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15、決着と、不安

ガッッ!!!!


 誰もが息をのんで闘いを見守っていた訓練所において、その音はよく響き渡った。

 一瞬遅れて、クラスメート達が音の発生源へと目を向ける。

 

 その視線の先にあったものは……


「そういうことかよ、三崎ィィィー!!」


「悪い……な。だが、お互い様だぜ!」


 重なり合う二つの木剣だった。


 藤沢君のユニークスキル発動の瞬間。

 そこを狙って背後から三崎君が不意打ちを放った。

 これが、今起こった出来事だ。


 俺は藤沢君が仲間を連れてくると予想し、そうなった場合俺がその仲間を引き付ける。

 藤沢君が大技を繰り出すタイミングを見て、隠れていた三崎君が背後から藤沢君を叩く。

 このとき、誰が代表かーーつまり、誰の攻撃が有効と見なされるかを明言しない。

 これが、揚げ足を全力でぶんどろう作戦の全容だ。

 およそ勇者が考え出した作戦とは思えないね。我ながら酷い。


 昨日の時点でこの作戦の内容は伝えてあり、結果として俺の誘導もうまくいって、見事三崎君の木剣は藤沢君の頭を捉えた。

 でも、そこまでだった。

 三崎君の木剣は、藤沢君によって受け止められたのだ。


「そうか、芦原が代表なんて言ってなかったもんな。だが、ハッハァ! 残念。俺はこの通り無きz……」


ーーバァァァン!!!


 藤沢君の言葉を遮るようにして再び響いた音は、先ほどの硬質な音とは違い、確かな質量を持ってその場に驚愕をもたらした。

 当然、木剣を藤沢君を攻撃した音だ。


「まあ、三崎君が代表とも言ってはいないけどね。あ、そうそう。窮鼠猫を噛むっていうのは言い換えると………油断大敵、かな」


「………」


 あれ?

 上手く締めたつもりだったのにみんな困惑顔だ。

 ま、いいか。


 ルールは、こっちの代表者が藤沢君に一発でも攻撃を当てればOK。

 こういう言葉遊び的なものは明言を避ければどうとでもなる。

 唖然としていた二人の取り巻きを抜けられたのは昨晩の練習が活きた。


 あーよかった。

 勝ててよかったー。


 その場の全員はしばらく呆然としていたけど、審判が慌てて勝敗を下した。


「しょ、勝者、トーヤ・アシハラ殿!」


 そして揚げ足ぶんどろう作戦も認められたみたいでよかったー。


 その後、藤沢君が決着について抗議したせいで一悶着あったみたいだけど、疲れていた俺は笑顔で無視した。

 笑顔で無視した。

 そんなに大事じゃないけど二回言いました。





「やったね! すごいよ芦原君!」


「いやー、一時はどうなることかと思ったぜ。ていうか宮森さん、俺は? 俺もすごくね?」


「ああ、うん。三崎君も頑張ったね。スゴイスゴイ」


「何故に棒読み!?」


 それは、作戦立案から主な役割まで殆ど俺がこなしたからじゃないですか?


「不意打ちミスった時はマジで焦った。Anotherなら死んでた」


「大丈夫だ、問題なかった。あとそれちょっと使い方違うよね」


 実は俺が最後に攻撃したアレ、アドリブだったんだよね。

 終わりよければ全てよし。な結果に収まった訳だけど。


「おお! 芦原もなかなかネタ知ってんじゃん。それじゃあ」


「芦原君、三崎君」


「え、なに……って先生!?」


 む? 本当だ。

 俺達が話していた会議室の入口、開きっぱなしにしていたドアの向こうに先生が立っていた。

 先生は小学生並に背が小さいので気がつかなかった…とは本人の前では言えない。


「先生? どうしてここに?」


「なにかありましたか?」


「いえ……一応お礼をと思いまして。今日は二人ともありがとうございました。そして、何の役にも立てなくてごめんなさい……」


 先生が自分から話すのはこっちに来てから初めてのことだけど、相変わらず表情は優れない。

 それどころか自己否定がさらに酷くなっている。


「じゃあ、私はこれで……」


「先生」


 立ち去ろうとする先生を呼び止めてみた。


「先生のこと、みんな必要としていますから」


「っ!」


 俺の言葉に一瞬顔を上げかけたものの、またすぐに俯いてしまった。


「私には、力がありません。私は強くないんです。今更出しゃばったところで、なにも変わりません」


「そんなことないです! みんな不安なんです! だから、頼れる大人がいないと……」


「私は! 頼れる大人なんかじゃ! クラスのみんなの頼りになんか、なれないんです。相応しくなかった……。なんで……私が………」


 宮森さんが必死で励ますも、それは逆効果だったようだ。

 声を荒げる先生に、誰も、なにも言えない。

 先生の心は、固く閉ざされてしまっていた。


「ごめんなさい。そして、ありがとう。芦原君、宮森さん。少し元気が出ました」


 それでも生徒に最低限の言葉を残したのは、生徒を教え導くという教師としての使命感の表れだったのかもしれない。

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