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第43話 混入された薬の真実

ご覧いただき、ありがとうございます。

「それでは妃殿下、時間もあまりありませんので、早速用件を三つほど述べさせていただきます」

「はい、分かりました。お願いします」

「まずは、先程申し上げた通り、これから妃殿下の魔力の質を測定をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか」


 魔力の質……。どのように測定をするのかしら……? 

 そもそも魔術に関しては殆ど知識が無いので、魔力に質があることも知らなかったわ。


「魔力の質自体は、容易な方法で測定することが可能です」


 そう言ってバルケリー卿は、自身の鞄から何か細長いガラス状の道具を取り出した。

 何処かで見たような気がするけれど、……そうだわ。以前、陛下がご自分のビューローから持ち出した、何かの道具と似ているのね。


「これは、魔力の質を測る専用の計測器です。よろしければ、右の手のひらを広げ腕を私の方へ伸ばしていただけますか?」

「はい、分かりました」


 右腕をバルケリー卿の方へ差し出しすと、早速その計測器を手のひらに接触させて計測を始めた。

 ヒンヤリとした感触だと認識したら、すぐにそれはわたくしの手のひらから離れていた。


「計測が終わりました。妃殿下はやはり『軟質』の魔力のようですね」

「軟質……。やはりと言うと、副魔術師長にはあらかた見当がついていたということでしょうか」

「はい、お察しの通りです。魔術師は皆、気配で他人の魔力を感じ取ることができるのですが、手練れの魔術師ともなれば魔力の質も同時に感知をすることができるのです」

「では、副魔術師長は陛下の魔力も感知をしているのですか?」

「もちろんです。陛下は恐らく『硬質』の魔力だと推測をしておりますが、もしその通りであれば、先程私が申し上げた『中和』が無事に行えます。……それにしても、硬質の魔力を持つ者は実は殆どいないのですよ」

「そうなのですか?」

「ええ。……ですから、妃殿下はご自身のご伴侶が陛下であって、誠に良かったと言えるのではないのでしょうか」


 胸の鼓動が高鳴って来た。

 そのようなことを、今まで誰からも言われたことがなかったのもあるからか、思わず涙も(にじ)みそうになる。


「まあ自分でも、その考え方はあまりにも合理的かとは思いますが」


 バルケリー卿はコホンと咳払いをすると、測定器を鞄に仕舞ってから改めてカウチに座り直した。


「次に二つ目ですが、妃殿下。仮にこれからことが上手く運び体質が改善されたとしても、それだけではおそらく不十分かと推測されます」

「不十分?」

「はい。と言うのもそれにより魔力は凝縮されはしますが、そのまま何もしなければ、恐らく再び飽和状態となり元に戻ってしまうからです」


 胸がギュッと締め付けられる感覚を覚えた。


「左様でしたか……」

「ですので、妃殿下には体質改善の方法を試みた後、しばしの間、魔力の制御の方を会得するために王都内の魔術学園に通っていただきたいのです」

「魔術学園ですか?」

「はい。もちろん、後ほど陛下には私から改めてお伝えをしますので」


 とても意外なことを聞いたと思った。

 と言うのも、その学園は魔術の心得がある者でなければ入学できない上に、確か魔術師の家系の者でなければ入学試験を受けることも不可能だと聞いたことがあるからだ。


「妃殿下は特別な量の魔力をお持ちの方なので、特に問題なくことを運ぶことが可能でしょう。加えて今回は入学ではなく、あくまで臨時的に通うのみなので入学試験等も必要がないはずです。今は七月ですし、これから丁度、学園は夏季休暇に入り生徒は殆どおりません」

「なるほど、夏季休暇ですか」

「はい。魔術学園の講師を直接王宮に招くことも考えたのですが、国立とはいえあくまで魔術学園は独立した機関ですので、講師を個人的に招くと各方面から反発が起きかねません。私が、個人的に妃殿下に教授するのも色々と具合がよろしくないですし。ですが、妃殿下が直接学園に赴くのならば表向きは魔術の視察等の、公務に関わることにすることが可能かと思われます」

「……分かりました。自身がどれ程まで魔術の道に進めるかは分かりかねますが、精一杯努めたいと思います」


 バルケリー卿は強く頷いた。

 その瞳には期待の眼差しと、何処か不安気な感情が入り混じっているように感じられる。


「先の魔術師長の就任式にて魔術学園の学園長も出席をされる予定ですので、その際にご紹介をさせていただければと思います」

「はい、分かりました。是非、お願い致します」

「それから、最後の用件ですが……、妃殿下の白湯に混入されていた薬、あれは『負の感情を高めて負の本心だけを口外させる』と言う、極めて一つの事柄のみに焦点を合わせた魔術薬のようです」


 バルケリー卿の言葉の意味を飲み込むのに少々時間が掛かった。そして、その意味を飲み込むと一気に背筋が凍りつき、身体も徐々に震えてくる。


「正直なところ、この件はお伝えするべきか迷ったのですが、陛下に相談をした際、妃殿下はおそらく気にされているので伝えて欲しい、と仰ったので伝えさせていただいた次第です」

「……左様でしたか」


 負の感情……。

 そうよ、だからあの時、心中に陛下への黒い感情が湧き上がってそれを抑えることができなかったのだわ。

 けれどきっと陛下は、わたくしが今もそのことを気にしていたら良くないと考えて、薬の効果をわたくしにも伝えることを選択されだのだわ。

 陛下への温かい気持ちが湧き上がるのと同時に、疑問と恐怖心も湧き上がった。


 ──誰が、何の為にこんなことを……。


 すぐにカーラのことが脳裏に過った。


 ……けれどカーラがそんなことをして、何の得になることがあるのだろう。初夜の儀を失敗させて、わたくしの信用を失墜させたかった? 

 けれど、わたくしの信用を失墜させる手段は何もこれだけではなかっただろうに、どうして彼女はこの手段を選んだのだろうか。

 何かカーラが感情的になって動いたような、そんな風に感じる。


 それを含めて、わたくしはきっとカーラのことを何も理解していないのだわ。これからは恐れるばかりではなく、冷静に向き合って判断しなければカーラに立ち向かうことなど、恐らくできない。


 ……それにしても、もしカーラだったとしたなら、どのような手段でわたくしの白湯に薬を混入したのかしら……。まさか。

 いいえ、今はあまり考えないようにしましょう。


「毒の類は、この王宮では一切持ち込めませんから考え出した手段だったのでしょうが、姑息なことを考える輩がいた者です」

「そうですね。……ですが、わたくしはお陰で一切逃げない、目を背けない決意を致しました」

「……妃殿下」


 バルケリー卿は目を見開き、少し考えた後小さく頷かれた。


「リビアの言っていたことは真実のようですね。あなたは真の強さをお持ちの方だ」

「副魔術師長、それは……」


 過分な評価だと言いかけたけれど、オリビアの言葉を否定したくなかったので、それ以上は言葉を紡がなかった。


「先程の妃殿下の魔力の件ですが、準備が整い次第陛下にお伝えしますので」

「分かりました。くれぐれもよろしく頼みますね」


 陛下に先に話を通してもらえると、わたくしとしても周囲から不義を疑われずに済むのでありがたいわ。

 それにしても、先ほど卿が呟いていた「道徳的な面を考える」とはどう言うことなのかしら……?


 気にかかることもあるけれど、バルケリー卿からの話は以上とのことだったのでわたくしは退室し、陛下に挨拶をした後、近衛騎士と共に居住棟へと戻ることにした。

お読みいただき、ありがとうございました。

次話もお読みいただけると幸いです。


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