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【我はアスピク】-4-

息抜きに一本。

途中投稿してしまったので投稿時間より30分程内容が変わってたりします。

 世界は怒りの炎に包まれた。

 極大魔法による爆発の後。

 巻き起こる魔力の渦と光の奔流。

 余波に巻き込まれた者達への被害は甚大だったが。


 今この場に集まる魔物達にとってはそよ風のような影響である。

 巨大な魔物が1匹。その頭に一つ。そして追従する魔物が2匹。



「うむ。魔物であるならこうでなくてはな!」



 蛇の王であるアスピクはその光景を感心した様子で眺めていた。

 そして、その配下である魔物の3匹は怯えた様子で縮こまっている。


「あれ…リムの魔城の所からでしょう?」

「機嫌が悪いってレベルじゃねーぞ…」プルプル

「ペペポォ…」


 仮にもランクAと分類された魔物が2匹。

 オマケのスライムも一匹。

 アスピクの姿を見上げていた。

 可愛いだけの小物に囲まれた親玉の蛇は、とりあえず満足している。


「どうやら向こう側から来るようだ。衝撃に備えろ!」


 アスピクは感じ取るが早いか身構えた。

 続く暴風により一匹のスライムは吹き飛ばされ木に激突。

 木は無残な姿を晒し、溶け落ちた。


「リム?」

「どうみても戦闘フォルムなリムです」プルンッ

「ぺぷぅ…」


 彼等の目の前に現れたのはユグドラシル・リムであった。

 獲物を見つけ、見下すような目で他のユグドラシル種を一瞥し。

 そんなものより、今重要なのは目の前のアスピクであるとリムは割り切った。


「私はユグドラシルのリムよ。私に会いに来るつもりだったんでしょう?

 憂さ晴らしにやりあうのも良いけど。まずはヨルンの事。知ってる?」


 数十メートルを超す巨躯であるアスピクを前に

 リムは物怖じする事無く威圧する。

 対するアスピクもその様子を良しとし対等に話す。


「我はアスピクだ。其方から来るとは手間が省けたぞ!

 我としてもやりあうのは歓迎だが。ヨルンか。あやつ絡みとは…ふむ」


 アスピクは悩んだ。

 ヨルンが関わってくるとなると迂闊に手を出して良いものか。

 いっそのこと。ヨルンごと仲間に引き入れてしまうのも良いかもしれない。

 そう思い考えを纏めようとリムの言葉を待つアスピクだったが。

 リムの口からは予想だにしない答えが返ってきてアスピクを悩ませる。


「聖都のアイツにやられたわ。例の空間ごと吹っ飛ばすアレよ」


「なんだと? あ奴がそう簡単にやられるとは思わんが。

 そもそもにリムよ。ヨルンが死んだわけではあるまい?」


 アスピクには判断が付かなかった。

 過去に自分を倒したモノと同じスキルを受けてしまったのなら。

 対抗しうるスキルをヨルンには与えていたものの

 使い方は一切教える事を忘れていたのだ。

 しかしアスピクは信じていた。むしろ確信があった。

 ヨルンならどうとでもなると。


「だから、あのスキルをその身に受けたっていうアスピク。

 アンタに会いに来たのよ。あのスキル受けた後どうなったの?」


「肉体という器は消え去り。精神だけが残り100年程暇だったわ!

 だがヨルンには対抗しうるスキルは教えてある!

 …いや、もしかすると。今頃は聖都を攻略しておるかもしれんな。

 我の楽しみが奪われてしまうやもしれん。これは困ったぞ。

 いっその事、それを理由にヨルンと事を構えるのを考えるべきか」


 ふとアスピクは今までのヨルンの行動を評価し

 聖都を破壊し尽くしたヨルンの姿を思い浮かべる。

 想像に難くない。いかに聖都の女神が強かろうと

 ヨルンが本気を出すのであれば聖都が陥落するのも自然な事だ。

 アスピクの中でのヨルンという存在はドラゴンを。

 しかも始祖竜と呼べるモノを打ち負かした魔物なのだ。


「そんな訳ないじゃない。生きてるにしても今頃助けを求めるお姫様役よ。

 …くっ。今頃ヨルンちゃんは皮を剥がれて素材にでもされてるに違いないわ。

 もしかすると、餌付けされて懐柔されてるかもしれないし…」


 だがアスピクの印象とは逆にリムからしてみれば

 ヨルンは内包する魔力こそ高いと認めてはいるが。

 こと物理的な武力とその気性に関しては

 冒険者と良い勝負をする程度の印象しか受けていないのだ。


 数十年の時を共に過ごしたアスピク。

 数十日程度の付き合いだったリム。

 思い描くヨルン像が違うのは致し方なし。


「クァーハッハッハッ! お姫様とくるか!

 あ奴ならそれも楽しんでやるだろう!

 餌付けされて懐柔されるのは否定せんが、

 あ奴は好き放題、相手の思惑通りに動く奴ではないわ」


 アスピクは考える。ヨルンの可能性を。

 しかしどれもこれもがしっくりこない。

 少なくても死んだとは思えないが故にアスピクは笑い続けた。

 リムもまたそんな様子を見て少しばかり落ち着きを取り戻す事になった。


「で、アンタとヨルンの関係ってなんなのよ?

 正直、あの子の話だと全然理解が追い付かなかったわ。」


「無論。友達だ! 我を再びこの世界に呼び戻してくれたのだからな!

 あ奴が助けを求めるのなら、喜んで力を貸してやろうぞ!」


 堂々とそう言い放つアスピクの前に

 3匹のユグドラシルの魔物は疑いもなく信じた。

 疑っても仕方ないし、嘘を言う理由は何処にもない。


 単純明快にヨルンを。

 つまりユグドラシルのティアは仲間であると宣言するアスピク。

 それはつまり目の前のリムを配下に加えれば4種のユグドラシルの魔物は全て

 アスピクを通し、係わりを持つことになるという事。

 ほんの少しの静寂の後。アスピクが口を開く前にリムが先手を取った。


「あー、もう分かったわ。とりあえず16発ぶん殴らせなさい」 


「訳が分からんが戦線布告と受け取る! いつでもかかってくるがいい!」



 こうして魔物的な対話が始まった。

 話し合いに困ったら戦い。圧倒し。制圧する。

 単純明快にして実にあっさりとした解決方法である。


 魔物の世界では力こそ全て。

 今回はリム側のうっぷん晴らしが元であるが。

 ともかく素早さに身を任せたリムが拳を握りしめアスピクを殴打する。



 単純なテレフォンパンチであったがその速度には凄まじいものがあった。

 そして文字通り殴りたいだけの攻撃をリムは続け。

 宣言通りに16発の殴打をその身に受けたアスピクは腹を大きくしならせる。


 ふんすっ!


 蚊ほどにも感じなかったリムパンチを全て弾き返すと

 アスピクは全力で体当たりを行った。


 避けるつもりもなく、リムはその体当たりを片手で受け止める。

 否、受け止めるふりをした。


 受け止めれば甚大な被害が出ると予測してしまったリムは一手遅れたが。

 リムの手数はアスピクが一手行動する間に数十手の先を打つ事が出来る。

 針により簡易な盾を作り、目の前に展開。

 触れたその瞬間より砕け散るソレを見て自らが受けるダメージを予測。

 世界樹の鎧を自らの意思で破壊し尽くし、ほぼノーダメージで被害を演出する。


 アスピクは絶対の自信を持っていた。

 故に目の前のリムの姿がズタボロの鎧を纏う姿を見て素直に称賛した。

 良くその程度で済んだものだな!…と。


「参った。勝てる相手じゃないわね。

 そいつ等と同じく傘下に大人しく加わるわ。

 だけど、ヨルンちゃんを助けるまでの間よ。

 そこの二匹次第でどうなるか分かんないけど。

 とりあえずは言う事聞いてあげるわ」


「態々そんな事をせずとも、ヨルンの友であるなら我は信じたぞ?」


「良いのよ。魔物なら一発受け止めて見なきゃ分かんない物があるし。

 単純で分かりやすい関係のが助かるわ。

 そこの二匹をぶっ殺せ的な命令とか大歓迎よ」


 そんな二匹のやりとりを見て、その二匹の魔物は戦慄する。

 お互いに顔を見合わせ、抵抗の意思を込めリムを睨み付けるが。

 アスピクを前に対等に渡り合おうとしたリムと。

 問答無用で平伏した彼等の間とでは超えようのない壁があったのだ。


 養豚場の豚を見るようなリムの目に一瞥されると。

 同じユグドラシルの魔物であるサプとリフは単なるモブキャラと化した。

 そして取り残された金色のスライムは人知れずアスピクの頭の上に鎮座する。


 唯一変わらぬ立ち位置の金色のスライムは至って変わらぬ行動をとる。

 


(散らばってた針も…何コレ美味しい)



 王冠代わりのスライムの視線はリムを捉えていた。

 どうやって意思を疎通すべきか。

 このままでは自分は単なる持物である。


 金色のスライムは願った。

 どうにかして対話がしたい。

 悩んで祈って念じて考えぬいた。


 そして…



(お腹すいたぁー!!!)



 何気なく念に込めて放った思考は魔力を通じ周囲に伝達された。


 

「お…?」

「あ…?」

「え…?」

「むむ?」ぷるん



 不意を突かれた魔物達は各々驚きの反応を見せた。

 加減を知らないスライムの念話は大音量のままに

 調節をしなかったスピーカーから垂れ流された

 ソレを彷彿とさせるモノだったのだ。



(……!?……!!?)



「今のはスライムか?」

「私じゃないです」ぷりん!

「念話?」

「そういえばアスピクの頭の上のソレもスライムよね?」



 しかし驚いたものの、流石はランクAに分類される魔物達。

 状況は即座に理解される。視線は全てアスピクの頭部へ向かう。

 その頭皮はしっとり溶けていた。



(聞こえた? 聞こえた!?)



「うむ。聞こえたぞ。スライムよ!」

「なんと? 対話可能に! 一緒に子供を作りましょう!」ぷるぷる

「サプよ。黙れ」

「スライムが念話だなんて珍しいじゃない」



 誰もアスピクの頭皮についてふれることはない。

 ほんのり肉が見える程度にまで溶けた所で急速に癒しの効果が表れ

 元の状態に戻るのはリム以外の2匹にとって見慣れた光景だ。



(対話可能! 通じてる? やったあ!)



 純粋なる喜びを見せるスライム。

 アスピクも上機嫌で答え、他のモブ達も混ざり対話を続けた。

 そしてユグドラシルのリムは考える。


 この目の前の二匹。こんなんだったっけ?


 聖都の女神に脅されて眷属を増やさぬように脅されて。

 ユグドラシル・ティアがこの世に現れぬように立ち回っていた挙句に。

 自分からは臆病に逃げ惑うだけの奴等だったような覚えがあったが。

 今の目の前の二匹はアスピクに付いて回るモブキャラだ。


 ありえない。


 そう思うも今、目の前で繰り広げられるほのぼのとした空間は何なのか。

 アンデッドと化した魔物を金色のスライムに放り込むその様子を微笑ましく感じる事。

 それ自体がズレている事には気が付かなかったが些細な問題である。



 そうして彼等はヨルンの作り出した大樹の下へと辿り着く。



 そこにはハイエルフが一人。

 犬小屋のような作りの魔城の中で寝袋に包まっていた。

 涎を垂らして眠りに付いているその姿を発見したのは金色のスライムだった。


 他の誰もが気が付かなかったのは、

 そのハイエルフ自身が設置した結界による効果であるのは付け加えておこう。


 続いておかしなスライムの様子を感じ。

 犬小屋の中の存在に、リムも気が付いた。

 あまりに滑稽な姿だったので、リムはその結界だけを打ち壊す。


 音もなく消え去った結界の後。

 アスピクとその配下のモブ達もその存在に気が付いた。



「このエルフ…見覚えがあるな。」

「エルフというより。ハイエルフですな。」プルルンッ

「アスピク様のお知り合いで?」

「むしろ何でこんなトコで寝てんのよ。しかも起きないし。」

「ペプゥ…」


 戸惑う魔物達をよそに依然として眠りを貫くハイエルフ。

 しかし、眠りは浅くなったのだろう。すんすんと鼻を鳴らし。

 ハイエルフは寝言を聞こえる形で口に出して言った。



「アァ…ヨルンちゃんの匂いがしますぅ~」



 魔物達は、はっきりとその言葉を聞いた。

 殺意を持って観察していたリムの緊張が和らぐ。


 どうやらハイエルフの命運は繋がれたようです。

 目を覚ます気配のないハイエルフは頭部を掴まれ

 引きずり出される程度で済まされた。



 ついにハイエルフは目を覚まし、現状を視認した。



 巨大な蛇の魔物が一匹。

 取り囲むような布陣で広がる可愛げのある魔物達。

 しかしそのどれもがランクAに分類されている魔物である。


「おはようございます…えっと。ヨルンちゃんのお友達ですか?」


 緊張感のない言葉が辺りに響く。

 アスピクとリムは頷いた。


「そのとおり。我はアスピク。ヨルンの友達だ!」

「そうよ私はリム。ヨルンちゃんとは友達ね。」


 奇妙な光景ではあったが意思の疎通が可能な者同士。

 即座に戦闘状態となる事はなかった。


「私はエレナです。よろしくお願いしますー。」


 命の危険が身近に迫っているとは感じさせられないぐらいに

 落ち着いた様子でハイエルフは挨拶を終えた。


 魔物達は感じていた。この目の前のハイエルフは、

 一人で森の奥深くまで辿りつく実力を持っているという事に。

 そもそもに極大魔法の余波を受けた森の中で、

 犬小屋の中に堂々と寝ている事自体がおかしいのだ。


 とんでもない大物なのかもしれない。

 魔物達は戸惑っていたがハイエルフは続けた。


「それにしても…ヨルンちゃんは何処にいるんでしょう。

 …お家の中にもいませんでしたし。暫く留守にしていたみたいですし。」


 その言葉を聞いてリムは気が付いた。

 目の前のこの犬小屋とも似た何かがヨルンの作成した魔城である事に。

 その魔城が崩壊していないという事はヨルンが生きている事に他ならない。

 生存の確証を得るために大樹の下にやってきた一向だが。

 その目的の一つはこれで果たされた。


 尤も、アスピクは確信を得ていた。

 大樹を見上げ他の誰にも聞こえぬぐらいに小さな呟きを漏らす。


 そんな中、カタカナでヨルンと文字が彫られた皿を発見し。

 違和感を覚えた金色のスライムは身を震わせる。

 その違和感が何か確証の持てぬままハイエルフとの対話が始まっていた。



「うむ。そのハイエルフはヨルンが言うには、

 岩をも砕く胸を持っているとかなんとか。」



 アスピクの遠慮のない言葉に違和感が何なのかも吹っ飛び。

 擦り寄ってくるサプというスライムを押しのける事に必死となるも

 ついに押し負け、スライム同士の一部が同化する。

 皆の前で遠慮のない生命の営みが始まろうとしていた。



「他には即落ち2コマのエルフだったと守護者が言っていた。」



 金色のスライムは即落ちすまいと抵抗する。

 もう一匹のスライムであるサプは上空高く舞い上がり

 様子を見ていたリムの手により串刺しにされるが

 その程度で命を絶たれる事は無い。


 しかしその様子を不憫に思った金色のスライムは慰めるように近寄ると

 再び活力を取り戻したサプが迫り寄る。



「ハイエルフよ。今一度、魔物にならんか?」



 そしてサプは魔物となり金色のスライムを襲い始めた。

 止める者は何もなく、大樹の回りを2匹のスライムが駆け回っていた。



   *   *   *

パワーバランスなんて捨てて掛かっていきます。

ちなみにヨルン側は今頃、エンドロールを流している頃でしょう。

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