まるで修学旅行みたいだ。

 




 徐々に壁に掛かる松明が少なくなっていき、ダンジョンの奥へ奥へと歩いていく。

 途中、先頭を歩く輝堂君の顔をチラっと覗いてみた。

 いつも通りの端正な顔だけど、どことなく暗い顔だ。

 それでも明るく振る舞って士気を高めているあたり、流石だと思う。

 俺と信介君、そして先生は最後尾に配列されているので何を言っているかは聞こえないけど、前列の雰囲気は悪くないということは分かる。


 それほどのリーダーシップを持ちながら何故……。

 なんてことは言えない。

 クラスを引っ張っていく立場の輝堂君は混乱や不安を人一倍抱えてるだろうしね。

 俺も自分のことでいっぱいいっぱいだし。

 だからといって命を狙われて怒っていないわけじゃない。

 それとこれとは話が別だ。


 ダンジョンは、奥ーー地下に進むにつれて魔物が強くなっていく構造になっているらしい。

 なのでまだ魔物とは遭遇していない。

 魔物という不確定要素がある深層で仕掛けてくるとは思いたくないけど……いや、逆にそれを利用してくる可能性もあるか。

 クラスメートが揃う場所で仲間を殺すことはないだろうし……ないよね?

 まあ警戒もほどほどにしておこう。

 気疲れしすぎてもいけないしね。


 気配察知LV5、発動。

 さあ、いつでも来いっ。


 ………あ、やっぱ来ないで。





 階段のような足場を下っていくと、そこはまさに想像通りの暗い洞窟だった。

 明かりは騎士さんの持つ魔法のランプのみ。

 先程までとは対照的に、天井も低いようだ。

 静寂の中に地下水の跳ねる音が響き、より一層、不安を掻き立てた。


「ここからは気を抜くと本当に命を失いかねない。魔物だけでなく、罠にも気をつけろ」


 何度目かの団長さんの注意喚起を皮切りに、全員が正気を取り戻す。

 もう無駄なおしゃべりもなく、集中して進む……かと思いきやここで輝堂君が声を上げた。


「さあみんな、ここが正念場だ! 一ヶ月間、僕らは強くなるために一生懸命訓練を頑張ってきた。その成果を発揮すべき時が来たんだ! それぞれが力を合わせれば、魔物だって怖くない。そう、勇気を持てば何も怖くない。この世界を平和にするために僕らは戦わなくちゃいけないんだ! 全員で協力して元の世界に帰ろう!」


 突然の言葉に唖然とした人が多くいたようだけど、後半になるにつれ表情に明るさが宿ってきた。

 そして、迷宮に喧騒が沸き起こる。


「ああ! 俺達も頑張るぞ!」


「怖じけづいてる場合じゃねえ!」


「私も、輝堂君に付いていく!」


「「うおおおーーーー!!!」」


 びっくりした。

 こんなに効果があるなんて。

 

「悔しいが、結構勇気付けられたな」


 信介君も若干笑顔だ。

 でも、


「………輝堂君、まともな精神状態じゃないよね。自分に言い聞かせてるっていうのがまるわかりだ。これは……予想以上に難航しそうだよ」


「なっ……お前、そういうのよく気づくな。なんかもう凍弥には敵う気がしねえわ」


 みんなに共感を得る形にすることで、自分の正当性を確かめようとしている。

 張り付けたような笑顔は迷いの裏返し。

 …………本当に、王国には吐き気がする。


 はあ、どうしてこんなことになったのやら。

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