最終話・これからのゾンビ
ゾンビにまつわることは変化が激しい。私がここに書いたことも数年後には時代遅れと言われるだろう。
世界の紛争地域ではゾンビが活躍するようになった。
アメリカではもと軍人のゾンビで作られた特殊部隊が設立されたという。
国ごとでゾンビに人権を認める、認めないといったことでも違いがある。このことで暴動が起きたりもする。
中東では選挙に立候補したゾンビが事務所ごと襲われて、立候補者がバラバラに解体される事件も起きた。
世界はゾンビに傾いている、こう感じてゾンビに対して攻撃的になる人たちが事件を起こす。
日本は平和な方ではあるが、ゾンビというだけで学校で虐められたり、職場でハラスメントを受けることが、度々問題になる。
しかし、迂闊にゾンビに手を出した者は噛まれてゾンビになってしまうため、こちらの方が事件になってしまうこともある。
今もゾンビ排斥運動を続ける人達がいる。
それに対抗するかのように、人を敵視するゾンビの集団もいる。
この溝はなかなか埋まらない。
しかし日本は人とゾンビが共に暮らす国として、そのモデルとして、世界から注目される。
これは人口減少による労働力の不足をゾンビで補おうとした民間の企業から始まった。
人の半分の人件費でよく働くゾンビは、日本には無くてはならないものとなっている。
今ではゾンビがいなくなれば、社会が回らない、経済が破綻する、と言われるほどに。
農業に製造業では現場で働いているのは人よりもゾンビが多くなった。
24時間営業の店舗は夜間の勤務はゾンビに頼るようになった。
そう、私たちゾンビが日本の経済を支えているのである。
ある日突然にゾンビになったからといって、もう嘆くことは無い。
不慮の事故、不意の事件でゾンビとなり、これまでの生活が一変したとしても。
未だにゾンビを毛嫌いしてる人達も多いが、人々はゾンビを必要としている。
私は市川君、夏樹さん、中川さんと協力しゾンビのための生活相談センターを作ることにした。
とは言ってもインターネットでホームページを作成したばかりなのだが。
ゾンビとして生活していく上での役に立つ豆知識などまとめていく。
夏樹さんの100円ショップで買えるクエン酸を使った安上がり消臭テクニック、が好評のようだ。
法律などの整備が遅れているため、ゾンビは自分達のことは自分達でやっていくしかない。
その中で人とのトラブル、賃貸など住居のこと、職場で起きる問題など、解決が難しいものもある。
これらの問題をゾンビ同士で協力し、解決していこう。孤立しがちなゾンビと連絡を取り合い、相談をしよう。
ときには悩みや愚痴を聞くのもいい。
そんな気軽に利用できるゾンビ生活相談センター。
上手くいくのか心配だったが。
「え? ……いつもやってることじゃないですか?」
夏樹さんが私を見て呆れたように呟いた。
「まぁ、そういう人なんですよ」
市川君がカチャカチャとパソコンのキーボートを叩きながら言う。
「そんなわけで、いつも通りやってくれ」
ゾンビになって退院した中川さんは、この事務所を提供してくれた。資金面では中川さんに頼りきっている。
こっそりとゾンビ保険に入っていたという中川さんは、奥さんのところにかなりの額の保険金が入ったらしい。
その奥さんは旦那さんがゾンビになったことと、その保険金で新しい事業を始めた。
「とりあえずこんなところね」
この事務所の所長は中川さんの奥さんだ。旦那さんがゾンビになっても奥さんは人間。
書類上の代表者については人間である奥さん任せになってる。
ゾンビ専門のアパート経営を始めている。
「土地の税金対策でやってて、入居者がもともと5割しかいなかったから、これからはゾンビ可物件でいいでしょ」
いまだにゾンビは人と同じようには暮らせない。だが、それはそれでいいと思う。
人とは違ってもゾンビなりの権利、ゾンビなりの義務、ゾンビなりの福祉はこれからみんなで考えて作っていくものだから。
世の中ではゾンビが関わる新たな事件も増えた。
ゾンビと気づかずに献血された血液を輸血してゾンビ化した患者。ゾンビの臓器を移植用として違法に売買する組織。
ゾンビを使ったテロを画策する武装組織。
国境を跨いで全人類のゾンビ化を企むカルト組織。
ゾンビを危険視して過激になる人間至上主義者。
ゾンビを認めない宗教団体によるゾンビ狩り。
アメリカではゾンビを州の外に追放したところがあり、これは世界中のゾンビ擁護派から非難されている。
日本でも人件費の安いゾンビに職を奪われた、という人達がデモを起こし、ときには実力で排除しようと過激な行動に出るひともいる。
今でこそ人とゾンビがそれなりに共存しているが、これは危ういバランスの上に成り立っているのではないだろうか。
だから、もしもゾンビなって不安や悩みを抱えることがあれば、
なにかトラブルに巻き込まれるようなことがあれば、
気軽にこのゾンビ生活相談センターに連絡をして欲しい。
ひとりで悩まず、まずは電話を。
ホームページの相談コーナーに投書でもいい。
最後にゾンビになって退院した中川さんの言葉が印象的で、今では私たちの合言葉になってるこの言葉で閉めさせてもらう。
『これからは、ゾンビで』
読了感謝