無計画な蛇達
「ヒィェェェェ!」
ガッチリホールド。良い運びっぷりじゃ。
「オタスケー!」
頭の上に載せて…凄いバランス感覚ですな。
「オガーチャーン!」
うーむ。おっさんがオカーチャン言っても萌えないね。
「………ガボガボ。」
血泡吹いてやがる。ん、何?
そうか毒を食らってたのか。解毒用意。
「ヤメロー!シニタクナーイ!」
よし、吸血を許可する。ん? 吸いたくない?
そんじゃこっちに放り投げい。
「キィャアアァー!」
うん。素直な悲鳴だけど物足りんね。
怪我してるみたいだから、はよこっちに。
「ムワァー!」
汚ねぇ悲鳴だ。屁が漏れてるから消臭せい。
頑丈そうだし、ぶん投げて次だ次。
「ヘールプ!」
その悲鳴は女性の方かい?
やさしく運びなさいな。
「ナンデェー!」
そりゃ忍者だし、何でこんな状況になったかなんて分かるわけないじゃん。
面倒だから早く置いて次持ってきな。
「ヤメ…ヤメテェー!」
あらまあ。怖い顔して。魔物より魔物顔になってるよ。
個室用意してあるから放り込んどけ。
「ブヒィー!」
ん、豚だ。豚は豚小屋へ行け。
不味そうだから後でよーく洗っとこう。
「アワワワ…」
お爺ちゃんなんだから…優しく運んでおいでよ。
ん、十分優しく運んでるって? やっぱり見た目がアレだからかな。
「サヨナラ!」
あーあー。現実逃避しちゃってるわ。
そこ等に投げ捨てとけ。
「足が…足が……!」
ん、可愛そうに血塗れじゃないかい。
襲われてたって? 魔物じゃなくて人間に?
「ヒャッハー! もうどうにでもなれー!」
おうふ。ついにヒャッハー族まで。
ノリが良いから連れてきたって?
まあ害にはならんだろうし。丁重に扱っとけ。
「なんなんだこの状況は…」
おお。落ち着いた人間までやってきた。
騎士風であるが。纏め役になってくれるだろうか。
しかし良く連れてこられたな?
何? すっごい弱かった? あら残念。
「アサシンヴァイパーダー!」
「ひぎゃぁーー!」
「うひゃひゃひゃひゃ!」
何かと思えば子供達まで連れてきおった。
ちょっと壊れかけてないかい?
頭の上の子は楽しそうだけど。
勘違いして魔物は乗り物とか思わなきゃ良いけど。
「あへっ…アヘッ…ウヘェ……」
やべぇ。見るからにヤバソウな精神状態の奴まで乗せてきた。
魔力酔いか? 外傷は見当たらんけど。
あ、吐きやがった。むしろアレは蛇酔いか。
揺れるしあの速さで無理やりだもんね~。
「あんれぇ…もうちょっとゆっくり動いてけんろぉ…」
あらまあ。お婆ちゃんいらっしゃい。
ニルンもちゃんとゆっくり運んでおる。
何気に婆ちゃん楽しそうだし。
しかしまあ…人間が増えに増えてきた。
ただの人間だけじゃなくファンタジーな世界の住民達の集まりになっておる。
エルフっ子にドワーフやら獣人やら。よりどりみどりですな。
だがハーレムとは程遠い集まりになっておる。
さて、そろそろどういう状況か整理しよう。
辺りを見渡せば、四角いだけの豆腐のような形をした建物が並んでおります。
所謂仮設住宅のような施設が作り出されています。
これ等は全て、この蛇の魔物であるヨルンが作成した『魔城』でございます。
レベル2に上がった『魔城作成』スキルでしたが
なんとか実用レベルとなり、簡易な住居として役立ってますな。
そんな住宅付近より辺りを見渡せば、ひときわ目立つ大樹がありますが。
それが今の自分であります。大樹の上より見渡せるモノが今の自分の視界の全て。
正確にはその大樹の内に、蛇の魔物ユグドラシル・ティアの本体が匿われいてる状態です。
事の発端は、ニルンが戦えない民間人を確保し。
次々と安全地帯である泉の下へ拉致して来た事が始まりです。
丁度その付近に自分の本体が無防備に埋まっていました。
もしかすると、外的要因で覚醒してしまう恐れがあったので。
踏まれたり突っつかれたりでもして、目覚めたら空間が崩壊してしまいます。
故に覚えのあるミニ大樹(100メートル超え)を作成し。
その内部へ本体を退避させたのが暫く前のお話し。
その後にもガンガン人間を連れてくるニルンのサポートをするべく
奮闘中なのがこの私。ヨルンであります。
そんな突如現れた大樹の様子を見る為に、生き延びた人間も自然と集まる事。
人口100名超えを達成致しました。やったね!
ニルンに伝えると小休止するようで仮設住宅を通り抜け大樹の前へ鎮座しました。
その目の前に現れるは騎士風の男。
ついでにヒャッハー族のモヒカンがその影に隠れ様子を伺っている。
ニルンはソレ等を見据え、言葉を待っている。
時間は流れるがお互いに動かず見つめあっている。
大樹の下で見つめあう。告白タイムやもしれん。ドキドキするわぁ。
「言葉は分かるのか?」
騎士風の男が口を開きニルンに問うた。
ニルンは頷いた。勿論言語は理解はしている。
「そうか。ならば問う。お主は一体何をしたいのだ?」
続けての騎士の質問だがニルンには返答する術がない。
ニルンは佇む。どうしたものかと困っているが故に手助けしようかとも思ったが。
念話を覚える為に頭に例のアレまた打ち込むかい? と聞いた所。
拒否されたので今の所は様子を伺うばかりです。
そしてニルンは声を上げる。
フシャー。
キシャー。
クケー。
カラカラカラカラ。カランッ。
ひとしきり声と音を上げ終えた後。再び静寂が訪れた。
困った顔をする騎士風の男と背後のヒャッハー族は顔を見合わせる。
「そうか。まったく分からん。喋れんのだな?」
ニルンは頷いた。全員が頷いた。
言葉は一方通行。目の前の蛇の魔物は少なくても敵対はしていない。
これ等をふまえて、どう行動するかは彼ら次第だ。
そして次に口を開くはヒャッハー族の男だった。
「ヒャッハー! なら。細けえ事ぁ無しだ!
アレだろ。蛇野郎。オマエは何も考えずに俺達を助けた。
敵対するつもりはないんだろ? そうなんだろう?」
ニルンは深く頷いた。まさにその通りだった。
正直に。お互い何も考えてはいないのだ。
ただ成り行きに任せ、気の向くままに行動していただけにすぎないのだ。
「ヒャッフー! なら話は早い! 変な質問攻めになるが良いか?」
キッシャー! なんとなく咆えたニルンはさらに頷いた。
それにしてもなんでコイツ。話す前に奇声あげるんだろ。不思議である。
「ウッシャー! アレだ。ココがどこか分かるか?」
ニルンは首を振った。
「そりゃ分からねーよな! ヒャッハー! 何て質問したら良いか分かんねー!」
ニルンは頷いた。シャッハー! ついでに声も上げ始める。
現状を理解してない者同士が話した所で何かが変わる訳でも無し。
長々と話をしないだけ評価しよう。
「ああ、良いか? 質問なんだが。そこの大樹といい。妙な建物といい。
あの癒しの効果のある泉といい…不思議な物が多いのだが
もしかして、この辺りは安全だという事で良いのか?」
ニルンが少し考える素振りを見せたので答えてあげるとしよう。
少なくても魔物に襲われる心配はないから他よりは安全だと伝えてあげた。
ニルンは二人の目を見て何度も頷いた。
なんとも変な光景よ。
吊り橋効果とでも言うのだろうか。
人間側の視点であれば一体どう見えているのか。
少なくてもニルンに危害を加える事は無さそうな雰囲気である。
であるのなら、何も手出しをする必要はない。
自分は魔城作成でどんどん仮設住宅を増やしていくのだ。
簡易な家具なら内部に備わっているという便利機能も付いておるし。
『魔城作成』応用がとんでもなく効きそうだ。
早くレベルあがんないかなー。すっごく楽しみです。
そうと決まれば、ガンガン建物作っちゃうぞい。
そして、そんな光景を目の当たりにしている人間達は
唖然としたままに、小気味良い音で生えてくる建物を。
傍から見れば異常としか言えない、その光景を見続けているのだった。
目指せ人口1000人!
がんばれニルン。ガンガン連れてくるのだー!
「ヒャッハー! 人狩りだー!」
(シャッハー! 連れてくるぞー!)
意気投合したヒャッハー族とニルンは今まで以上のペースで人間達を連れてくる。
どう見ても悪党である。台詞も人狩りと物騒です。
やってる事も人間を見つけ次第、この場に拉致してくるという。
それだけ聞けばやっぱり極悪人である。
しかし連れてこられた人間達は殆どが民間人。
状況を理解するまではこの世の終わりな顔をしていましたが。
理解をしてしまえば安堵の表情。
その後に再度絶望するまでが流れとなっています。
少なくても森の中に放置されるよりは大分マシ。その程度ですね。
人数が増えれば、人間達の中で多少のいざこざも増えて参りました。
食料問題。住居問題。先行きの不安もあって精神状態も思わしくない。
その他あれやこれやと細かい問題は山積みですな。
無計画が故に想定済みではあるが、とりあえず観察あるのみ。
そんなこんなで人間が増えに増える。
収拾付かなくなり、どうしたものかと頭を悩ませていた頃。
賑やかしをするのが奴等がいた。
過去に覚えのある筋肉達だった。
何の効果があるのかは分からないが。
光る筋肉でマッチョポーズをとりながらその肉体を見せびらかし続けた。
アレに逆らう民間人は誰も現れなかった。
暫く後に彼等はボディビル・フィットネスクラブを形成。
お祝いに魔城作成を綿密に行いレベル3となった建造物をプレゼントした。
マッチョな銅像が幾重にも立ち並び異質な光景となったが気にしない。
どんな経過があったかは分からないが治安が少し良くなった。
筋肉は偉大だった。
男女問わずに半裸で筋肉が闊歩する様はなんとも反応に困るが。
人間同士での争いの抑制に役に立ってるのだからこれで良いのだ。
そういえば、騎士風の集まりも、少しはいた筈なのに何をやってんの?
ふとそう思い観察していた所。
遠出して生き残りの人間を救出するべく奮闘していたではないか。
なるほど、大樹付近は安全と判断されたが故に拠点と認定。
各々役割を決めて行動に出ている訳か。
やっぱり人間は逞しいのぅ。
民間人の中には炊き出しを頑張ってる奴等もいるが。
食えるの? 木の実とか果物とか? そういえば実験用の蛇も食っておった。
魔物ならまあ一応魔物飯なるモノが…出来ない事もない。
そこそこに生活可能な空間が出来上がってはいるようですな。
しかも畑まで作って農作物を作ろうとしておる。
耕して。種をまいて。水をあげて。
そして放置である。
そんな悠長に、気長に居座るつもりかい?
何を植えたか気になりました。植物なのでスキルが通用する筈。
そう思い成長させてみた。
植えた場所にとある種類のゲームで行われる系の不思議な粉を撒くイメージで成長促進!
あら不思議。稲のような作物が出来上がりました。
品質の方は保証致しませんが、多分大丈夫でしょう。
植えたそばから収穫にまで持っていけるようになりましたので。
折角なので自動化もしておきましょう。
意識せずとも畑に植えたものは即育つように調整。
これで一部の食糧問題も解決するであろう。
暫く呆然と立ち竦むエルフがいたが、まあ気にする必要もあるまい。
住居の問題もそろそろ安全とは言えなくなる所まで開拓してしまった。
もはや森の一角は見る影もなく豆腐ハウスの山となっている。
お陰で『魔城作成』がレベル3になったのだから嬉しい事この上ない。
人口不明。ざっと見渡した結果、千人は超えてますな。
気分は、まさかの街作りシミュレーション化。
そろそろ何をやってるのか気になる所だし。
ニルンの方向へ視点を向けてみよう。
…
……
………
視線を向ければその瞬間。
ニルンの首が斬り飛ばされていた。
ヒャッハー族がその背後、体中を血に塗れて仰向けに倒れていた。
ドクンッ…
心臓が大きく脈打つのを感じた。
それに合わせるように大樹が揺れる。
その様子を不穏に思ったのか周囲の人間達もざわつき始める。
そうだった、今自分が迂闊な事をすれば収拾がつかなくなる。
好き放題にやっていたが為に今更な感はするのだが。
良し落ち着け。あの程度でニルンは死なぬ。
ヒャッハー族の安否は気になるがまだ死んではないようだ。
良く観察すればヒャッハー族は分身しているではないか。
いや、別人だ。仲間だろうか。5人もいる。
ヒャッハー族と称していたし増えてもなんら問題は無い。
重症と見えたヒャッハー族の一人も仲間の介護を受け立ち上がる。
問題はニルンだ。
何故あんな目にあっている?
ヒャッハー族と敵対している訳ではない。
相対する何か。
ソレ等の手により首を刈り取られたのだ。
復帰には時間がかかる。
死ぬまでに幾分かの時間を要し。さらには体の再構成までに数十秒。
しかし待てよ?
死にきれなかったアサシンヴァイパーはイレイサーへと進化する場合がある。
そうなるとニルンの奴は………不味いかもしれん。
言い知れぬ不安と焦燥に駆られて干渉を開始する。
「おおニルンよ、首を跳ね飛ばされてしまうとは情けない。」
どこぞの王様風にまずは語りかけて反応を伺うとしよう。
意識は残ってる筈なのだ。目が死んでおらんし、自分も首を跳ね飛ばされた経験がある。
傍からみると不気味であるな。首落としてもズリズリ動いてるんだもん。
(あ、ヨルン。どうなってんの自分?)
そして当のニルンは状況を理解してない様子。
相当に鱗も硬い筈なのにこうも見事に切断されるとは。
人間側の武器や技量も相当なものらしい。
正直に油断していた。
ニルンならどこぞの主人公のように無双を続けてくれると思ったのだが。
ヒャッハー族が味方が故に中ボス扱いだったかな、目論見を誤った。
ともあれ現状は伝えてやろう。
「首飛ばされて、まだ死にきれてない状態。」
うん。口に出して言うと酷い状態だね。
死んでもおかしくない。というか普通は死ぬ。
首を落とすといえば有名な処刑道具にギロチンなんて道具があったが、
あれで首を落とされたモノは暫く意識があって、
瞬きを続けていたなんて逸話もあるとか聞いた事があるが。
どっちにしてもそんなのはすぐに死ぬだろう。
とはいってもそれは普通な人間のお話し。
魔物にはそんな常識、当てはまらないという事か。
こうして元気にお話しをしてるんだもん。
(マジで? 死んでないの? 復活できんの?)
流石は不死身を理解した蛇である。
こうして生きてるが故に復活が行われない。
面白い弱点が発見されましたな。
首だけ取って、どうにか生かしておけば対応できると。
成程ね、一つ勉強になりました。
しかしまあ、元気そうだ。
ココまではっきりと受け答え出来るとは思わなかったよ。
「勿論です。不死身ですから」
という訳でニルンを安心させる為に不死身である事は強調しておきましょう。
さてどうしたものか。視点が大雑把にしか動かせないのが今の自分の難点だ。
時間をかけて、なんとか把握せねばならないね。
今の自分は夢心地の幽霊状態~なんですから。
(そんじゃ良かった。…で、あいつ等無事?)
とりあえず安心はした模様。
安心してそのまま、ぽっくり逝ってくれれば楽なんだが。復活的な意味で。
どうしましょう、物理的にトドメを刺さないと
加減の効かない今の自分の一撃で消滅させちゃいそうだし。
良い方法を考えないとイカンね。
ニルンの心残りは、一緒に過ごして仲良くなっていた、
ヒャッハー族の方々らしいですし。まあ見ればまだまだ元気そうでなによりです。
「ヒャッハー族ならまだ全員生きてるっぽいけど誰と戦ってんの?」
現状は心配なし。肩パッドに上半身半裸。
妙に露出が多い方々が故に傷も分かりやすいし。
何より無駄に元気だ。各々が汚い言葉で相対する敵を牽制しまくっておる。
良くも俺達の蛇をヤってくれたな! ヤローブッコロシテヤル!
良い奴だったんだぜー! こんな…あっさりと。アリエン!
ヒャッハー! テメー等、何も分かっちゃいねえ!
ブルァ! 俺様の恩人をよくも! 許さねぇ!
遺伝子のカケラも残さず焼き尽くしてくれるぁー!
いろんな言葉が紛れておる。
ヒャッハー族というよりもモヒカン族に訂正すべきか。
というかコイツ等。世紀末枠かと思ったがアレだ。
変な波動纏ってやがる。
中途半端な主人公達なら一蹴する理不尽ボス系のあのオーラだ。
冷静に見れば、その体付きも歴戦のソレだった。
(ん、そこの変なおっさん剣士だったけど。ツエーわ。油断したわ)
ぶわっ…大樹から嫌な樹液が沸きだした。
何事かと根元より祈りを捧げていたお婆ちゃんがあたふためく。
おっと…ゴメンよお婆ちゃん。心配ないのよ。
いそいそと溢れ出た樹液を引っ込める。
そして改めてニルンのいるその付近の様子を探った。
おっさん…剣士?
覚えがあった。過去に何度挑んでも勝てなかったあの剣士がそこにいた。
なんという運命的な出会い。惜しむべくは自分がその場にいない事だ。
ニルンは…アレと相対し首を跳ね飛ばされたのか。
そうかそうか、納得だ。ニルンでさえもあの剣士にかかれば…成程。
「オッサン…? アレ。アイツって。アイツ。アレ? マジ? 師匠?」
そんな思いをしながら出てくる言葉は上手く定まらず。
出てくる言葉は一方的にそう呼んでいた師匠と伝えてしまう。
(んあ? 師匠? 殺しちゃだめ?)
ニルンはその師匠という言葉を拾ってしまうが正直な所。
複雑な心境である。そこまで深い感慨は沸かないのだ。
時が経ちすぎたのかもしれない。
自分が道を違えすぎたのかもしれない。
ニルンを見ればその感情は思う所があるようだ…であるのならば。
「あー。いや…やるしかないなら良いよ。だけど自分がやりたかったなー」
自分の熱は冷めてしまっているのだ。
剣技を磨いてソレ一本で打倒してやろうとは思ったのだが。
こうまで魔法寄りの能力となってしまうと
見える世界の考え方が変わってしまっていた。
口ではやりたかったとは言うものの、どちらかと言えば…見てみたい。
(それなら良かった。こんなにされたんだし。あの野郎…ぶっ潰してやる!)
やはり腸が煮えくり返ってるようでした。
しかしあえて小物台詞を出して挑もうとする所はやはり自分の分身。
気概と気性はやはり小悪党を演じておるな。
内心では後ろのヒャッハー族が心配でならない筈だ。
そう思うと少し弄ってやりたくなるが故に色々と突っついてあげましょう。
「帰ったら上手い飯食おうぜ。美蛇さん用意するから結婚もするかい?」
(オイコラ。死亡フラグ作んな。あー…早く動きたい!)
死亡フラグどころか間もなく一旦死ぬのですがこれいかに。
死亡フラグ建てたんだから、はよう死ねやという意味がありましたが効果は無し。
無駄に生命力があるが故の弊害か。流石にそろそろ手助けしてやらんとね。
背後の世紀末組も心情が穏やかではない。
剣士側も、仲間が数名いるようで様子を伺っているようだ。
何かをするなら今のうち。ニルンにも真面目なお話をしましょう。
「OK。手助けしてやる。だけど進化はするなよ?
変な進化すると存在消滅するからな。」
そうそう、これが言いたかった。
意識しなければ進化はしないようだし注意するだけで良い。
自分に限ってヒャッハー族を守る為に進化し、朽ち行く体で相対する敵に挑む。
そんなドラマティックな展開は有り得んのだ。
あるとしたら不可抗力だし、意識させるだけで問題無い筈である。
(マジで? 本当に死ぬの? 消えるの?)
予想通りに食いついた。計画通りである。
単純明快。どんどん恐怖感を与えましょう。
「怨霊になってMP切れたら消滅する進化もあるからね。気を付けてね。」
(おう…怒りに任せて進化しそうだったかもしんない…)
「そうなったら流石の自分でも戻せないから何度も言うけど。気を付けろよ」
念には念を押して言っておけばイレイサーへの進化はもうあるまい。
いっそ、その先の進化まで導けば楽しそうだけれども正確な条件等知らんし。
万が一にも苦しみ続けて消えていくニルンの姿等見たくはない。
他にも進化する道は残されてるみたいだし、次なる進化は後回しであるな。
(OK。肝に銘じとく。…っと。そういえば早く手助け。あいつ等死んじまう)
首だけのニルンは流石に焦りだしたのか急ぐことを要求してくる。
アイツ等という、世紀末組はなんというか。
見るからに普通に大丈夫そうなんですが。相手さん怯えてる人もいますし。
ともあれ、ニルンが心配するのだから急ぐとしよう。
「分かった。例のアレを一発ズドンと行くけど覚悟は良い?」
死の呪い。魔力の奔流と考えたものの。精密性に欠け、他を巻き込む恐れがある。
故に、ココは一発必中。狙撃モード。距離は離れているが問題はない。
万が一外したとしても予備の知恵の実はたっぷりとある。
後はニルンの反応次第ですよ。
(あっ…アレ? いや、早くやってくれ! 頭一つでも中々死ねんし…)
ニルンは戸惑ったものの直に許可を得た。
目を瞑って覚悟完了のようです。
「そんじゃ行くぜー。狙撃と言えばアレだな。ズッギュゥーン! とセルフ効果音」
空気圧のみで飛ばす弾であったがスキルとして『空間歪曲』があるが故に。
数メートルの距離を打ち出すだけで着弾するよう調整。
何の苦もなく命中ですよ。視認出来る範囲であれば外す事は無いと自負しよう。
そしてニルンの頭へめり込んだ知恵の実は脳へ直接絡みつく。
その痛みは…今回はどうなのかしら?
(キヒィッ! アババババ……ヤダッ…バァ!)
うわぁ…今までズリズリ動いてた頭が元気になって跳ね回っておる。
一触即発状態だった世紀末組と剣士組だったがその様子を見て言葉を失っていた。
やがて動かなくなると、今度こそ死んだ。とでも思われたのだろうか。
世紀末組の罵声の嵐も止み。妙な静寂が辺りを包んでいた。
「与えたスキルは『再生能力』復帰が早くなるし死に辛くもなる。
ついでに自分が培った触手剣術の全般も与えた。検討を祈る」
今回与えたスキルは『蛇王流剣術』に収められていたスキル全般だ。
ついでに『再生能力』である。頭を綺麗さっぱり吹き飛ばされても問題ないぜ。
一度首を跳ね飛ばされてるが故に少しぐらいはパワーアップさせとかないと思ったが為の選択だ。
(ヒィ…ヒィ…フシャー…なんなのコレ。気合が吹き飛ぶ…)
よしよし、ニルンも落ち着いたようだ。
というかまだ生きてやがる。はよ一度死んで復活せいや。
そう思ったが『再生能力』は得た。胴体とくっ付ければ直にでも復活するだろう。
という訳で魔法的解決。物理的に運んでひっつける作戦。
その辺の木々を操作しコロコロ転がしペトリとくっ付ける。
さあて、後はニルン次第です。一度消沈した気合を焚き付けてやらねばな。
「ほら、早くしないとヒャッハー族死ぬぞ? っていうかアイツ等ツエーな」
そんなこんなで、ニルンの奇怪な行動が引き金になったのか
世紀末組が打って出ていた。
丁度1対1の構図となっているが、剣士だけは動かず静観していた。
そんな中で一匹、悠然と復活するニルン。
剣士はその様子を伺っていた。
(うん。そこい等の騎士様よりツエーわ)
(しかも自分が蛇でも関係なく付き合ってくれるし)
それはニルンも承知である。
睨み合いは続いたが。直に開戦する様子はない。
むしろ警戒しているようだった。
理由はどうあれ、首を跳ね飛ばしても生きてるんだ。
仕方あるまい。そんなニルンを殺しきる方法。思えば物理的にはあるのかねぇ?
「ふむ、あのヒャッハー族は良い奴等だな。
詳しい話は後で聞く。状況が凄い事になってるが頑張れ」
それにしても、どうしてこのような状況になっているのか理解にし難い。
山賊vs冒険者の構図なら分かりやすいのだが。まさにその状況としか見えない。
ともあれ、初老の剣士とニルンの対決は免れないようだ。
お互いに見合ってやる気満々である。
(おう、やってやるぜ!)
そうしてニルンが触手を構えた時。
世紀末組が勝鬨を挙げた。
ヒャッハー!
くだらん!
もう終わりかぁ!?
消し炭だぁ!
てか蛇ちゃん生きてらぁ!
キシャー! カラカラカラン!
こうして初老の剣士一人を包囲する図が出来上がる。
清々しいまでの蹂躙が始まろうとしていた。
ヨルンは嘆いた。お膳立てしたのに。
その全てが崩されたのだから。
* * *
なんか行動がズレていく者達。
蛇が立てる計画は蛇行して行くようでした。
お陰でストックも流れに任せて消し飛んだので一旦お休みです。




