冒険者には報酬を。魔物には楽しみを。
…対剣士戦では勝利しました。
誰も死んでません。
剣士君の首が胴体とオサラバしたように見えましたが気のせいです。
あれは脳内イメージですよ。
生暖かい感触と、食欲をそそる血飛沫の匂いも。
全てがリアルなイメージです。
正直上手く行くとは思わんかった。
彼等に勝てなかったのは…
あのディッグとやらが、おかしいだけだったと思う事にする。
では勝負ありと頂きましたので
ティアちゃんに戻ってお話しするのです。
ネーサンの前ではやっぱりこの姿が安泰ですよ。
自分を見る目が表情が明らかに変わるのだ。
ついでに冒険者達を相手にするにも都合が良いし。
可愛いというのはなんとも最高の武器となりますな。
という訳で。
(ボクの勝ち~で良いかい?)
「参った。私の負けだ。好きにしてくれて構わない…」
(マジで? ボクの朝ご飯にもなってくれる?)
「拾った命だ…覚悟の上」
ザッ―――
あー、美味しかったでぶ。
…まさか本当に無抵抗だなんて。
…眷属化もせずに食べられてくれましたよ。
流れを思い出してみても、やはり何かがおかしい。
…今から丸ごと呑み込んじゃうよ!
…足からがいい?頭からがいい?
「足元からで」
…否定しないの!?
…えっと、なら遠慮なく。
…なんの引っかかりもなく、するする入っていきました。
…心なしか相手さん興奮しておられるようです。
えっと…そういうフェチ持ちですかこの方?
むしろこの相手よりも小さな体に人間一人収まるとは思わなかった。
お腹が膨れが現実的でない気がしますが。
収まったものは仕方がない。
暫くの間はお腹の生きておられたようですが。
数分もすれば意識を失いお亡くなりに…
お腹の膨らみも実にあっさりと無くなって。
余すところなく吸収してしまったようです。
ネーサンにはヨルンちゃんはやっぱり魔物道選ぶべきよと言われたし。
ディッグからは、アイツは変態だったからな。なんて言われてる。
…無論ロードしましたよ。
…なんでしょう。この世界の人間さんは。
というか、ディッグさんなんで止めないんですか。
…ネーサンもネーサンで奥のお部屋でお楽しみ下さいだなんて!
…うむ、もしかしてティアちゃんとやらもこんな流れで人間を食ったんではないか?
有り得ない話でもない。
…この世界の人間は未だにようわからん。
…魔物として生きてきた期間が長すぎただけなのかもしれないけれども。
ともあれ、こんな行為を最期まで行ったのにも理由がある。
ロード後の記憶が残っているか否か。
それを確認する為に丁度良かったからだ。
ザッ―――
(えーと、それじゃあ人生最期を迎えたくなったらボクが食べてあげるから)
(その時まで他の魔物にやられちゃヤダヨ?)
「心得た、精進する」
(はい、その時はもう一回勝負してからねー)
パチパチパチと拍手の音が聞こえた。
ネーサンである。拍手し辛そうな手ではあるが。
なんとも器用に音を鳴らすものだ。
ディッグ側もやるじゃねーかと称賛してくれました。
そもそも…アンタ何者よ、アサシンヴァイパーの性能で手も足も出ない…
いや、触手も尻尾も出ない相手なんて有り得ん…
「簡単な事よ。ヨルンちゃんが弱いだけ」
(ネーサン…そりゃないよ)
「だって、生まれてまだ6日目なんでしょう?
経験があっても肉体が全然追い付いてないわ」
(そういえば…全盛期に比べれば確かに劣ってるような)
(んん…でもむしろ快調のようにも思えるんだけど)
(なんだろう、この不思議な感覚は)
「多分器の大きさが相当なモノになってるんじゃない?
ヨルンちゃん。名前付いてるし。そもそも誰に名前付けて貰ったの?
名前付きの魔物なんて。早々なれるもんじゃないわよ?」
(蛇王アスピクと始祖竜ユミルの両名が死闘の末に名付けてくれました)
「…どういう関係よソレ。まあ話のタネにとっとくわ」
(で、ディッグさんと。ローニくんだっけ?)
「うむ、ローニでいい」
「もっかいやるか?」
(んー、もういいや。疲れた)
(ディッグには心へし折られるし。ローニ君と戦って神経擦り減ったし)
(これ以上やったらどっちか死ぬまでやっちゃうよ)
「ま、そうなったらこっちの魔王さんが怖いしやめとくわ」
やはり…どうやら此処にいる全員の記憶は無いようだ。
全然平常心で戸惑いが一切見当たらない。
記憶が残っていればロード直後に変な行動もある訳で。
現状、ロードした世界を認識出来ているアスピクにユミルも
体のバランスを崩す程度の影響を見せてくれたものな。
それすらも一切見せないこの剣士にはロードによる記憶の影響は無い筈。
ネーサンにディッグも相変わらずなので普段と変わらずに使用して良いだろう。
(それで、なんだかんだでお昼過ぎちゃってるみたいだけど。どうする?)
そう言って気が付いたけどまだ起きてから何も食べてなかったよ。
それを察してか小瓶に蜂蜜入れて手渡してくれるネーサンの優しさ。
毎回思うけど、ネーサンの察する力が半端ないです。
これが経験の差?
尻尾を振りながらネーサンにすり寄って蜂蜜を頂きました。
どうやら餌付けされてしまっているようです。わんわん。
「そうねぇ…というかなんでまだアイツ等起きてないの?
昨日ずーっと気配感じてて落ち着かなかったんだけど。
あの子達…まさかずーっと覗いてたとか?」
アイツ等というのは残りの冒険者達の事だろう。
確か後3人居た筈なんだけれど。未だに寝ているらしい。
ちょっと気が緩みすぎな奴等であるな。
仮にも魔王の住処だというのに。
(ボクはずーっとネーサンに抱き付かれてて眠れませんでした)
「あら…ゴメンナサイ。今日は優しくしてあげるから安心なさい?」
(うん、期待しとく)
(それで…察しの通りずーっと覗かれてたっぽい)
「…ああ、見ないと思ったらアイツ等。
そんな事してたのか、どうりで」
「夜な夜な…妙な声がして気になってはいたんだが」
「一晩中覗いてたのか…」
どうやら昨日の様子はみなさんに知られていたようである。
自分達も、無防備にあれやこれやと寝過ごしていたけれど
相手がその気であればひと悶着あったかもしれんな。
ともあれ、襲われたりでもしたならネーサンを止める術がないので、
相手さん全滅必死であるのだが。
まあ表面上の敵意は無いので良しとしておこう。
上っ面だけでも付き合ってくれるのは嬉しいものだし。
「はあ…馬鹿らしい。で、どうするのよアンタ達?」
「こりゃあ。今日も帰れそうにないな。
アイツ等…満足するまで粘るつもりだぞ?」
「満足って?」
「変な趣味持ってるのは分かってたけど」
変な趣味?
剣士さんのアレ?
それとも覗いてた奴等がそーいう趣味持ち?
思ったよりも人間の闇は深い。
しかも満足するまで粘るとか言ってなかったかい?
冒険者なのにまだまだ居座るつもりかい?
稼ぎ拠点にでもするつもりなのかい?
ともあれその辺は詳しく聞かねばなるまいて。
(んん?…もしかして。あの子達…今日もまた覗くつもり?)
「良いんじゃない? 見せつけてやるわ」
(…あ、ネーサンは別に良いんだ)
「勿論、別にただ抱き枕にしてるだけだし。相手が勝手に楽しんでるだけよ」
「まあ…それで良いなら。もう一晩ぐらい厄介になるとするか」
「ああ…一体何をしてるんだ自分達は?」
「また料理の手伝いでもすればいいの?」
どうやらもう一晩ぐらいは厄介になるようだ。
そしてもう一晩覗かれる訳ですね分かります。
相手側が変な気を起こさないかだけが心配であるな。
いっそこの冒険者達に攫われてネーサンの助けを待つヒロインスタイル。
妄想してみると、国ごと滅ぶ未来しか見えぬ。
尤もこの区域より離脱する事すら叶わんだろうけど。
…そもそも、冒険者側からの視点…一体どうなってるんだ?
「そうね、またおいしい料理作って貰えるならもう一晩ぐらいは許すけど。
アンタ達も相当馬鹿ね。私達がその気になったら簡単に殺されるのよ?」
「違えねえ、馬鹿じゃなかったら冒険者なんてやってられんしな」
「ディッグ…せめて怒りは買わないように」
「俺達が晩御飯になるかもしれないんだぞ?」
ともあれネーサンは冒険者達を許容しているようです。
自分としても何も問題は無い。むしろ歓迎してしまいたいぐらいではある。
怒りを買うだなんて、襲われでもしない限りはありえんのだ。たぶん。
「私は不味そうだし遠慮しとく。ティアちゃんなら喜んで食べそうだけどね」
(えー、ボクだってこんな奴等。食べるかもしれないけど、いらなーい)
自分は尻尾ふりふりネーサンはすまし顔。
傍から見たらどーなってるんだろうか。
とても魔王とは思えぬほんわかムードであるぞ。
これが見るモノ全てを畏怖させる姿の魔物達の会話だったならどうなのだろう。
ネーサンも変身出来るみたいだし今度やってみるのも良いかもしれない?
そこまで考えネーサンの顔をみると、心の底からの笑みを浮かべていた気がした。
「って訳だ、お前等が考えすぎなだけだ。今んとこコイツ等は敵じゃねーよ」
(うーん、すっごい割り切りようだ。結構好きかも)
「おう、褒めても何もでねーぞ。ケチだからな」
「ティアちゃん。あんな男に惚れちゃだめよ?絶対使い捨てられるから」
(あっ…いや、そういう好きじゃないです。ラブじゃなくてライクです)
いやー、人間に惚れる訳ないじゃない?
そう返答しようとしたけれども。
あれ? すっごく自分の感性、魔物に向いてないかい?
ふとネーサンとディッグを見比べる。
そういえば冒険者側のあの女の子もナイスなボディをしておる。
それも含め全体を見比べるが。
なんの迷いもなくネーサンにラブを捧げると決意し、
ネーサンのすり寄ると一緒になって冒険者の前でイチャついてしまった。
「まっ…今日の所はおとなしくしてるわ」
「とりあえずアイツ等起こしてくる」
「自分は料理の仕込みでも」
(はーい、でもディッグさん。ちょっと良いかい?)
イチャ付き加減もほどほどに。
ディッグだけに念話を飛ばす。
「おう、なんだ?」
(やっぱり…もう一回やらない?)
ヤらないか? ではなくて。
戦わないかのお誘いである。
勘違いはせぬように。性別は無くとも、人間の男には惚れぬのだ。
「構わねぇが…次は殺すまでやって貰いたいのか?」
(んーとね、新しい姿のアレで)
(慣れるのにお相手願いたいかなとか思ってるんだけど。)
正直に負けっぱなしだと納得がいかんので。
1ランク上のお姿で相手をして叩きのめしてやろうという思惑が無い訳じゃないが。
「………アレか。成程な。いいぜ、やってやるさ。
代わりにまた報酬上乗せして貰うぜ?」
(やったー、それじゃ、ちょっと準備あるから。
ディッグさんも準備しといてねー。あと報酬ってどんなのが良いの?)
ディッグは快く引き受けてくれた。
報酬せびられたけども。まあ冒険者だし。傭兵だし。
貰えるものは貰っとくのだろう。しっかりしておる…
「まあ…その辺はそこの魔王さんと相談しとくわ」
「そしてティアちゃんの御飯がまた少なくなると」
(げっ…そんな殺生な! …うー、背に腹はかえられない!)
(やると決めたらやるのだ! ディッグさん覚悟すべし!)
無情にも御飯が少なくなると告げられた。
確かに払えるものは何もないけれども…地味に堪える報酬だ。
だが…口に出してしまったのなら仕方ない。
ディッグをボコボコに叩きのめし溜飲を下げるのだ。がんばれ自分!
「おう。がんばれ」
(なんか馬鹿にされてる気がする!)
(許すまじ! ボクが勝ったらディッグを晩御飯にしてやる!)
これぞ魔物的思考!倒して食らう!
倒されれば死ぬだけだが自分はほぼ死なぬ!
故にそれを押し付けごり押しスタイルを貫ける自分はまさしく強者!
ディッグを睨み付け、次の瞬間不味そうと思うのもその瞬間。
「おう、そんじゃ逃げるわ」
(うがー、踏みつけて下敷きにするぐらいで勘弁してやる!)
なんか軽くいなされてる気がする。
きっと可愛いからナメられてるに違いない!
可愛いから許されてるに違いない!
これは一発やらねばならん。驚かせねばならん。
魔物としての威厳を見せねばならない!
「おう、そのぐらいならやってやるか」
(ぐっ…それにしても。なんでそんなに余裕なのさ?)
「なるようになる思考。まっ、仲良くしようぜ」
(うん、やっぱりそーいうの好きだよディッグさーん)
「よっし、今晩は俺が抱き枕にしてやるか」
…スコーン!
あっ…ディッグに角生えた。
うん、流石のディッグでもネーサン相手はダメなのね。
ロード事案が発生か…ローニ君食べる前まで戻っちゃう…
「おい!痛えぞ!死ぬぞ!」
「ティアちゃんに手を出したら殺すわよ?」
(ネーサン? それ普通死ぬんじゃ?)
(というかなんでディッグ生きてんのさ?)
「分かった分かった。冗談通じねえ奴だぜまったく…」
そうして頭部から無造作にネーサンの射出した針を引き抜くディッグがそこに居た。
こいつ本当に人間なんですかねぇ?
そんな考えをしていると、キュポンっと良い音がしたので何事かと思えば
見れば針ではなく、吸盤状に潰したモノを射出したようで。
ネーサンにしても加減は覚えてきていたらしい。
それでも…あの速度だし相当な衝撃があったと思うんだけど。
意識ぐらい失ってもおかしくないレベルの筈よ?
…むしろ前回自分が身を挺して受け止めた。
という事例があったからこその…ネーサンなりの手加減なのかもしれないけど。
まあロードするまでもなかったようで安心です。
ともあれ変な流れが続く前に準備をするのだ。
自分はイレイサーへと変身!
そしてネーサンが用意した鏡により、自分の姿を確認!
さあ『イレイサー』とやらのお姿はいかに?
* * *
剣士が変だっただけです。類は友を呼ぶ。
もしかすると冒険者には変な奴らが多く集まる傾向にあるのかもしれません。
勿論それ以外の普通な者の方が多いでしょう。




