表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/196

【魔人達の長】

繋がりが突飛すぎたので割り込み投稿したお話。

2~3話後に補填する予定だったのに結局何も触れなかったので入れておきました。

 とある場所で、とある時間に、何か変わった事が起きた。

 コツコツと地道に人里から溢れた盗賊共を、見捨てられた村等を。

 時には大胆に、各国の衛星都市を掌握をしていた我等だからこそ、

 何かしらの変化はあって然るべき、だとは思っていた。

 

 我等はこの世界において、魔人と呼ばれる種である。

 一般では体の内に魔を宿す者として、もしくは魔物が人の姿を偽った者だとも。

 一説によれば、魔物を材料に造られた人間もどきとも言われている。


 実際の所はどうなのか?

 そんな事を聞かれても正直な話をするに、そんな事情等は分からない。

 歴史的な資料等何もなく、魔人の始祖を証明する物なんて何も残っちゃいない。

 伝える者もいなければ、後に生まれ落ちた者が知っている訳でもない。

 魔人の増え方はそこい等の獣と同じだもの。


 そんな魔人達。つまりわし等の前に奴は現れた。

 今になって思う訳でもないが、出合った当初から怪しい男だった。

 仮の体をもってこの世に干渉している等と言っていたが、その力だけは大した物だった。


 自称で神を名乗るその男の姿は、不審者と同等の扱いを受けそうな程のみすぼらしいフードに身を包み、

 その内に纏うは、他の装備と比べる事すら間違いな程に高位な魔法道具というちぐはぐさであった。

 レアアイテムに目のない、鑑定眼に優れる魔人の一人が称賛していたのだから間違いない。

 その男は話術にも長けており、わし等の輪の中へ自然と入り込んでしまった流れについては後々話すとしよう。

 我等が選んだ選択肢は、先の見えぬ戦いに変化を求めていたが故だったのだろううか?

 わしを含め、魔人達の大半はその男を信用してしまったのだ。


 自称神が言うには、自分の言う通りに行動すれば資産は倍々に増えていき、

 魔人達の勢力も広がり、世情への誤解も今以上に解けていき、迫害を受ける事もいずれ無くなるだろう。

 という詐欺師の常套手段のような謳い文句と共に、我等魔人達はその男を信用していた。


 事実、その男が現れてから暫くは、我等魔人の勢力の伸びは倍以上の速度で世間に認知されたのだし。

 しかし魔人達の中にも、その男を不審がる者がいたのも事実。

 上手く利用出来れば良し、そうでなければ始末してしまおうか?

 そういった類の派閥も魔人達の中で出来上がってしまっていたが、

 魔人達の長として、あの時はそれ等の行動を諫めるのにも必死だったが故に、

 わし自身の視野は大分狭くなっていたに違いない。

 何より、その自称神を信用した一番の理由はあの一言があったから、わしは。


「お前が望むなら、魔人という種族の出自についても話してやろう」


 結局の所、聞けず仕舞いではあったが、どうせ聞いた所で何も変わらないのは分かりきっている。

 わしは今此処にいて、魔人達を率いる長であり、リグロースの名を冠しているのだから、

 聞きたかった理由も単なる好奇心にすぎない。

 そしてそれを聞き出す為に、自称神が出した条件は実に単純な事だった。


「魔王リムと、それに付き添うユグドラシルの魔物を呼び寄せ、親睦を深めろ」


 条件を聞く限りに悪くない。

 何せ別段難しい条件でもないのだ。

 兼ねてより、リムとの親交は続いていた。

 いつものように、珍しい物が手に入った等で釣っても良いし、久しぶりに顔を合わせたいでも大丈夫の筈。

 心配な事といえば、アレが自らの城を木っ端微塵に吹き飛ばしてからの怒りが収まっているかどうか。

 交流が続いてから3度目の破壊行為で慣れてはきたものの、異常である事には違いない。


 八つ当たりをされる事はないだろうが、リムの怒りが収まっているかは分からない。

 分からないのだが、アレに関して魔人達の常識等通用する筈もなく、

 悩んでいても仕方がないと、その時のわしは直ぐに行動に移した。

 単純に魔人の使者を送り出して久しぶりに会いたいと、

 固有のルートを使って手紙を渡して貰っただけではあるが、

 特に何の問題も起こらず、程なく返事はやってきた。


 返答は状況も落ち着いたから新しい仲間を連れて会いに行く。

 場所はスコーピオか、ライブラなら明日にでも会える。

 それ以外が良いならば三日後だ。

 返答はハコビヤに伝えるだけで良い。

 ハコビヤとは言葉通りに運べる物ならなんだって運べるリムの便利な使い魔である。


 相変わらずに早いと思うのは世間一般の常識からの感覚だ。

 わしからしてみれば普段より遅いな、という感覚なのだが、

 考えてみれば仲間も揃えての時間なのだと理解すれば納得だ。


 その仲間をどのような方法で連れてくるのかは分からないが、

 リムだけであるならば、此方の移動に合わせての時間の調整をし、

 指定の場所に辿り着いて、指定の時間にはまだ早かったなと思い、

 何をして時間を潰そうかと思った頃にリムがやって来る、という流れが出来上がっていた。

 仲間がいるのだから当然、同じような流れにはなるまい。


 そう思っていたのだが、わし等はいつものように、ハコビヤへ指定の場所を我等の城。

 ライブラと伝え、配下の魔人達へ明日やってくるリム達の歓迎の用意をするようにと通達する。

 普段なら大半が無駄になるであろう見栄を張った料理の数々を準備し、

 次の日にはリムが喜びそうな、各国の都市部で入る上質な酒を蔵より出すことにし、

 それ等を迎え入れる場所へ陳列し終えた頃に奴等はやってきた。


 相変わらずに都合の良いタイミングでやってくる奴だ。


「久しぶりね、リグロース。紹介するわ、新しい友達のヨルン。

 それとその他の2匹。サプとリフ。オマケで連れて来たわ」

 見れば相も変わらずに姿だけは可愛らしいリムと、

 他の者達も、どことなくリムと似た者達の集まりだった。

 仲間を連れて来るとの事だったが、

 その姿を見れば仲間の意味はそういう事だったのかと、姿だけで理解してしまう。

 そして、その中身もリムと似通っているのであれば、

 迂闊な発言は出来ない相手なのだろうとも。

 

「ふむ、お主等がリムの仲間である者達か。

 期待はしておったが、やはり可愛らしいやつじゃったの。

 ほれ、歓迎の準備は出来ておる、先ずは各々好きな場所で楽にすると良い。

 おっと、そういえば座布団で良かったのかの?

 リムの注文通りだったが、お仲間の分までソレにしてしまってな?」

 何はともあれ、先ずは相手を理解する事から始めねばならない。

 好意的な態度を取りつつ、その姿の特徴を観察するに。


 蜂と、蛇と、植物と、スライムだ。


 言葉に出すと、訳が分からない集まりだが、

 ユグドラシル種と言えば見れば分かる種族として今、わしの目の前にいるこやつ等だ。

 外見も仕草も、全てが可愛いと表現出来てしまう種族であり、

 魔物にしてのランクがAという最高位の異常さであると知識にはある。


 そんな者が4匹この場に揃ってしまった訳ではあるが、

 あの理不尽の塊である、リムが関わっているならば仕方がない。

 さらに手に負えない存在となってしまったのだなとの認識を深め、悩みの種を増やした。

 それにしても、いずれサプとリフについては抹殺する。

 そう発言していたリムが仲間として加えている辺りの事情は聞きだしておきたい所だ。


 だが一体何から質問したものか?


 唯一リムが友達と言葉に出したヨルンとやらとも話してみたい。

 当の蛇、ヨルンは器用にも座布団の上にとぐろを巻いて座り?

 ぐるりと蛇の頭を回して辺りを観察していた。

 その他の2匹もヨルンを囲うように座布団の上へちょこんと陣をとっていた。

 リムはそんな仲間と少し離れてわしの横で当然のように、一番の目玉である酒。

 スティシスという名の酒を手に取っていた。

 物珍し気に観察するリムを横目に、気が付いたリムは瓶をその手に何よコレ?

 そうわしに問うてきた。


 リムが分からぬのも無理はない。

 この酒は我等、魔人族に伝わる製法を用いて造った酒の一つであり、

 今の今まで個人で楽しむ為だけに、秘匿していた酒なのだから。

 リムを驚かす為ならばとの、今回の隠しダネに早速食いついてきた事にわしは喜びつつ語り始めた。


「レテの蒸留水。純度を高めたこの水を飲むとな、何もかもを忘れて気持ち良くなれるのじゃ。

 さらにじゃな、この水を使っての酒は、耐性が付いていても素で酔っぱらえる物が造れてな。

 リムに仲間が出来たと聞いてな。これはもう秘蔵の酒を出してでも祝わねばなるまいという訳じゃ。

 ヨルンと言ったな、難しい話は抜きで先ずお前達の話を聞かせて貰おうぞ!

 正直な所、リムの仲間の話が出た時点でそれ以外の事が全く頭に入らなくてのうっ!」

 あらん限りの本音をぶつけてやった。

 未だに一口も酒が入ってない状態で後先考えずに発言してしまったが、リム以外の3匹。

 特にヨルンとやらはには甚く好印象だったらしい。


「ヨルンも難しい事は苦手でな、魔人とやらを相手にする事に、

 何か失礼な事をしてしまうのではないかとの心配はあったが、

 我等の事が知りたいというならば、礼儀も何も考えずになってしまうが良いか?」


 そう言って何処から伸ばしているのか、器用にも触手を三又にしつつ料理を食み始める蛇。

 その背後にはサプにリフがプルプルと震えるているが、それはリムの奴に睨まれているからだ。

 ヨルンの奴が何をしようとお構いなし。

 行き過ぎた事をすれば止めに入るといった顔をするリムを前に、わしもヨルンへ応対する。


「礼も何も、リムの友であると紹介されたのだから、ある程度は構わぬ。

 ところで、遅れてしまったが用意した料理は、お前達の為に用意したものだ、存分に楽しむが良い。

 それでサプにリフだったか。もっとちこう寄れ。

 ヨルンの後ろでプルプルされていては話すものも話せん」


 そうして数時を我等は過ごした。

 話した事と言えば、魔人達の姿が殆ど人間のようだだの、

 魔人達ってどんな事をしているの?

 魔法はどこまで使えたりするん?

 まるで子供のように質問を続けるヨルンを前に、リムの奴が笑いながら答えていた。


「そうなのよ、ヨルンちゃんこれでまだ1歳にもなってないの。

 まだまだ子供だから色々教えていくの。あまり変な事教えるんじゃないわよ?」

「なんと…、一年と経たずにこの姿…じゃと?

 というか外見だけで見たら別に違和感無しに自然じゃが…。

 ふぅむ、ヨルンよ。色々と聞きたければわし等も友達じゃ。

 そこのリムよりもわしの方が、今の世の中教えられる事は多いぞー?」

 何の気なしの会話から知り得る異常な情報に驚きはしたものの、

 自然な体を崩さずに受け答えるのが年の功というもの。

 それに1歳未満というには、自我が出来すぎているヨルンの反応には何かしらの理由があるのだろう。


「うん、ネーサンの知識は化石レベルだから大体参考にならない。」

「それを今言うな。」

 珍しく見る事が出来たリムパンチを受けるヨルンの姿を眺めながら、

 近しい答えも見つからぬまま、サプとリフとの扱いの違いにわしの意識は向けられ。

 アレ等は何故あんなにも目立たないのだろうか。

 同じような種族であろう筈が、あれでは単なるモブである。

 しかしリムの事だ。そんな位置にアレ等を置いているという事はソレすらも策の一つであるかもしれないという事。

 毎度の事のように、リムの中と我等の中での常識がズレている可能性も高いが、得られる結果としては最適なものがやってくる。


 勿論、リムの中での最適解であるのだが。

 わし等が関わるともなれば予想外の結果を得られる事が多く、良い情報になるとリムは毎度喜んでいる。

 それ故にわしはリムとの交流を続けられ、交流を深める事に成功し、今にも至る訳だが。


 その関係に亀裂を入れたのが奴だ。

 自称神の、名はなんだったか?

 おでん。そう、確かおでんだった。


 そのおでんの奴があろう事か、我等が酒で酔い始めた頃合いを狙い行動を開始したのだ。


「良くやったぞ、リグロース。やはり、神の力は魔物の手に堕ちていた。

 お前のお陰で楽にチャンスが回ってもきたからな。約束は守ってやろう。

 さて、今すぐにでも回収してやりたい所だが、そう簡単にもいかぬか」


 何をしたかったのか分からんが、行動に移す前に大仰とした説明をしながら現れるおでん。

 珍しくベロベロに酔って判断力の鈍ったリムだったが、身の危険を感じた後の行動は流石に素早い。

 ドスの聞いた声で、ア”アン!? 等とおでんを睨み付けると迷いなくその脳天に針を突き刺した。

 馬鹿な真似をしたものだとおでんを憐れむも、どうやってリムに申し開きをしたものか。

 酔った頭の中では、その後の謝罪と対応ばかりが浮かんだが、突き刺さった針すらも意にも介さず、

 自称神のおでんの狙いは初めからヨルンであった。


 一体何をしたのか。


 ヨルン自身も相当に酔っていたであろう。

 抵抗する素振りも見せずなヨルンに、おでんは無理矢理に口を開かせ何かを放り込んだ。


 その瞬間、熱いモノでも口に放り込んだかのように暴れ狂うヨルンを前に、

 さらにおでんは何かの液体をぶっかけた。ヨルンの様子はさらに激しくなる。

 何かが不味いと感じたわしは動こうとするも、体の自由が効かない事に気が付いた。


 リムを見れば、蜘蛛の糸の様なモノで体中をベトベトにされ、絡まれているではないか。

 どうやら気を逸らした一瞬でわしも同じような状況となってしまったらしい。

 なぜ、何故こうなってしまったのか?


 他の魔人共はどうした?

 見れれば全てが同じように動きを封じられ、ただただそこにいるだけのわし等と同じな役立たずと化している。

 その瞬間、わしは我慢がならずに、酔いすらも吹き飛ばし、気合の一閃と共に全力で足掻いた。


 まあ、原因が分かればこの程度なんて事もないただの糸である。

 時間稼ぎ程度の効果はあったが、糸も外せて自由になったのであれば、するべき事は一つ。


 とりあえずの所で、自称神であろう原因なおでんをぶん殴る!


 そう思ったのだが、時は既に遅かった。

 向かった先で放たれる光。一切の視界は塞がれ、

 強大なエネルギーが迸り、再び体の自由が効かなくなってしまう。


「一体何がどーなっているのじゃあ!」


 答えてくれる者がいれば答えてくれと、

 ただ叫びたかっただけの行為を終えた後には、さらなる異常な光景が現れる。

 視界一面に広がる、巨大な蛇の魔物の姿が他のモノを視界に入れる事すら許さずに広がっていたのだから。


 そして、その蛇は暴れ狂う。

 光を放ち、爆発し、瓦礫を舞い上げ我等が城はあっさりと瓦礫と化した。

 それはまさに天災だった。



「まさかこんな状態になるなんてね」

 わしの背後に陣を取り、酔いも冷めて油断のなく、突き刺すような声でリムは言う。


「一体どういう状況なのじゃ?」

 その言葉がわしに向けられている事を十分に承知しながらも、出せる言葉はそれだけだった。


「我々では手に負えません…です」ぷるりぃ…

 震えるスライムは目立つ事なくリムに追従していた。


「本来ならアレが私に使われてた訳か」

 リムが何かを察したかのように喋っているがわしには分からない。


「話が違うではないか…アレは流石に不味いのじゃ」

 何も心配はいらないと言っていた、自称神のおでんの姿は無かった。


「あの大きさは規格外というか。記憶にはないですね。」

 植物のように佇むリフは瓦礫を頭の上に乗せながら、平然と状況を観察していた。

 その姿に視線を奪われ、考える事を放棄しかけていた時に聞こえたスライムの言葉が、

 わしの背筋を凍らせる事になり、遠のいていく意識が引き戻された。


「私の知識によるとアレはワールドーイーターという魔物のようです。」プるッ!

 体を振るわせるスライムは不格好にも人の形を保ちながら胸を張って答えていた。

 そんなスライムの言葉に出たワールドイーターとは、世界を食らう者として名高い、

 神話に語られる程の魔物であったが、わしの眼前で暴れ狂うその姿を前にすれば疑う余地が無い。


「で、アイツの守護者は?」

 打ちひしがれるわしを見て、リムはどうにでもなると判断してしまったのか、

 今のわしには分からない話を始めるようだった。


「何の反応もありませんな」ぷるんっ…

 思えばこのスライムもランクがAに分類される魔物。

 ランクがAと言えば一昔前に暴れたアレと同等の存在。


「いつかの魔王アスピクが暴れてた時みたいな絶望感ね」

 そうそう、確かそんな名前の蛇が暴れ回っていたな。


「ふむ。我と比べるか。嬉しい事を言ってくれるではないか!」

 そうだ、若い頃に一目だけ見た事があったがこの様な荒々しく雄々しい姿。


「いや、褒めてないけど。アンタならアレ止めれる?」

 あの末恐ろしい魔王であるならばあのワールドイーターとも渡り合えるのではないか?


「ンなの分かるか! いや…やってみなければ分からぬ!

 しかしヨルンが相手となると…ぐぬぬ!」

 そうか、分からないか。そしてアレはやはりヨルンなのだな。

 あの自称神のおでんは何をしたかったのだろうか。


「ま、とりあえずは情報収集よ」

 リムの言う通りだ。わしは情報が知りたい。

 ゆらりと震える体を引き起こし、わしは誰に言うでもなく問う。


「一体どういう事なんじゃ…なんでこうなったのじゃ…」

 何故わしに聞く? 全く分からない。もう何も考えられない。

 もしかすると酔いがまだ回っているのかもしれないが、幻覚を見ている可能性もある。

 何せ今、わしの目の前には生涯で見聞きした限りでは最強最悪な蛇の魔王が普通に話していたからだ。


「それは我が知りたいぞ!魔人よ!」

 恐怖の存在であるとも言える程に巨大な蛇はわしに向けて何かを言っている。

 思考の纏まらぬ今は止めて欲しいのに、何を考えれば良いのか頭が痛くしかならんのだ。


「そうよ一番知ってるのはアンタよ」

 追従するリムは、わしの尻を蹴り飛ばす。

 普段なら怒りに任せて、掴みかかって返すのだが今はその気力も無かった。 

 逆らった所で馬鹿らしい程の戦力差を感じてしまったのだから、

 多少の現実逃避ぐらいは許されるべきである。


「アスピク様。経緯をお話しします」

 尤も、そこまで長く逃避するつもりもなければ、

 元より、わしに呪術による幻覚等効きはしない。

 リムもその辺を分かっているからこそ、わしのケツを引っ叩いているのだ。

 しかし、何なのだ、この状況は?

 リフとやらが瓦礫を落とした頭を低くして、自然と現れているアスピクに寄り添っているではないか?


「ああン?ちょっと黙…じゃないな。後で纏めて話を聞こう」

 当のアスピクも、此処にいるのが当然と言わんばかりの自然体で応対している。


(お腹空いた!)

 その頭上から放たれる大音量の念話が辺りをかき乱し、ますます何が起こっているのかが分からない。


「ほら、蜂蜜よ。これで暫く我慢なさい」

 まるで日常的に行われているかのような動作でリムが蜂蜜の瓶を放り投げれば、

 ナイスキャッチで瓶を受け取り、そのまま大地に降りたのは、これもまたスライムだ。

 サプとは別の個体であるようだが、あのような種族は見た事がない。


「ふははは。収拾が付きませんな!我等は向こうで元気な子を!」ぷるルン!

 そんなスライムにすり寄るは、同じスライムのサプであり、

 2匹のスライム同士で密着する事の、凄まじい勢いの反発力で飛ばされたのは色合い的にサプであろう。

 そのサプがワールドーイーターへ風穴を開ける弾丸として射出されていたではないか。


 一瞬の後、大爆発が巻き起こり、未だ健在であったワールドーイータは此方に向き直る。

 辺りに残るものは何もない。瓦礫が散乱するだけとなった城跡にて、

 わしの理解の及ばない、魔物同士の理不尽なる戦闘が繰り広げられる事になる。

 その戦闘が遠ざかっていくのを感じつつ、膝をついたままの姿勢から出せる言葉は、

 誰かに聞いてもらう為の言葉ではなかった。

 ただ自身が現実を理解する為に、改めて口に出して確認したにすぎない。


「儂の…城が……民が………全部失ったのじゃ…」


 この時程、絶望の意味を深く感じた事はない。

 仲間の姿も見えず、自身の命ですら危ういと感じる状況の元、

 見計らったかのようなタイミングで、姿を現したおでん。

 それは神の導きとでも言うべきだったのか。


 仲間は全て無事だという言葉に釣られるがままに、

 わしはその神を自称する者に連れ回される事となってしまう。

 だが考えてみれば結局の所。


「このわしを騙しおったな! これ以上の話を聞くつもりはない!」


 目が覚めたからにはそれ以上の問答は不要。

 打倒してからの捕縛を試みたものの、逃げ足だけは早く捕まえる事が叶わなかった。

 依然として気分も状況は最悪だったが、程なくその両方を逆転してしまう報告が舞い降りた。

 おでんの言う通りに魔人の仲間が全て無事であったとの報告だ。

 そしてリムからもメッセージだけが届いた。


『その珍しい体の解剖を一度させて貰うだけで許してあげる』


 わしは身を隠す事を決意した。

 暫くすればリムの気も変わるだろうという希望を持って。



   *   *   *

察しの良い方には分かってるかもしれませんが。

おでん芸がしたかっただけのお話。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ