第44話 不穏な気配
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その後、居住宮へと近衛騎士のリーゼ卿と共に戻り、真っ先にわたくしの私室へと向かった。
今日は様々なことが判明したので心が追いつかない感覚もあるけれど、同時に充実感を覚えている。
ただ、わたくしの内包する魔力のことや、白湯に混入されていた薬の効果などきちんと手帳に記録をしておくべきことが山積みなので、ともかく私室に戻ったらすぐに書き込まなければ。
そう思いながら私室の近くの突き当たりの廊下を歩いていると、突然突き当たりから誰かが現れたけれど、不意打ちだったので、立ち止まることができなかった。
──ドン!
「きゃあ」
突然のことで避けることができず、その場に倒れ込みそうになったけれど、咄嗟にリーゼ卿が背後から受け止めてくれたので大事には至らなかった。
リーゼ卿は一歩前を歩いていたのだけれど、瞬発的に動いてくれたのね。
「妃殿下、お怪我はないでしょうか」
「ええ、問題ありません、ありがとう」
「いえ、滅相もありません」
リーゼ卿はわたくしを立たせるとそっと離れて、目前にいる人物に声をかけた。
「おい、貴様。妃殿下に衝突しておいて謝罪もないのか」
「申し訳ございません! わたくしの不注意で妃殿下を危険な目に遭わせてしまいました。どんな罰でも受ける所存です」
小刻みに身体を震わせて、その場で平伏しているその女性はわたくしがよく知っている女性だった。
「ルイーズ?」
声をかけるとビクリと顔を上げ、焦茶の瞳がわたくしの視線と合った。やはりルイーズだわ。
「リーゼ卿、彼女はわたくしの大切な侍女なの。わたくしと少しぶつかってしまっただけなのだし、この場はこれでおしまいにしましょう。……良いわね?」
「御意」
リーゼ卿はルイーズに対して立ち上がるように促すと、持ち場に戻るように伝えた。
「妃殿下、誠にありがとうございました」
ルイーズは、その焦茶の瞳に涙を溜めていたように見えた。それほど恐ろしい思いをさせてしまったのね。
ぶつかってしまったのはわたくしの不注意もあるのだし、あまり気を病まなければ良いのだけれど。
そう思いながら一礼をし、足早に立ち去って行くルイーズを見送ると、わたくしも再度歩みを進め自室の扉の前まで辿り付くことができた。
……それにしても、目前に現れるまで殆どルイーズの気配を感じなかったような気がするけれど、気のせいかしら。
「妃殿下、それでは私はこれで失礼致します」
「ご苦労様でした、リーゼ卿」
わたくしの私室の扉の前には、別の近衛騎士が常駐しているので、リーゼ卿はこれから彼の本来の持ち場へと戻るのだ。
そして私室内に入り扉を閉じて、ともかく手帳に記録をするためにビューローへと向かう。
わたくしの木製のビューローは陛下の物と殆ど同様の物で、机にも物入れにもなるとても素敵な家具だ。
ビューローの、引き出しにしまっている鍵付きの手帳を手に取ろうと引き出しを開くと、確かにそれはそこに収められていた。けれど……。
「何か、違和感を覚えるような……」
引き出しに収められた手帳の位置が少しズレているように感じるし、何かしら、他の小物類も若干位置がズレているような……。
普段はそのような違和感を覚えないのだけれど、何故か今は強く感じる。
「誰かが、引き出しの中を物色したのかしら」
呟くと背筋が凍りついた。まさか、その可能性はない……わよね?
それに私室の前の扉には近衛騎士が駐在しているのだし、不審者が侵入するなんてことは起きるはずがないわ。
そう自分に言い聞かせるのだけれど、反して瞬く間に心臓が波打って来た。
「ともかく、手帳を確認しなければ」
そうよ。手帳には鍵が掛けられているのだから、それを解錠するなんてことは……。
けれど、万が一誰かがあの中身を読んだのなら、……あれにはわたくしが時を遡って来たことを前提に書いた様々な考察が書かれているのよ、万が一他人の目に触れでもしたら……!
震える手で何とか手帳を両手で持ち上げ、鍵の部分を確認すると、……それには、違和感を覚えなかった。良かった、こじ開けたりした痕も無さそうだわ。
そして胸元からペンダントを取り出し、その付け根に取り付けておいた鍵を手に取りそれで手帳を解錠した。
すぐさま中身を確認するけれど、特に不審な点は見受けられない。良かった……。
大きく安堵の息を吐いた後も、何処か不安は残っているように感じた。
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