調査結果は数値とメモとお願いと…
なんだかんだで今日も一日、グラディエーターもどきが始まる。
あの後、どちらを選んだか?
現行のポンコツ飼主か、新しいペストマスクの怪しい嘴人間か。
変な選択肢を与えてくれるものだとは思ったが、選べるのであれば選んでしまえ。
と言っても、考えるまでもなくポンコツ飼主の元へ頭を埋めましたよ。
嘴人間側には、まあ…どちらにしろ何度も会いに来る事でしょうからね。
それになんとなくですが、飼主はどちらに転んでも厄介事を引き込んでくれそうですし。
であるならば、目に付きやすい立ち位置にいるのが最良との判断でございます。
そうそう、ヨルンの調査結果についてですが。
なんとなく覚えのある表記で紙面にて開示されましたぞ。
――――――――――――――――――――――――
名前:【ヨルン】ランク:E 種族名:『サーペントエッグ』
Lv:7 HP127/127 MP182/182
攻撃:(B)41
防御:(E)65
魔法:(C)103
速度:(A)30
・ユニークスキル:『複数有』
・攻撃『尻尾関連+4』『体当たり+1』『転がる+1』『蛇眼+2』『威圧+2』
・特性『抗体持ち+3』『熱源感知』『暗視』『幸運の卵+7』
・通常『追跡+2』『暗殺+2』『受身+3』『脱皮+1』『毒持ち+2』
・耐性『毒耐性+3』『麻痺耐性+2』『出血耐性+1』『呪術耐性+?』
追記:不明点が多い。能力値は平均より上。特にMP量が多い。
ユニークスキルの影響であると推測。過信は禁物。無理はするな。
スキルに関しても異常な数だが上位ランクに通用する程強い訳ではない。
地力を伸ばせ。才能はある。気長にやると良い。
――――――――――――――――――――――――
あれですな、念願の数値化ですよ。
スキル関連もなんだか多いようで、そこそこに開示されています。
…しかし数値の前にも情報がありますな。これは一体?
育ちやすさとか、その能力を扱えているかとかそんな所でしょうか?
とりあえずこの情報は飼主も知り得ている情報です。
比較対象が無いのが不親切ですな。
まあ、この辺は仕方あるまい。
どうせなら対戦相手の情報も欲しい所だったんですけどねー。
どこぞのモンスターを育てて対戦させる系ゲームでも相手の能力値ぐらい教えてくれたりする物もあったじゃないですか。
対戦前にアドバイスしてくれるとかあっても良いじゃないですか。
弱点は顎ですぜ!とか。
脛を叩けばイチコロよ!とか。
無理な減量でスタミナが無いんだぜ!とか。
最近太り過ぎで奴のパンツのゴムは弾けそうだ!とか。
ふぅ…現状ではこれ以上どうにもならないので変な事を考えてしまいましたな。
嘴人間が調査した情報に戻りましょう。
スキルは、まあ大体こんなもんなのね。
+表記があるという事は…数字が多いものは凄いって事ですな。分かります。
ヨルンは毒を持っているらしく、耐性もそこそこにありますな。
呪術とやらにも耐性があるようですが、それは?になっとります。
気になる所は若干、大雑把に尻尾関連だなんて纏められてる部分がありますね。
幸運のタマゴとやらが抜きん出て+7であるのがなんだか嬉しい気がします。
やはり細かい所は分からずとも、ある程度の表記がされているというのは良いものです。
嘴人間に感謝ですな。
追記の説明もヨルンの身を案じているのが分かります。
そしてそれはヨルンのタマゴの隙間にひっそりと捻じ込まれたメモの内容からも感じ取れる。
――――――――――――――――――――――――――――――
文字が読めるかどうか分からないが可能性は高いと思い、このメモを送る。
アリエルは金は持っているが頭を持っていない類の人間だ。
舵を握ってやらないと暴走する類の厄介な人種。
尤も、お前が扱える立場でない事は承知している。
私が手助けしてやろう。お前はお前で出来る事をしろ。
手助けの対価は珍しい魔物を一つ。解剖させてもらう。
というのは冗談だ。
アリエルを助けてやってくれ。
今後はなるべくお前と一緒に行動するように言っておいてやる。
この情報を出すか迷ったが。信頼を得るために一つ伝えておく。
アリエルは魔物をスキルによってティムしたと思い込んでいる。
主従関係を結び、危害を一切加えられないようにするスキルだ。
それが働いていないという事は、アリエルの力不足であるか。
対象の魔物が特殊だという事だ。
お前がアリエルを助けている限り。
私もお前を手助けしよう。
彼女は良く金を落としてくれるお得意様だからな。
この関係が続く限り。
私はお前を。ヨルンを信用する。サイレンより。
尚、この手紙は読み終わったら煮るなり焼くなり食べるなり処分して貰いたい。
見られて困るような物でもないがそこ等に捨てられても困るからな。
――――――――――――――――――――――――――――――
ふむ、飼主の名前はアリエルと言うのか。内容は理解出来たのでメモ手紙は食べちゃいましょう。
うーん、紙というにはちょいと濃いめの味がする。もしゃもしゃ。
そしてあの嘴人間の名前は…えーと。サイレンっていうのがお名前ですか?
しかしまあこの世界にやってきてから、手紙なんて受け取るのは初めてですよ。
言語の壁もありましたが、今ではもうしっかり馴染んじゃってますし。
スキルとは便利なものよ…多分。このユニークスキルとやらの中に言葉の情報が詰まっとるのですね。
そんなスキルのお陰か、中途半端に記憶を持ったままヨルンさんがこの世に生まれちまったって訳ですな。
とりあえずペストマスクのお方はサイレンさんという事で良さそうです。
さてとヨルン回りの人物名も判明した所です。
ゆっくりと情報を確認し、今後の方針を整理したい所ですが…
何せ、今の自分は檻の中。
飼主であるアリエル。ヨルン的にはポンコツアリエルと呼びたい飼主なのですが。
どうしてこうなった…手助けとはなんだったのか。
「蛇ちゃん…お前の顔を見れるのもこれが最期か」
「あの飼主。馬鹿だぜ」
「いっそ…こいつ盗んじまうか? 替え玉用意して」
「やめとけやめとけ。同僚からの忠告だ。
サーペントエッグの替え玉なんか無理だぞ。下手な事すりゃ首が飛ぶぜ。文字通りな」
「ああ…勿体ねぇ。こんなレアもんが…」
「なんだってDランク相手に試合組まされる事になったんだ?」
「知らねーよ。貴族の考える事は分かんねーぜ」
「やめとけやめとけ。考えるだけ無駄だぜ。
考えるより、賭けるぞお前等。
オレはこの蛇に銀貨一枚賭けてやる」
「ケチ臭ぇーな。いいぜ。俺は金貨賭けるぜ!勿論この蛇ちゃんにな」
「おいおい…まあ好きにしろよ。自分は賭けねえぞ」
「なんだよ。良いだろ? 賭けろよー。どっちだよー?」
「チッ…ほら銀貨一枚だ」
「どっちだよ? んー?」
「んなの。この蛇に掛けてやるに決まってんだろ」
「なんだよ。結局同じじゃあねーか」
「「「がんばれよ。応援してるぜ」」」
図らずともに対戦相手の情報収集が出来てしまった。
彼等は魔物が閉じ込められた檻を運んだり、試合後に掃除をしたり。
その他諸々の雑用をこなす系のお仕事に付いている方達です。
顔ぶれは数名の者が入れ替わり行っているようですが…
今目の前の人間達は3回目ですな。つまりヨルンとは全試合分関わっています。
そんな彼等から聞かされた情報は…
ランクDの魔物と戦わされる。という情報でした。
それを聞いた瞬間のヨルンの心情は穏やかじゃなくなりましたね。
ランクの差というのはどうにも埋めがたい能力差がある。
それはもう…身をもって幾重にも及ぶ死の体験を持って理解をしています。
理解しているつもりです。一体自分は…何度、死んだのか?
今回ばかりは自分の勝ち筋は限りなく低い。と思われます。
頭を抱えて丸まりたい気分になりましたが…彼等のやりとりに救いを覚えました。
涙腺が思わず緩みましたよ。
ヨルンさん、こういうのに弱いのです。
深く語らず行動で示す彼等の期待には応えてやらねばならぬ。
心に熱い火を灯したヨルンの能力はほんのり上昇した。
これは…気のせいではあるまい。
魔物足る者…決意を固めて自身の意思を貫き通す気概があれば…なんだって出来るモノさ。
飼主の。アリエルの…
名前も知らぬ雑用達の…
見ているであろう観客たちも期待も…
この身に受けて、勝利を届けようではないか!
ガコンッ! ガシャコンッ! ガララララッ…
ヨルンを捉えていた檻が開かれる。
今回の客層は…コロセー!ブッコロセー!系の集団ですな。
ヨルンさん静かな方が好きなんですけど。
煩いにしてもヨルンへ向かって声援してくれるとかなら歓迎なんですけど。
どうにもそういうのは関係なしに魔物同士の戦いが見たい系な輩が多いのですな。
そして今回はどうやら、1対1の模様です。
ランクD相手に複数戦とか無理ゲーですよ無理ゲー。
いやぁ、1対1で良かったわー。これならなんとかなりそうだわー。
なんて現実から目を背ける時間もお終いです。
ガコンッ!
ガコンッ!
ガコンッ!
カシャッ…カシャッ…カシャッ…カシャッ…!
ドジャーン…ズッズウゥゥゥーン!!!
対する相手方の檻は巨大だった。
何故あんなに大きいの?
なんであんなに重厚なの?
答えは簡単、対戦相手の魔物が大きいからですよ。
ああ、こりゃあれだ。
匹夫の勇って奴でしたね。
匹夫の勇ではダメでしたよ。
ヒップノユー。お尻の君が美しいよ。
HIPのYOU。お尻フェチの同好会ですからねー。
プリティーな巨尻が尻尾をふりふりしながら檻より顔を出してます。
嗚呼…ついに出て来たか。
体格で圧倒する系で、自分よりランクが上の魔物が…
ここまで来たら逃げる事は不可能。
嘴人間を選んでいれば…なんていう後悔をしても意味はない。
であるならば、相手を倒すという決意を固めるお時間です。
ヨルンは…勝ちますぞい!
勝って観客を沸かせてやりますよ!
耳を澄ませばその観客達の声援は9割がたヨルンの応援でないと知り…
ヨルンは観客の声を無かった事にした。
相対する魔物にだけ感覚を集中する事にしたヨルンに最早観客を気にする思考の枠は残っていない。
さあ…ランクDの魔物とやらのお姿。
見せて貰おうじゃないですか。
覚悟を決めたヨルンとは対象に。
檻に入る向きを間違えた魔物は中々出られずに金属音を鳴らしていた。
そんな姿を見たヨルンは思う。
大丈夫なのかアレ?
依然として尻を向けたままの魔物は出る気配もなく。
闘技場側の失態であるので電気を放つわけにもいかない。
ただただ、緊張感を削ぐ時間が稼がれて闘技場は何とも言えぬ喧騒に包まれていた。
* * *
名前が増えると、書いてる自分が覚えられなくなるという。
途中経過で整頓するべきかと思うけれど。別に今後登場する予定のない子も沢山いるという。
そんな事を考えるより戦闘準備だ。難しい事は考える必要ないのだ。




