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触手一本あれば良い

 子育てイージーモード。

 考えようによってはハードモードかもしれない。

 自分の分身とはいえ、全てが自分と同じわけではない。

 もしかすると反逆される恐れもある。


 クローンが本体に成り代わる物語もあるものね。

 でもそんな事にはなりませんよ。

 その為に自分自身の記憶を与えたんですもの。


 何を与えれば良いか。

 どの程度まで厳しくしたら良いか分かってますし。

 でもどこかで心配だ。


 いっそ向こうさんに成り代わられても別にいいや。

 とか思ってるが故に、そっち方面で心配だ。

 だけどこんな思考してるが故にある意味安心でもある。

 冷静に考え、状況を悪い方向に強めに認識するのなら。


 恨まれる事はあるかもしれない。

 だけど成り代わられる程の地位など持ってはおらんし。

 深く考える必要もあるまい。虐めすぎないようにだけ注意せねばね。



 では新生リトルスネークへの追従開始。 



 浅い計画は立てていたものの、暫く観察していたが故に暇である。

 誰にも出会わぬ。一応再現した森なので各所に自然と発生する筈なのだが。

 高めのランクの敵は意図的に排除した結果、まだ何者にも会っていないのだ。


 そして蛇は進む。慎重にゆったりとした速度で進んでいる。

 自分はループ空間の中故に、森の繋ぎ目を自然に演出するべく

 蛇の視点に気を付けつつ森の再現作業に勤しむ。


 流石に長らく進み続けるだけの蛇を見るのにも飽きた頃。

 イタズラ心が芽生えてきた。


 まずは雑魚敵をけしかけよう。

 うーん。まずはアレでしょ。ソフトにおいしそうな魔物を。

 草むらを進んでいるとほぉ~れ。魔物が現れるぞぉ。


 ゆけ! リトルスネーク!


 …あれ? 同種じゃん。

 まあ別に良いか。同じ魔物に負けてるようでは、この先生き延びられん。

 いかに不死の肉体を持ってたとしても精神的に死んだりするでしょうし。

 過剰な魔力で変貌させられたりするとこの世から消え去るのは分かってる。


 肉片一つでも残ってれば

 そっから再生するぐらいの事はやってのけるっぽいけど。

 正直自分の体で実践する気にはなれぬ。


 まあ低ランク帯の魔物相手なら本当、文字通りの不死身なんだけどね。



 さて、我が分身は戸惑ってしまっておるな。

 正直、目の前にただの一般的なリトルスネークを、

 無造作に生み出しただけだからどうなるか分からぬ。


 さらには同種の魔物だ。

 友好的にいけるかもしれん。なんてアレは考えておるぞ?



 我が分身は悠長にハロー! なんて言いながら近寄っておるな。

 勿論声など出てないけれども。尻尾ふりふり鎌首持ち上げ必死ですな。


 ふむ。ふむむ。お互い見合って見合ってお見合いして。

 ご趣味はなんですか? 食べる事です。アナタおいしそうですね?


 アテレコしてみたけど。大体そんな所でしょう。


 先手を打たれて噛みつかれたヨルンBがいた。

 とりあえずは、我が分身の事はヨルンBと呼んでおく。

 由来は何も考えずに生み出した分身だからだ。



 そして目の前では血流垂れ流しヨルンBは涙目だ。



 噛み千切られそうな勢いで鱗を割かれ痛みに身を捩らせるヨルンB。

 仕方なしに応戦を始めましたよ。相当痛かったに違いない。

 めっちゃ怒ってます。そりゃそうだ。ただ痛いだけなんだもん。


 ヨルンBは『触手』を振り回す!


 ペチーンと良い音を出して纏わりつく蛇を弾き飛ばした

 続けて触手を硬質化した後に振り下ろし敵側のリトルスネークは首を落とされた。

 見事な『首狩り』である。相手を躊躇なく殺すその意気やよし。

 それでこそ自分の分身。魔物よのぅ。


 そうして初のお食事タイムである。

 共食いですな。だが蛇同士。まあこの世界だと良くある事ではないか。

 かなりの時間躊躇っていたが意を決して口内にその体を収めると噛み千切る。

 意外とあっさりと。綺麗に食べ始めておるな。

 お食事風景はモザイク処理を施しておかねばと思ったが。

 

 なんともまあ一口頂いた後は、綺麗に食べ尽くしてしまった事。

 そうそう、自分が作る魔物はこの空間の過剰な魔力によって

 そっくりそのまま再現出来るようです。


 つまりは目の前のヨルンBにとってはリアルを体感している訳ですよ。


 では休憩を挟んだらお次の魔物を出すべし出すべし。

 生産すべし。魔力は山ほどに残っておる。

 むしろこの空間自体が魔力の塊である。


 しかし…狭いな。

 

 ちょっと進めばループしてしまう。

 広げられないかな。


 確かこの辺がループの限界だから。

 内側と外側から感応し。物理的に触手を押し当てて~のっ

 思いっきり引っ張ってやれば~!


 あら簡単! ループ空間の幅が広がりました。やったね!


 どれ、もっとフィールド広げてヨルンBを育成せねば。

 やっほい。魔力は湯水の如く使い放題だぜー。シャッハー!



 ゆけい! ルーンウルフよ!

 とりあえずヨルンBに絶望を見せてやれ!



 獲物を発見するなりルーンウルフの猛スピードな体当たり。 

 ヨルンBは反応できずに吹っ飛ばされた。


 何事か!? 状況も理解できずにヨルンBは大地へ平伏した。

 体力の大半を失ったヨルンBはルーンウルフの鋭利な爪によりサクッと絶命。

 そのままヨルンBは口内へ招き入れられ胃袋の中へ。



 あっ…やっちまった。



 ヨルンBの奴。延々と胃袋の中で復活し続けるんじゃないか?

 グズグズに肉体を溶かされ続けながら…。


 蛇だし魔物だし。

 長々と呼吸しなくても良い体である。


 つまり胃袋でもみくちゃにされながら

 焼かれるような胃酸な苦しみをずーっと味わい続けるっていう。

 自分がされても大丈夫だし。等という安心感故に。


 感覚がマヒしていたのだろう。

 ヤバイ。ヨルンBの心情を想像したら可愛そうになってきた。



 しかしそんな心配は無用だった。

 もがき苦しむルーンウルフ。


 喉元辺りにズプリと触手が覗いた。

 腹の辺りまで一気に引き裂かれルーンウルフがのたうち回る。

 血飛沫を巻き上げヨルンBがお腹の中より元気な姿をお見せしました。

 難産でしたね! その道が本筋のエイリアンもびっくりです。

 そして、そのまま体の外に出る事もなくヨルンBは…ガブリと咀嚼。


 ルーンウルフは痙攣を続けていた。

 噛みつかれる事に体が跳ねる。噛み千切られる度に血反吐を吐く。

 流石にランクCの魔物だけあり生命力がある。

 いや…回復魔法まで使える魔物なのだ。ルーンウルフという種族は。


 しかし。ヨルンBに食われ続けるその肉体の再生とまでは至らない。

 延々と苦しみ続ける側はルーンウルフの方だったのだ。



 マジで?

 勝っちゃったよ?



 呪いの力に頼らずに触手一本で勝利です。

 綺麗な狼ちゃんは見るも無残に変わり果てた姿となり横たわりました。


 文字通り触手を一本しか与えてないのにこの結果。

 一応不死にはしときましたけど。

 消費残機1で勝利してしまわれました。


 流石は自分の分身。

 ランクの差なんて飾りです。


 体内より捕食しながら突き進む蛇はなんともシュール。

 いやいや、恐ろしい光景ですな。


 暫く見守っていましたが苦悶の表情を残したままの頭部だけが余り

 目の前の蛇は、その他をほぼ完食してしまわれた。

 己の体躯以上のモノ食べ尽くしてるんですけど…この蛇さん。


 まあユニークスキルで『星食い』持ってる自分が言うのもなんですけど。

 やっぱり自分の分身だわこの子。改めてそう思った。



 さってと。この調子だと進化するかどうかの検証まで行えるだろうか。

 暫く魔物送り続けてレベリングさせてみようかね。


 お次の魔物は~なーにが良いかな。

 っと、そうそう。先にもお伝えしてますが。

 今の自分はヨルンBからしてみれば、守護者のような存在になってますよ。


 故にヨルンBから呼び掛けがくれば即座に反応。

 そう思えば早速ヨルンBがお話を。

 何々、どうしたん?



 ん? トイレ?

 ねぇよ、そんなもん。



 渋々触手で穴を掘って済ませおった。

 食った量に対して出す量が全然である。

 効率がええ奴だのぅ。


 それにしても…このヨルンB。

 なんか凶暴じゃないかい?


 向かい来る魔物、容赦なしにばったばった倒す系になっておる。

 同ランク個体であるなら負けなしであるな。


 蜘蛛でも蜥蜴でも長物(ワーム)でもなんでもござれ。

 なんか作れてしまった頭の悪そうなゴブリンを複数出してみたものの。

 正確無比に喉笛を突き刺し、戸惑う他のゴブリンも容赦なしに切り伏せた。

 最後に残ったゴブリンが腰を抜かして後ずさりするものの

 じっくり反応を伺いつつ、観察した後に頭部を切り落としてましたよ。


 そして魔物の全ては蛇の胃袋の中に消えていく。


 …もしかしてとんでもない武器与えてしまったのか?

 ちょっと触手系スキルだけ『解析』してみよう。



『触手-Lv1』『触手剣技-Lv3』『首狩り-Lv2』『触手マスタリー-Lv9』



 あ…なにかおかしい。

 触手マスタリーが9レベルである。

 生まれたての自分だった筈なのに。

 触手だけが今の自分レベルって事か。

 もしかして…自分の触手から作り出した肉体だからなの?


 最初に渡す武器を間違えたわ。

 棍棒や竹槍じゃなくて。初めから触手カリバー渡しちまった。

 必死に噛みついたり巻き付いたりしていた、あの時の自分はなんだったのか。


 …いや、まあ呪いの力を与えるよりは気持ち良いが。

 仕方あるまい。このまま経過を見る事にしよう。

 それがどう転ぶか分からないけれども見ていて楽しいし。


 進化するとなればヨルンBの進化先は…アレになるかな?


 一応あの3種類から選ばせてみるか。

 ある程度自分の意思で方向は決められるみたいだものね。

 進化を考えるなら、もうちょっとこの空間広げてやらねばならぬ。


 違和感を感じさせないぐらいに。

 もっと広く。もっともっと広く。

 こんなちっぽけなループ空間の中はヨルンBには狭すぎる。



 さあ…広くなーれ。広くなぁ~れー。ループ空間よ。広がぁ~れー。



 ふとヨルンB側を見てみれば人間が数人紛れ込んでいた。

 流石のヨルンBも戸惑っているようだが。人間側が腕を振り上げたその瞬間。


 触手の一閃。


 数人相手へほぼ同時に首を跳ね飛ばしていた。

 彼等の手には武器が握られていたし、冒険者の類だろう。


 ヤられる前にヤル!


 強固な意志が感じられた。

 もうこの蛇。ただのリトルスネークじゃないな。

 強さ的に、名前付きの魔物(ネームドモンスター)なのだろうか?

 ヨルンB。うーむ。そう声に出して呼ぶのには抵抗がある。


 この溢れる魔力の空間の中でなら、名前も付けてやれるかもしれん。


 どれ…このユグドラシルの魔物であるティアが名付け親になってくれようぞ。


 貴様の名前は森に這い寄るヨルンに似せて。

 えーと、そうだな。


 ニルンだ!


 適当に付けたがそれで良いだろう。

 という訳でニルンよ!

 そのモザイク処理が必要そうなモノを食べ終えたら改めて名付けよう。


 もそもそと捕食されるソレ等はとてもお見せできるような状態ではない。

 せめて光の粒子化でもして口内に収束してペロリと平らげてしまえば良いのに。


 こんな考えをしてしまうなんて…

 自分は過去の行為を振り返らない!

 むしろ『星食い』がいかにソフトな捕食方法だったかを思い知らされた。


 しかし…なぜ人間が沸いてでたのだろう?

 出した覚えはないのだが。そもそも人間作れんかったし。

 再現したとはいえ…出来ない事もないのか?

 『セーブ&ロード』してるし今更か。そう納得しよう。 


 ふぅむ。そうは考えるものの、謎は深まるばかり。

 でも確かにあの森を再現しているなら、紛れ込んでも自然ではあるか。

 検証あるのみだ。沸いて出てきてしまったものは仕方ない。



 ともあれ、答えの出ぬ思考は今は廃する!

 折角目の前のこの蛇の名前を決めたのだ。

 自分の分身である蛇に名付けの儀式である。



「そうそう、我が分身よ。名前を付けると魔物は強くなる訳で。

 折角だから魔物としての名前ぐらいつけてやろうかと思うんだ」


(へえ。そういえば自分自身の名前すら覚えてないんだけど。)


「んーとね。そうなんだよねー。同じく自分も覚えてないんだよねー。

 でもまあ、その自分がヨルンって名付けられたから。

 キミの名前は、ニルンで決定。今決めた」


(まあ、変な名前じゃないしそれでいいよ。そんじゃ宜しくな。ヨルン)


 何か特別な方法でも必要かと思ったが。

 どうやら、あっさりと名付ける事が出来たようだ。

 心なしか目の前の蛇の鱗がツヤを増した気がするぞ?

 名付けは成功のようです。


「うむうむ。宜しくニルン。

 というかさっきの人間全部食べたの?」


 気が付けば。血溜まりは残ってるものの他は綺麗に何もありません。

 殆ど丸呑みですもんね。ソフトに頂いてしまわれたようだ。

 ぷっくり膨れるお腹が胃袋にソレ等が収まっている事を示している。

 しかし…リトルスネークってこんなデカくなれたっけ?

 魔物であるからして…何の問題もないな。

 ランクがFでも魔物と呼ばれるという事はそういう存在なのだ。


(うん。なんだかんだで美味しかったし。証拠隠滅!)


「生まれてそんなに経ってないのに早速魔物になってらぁ。

 こっちは交流するべく四苦八苦してたのに」


 ともあれ、平然とそんな行為をやってのけるニルンの事はもう心配あるまい。

 魔物として生き延びるだけの適応力は完成したようだ。


(だってー。いきなり見るからにな剣を振るわれたんだもん。

 簡単には死なないにしても、痛いし死にとうないです)


 そして当の二ルンは平常心。

 やはり死なないのを理解しているだけあって余裕である。

 しかも敵意を向けてくる相手はキッチリ仕留めるし

 正直に教える事が少ないのです。


「うんうん。言葉通じないし仕方ないよ。

 一応こっちの世界の言葉は教えるけど。

 蛇だし喋れないんだよねー。困ったもんだよ」


(うへぇ。意思疎通どうすんの?)


 しかしまあ、人間食べちゃった癖に意思疎通はしたい。

 成長過程は違っても、やはり自分の分身であるな。

 折角なので欲しがってそうな情報はプレゼントしましょう。


「念話とか便利な能力あるよ。

 空中に文字浮かばせたり自分は出来るけど基本は大体念話だね。

 後は体作り変えて声帯作るとか」


 ともあれ、目の前の蛇が可能な手段となれば。

 念話を覚えさせるか、声帯を作り出すかの2択だろう。

 可能であれば人間との交流も考えさせたいのだが。

 うーむ。あのお腹の膨れ具合を見るに、望み薄であるな。


(ふーん。とりあえず。分かった)

(人間ヤっちゃったけど…街中でスターップとかされる?)


「そもそも魔物じゃん。サーチ&デストロイされちゃうね。

 まあ、考えても仕方ないし前向きにいこうぞ」


 がっくり項垂れる蛇だったが仕方あるまい。

 あの蛇の通り道だとかいう冒険者の宿のメンツだったらなんとかなりそうだし。

 このループ空間を抜けたら酒でも奢ってやろう。

 無論、死亡フラグではない。ない筈だ。否定するべし。がんばれヨルン!

 そうこう考えているうちにニルンはそろそろ進むようだ。

 自分も次なるイタズラ考えて色んな魔物を送り付ける事にしよう。

 蜘蛛糸塗れにするなり蜜でベトベトにするなり、けし掛けるとしようかな。


(そんじゃまた何かあったらヨルンの事、呼ぶね)


「おっけい。手助け出来る事ならなんとかするからがんばってねー」


 


 こうしてヨルンBと仮に名付けられていた魔物はニルンと名付けられた。

 正直に、ただの暇つぶしではあるのだが

 ヨルンは楽しんでいるのだからそれで良いと考えている。


 次に与える試練は何が良いか。

 ヨルンは考える。このループ空間の中で空は飛ばせない方が良いのだが…

 そっちの道をこのニルンが選んでしまったどうしよう。


 またループ空間を広げなくてはならないのか?

 そもそもに、どうやってこの変な空間を広げたんだったか?

 意識をした途端に何も出来なくなってしまうヨルンがいる。


 そしてまあ良いかと、さっくり思考を切り捨てて。

 自分の分身であるニルンの育成計画を改めて画策するのだった。



   *   *   *

やっぱりイージーモードだった。

そろそろ虐めたい。

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