〈あとがき〉
雨は、永遠に止まない。
この物語は、鏡の向こう側で溶け合う二つの影を、ただ静かに見つめていただけのものだ。
愛という名の怪物が、どれほど優雅に、どれほど残酷に、人の輪郭を飲み込んでいくのか——それを、黒いフィルター越しに、ただ映し出しただけ。椎名零は、鏡野葵の藍色の瞳に沈んだ。
鏡野葵は、椎名零の影を自分の形に溶かした。
二人は、もはや「二人」ではない。
一つの、歪んだ、しかし完璧な永遠となった。
私はこの小説を書きながら、幾度となく自分の影を鏡に映してみた。
果たして私は、零か。
それとも、葵か。
あるいは、すでに鏡の向こうで、溶け始めているのか。歪愛サイコノワールとは、愛の理想形を、冷たい刃でゆっくりと切り裂くジャンルである。
甘い毒を、黒い硝子に注ぎ、読む者の喉の奥まで流し込む。
あなたが今、胸の奥に感じているあのざわめき——それこそが、この物語の真の結末だ。雨の夜に、誰かと目が合ったら。
その瞳が、あなたの影を飲み込もうとしていることに、気づいてほしい。
気づいたときには、もう遅い。
しかし、それでもいい。
愛とは、ときに、そんなにも美しく、残酷で、溶けるものなのだから。鏡の向こうで、永遠は静かに微笑んでいる。
あなたが次に、雨に濡れた路地を歩くとき、
この物語の欠片が、
あなたの影に、そっと絡みつくことを願って。
鏡野 零より、
いや——
鏡の向こうより、
愛を込めて。
―― 完 ――




