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暇を持て余した者への箱庭

珍しく別視点

 女神の様子がおかしい。

 普段からおかしな行動を行う事がある女神だが、

 神としての力を得た元人間である。


 それを知る者達は教会の上層部の極一部しか知らぬ事。

 その姿を聖都で見せるときは大仰とした聖衣に身を包み威厳のある姿にて、

 大衆の前へ年に一度だけその姿を見せる。


 所謂一つのならわしのような催しとなってはいるが。

 替え玉に任せろ。気分が乗らない。

 そもそも連絡すら付かず姿も見せない。


 等とばかり繰り返す、何かと問題のある女神だったが。

 やはり最近の女神の様子は一段とおかしい。


 それは教会の中の者であるなら、この数日の間の行動を見て感じていた。

 大樹が現れたその日。女神が教会の床を踏み砕いた。

 怒りに身を震わせる女神の様子は天災とも似た恐怖を与え。

 数日の間、その影響を受けていた教会内は騒然となった。


 民への隠蔽工作には手間取ったものだ。

 何せ教会の建物の一部が轟音を立てて崩れ去ったのだから。


 その後、女神は珍しく自ら我々の元に話にやってきた。

 余程に酷い未来を知ってしまったのか。

 あの女神の荒れ模様を間近で見ていた我々は息を呑む。


「神はもういない。以上」


 我々は唖然とするばかりだった。

 今回は予言すら無いのか?

 神はもういないとはどういう事か?


「どういう事だクレリアよ?」


 ただ一人。我らが女神をクレリアと呼ぶ御方。

 教会の最高位である教皇ミューランが問う。


「予言は無し。私の女神役も終わり。後釜を宜しく」


 その言葉に教皇の他、数名の司教も女神へ質問を繰り返すが。

 我々が望む答えが返ってくることはなかった。

 結局の所。女神とする彼女に逆らえる者はこの場に存在しないのだから

 話は一方的に押し付けられてしまうのだ。

 それにしても今回は特に…極端すぎる。


「それしか道が無いというのなら何も言うまい。

 クレリアよ。他に我々に出来る事はないのか?」


 唯一、クレリアと対等に対話の出来る教皇ミューランでさえも

 強固な女神の意思の前に屈してしまった。

 物理的な対話までちらつかされては我々に対処する方法は、

 引く事しか許されないのだから。


「神の奇跡も堕ちた。無くなったのなら潔く退くだけ」


 その言葉を聞き。我々は理解した。

 我々の質問にも耳を貸さず。教皇との対話も効果が無い。

 あの荒れようは真に神の奇跡の力を失ったが故の行動だったのだと。



 そして数日後。女神は聖都を抜け出し姿を晦ました。

 しかし晦ますだけならいつもの事である。


 だが今回は違うのだろう。

 教会は女神という存在を失う事になった。

 その現状を隠蔽するか否か。

 話し合いは平行線のまま続くことになる。



 だがそれも直に必要が無くなった。

 聖都を揺るがす大事件が発生したからだ。


 ユグドラシル・ティアという魔物が女神の自室で発見されたのだ。

 経緯は不明だがその魔物は囚われていた。


 その効果によりアーティファクトと分類されるマジックアイテム。

 【神々の箱庭】と呼ばれる女神の所有物の効果により

 眠っているかのように動くこともなくそこ軟禁されていたのだ。


 そしてその傍に添えられていた置手紙。

 乱暴な字で大きく書きなぐられた紙にはこう書かれていた。



 アスピクの復活を確認。

 ユグドラシル・ティアの誕生を確認。

 リムとの交渉用にティアは捕らえた。

 何が起こるか分からない。

 ティアの十分な監視を願う。

 分からなければミューランからの指示を仰げ。

 箱庭の扱いには十分注意せよ。

 もしティアが逃げた場合は神剣でも神槍でもなんでも使え。

 私の部屋に残った物は全て教会に委ねる。

 後は任せた。以上。



 我々は理解した。

 聖都の為に我等の女神は死ぬつもりで動いていたのだ。

 何故我々に話してくれなかったのか。


 教皇は相も変わらず好きにさせろと言う。

 アレを女神と思うモノ等、誰もおらん。

 その為に我等しか女神の顔を知らんのだから。



 我々は出来る事をするべきだ。

 ユグドラシル・ティアの監視を教皇の指示により行う事にした。

 交代制にて監視し、異常があれば即報告せよ。


 もしもの時の為に腕前の立つ冒険者を聖都内へ常駐させておく。

 しかし…このような魔物がランクAに分類されているとは。

 なんとも魔物とは分からんものよ。

 様子を伺っていると【箱庭】の中の魔物は妙な行動を始め。

 大音量の念話を周囲へ伝達させた。





 待っているがいい!

 どこの誰かは知らんが!

 このヨルンを!

 こんな目に合わせるような輩!

 四肢をもいで!

 内臓の代わりに触手を詰め込んで!

 脳味噌に世界樹の根を埋め込み!

 永久の苦しみを味あわせてくれよう!





 …その場に居る者達、全てが感じたのだろう。

 やはり目の前に囚われるこの蛇はまごうことなく魔物であると。


 必要以上の監視を置くことを決め

 我々は入念に対策を練る事となった。


 そして変わらぬ様子を観察する事、数日。

 監視に当たっていた者達が次々と寒気を訴える。

 もしくは魔力酔いを引き起こし体調を崩すものが多く見受けられた。


 すぐさま原因を把握すべく魔術に長けたものが送られた。

 理由は単純にして解決が難しい内容だった。

 強力なマジックアイテムの起動中に発生する魔力の波動。

 それを受け、傍にいる事により体調を崩しただけであった。

 これにより近くから直接中を監視し続ける事が難いと判断された。

 溢れ出る魔力に適応出来る装備も貴重であるが故の判断だ。


 空き部屋を用意しその中へ【箱庭】を安置。

 後は外部からの干渉を封鎖し、定期的に中の様子を監視をすれば良い。


 問題はまだ残されている。

 この【神々の箱庭】と呼ばれるモノの使い方。

 正確な効果を知らない事である。

 説明書きが丁寧に付属されていたが内容は至って単純。

 今我らが出来る使用方法は無い。


 ただ持ち運ぶのみ。


 つまりなんの操作も出来ないという事である。

 使用が可能なのは持ち主である女神だけらしい。

 例外も存在するようだが、我等には不可能であるとの事。


 説明書きを読み解くうちに、その例外の心配をしていたのか。

 外部からの操作が無い限りは安全。決して操作はしないように。

 念を押すかのように女神の注意書きが張り付けられていた。

 例外の一つに物理的にどうこうすれば【箱庭】の蓋が開く事があるとか。


 多少の好奇心も湧き上がってくるが

 対処の出来ぬ、危険な魔物が封じられた檻を開ける馬鹿はおるまい。


 信頼のおける教会の役職の者のみで行う。

 常に3人以上の監視は行っている故に心配は無し。

 そう我等は思っていた。


 その例外という存在が外部からの人間だけという訳ではなかった。

 囚われし魔物自らが引き起こす可能性を失念していたのだ。


 異変に気が付いた時には既に遅かった。

 【箱庭】を保管していた教会の一室から

 被害はゆるやかに広がっていた。


 まず見張りの者が全て消えた。

 状況の確認の為に向かった者達が姿を消した。

 教会内部の人間全てが我等を含め消えた。

 その現象がどこまで広がるか分からぬままに加速度的に広がて行く。


 我等が選べた選択肢は幾つあったのだろうか。

 外部からの監視を主とする選択事態が間違っていたのかもしれない。

 【箱庭】についての知識をもっと深めるべきだったのか。

 …もしかすると。封じられた魔物を解放してしまうのも。

 それもまた一つの選択肢にあったのだろうか。

 


 少なくても。我等が至らなかったばかりに。

 【箱庭】の内部へ聖都の住民が招き入れられる事となってしまったのだから。

 女神はなんでも使って対処せよと警告していたというのに。

 想定外だった。前例が無かった。その様な言い訳等、誰にも通じない。

 事態を受け入れ、対処せねばならぬ。


 ランクAの魔物が居座るであろう閉鎖空間の中。

 我等はユグドラシルの魔物が生み出したであろう【箱庭】の世界で。

 この魔物が犇めく森の中で確信する。


 ユグドラシル・ティアという魔物は

 我等人間達が苦しむ様を高みから見物しているに違いない。

 我々人間が足掻ける程度の環境を作り出されているのだから。


 あの突如現れた大樹。強大な魔物の力を感じるが故に。

 恐らくはその魔物がそこにいるのだろう。

 このような状況になってしまったのだから行くしかあるまい。


 日々肉体は鍛えてはいるものの。

 我々が前線に立つこともなくなり久しい。

 故に魔物との戦いも勘が鈍っている事だろう。


 少々平和にボケていたのか。堕落していたのか。

 襲い来る魔物共を倒しながら感じていた。

 この地に現れる魔物は記憶にあるモノよりも明らかに強く感じると。


 そして我々の前にランクにしてCを超す魔物が姿を現した。

 その様子は異常であった。


 アサシンヴァイパーという魔物であろう。

 面と向かって正面から現れる等、見たことが無い。

 ランクがCにて、さらに+を加えている理由として。

 その魔物が隠れている様子を感じる術が全く存在しないが故に

 +という一つ頭抜け出ているという事を加えての評価なのだが。


 こうして目の前に現れて突っ込んできてくれるのであれば僥倖。

 相対するであろうランクAの魔物を前にして

 このような魔物に手こずる訳にはいくまい。


 必要なのは一撃のみ。

 必殺の間合いを見極め、あの程度の相手であれば機を作るまでもない。

 引き連れてきた仲間はランクC程度の魔物を見ただけで引き腰だ。

 やはり…強大な魔物が現れる前にその芽を摘み。

 出現してしまえば女神に頼りきるだけの日々を送り続けてきた若造には荷が重かったか。 


 手本を見せてやらねばならぬ。

 経験が無いだけで、その若造達も基礎は備わっている。

 魔物を想定した厳しい訓練を耐えぬいてきた者達なのだ。


 良い機会だ。ランクや能力値。

 目に見えるモノだけが全てではないと教えてやらねばならぬ。


 ただ振るうだけの。ただの鉄で鍛えられただけの剣でも。

 このように扱うだけで簡単に魔物の命を絶てるのだという事を。



 ―――斬ッ!



 何も考えずにただ詰め寄ってきたそのアサシンヴァイパーの首が飛ぶ。

 続け様に襲い来る影が何なのか。

 反射的に切り伏せてしまったものの、ソレが人間であったと気付く。


 切り口は浅かったが故に命までは奪ってはいないが。

 ぞろぞろと現れるは2メートルを超す半裸の大男も混じる強面達。

 さらには強力な魔法が施された装備に身を包む彼等には覚えがあった。


 ランクにしてAに分類される冒険者。

 チーム名:【グラップラー】として登録されていた筈だ。


 その容貌は魔物ですら尻尾を巻いて逃げ出すとも言われているが。

 目の当たりにしてみれば納得だ。なんという存在感よ。

 冒険者ランクAに相応しい強さを各々が持ち得ていると感じられる。

 それは我が手の内にある剣が既に使い物にならなくなっている事から明らかだ。


 破壊されたのではなく、あの瞬間。我が剣に付着させられた何か。

 それにより剣はネバ付き。切れ味どころか刀身が溶け落ちる始末だ。

 替えの剣はあるものの。必要以上に敵意を見せる事は出来ぬ。


 彼等は、我等とは初対面なのだ。


 次々に浴びせられる罵声。

 アサシンヴァイパーは彼等の仲間だったのか?

 そもそもにランクがC以上は危険な故に使役は禁止していた筈なのだが。

 冒険者である彼等の全てを法で縛る事は不可能であるのは理解している。

 この緊急事態で彼等を敵に回すような危険を冒してはならんので今は黙認するが。


 この矢継ぎ早に飛んでくる汚い言葉は仲間の全てが恐怖を感じている。

 若造共はその中に込められた言葉の意味すら理解してはいないだろう。


 汚い言葉に混じる言葉の必要な断片を拾っていくのなら。

 彼等は巻き込まれた人間達を安全な場所へ連れていくつもりだったらしい。

 首を落とされたアサシンヴァイパーは馬鹿で扱いやすかったとか。

 我等の事を。主に背後の若造を頼りなく思い驚かしてやろうと思ったとか。

 ついでに腹いせに甚振らせろ。一方的に謝罪と賠償を要求するだの。

 穏便に済むような相手ではないようだ。


 良い解決方法はないものかと考える内に。

 アサシンヴァイパーの頭が跳ねた。

 活力を取り戻したかのように跳ね回るソレをみて状況が動いた。

 怒りに身を任せたままに彼等が襲い掛かってきたのだ。


 咄嗟に身構えるが彼等は素手だ。

 得物はその背にあえての素手で立ち向かってくる。

 事情を話し、仲間に引き入れようかと思ったが故に判断が遅れた。


 先頭に立つ自分を無視して仲間を先ず狙う彼等の戦術は予想外だったが。

 背後の若造達は臨戦態勢で彼等と相対していたが故に真っ先に狙われた訳だ。


 仲間が奮闘するも、持って数分。

 レベルの差は歴然だ。

 無駄な動きが多すぎて正面の相手にだけ気を向ける仲間に対して

 彼等には余裕を持ったままに全体を見通すだけの力があった。

 常にこの私を意識に留めつつ、引き離す様に追い詰める様は見事。

 

 状況を諫める事は不可能と判断。

 皆殺しにする事は容易いが、仲間が無事では済むまい。

 故に彼等と敵対しても益はない。

 むしろ被害が増すだけだ。


 であるのならば。

 今、この時。目の前の蛇が死んではいない。

 とんでもない生命力だが、それだけでは収まるまい。


 魔物の知識として…覚えがあった。

 アサシンヴァイパーは魔物としての進化を果たす時。

 イレイサーとなりて目の前の生ける者全てを食らい尽くすという話を聞いた事がある。


 もしや…あの現象はそれの兆候だったのでは?


 背後で繰り広げられる戦闘音等も忘れ。

 アサシンヴァイパーの転がった首が胴体の下へ戻っていく様を見守り

 我はもう一つの剣を抜く。進化という心配は杞憂だったが。

 首を切り飛ばした筈が、元通りに復活するこのアサシンヴァイパーは異常だった。


 この魔物は最早ランクCという枠に収まらない能力を持っている。

 相対するこの蛇の魔物は先程の、無意味に突っ込んできた

 アサシンヴァイパーと同じものとは思えぬ覇気が備わっていた。

 やはり…この空間の魔物は異常なのだ。


 …いや、彼等の所有物とか言ってたような気がするが。

 ふぅむ。分からぬ事が多すぎる。 


 そして状況は最悪となる。

 実に。実にあっさりと。仲間達は蹂躙されたのだ。

 その仲間を人質に取られたのであってはこれ以上

 目の前の…彼等の仲間であろう蛇をどうこうする事は選べない。


 せめて、この魔物と1対1であったなら少しは楽しめたかもしれないものを…

 いや、一体私は何を考えているのだろうか。


 仲間は全て捕らえられ5対1。魔物が一匹加えるのであれば6対1。

 このまま退くだけというのも気が収まらん。

 故に私は剣は収め拳で相対し、年甲斐もなく咆えた。


「さっさと来いやぁ! 若造共! 纏めて相手にしてやるわ!」


 …

 ……

 ………


 結果として3人を打ちのめしたものの。

 蛇の魔物と真っ向から打ち合った所で力尽きた。

 老いたものよ…この程度でなんとも情けない。


 依然として状況は分からぬままに

 我等は目的の大樹の下へと連行されたのだった。



   *   *   *

この世界は結局の所。脳筋が優遇されます。策略や陰謀なんて端折られます。主に描写的な意味で。

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