20、ダンジョン演習直前
「さて、後は……」
そうひとりごちて俺は考えを巡らせる。
とりあえず信介君を味方につけることは出来た。
これが今後に大きく関わってくる。
先程までの懸念事項は大きく分けて三つ。
まず、信介君が王国側に引き抜かれている可能性。
次に、さっきの話が監視されていた可能性。
最後に、敵が予定を変更して攻撃を加えて来る可能性。
一つ目は様子を見る限りほぼ心配ないと思ってもいい。
その見極めのための話でもあったわけだしね。
少なくとも言葉に後ろめたさは感じなかったし、輝堂君の裏切りの話題を出したときにおかしな反応はなかった。
あれが演技だとしたら信介君は俳優にでもなってる。
二つ目に関しては、どうしようもない。
さっきの話が監視されていたとしたら、俺のこれまでの行動も見られていただろうし、今更バレても余り変わりはない。
ということで今のところ対抗手段はない。
まあこれは最悪の場合の予測なのでそこまで気にしていたわけでもないけど。
三つ目は現在も絶賛懸念中。
準備を進める他ない。
ということで、方針はこれまでと変わらない。
まずはさっきの話でも出た信介君と先生のユニークスキルの効果の解析を急ごう。
鑑定をLV10にしたことにより新しくスキルリストに現れたスキル、解析で。
『解析:必要SP30』
習得した途端鑑定のスキルが消えてしまった。
進化みたいな扱いなの?
あ、ちなみにこれ、数あるスキルの中でも破格のSPだ。
必要SPには、本人の資質とスキル自体のレアリティが関係することが分かった。
例えば俺は思考系のスキルが得意みたいで、鑑定に至っては10SPとスキルの中で最安価を誇る。
他には、さっきも出した解析や思考加速、あとは算術……算術? 数学は得意だったけど……。
まあそんな感じのものが安い。
レアリティというのは、スキルの格のこと。
これは座学で習った。
例えばこんな感じ。
『剣術:レアリティ2:剣を扱う動作に補正がつく』
鑑定で調べるとアバウトな説明とともにスキルの内容が脳内に表示される。
剣術はレアリティが2と低く、俺の資質があったみたいで20SPとこれまた非常に安価だ。
スキルリストの高レアリティスキルを見てみると、
『不死:必要SP25000000000』
『破魂:必要SP30000000』
こんな恐ろしいのがばんばん出てくる。
絶対に取らないと決めたスキルだ。
話が盛大に逸れてしまったけど、結局何が言いたかったかというと、スキルを生かして生き残ろうってことだね。
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いつかとはうってかわって本日は快晴。
燦燦と照り付ける太陽が勇者の訓練のせいで一ヶ月前よりさらにでこぼことなった訓練所の地面を容赦なく熱で蹂躙している。
周りを見回すと、暑さにやられてへばっている者と逆に熱に浮かされ意気込んでいる者が半々といったところ。
ちなみに俺は前者だ。
今は地球で言うところの11月なので気温だけ見ればそこまで高くない。
キツイのは日照りだ。
日照り……照り……照り焼き……あ、照り焼き食べたい。
閑話休題、時が経つのは早いもので、ダンジョン演習が唐突に始まった。
初めての魔物との戦闘ということで怯える者も多数いたけど、そこは輝堂君のカリスマが発揮された。
で、なんだかんだあって欠員もなく無事に全員参加となった。
まあみんなのやる気の決め手は輝堂君だったのは確かだ。
でも、命のやり取りに全員が乗り気という本来であればおかしな状況には、一ヶ月という期間が関係している。
この一ヶ月間勇者としての能力により騎士に褒められ、持ち上げられまくったせいで、みんなの戦闘に関しての自信は地球にいた頃では考えられないほどに高まっている。
早くこの力を実戦で試したい。
おそらくこれが輝堂君含めたクラスメートの意見だろう。
まんまと王国の策に嵌まっている。
もうこれは一種の洗脳と言ってもいいんじゃないかな?
「……例えばほら、あそこの早乙女さん。あの人だよ、金色のドレスみたいな服着てる人!」
「いや、知ってるよ。クラス委員長やってるし」
もう一人のクラス委員長は輝堂君だ。
「あの人も凄い人気なんだぜ。男子からだけじゃなく女子にもな。あのかわいさ……いや、美しさで多くの男を魅了してきたんだ。見ろよあの佇まい、まるで本物の姫みたいでまさに『早乙女』って感じだろ?」
……………。
一応信介君の名誉のために言っておくとなんの脈絡もなくこんな話を振られた訳じゃない。
今しているのは装備の話だ。
今からダンジョン演習に向かうので訓練用の装備というわけにもいかず、みんな城の倉庫から各々の装備を選んでいる。
そしてなんだかんだ言ってもやっぱりここは剣と魔法の世界なのでゲーム的というか、コスプレのような装備も少なくない。
そういうものに惹かれるのが高校生というもの。
嬉々として見た目重視の装備を選ぶ人も少なくなかった。
まあ件の早乙女さんは真面目なのでちゃんと性能重視の物を騎士さんに聞いていたんだけどね。
それでクラス一のコスプレ装備のなってしまったのはなんと皮肉なことか。
あ、早乙女さんは後衛の氷魔法使いなのでドレスの裾は邪魔じゃないよ。
で、何故か信介君がクラスの女子について語り出したんだけど……。
「『早乙女』っていうのは田植をする女性のことで、いかにも西洋っていうあの衣装とは名前の意味では合わないんじゃないかな?」
「マジレス乙!! 論点ズレてるよ!!」
ちょっと、唾が飛んできた。
「だからなぁ、俺が伝えたいのはお前の女子への興味のなさなの! ほら、あそこで談笑してる宮森さんの顔を見てなんとも思わねえのか!」
「楽しそうだね」
「ちげーーー!! 学校一の美少女である宮森さんにその感想、無礼だぞ! 万死に値する!!」
ふむ、さっきから信介君との会話はどこか噛み合ってない気がする。
顎に手を当てて考えるポーズでキーワードを整理してみる。
早乙女さん、美しい、女子、興味、宮森さん、美少女………。
ああ、そういうことね。
「確かに。宮森さんは綺麗、っていうか可愛い顔立ちをしているし、学校一と言われるのも納得だ」
俺がそういうと遠くにいる宮森さんがガバッッ!!と物凄い勢いでこちらを振り向いた。
驚愕の表情をしている彼女には友達の心配する声は聞こえないようだ。
宮森さんはサラサラの黒髪を肩まで伸ばしていて、身長は160cmくらい。
美醜感覚にあまり自信のない俺だけど、美少女といわれて納得できるくらいに可愛い。
「お……おお! やっと分かってくれたか! そうだよ、そうなんだよ。そういうことなんだよ。性格もいい子だよな!」
「楽しい人だよね」
「だよな! スタイルも良いしな!」
「規則正しい生活を送っていそうだね」
「ん……? か、彼女にしたい人No.1だよな!」
「へぇ、そうなんだ。すごい友達を持ったものだ」
「ノォーーーー!! やっぱダメだこいつ! 宮森さん力になれなくてすまーーん!」
突然叫び出してそのままうずくまってしまった。
「異世界に来て一ヶ月、そろそろSAN値がピンチだね。信介君」
「大丈夫だから! まだダイス十回振れるくらいには残ってるから! それより俺はお前の男としての感覚が心配だわ!」
10d6……結構ある。
「そうだよ芦原君! ていうか付き合いの長い私を差し置いてなんで三崎君と名前で呼び合ってるの!?」
遠くで話していた宮森さんがいつのまにか乱入してきた。
うーん、そういわれると確かに変だ。
でも名前呼びは結構自然な流れだったから……。
「密度の違いかな……?」
「密度……は! まさか二人とも……」
「違ーーーーう!! 早合点しすぎだぁ! つーか凍弥も誤解を招くような言い方すなーー!」
全く話についていけない。
信介君が息を切らしていると、出発を告げる団長さんの声が聞こえた。
「よし、全員揃ったようだな。ではこれからダンジョン演習へと出発する! 場所はここから北、リュアルの迷宮だ! 弱いとはいえ魔物が跋扈する危険地帯。皆、気を引締めるように!」
さて……。
俺にとっては異世界に召喚されて以来の大イベント。
文字通り運命の分かれ道となる。
乗り切れなければ待つのは死。
乗り切ってもその後どうなるかは分からない。
「じゃあ、気持ちを切り替えて頑張っていこう」
できる限りのことはやった。
あとは本番のみ。
チラっと作戦を共にする彼に視線を向ける。
「「ハァ………ダメだこりゃ」」
宮森さんと二人揃って言われてしまった。
あれぇ?
今まであえてキャラの外見の描写をしませんでした。
主人公がピュアすぎるからいけないんだね。




