蛇の育成計画
『セーブ&ロード』の応用。もしくは『カット&ペースト』の能力か。
ループ空間の中で試行錯誤を繰り返し。
暇を持て余したヨルンのお遊び。
外の世界を再現する事に成功。
簡単な魔物であるならば作成可能。
そりゃあ…一部を取り込むどころかそのまんま丸ごと取り込み続けてたものね。
知能のある魔物の作成は無理であったが。
生まれたての自分自身の分身と良く似たモノ。
試行錯誤のうえに自分の所持していたスキルを駆使した結果。
呪いの力は持たず。不死の肉体を持った蛇の魔物がこの世界に誕生した。
そしてどうやら…この蛇は自分自身の分身ともなる存在のようだ。
生まれたままの環境を再現した森の中。
観察し、実験する事3日目。
何度も繰り返し再現したその蛇が、
自らの状態を認識し理解し行動するまでに3日ほど。
細かい様子は変わっているものの、基本的な動きは変わってない。
なぜ3日の時を何事もなく平穏に生きられたのか。
その理由の一つに魔物が近寄らない泉の存在か?
水場だというのに他の魔物の姿が一切見当たらないのだ。
魔除けの効果でもあるのか。
はたまた別の理由か。
元々が人間だった所為か何の影響も受けないのは体験済みだ。
となれば、蛇の魔物であり自分の分身であるこのリトルスネークにとっては
一つの安全地帯的となっていたのかもしれない。
つまり、何も干渉をしなければ3日目で、
この自分の分身である蛇は何も知らずに、
安全地帯から抜けて危険に晒されるという流れになる。
とりあえず不死の肉体は与えてやった。
何度か繰り返して実験してみたら、ちゃんと不死になったよ。
我ながらにさくっと自分自身の分身を何度もヤって試す様子はですねー。
中々にマッドサイエンディスト?
呪いの力はいらんだろう。持ってた所で進んで使う事もない。
与え方もまだ分からんし。とりあえず肉体的な特徴ならやり方は覚えた。
実験を重ねて魔法的な特性のやり方も覚えよう。
では今この時、目の前の成功体へ呪いの代わりに、
身を守る為のちょっとした武器を与えてあげよう。
再現した世界は他の魔物も限りなく再現しているし危険だからねぇ。
という訳で、与えた武器は『触手』だ。
ちゃんと『硬質化』も可能でナイフ代わりにもなる。
ちなみに、目の前の蛇の魔物との意思疎通は可能だった。
干渉すれば理解を示し反応してくれた。
気分は自分自身が守護者である。
故に自分は守護者を真似て対話ようとしたけど。
面倒だったので素で話す事にした。
なんとも不思議な気分ですよ。
自分の分身との対話とは何とも奇妙だが。
思考がどういう向き方をするのかだけは予測しやすかった。
この触手さえあれば目の前の自分の分身なら…
多分なんとか生き延びてくれるだろう。
何度か死ぬような目にはあうだろうけどね。
むしろ死ぬような目に合わせつつ楽しむのが今の自分だ。
それにしても、目の前の蛇に触手を与えてやった時。
なんとも神妙な顔つきとなってソレを振り回していたな。
やはり備わっていた自我は蛇として生れ落ちたあの時の自分。
まさに過去の自分、そのモノであるな。
こうして対話を何度も重ねていった結果。そう確信する。
…
……
………
「以上でこの世界の説明を終わっとくけど何か質問ある?」
自分は一通りの与えても問題の無さそうな情報を目の前の分身に説明した。
アナタ蛇ですよ。この世界は魔物いっぱいですよ。
不死身にしたけど一回死んでから復活するタイプね。
アナタは私の分身としての記憶を元に作られましたよ。
ちなみに今の自分は封印されちゃってる魔物だから助けて欲しいの~
だからちょっとだけ言う事聞いてね!
その他、諸々と説明致しました。
(不死身っていうけどもしかしてアンデッドなん?)
そして返ってくる質問としてアンデッドなのかと聞き返される。
確かにあの時の自分も自身がアンデッドに分類されてる魔物なのかと気になってたものよ。
変な魔法で浄化されたり苦しみながら肉体が朽ちていくとか嫌だものね。
結果として魔力で肉体を再構成しなおすタイプの不死身だったという事に
気付くのにはこうして何度も実験を重ねて知る事ができた。
「アンデッドは魔力を過剰に供給されて変貌する系魔物らしいよ。
キミは死んでも周囲の魔力を取り込んで肉体を再構成出来る体質。
痛みも感じれば精神的なダメージも結構入るから、なるべく死なないようにね。」
ともあれ、目の前の蛇の疑問には答えてあげよう。
自分自身で見つける楽しももあるのだろうけれど。
今目の前の蛇は説明書すら持ってない何も知らない蛇なのだし。
(あい。ちょっとだけ分かったけど。なんで自分は蛇なのさ?)
ごもっとも。自分でも分かりませんが。
なったものは仕方ないのです。
そう思えば目の前の蛇。
もうちょっと便利な体を与えてあげても良かったかもしれない。
「そりゃあ分かる訳ないじゃん?
自分だってなんで蛇に転生したか分かんないし。
でもキミが蛇な理由は。ボクの分身であるからしての結果ですよ。」
ともあれ、自分が蛇なのだ。
その分身が蛇であらずして何になる?
でも蛇だというのに触手があるわ、空も飛べるわ。
現実の蛇も宙を跳ねまわり高層ビルから他のビルへ
アクロバティックに飛び移るような種類もいるらしいが
既に空を飛ぶ事が可能な自分が考えた所で意味は無いとは思ったけれども。
いつか役に立つ事はあるかもしれんな。
蛇の身で出来る事は蛇の魔物である自分でも出来るという事。
目の前のこの蛇だって。空を飛べないうちは重要な行動の筈だ。
(まあ…納得いかないけど仕方ないか。今までの説明で大体理解したよ。)
(で、自分に何して欲しいの?)
うむ、素直でよろしい。
改めて説明してあげよう。
ただの自分の暇つぶしであると!
そう言う訳にもいかずに、建前として再度説明致します。
「そうだねー。ボクの事を助けてもらいたいってのが一つ。
その他はキミ自信が生き延びて貰いたい。」
改めて伝えした内容は最重要事項。
前者は望み薄いけど、それに係わって行く事で自分自身が何かを見出せる。
そんな予感が有るような無いような。
つまり、ただの勘である。それに出来なくてもなんらダメージなど無い。
これで飢えとか渇きとか。
もしくはループ空間が無くなり巻き込まれて
消滅するなんていう時間制限でもあるなら話は別なのだが。
ともあれ今、そんな兆候は無し。
むしろ快適すぎるが故にそれ自体が時間稼ぎの罠なのかもしれない。
しかし考えても答えは出ず、それが故にこの状況なのだ!
故に自分は何も考えない。焦る必要等まったくないのですよ。
あくまで…自分が焦る必要がない。だけなのだが。
「そんだけ。ボクの分身なら分かるでしょ?
楽しめれば良し。そうじゃないなら…キミ次第。
死にたくなったら不死は取っ払ってあげるし。
ボクがうざったくなったら切り離して好きに生きていいよ。」
そんな自分の話を聞いて目の前の蛇は鎌首を持ち上げ頷いている。
我ながら可愛い仕草だ。食べちゃいたいぐらいに。
じゅるり…と自分自身を食べる事も出来る事に気が付いてしまう。
一体どんな反応を見せてくれるのか?
そんな考えも過ぎるが我慢だ我慢。
我慢するのも…楽しみの一つである。
続けて話さねば自分が危ない。
こんな思考をしている事は知られてはならん。
続きを話して気を紛らわす必要があります。
「まあ、どうやって助けて貰うかなんて分かんないから、その辺は後回し。
この世界に生まれたてのキミがやる事はその体に慣れる事と。
まあ、お互い楽しめればそれでいいかな~程度で。」
そんなこんなで流れはこの程度で良いだろう。
ある程度それっぽく説明すれば自分は動くはずだ。
唯一頼れる自分を切り離す事はすまい。
切り離したら切り離したで…その時は…ペロリとね?
(正直全部を理解出来んけど…楽しそうだし。やってみるさ。)
予想通りの反応である。楽しそうだから良し。
自分の分身であるならば、この一言に尽きる。
「流石自分の分身。話が早い。
もっとスキルをプレゼントしたいけど。
今はこれが限界なの。
魔法的な何かもあげたいんだけどね。」
実際の所、もっと肉体的に強化してあげても良いのだが。
触手一本に留めておいた。
ついでに目の前のリトルスネークには触手が一本首筋の裏?
頭頂部よりも後ろ側?その辺りから伸びている。
故にポニーテールとも言えなくもない。
だが触手である。ぷにぷに触手。鱗などない。うねうね動くよ。
(いんや。別に良いよ。手の代わりがあるだけ有難い。)
(それに急に変な力あれこれ貰っても使いこなせる自信ないし。)
(で、最後に一つ聞いとくけど。)
謙虚ですなぁ。やはり自分の分身であるなと再認識。
可愛がってやらねば。使命感が湧き上がる。
かわいがりではない。愛でねばならぬ。
「なんだい?
別に最後と言わずに、なんでも聞いちゃいなよ。」
それにしても目の前の蛇は表情豊かであるな。
蛇なのに。特に目が綺麗である。澄んだ目をしておる。
おとなしい蛇は…意外と可愛いのよね。
こうして正面きって見てみるとやはり愛嬌がある。
だけど蛇の魔物なだけにさっくりと人間ぐらい殺せる能力は備わっているのよね。
(食べるものってやっぱりアレ?)
そうしてやってきた返事は食べるモノに関する事だ。
やはり気になる部分ですよね。
ここ数日、水しか飲んでないから空腹感が湧き上がってきたのだろう。
「うん。他の魔物をごっくんしてね。
人間もいるから倒せたら食べちゃっていいよ。」
という訳で野生的誘導を行う。
腹が減ったら狩りして食え!
腹が減ると集中力が増すだろう?
しかも魔物なので、食わずとも周囲からの魔力の供給で長々と生きられる。
しかし空腹感は残るので収める為には食わねばならぬ!
それが魔物の性よ。この辺は慣れて貰わねば。
(へい。元人間がそれ言うのかい?)
そういえば元人間だった。
今更であるが大分自分も流されてしまったものよ。
ネーサンは今頃何をしているのやら。
ループ空間より外に出たら世界が崩壊してました。
そんな未来が見えるよ。
理由の一つに例のアレの解放がある。
定期的に魔力を供給を行わないと解放されるアレの存在。
うん。考えるのは良そう!
自分も見た時には背筋が凍ったアレの存在!
数を揃えた虫の戦術とやらがネーサンの考えてた攻略法の一つだったらしいし。
自分は何もミナカッタ。人間超える大きさのGなんて…ミナカッタ。
どうにもならず干渉も不能なものより今は目の前の子の相手をせねばならぬ。
「そりゃあ。今は魔物だし。
この世界の人間。魔物に対して厳しいよ?」
でもまあ冷静に考えれば魔物ですし。致し方なし。
魔物は討伐される側だから目の前の分身も例外なく処理される事に。
自身の置かれている立場ぐらいは話しておかないとね。
夢は見させない! その上でやりたいと願うなら勝ち取らせねば。
でも今はループ空間内。目の前の蛇の為にも打ち破らねばな。
そう決意を高める。
(うへぇ…せめて魔物娘とかいないの? むしろ可愛い子ならなんでも。)
むっ…決意も程ほどに。魔物娘ときたか。
ネーサンの話だと上半身が人間のアルラウネ系もいるらしい。
下半身蛇のラミア系統もいるらしいが。会った事はない。
奴隷用にもされているらしいので数自体はあるようだが。
ともあれやる気を出させる為に伝えておこう。
「いるいる。けど正直少なめだよ。
人間怖いから、その希少な魔物も狩られちゃうんで。
ハーレム作りたいなら、がんばって強くなってね。」
思えばハーレムなんて縁がなかった。
蛇のハーレムであるなら簡単に作れそうだが。
魔物娘のハーレムとなると…その奴隷を解放してはべらすか?
人間は少し面倒な事になりそうな予感がするので思考からは除外である。
しかし…思えば過去に出会った人間達。
豊満な体付きの女性陣を引き連れた男が多かったな。
…許すまじ。相対したら『色彩魔法飴』で爆破してくれよう。
とりあえず、ハーレム作りの為。さらなる決意が固まった。
(マジ? 強くなるわ。というか性別あるの?)
よし、目の前の蛇はとりあえずやる気は出たようだ。
しかし性別か。んー。なんというか無性なんだよね。
リトルスネークもなんだかんだで性別ないっぽいし。
進化すると強い子孫成す為に性別が出てくるとか。
経験もあるし間違いないだろう。
「んーとね。
触手あるじゃん。がんばれ。
というか性別なんて気にすんな。魔物なんだし。」
ともあれ変な期待はさせぬ。
蛇の営みは濃厚らしいが。目の前でされても困るし。
そもそもそんな気は無いっぽいし。
やる気があっても語る事はないだろうし。
その辺は考えぬ。考えてはならぬ。
(あい。頭おかしくなりそうだから、そろそろ行くわ。)
こうして蛇の魔物は旅立つようだ。
話すうちに最後に一つどころではなくなったようだが平常運転である。
一通り終えて、ほんとに最後らしいので快く見送ろう。
「んじゃ、何かあったら呼んでね。
病気や体の欠損とか心配しなくていいから。
後先考えずに行動してもいいよ。」
(あー…いや。分かった。がんばる。)
「では検討を祈る。
親愛なる我が分身よ!」
以上。そんな流れを得て今現在。その分身を見守っています。
ループ空間の中で森と見立てたくうかんでフィールドを作成中。
移動に合わせ自然なるループを演出しております。
気分はバーチャルリアリティなんとやら。
肉体の一部(触手)と生まれたての自分を再現した魂とで
リトルスネークを作り出し。暇つぶしです。
否。暇つぶしではなく。
この現状を打破する為に、もう一つの自分を完成させる為。
試行錯誤でがんばっているのです。
いやぁ…この『ラプラス感応』というスキル。
明晰夢どころか実際に肉体まで与えられるとは思わなかった。
応用してこの空間内部に森も作成する事に成功。
魔力に溢れるループ空間だからこそ出来たのか。
小さいながらもリアリティ溢れる魔力空間が出来ましたよ。
…いや、ちょっと作った時に違和感があったのだが。
あの違和感はなんだったのか。ループ外と干渉出来たような気がするのだが。
もうちょっと精度を高めて試行錯誤を繰り返そう。
今はそんな事よりも行動あるのみだ。
それに気が付いたらソウルイーター関連のスキル…戻ってた。
しかも…守護者が取得を拒否していた『生体群生』というスキル。
既に持っていた。これ…自分自身を複製する能力だったのね。
正確な使い方は分からんが。
一先ず目の前の分身である蛇を作り出せたのもそのスキルのお陰だ。
相応の魂をこの身に取り込む必要があるみたいだけど。
相当に危険なスキルだわ。使い方を誤ったら自分がいっぱい。
収拾付かなくなりそうだけど楽しそう!
わたしわたしわたし!ワタシワタシ!私!私!私!
…いや。やめとこう。
取り返しの付かない事態になるだろうからね。
守護者が封印していた理由。目の前の一匹を作っただけで理解したわ。
ワールドイーター時に覚えたというから。
全く覚えてないが故に…酷い使い方をしたに違いない。
切断されればその部位から別の自身となりて分裂を繰り返しての…
普通に出来そうである。
感覚としてそれが可能だと、この実験において理解してしまった。
守護者にしてみれば自分が増えたらどっち守れば良いの?
そんな考えをしてしまったのかもしれない?
現状を見る限りに、守護者自身は増えないっぽいし。
むしろ完全にスキルもコピーされないようで分身した部分は劣化?
色々調整も効きそうだし、まだまだ謎の多いスキルであるな。
まあ、今はこのスキルをちょっと弄り。
与える記憶を操作して、この世界に生まれたての
自分の分身を一匹作る程度に留めておくのです。
初めての子育て!
とは思うも。この蛇は過去の自分の記憶を引き継いでるのよね。
ふぅむ。思い通りに育ってくれるのだろうか。
改めて思う。とっても心配である。
それ故に。楽しみだ。
ヨルンは目の前の蛇の魔物を育てあげるという決意を胸に秘め。
育成計画を立てるのであった。
* * *
平和そうなパートを続いてますが。
ヨルンの頭が平穏なだけなのかもしれません。




