表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/196

蛇の道は蛇

 ヨルンが床に倒れ伏す。

 モブ達が慌てふためく。その慌て様は魔物とは思えないぐらいにコミカルだ。

 そんな騒がしい中でネーサンは正座をしながらお茶を飲んでいた。

 しかし正座と表現したものの、体の部位が邪魔なようで少し座り辛そうに見えた。



 何から話せば良いのか。

 まずはそうだった。ヨルンはスネークリングの姿となりて待ち構えていました。

 いつ帰ってくるか分からなかったので何日かはこの家で待つことにし、

 状況を見て方針を決めようとの事で策を練っていましたが

 数日後に魔法使いのおっちゃんが帰ってきた。

 我が家を占拠されている様子を見て一体これはどういう事じゃあーと驚きの声を上げ…

 その後にウッ…と心臓を抑えてその場に蹲りこれはヤバイと全員で介抱した訳だが。


 結果から話そう。魔法使いのおっちゃんには中途半端に記憶が残っていた。

 スネークリング時代に一緒に過ごしていたあの時の記憶だけが綺麗に都合良く…

 それでもその一部だけが少し…程度のものだったのだが。


 そんな事はあるものか?

 悪いとは思ったが呪術による催眠術を敢行。


 我が呪術に勝てるものなし!

 そう思っていました。

 故に呪術を使う前に宣言をした訳ですが。


「甘いわ! ホイヤァァーー!」



 スパコーン!



 ヨルンの脳天に木製の杖が振り下ろされた。

 杖自体の威力には全く重さも乗っていない一撃ではありましたが。

 なんというか魔力を断つ一撃です的な力を感じました。

 お陰様で呪術の為に貯めた魔力は霧散。程よく衝撃を受けたので流されるがままにぱたんきゅー。



(ヒャグワーッ!)



 そして大袈裟な動きで見せつつ倒れるヨルンがここにいた。

 そんな様子を見下ろす魔法使いのおっちゃん。

 今はある程度の説明は終えて情報を小出しに探っている真っ最中である。

 今のこの状態。このやり取りも懐かしき思い出の再現であったりする。

 つまりは初対面ではあり得ない戯れを当然のように行っているという状態であった。



「まったく…状況が全く理解出来んわい」


(ボクも同じく状況が理解できないのです)



 一体どの辺まで情報を出せば良いのか。

 そこそこ長い期間を付き合っていたお陰かある程度の流れは読めるものの迂闊な一言で関係を崩したくはない。

 思ったよりは良い状況であるのが良い意味で予想外であったが。



「いずれやってくるじゃろうとは思っていたんだが…

 こんな可愛いお友達を連れてやってくるとはのぅ…」 


 自分がやって来るのを分かっていたような口ぶりのおっちゃんの口調は穏やかではあった。

 内に秘めたる感情が何なのか、それだけで判断する事はかなわなかったが…


 正直な所。仲間の存在を見破られるとは思ってはいなかった。

 ネーサンが居場所バレてるなんて言い出すものだから作戦を変更。

 各々がそれっぽいランクの魔物に変身をしてなるべく友好的に!

 なんて考えたものの変身を行った自分以外の面々は見るからに殺る気満々なお姿しかなかったので結局普段通りのお姿となっていました。


 つまり自分以外は可愛げのある姿で鎮座しとる訳です。

 そんな魔物はランクAに分類されているであろう種類の集まりです。

 外見だけで判断すれば危ない魔物とは思えない姿ですが、

 人間側にとって絶望的な戦力差があるであろう魔物達です。 


 という訳で自己紹介と行きましょう。



(紹介するよ。今のボクの仲間達)



「リムよ。今後ともヨロシク」


「サプであります」プルルッ


「リフです…お見知りおきを」




(そしてこの自分が…)


 全員が名乗った事を確認し、ヨルンは変身を開始した。

 おっちゃんと共に過ごした姿はポンッと子気味良い音を立て一瞬後に変貌する。

 体が軽くなり、視界は若干低くなり。見た目も変わって小さくなりました。

 それでいて尚、溢れる魔力はスネークリングの比ではない。

 無論。溢れた魔力は比較するにも馬鹿らしくなる程にオーラを迸らせてしまっているのでおっちゃんも感じ取っている事だろう。

 おっちゃんにはありのままの自分を見てもらうのだ。


「ティアなのです!」


 種族名の名乗りを上げての変身後はなんとなくポーズを決めました。

 今回はなんとなく4匹揃っているので全員で各々が思い思いのポーズでアピールをする。

 なんだかんだでネーサンもノッてくれているので良い感じに様になっているとは思う。

 おっちゃんの反応待ちの時間がなんとも奇妙な間隔ですな。



「………ゴフッ」



 おっちゃんが口から血を吹きだした。

 そのまま後ろに崩れ落ちるおっちゃんを慌ててヨルンが受け止める。

 どうやらかなりの衝撃を受けてしまったようです。

 オーバーなリアクションに満足する魔物達。


 しかし喜んでいる場合ではありません。

 おっちゃんは興奮しすぎると血を吹きだす事があったのを思い出しました。

 だけど意識が無くなる程の状態は稀である。

 これはヤバイと命の危険がみられたので直ちに治療を開始。

 リフと協力し、助けるべく頑張りましたよ。


 癒しの力を得たヨルンの前にこの程度の状態、治すのは容易い事。

 なんの問題もなく無事に健康な状態へ戻ったおっちゃん。

 身体的な能力は年相応…とは思えぬ程に軽やかではあるのだが…

 油断をすればぽっくり逝ってしまいそうな所は相変わらずに心配です。

 そんなおっちゃんと、こうしてまた普通に話が出来るとは思わなんだ。

 しかし話をする内に知識に差が出てくる所が目立ち、

 なんとも変な会話となる部分が多くみられた。


 ヨルンと過ごしていた数年間は覚えていたものの。

 魔人の襲撃は覚えておらず。

 錬金術であれこれと作った制作物は覚えている。

 その過程で褒めたり怒ったり等という日常は程よく記憶に残っているようで。

 その他にも自身が覚えている事を次々と質問した訳だけれども色々とおかしい面も残る。

 ヨルンと離れていた頃の記憶が一切無いのはどうした事か。

 そうでなくても一緒に居た頃の記憶にも穴が多い。


「んー。コレが覚えててアレは覚えてなくて。おっちゃんボケた?」


「何を言うか! ワシはまだボケとらんぞ。ボケとらんが…

 覚えてないものは覚えてないのじゃ。そもそもに何を言っとるのか?

 流石のワシも混乱しとるわい。しかし、うーむ。やっぱり歳かのぅ…」 


 しかめた顔のおっちゃんは自信が無さそうだ。

 それも合わさりヨルン的な判断によると本人も納得してしまったように、

 やっぱりなんだか歳のせいも相まって記憶に収まりきらなかったと結論付けてしまう。 

 しかしヨルン的な勘によると何かが引っかかる。

 その引っかかっている何かによれば解決はそろそろの筈。


 ネーサン曰く。


 このヨルンの一部を取り込んだ事あるんじゃない?

 その言葉を聞いた時。頭部を360度…720度と回転させつつ記憶を探り、

 ヨルンのお手製お酒…触手ごと頂いてましたよね、このおっちゃん。という事を思い出す。

 となればその可能性は高いと判断し、その辺を調べられるというネーサンに頼んでおいたのだ。


 結果。


 ネーサン命名。ヨルン因子とかヨルンウイルスとか名付けられ。

 おっちゃんが感染してるとか伝えられました。

 効果の程は身体能力が向上している。魔力についても同上。

 とりあえずヨルンお手製の酒を飲めば強くなる? という事らしい。

 馬鹿になるかもしれないけど。ネーサンに付け加えられましたが。


 ちなみにヨルンもステータスやスキルを解析に鑑定してやるぞと意気込み。

 挑戦してみましたが調べられません…ナンデ?

 相も変わらずおっちゃんの底が全く見えぬ…

 涼しい顔してネーサンと一緒にお茶を飲んでおるし。

 ちなみにネーサンもその辺は調べられなかったようで不思議がっていた。

 おっちゃんのプライバシーの壁は厚かった。


 ネーサン自身も失敗経験はあると言い、特に気にした様子もみられない。

 まあ多少強引に行けば見れたりはするレベルであるようですが。

 これ以上深く立ち入るのを本人が拒んでいるなら仕方ない。


 仕方ないで済ませて色々と雑談交じりに交流を深めようかとしたのですが。

 流石は好奇心で家に魔物を軽々しく招き入れる系おっちゃんである。


 珍しい魔物である自分達に折角じゃから調べさせてくれぃ!

 …と、臆する事無く押し迫ってきたのだった。


 これにはネーサンも苦笑い。

 事前に行っていた打ち合わせ中の賭け事はヨルンの勝利でした。

 ネーサン的には命惜しさに要求なんてしてこないだろうと思っていたようです。


 おっちゃんもおっちゃんで、今更惜しむ命でもないわ!

 との事で自暴自棄という訳ではない。


 後先考えずの探求心が勝っている系の人間なのです。

 自分に正直であり、相対する姿勢は友好的でもある。

 しかし考えてみれば自分達、魔物とは言っても見た目だけは無害そうには見えます。

 内面を知らなければ普通はこんなもん?

 このヨルンに至ってはずーっと一緒に過ごしてましたっていう記憶もある訳でして。

 ある意味では家族も同然な生活を送っておりましたから。


 そして押しに押されて体中を調べられるモブ達。


 ネーサンがとりあえず従ってなさいと命じたお陰か素直に従っています。

 体中を触られて、恥ずかしがるモブ達。

 別におっちゃんに変な趣味がある訳でもない所での、この反応がなんとも不思議な感じである。


 自分達の種族に、どこまでの知識があったのだろうかは分からない。

 しかしあれやこれやと自分の知らぬ情報がこれでもかと引き出しより出してくるおっちゃんの知識は相当なものだったと改めて感じさせられた。


 モブ達から収集物をちゃっかりとせしめるおっちゃん。

 ヨルンからも涙を幾つかくれとせがまれた。


 そしてネーサンからも、という所には踏み込まず。

 その辺はおっちゃんも理解していたのだろう。

 ネーサンのダメよ。の一言でおっちゃんは引き下がった。



 サプからはゲル状の魔石を。というか体を千切られた。

 リフからは葉っぱを数枚に根っこを爪垢程度に。ヤスリみたいなのでゴリゴリされた。

 ヨルンよりは涙を数滴葉っぱに包み。鱗を数枚。プチプチと千切られた。

 よくもまあ、こんなに手際よく採取できる事。


 一応ネーサンより取得できるであろう部位の一つが針である。

 ネーサンが話すには精錬した針の用途の一つに自分達を殺せるレベルの武器を作れるとかなんとか。

 その他の部位はとてもじゃないが頂戴出来ません。

 剥いで問題無い部分を話題に出そうものならその瞬間串刺しです。

 なんでネーサンだけ…皮とか甲殻とか内臓部分やらと正確な情報が書物として残ってるのです?

 自分の蛇皮を剥ぎ取る手法も書かれてますし。


 この辺のお話はネーサンが過去…

 人間側に捕まった時に開花したと思われる性癖を察すれば想像に難くありません。

 そしてこんな思考に向いた自分の頭は現在ハリネズミ状態と化しています。

 今なら丸くなって高速移動が出来るやもしれません。

 考えるだけでこの状態(ハリネズミ)なのです。

 口に出したらさらに恐ろしい行為が容易く行われる事でしょう。


 とりあえず引き抜いた針はスライムであるサプが溶かして処理しております。

 一応素材として使える針は射出する用ではなく、ネーサン自身が丹精込めてじっくりと精製する針らしいのでこの程度は別に取られたとしても構わないようですが、なんとなくイヤだそうな。


 その他、各々が渡した物で言えば高性能な回復薬とか魔力の電池みたいな物になるとか。

 そのぐらいなら別に良いじゃない?

 そう話し合った結果に問題無いと判断されて友好の証にお渡し致しました。

 一応、価値は相当なモノになるようです。


 見返りは拠点としてこの家を使って良いと正式な許可を得ました。

 別に魔城作成で拠点なんて簡単に作成できますけれど、

 アレは建築の素材をそこそこ使ってしまいますし。

 ヨルン達の痕跡も残してしまいます。


 故に元々ある家を使えるというのは大きいのですよ。

 ホームポイントの一つとして空間歪曲の為の登録しておきましょう。

 ちなみに現在登録してある場所は以下の通り。



 『大樹の根元』

 『エレナが働いてる宿駅』

 『普通っぽい村』

 『おっちゃんの家』

 『ネーサンの城跡地』

 『聖都だった場所』



 数としては意外と少なく、個人的メモなので適当であった。

 ファンタジー的な名前を付けるのであればどんな感じになるだろうか?

 折角なのでこの場に集まる皆さんと相談して名前を付けてみることにしました。

 おっちゃんも自然と会話に交じりの数十分に及ぶ話し合いの結果。



 『ヨルムンガンドの巨大樹』(別名:世界樹)

 『蛇の通り道』(宿駅)

 『グロシ村』(森の中にあった村)

 『魔法使いの住処』(意外と広い)

 『リムの魔城』(の跡地)

 『聖都グレイシア』(だった場所)



 とりあえずこんな感じにメモをしておく事にした。

 今後も旅をしていく内に増えていくだろう。

 しかしおっちゃんの順応性が異常です。



 聖都が滅んじゃった。テヘペロッ!

 ふむぅ、犯人はオマエさん達じゃったか…納得じゃわい。



 そんな流れで実にあっさりと納得された。

 実際にはヨルン一匹と変なアイテムのお陰で成された訳ですが、

 特に意識してやった訳でもなく気がつけば壊れてしまっていたので…

 今になって思っても納得がいきません。


 こうして情報をそれなりに開示してしまいましたが

 セーブ&ロード関連については女神さんに押し付けました。

 おっちゃんに嘘をつくのはしのびなかったのですが…

 ヨルン達は女神さんと話し合い、交渉を続けた結果。

 その辺に奇跡に近い力は全て女神さん持ち。

 そんな女神的な奇跡の力で聖都が崩壊する前まで時を戻せると聞いた自分達は、

 その為に必要な物を集めるべく旅をしているのだという設定を作り出したのだった。


 …

 ……

 ………


 話を聞いたおっちゃんが長い顎髭を触りながら頷いている。

 一度起きた事を無かった事にする等…関心せんが。

 事が事じゃからのぅ、出来るのであれば…うーむ。


 こんな感じに唸るばかりです。

 そんなこんなで何も問題はなく、

 魔法使いのおっちゃん宅で行える行動は全て終了したと言っても良いでしょう。


「それじゃあ、おっちゃん。ヨルン達は旅に出るのです」

 

「そのうちまた来るわ」


「では我々はこれにて」プルプル…


「私達は蛇の通り道という宿駅を拠点として使っておりますので何かあれば其方に」


 こうして一つの目的を終えた魔物達はゆっくりと移動を開始した。

 目指す目的地は決まっているが故に迷いもなく進み続けるが、

 擬音を付ければたゆんたゆんと揺れ動くその姿は頼りない。

 

 その後姿を見送る老人は心配事のタネが増えたわい、と一言漏らす。

 その一言が聞こえたのか体を震わせシャキッと背筋を伸ばし進み始める魔物達。


「やっぱり心配じゃのぅ…」


 一人残された家の主は魔物達が去っていくその姿が見えなくなるまで見送っていた。



   *   *   *

平坦な展開が続くような。そうでもないような。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ