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叩き伏せられた。
一瞬の気の緩みだった。
何を言われたのか分からず。
理解しようと頭を働かせたその瞬間だった。
「言ッタダロウ ワタシの…負ケダ」
………頭が真っ白になった。
何を言っている?
自分はたった今、唯一の勝ち目を失ったのに?
「認メタノダ オマエの勝ちダ」
………理解にし難い。
なぜ?どうして?そんなコトを言う?
自分の勝ち…だって?訳が分からない。
「コンナコトデ 勝ちを拾ッタ 等トハ思ワナイ」
負けは認めているという言葉は本当なのか。
何故かは分からない。
なら…ドラゴンがそう言っているのを信じるだけだが。
(それなら…)
今のこの状況は言葉にし難い状態だ。
どう見てもトドメを刺されるであろう側が自分なのだし。
「今スグ起キル ツイツイ手ガ先ニ出タ ダケダ」
でもまあ、今に思えば我ながらに何をしていたのか。
ただの馬鹿。急に喋りだすんだもの。
それだけで集中が途切れる愚か者。
うーむ、やはりどこか自分は抜けていた。
自分の上に伸し掛かる重量物が退いたにも関わらず
起き上がる気力すら無くなっている。
(それもあるんだが… 今ので暫くは動けん 気力が全て無くなった)
なんかもう、どうでも良くなり、気を抜いて眠りにつきたい気分だ。
これ以上は勝てる気がせず、次なる世界に向けてロードでもしようか。
いっそ何もせずこのままでも良い…とか思うぐらいに死にたい…
まあ楽には死ねないのでどうしたものかと思っていれば。
「ウソヲツケ ワタシに食ワレタイノカ?」
食われたいのかと来たか。
…ドラゴンに食われるのなら、それもまた良いかもしれない。
『蛇王の呪い』があるが、このドラゴンならどうにかしてくれそうだ。
まあ…発動したら発動したでその時はその時。
この呪いの力であっさりドラゴンまで倒してしまったら…
今までの自分の苦労はなんだったのかと。
逆に『蛇王の呪い』を呪う事にもなるかもしれない。
――m(`<~ 我こそ最強
(かもしれん キミの方が強いからな…)
さて、どうしたものか。
戦いが続くのか。止まるのか。
どちらにしても、このまま終わるとは思えない。
ついでにアスピクが何か言ってたが、気にしない。
今の台詞はアスピクに言ったものでは断じてない。
――m(`<~ つれない奴だ
「オキロ 二度ハ言ワナイ」
ドラゴンさんも、やる気は満々。
正面からぶっつぶしたい訳ね。
我ながら…ふざけた行動をしているな。
ついでにアスピクも。
(ああ~体がデカイんで億劫なんだよ 長さは半分ぐらいにはなったがな)
ともあれ、自分の体の状態は把握している。
あれだけあった長さがもう半分だ。
むしろ半分で済んだのに驚きだ。
8割がた食われたかと思ったぞ。
………しかし今の自分のHP…どのぐらいなんだ?
―――(21003/65535)
…はい、桁が違いすぎません事?
まだまだ余裕があるなぁ…
と感じれば少しは力が湧いてくる。単純思考。
「ハンブンダト? 減ルモノダッタノカ。」
長さも半分。HPも半分とはいかないまでも残ってる。
第2ラウンドも程よくこなせそうだな。
とは考えてみるものの。
そもそも、戦う意思がもう微塵も感じられないこの状況。
(そうそう 半分なんだ…よ!っと。)
相手も相手だ。
よくよく見れば隙だらけ。
今が絶好の好機?
「オマエハ…! ………ング…グゥ。。。」
あらまあ、あっさり。
上に乗っての再び、まきつき成功であります。
(油断大敵。上手くいくとは思ってなかったが)
(思ったより弱ってたようだな。)
…なんて言葉にするものの。
全く敵意が感じられない。こりゃあ…全然やる気ないな。お互いに。
「クッ…サッサトコロセ。。。」
…ああ。こりゃどっかの騎士様気質だわ。
性別はどっちなんじゃろな。
いや、襲わんけど。ドラゴンなんて。
魔物の本能でも襲わんぞ。多分。
(そんじゃ…遠慮なく。なんて言うとでも思ったか?)
(わざと倒されやがって)
しかしまあ、こうまでされると怒りにも似た感情まで湧いてくる。
自分より遥かに強い存在だったドラゴンがこうまで下手な演技をうつとは。。
「ソンナ…コトハナイ」
その棒読みは守護者とためをはれるな。
変な表情までして。ドラゴンがここまで表情豊かだとは思わなかった。
―――確認 ソンナ…コトハナイ ~>°)m――
あっ、いや。似てるけどなんか違う。
…だが今はちょっと待ってね守護者ちゃん。
ついでにアスピクも真似すんな!
頭の中で漫才されるとどっちを相手にして良いか困るんだ。
やりとりも程々に頭の中が空っぽになれば、ふと思いつく。
(察しはついてる。毒が抜けきらずに…苦しいんだろ?)
当たろうが外れようが関係ない。
どっちにしろ…やる事は決まっているからな。
そういえばどこかの神話の世界で…確か不死の体を持つなんとかが。
何かの毒を受け、永遠の苦しみを受ける羽目になったとか。
苦痛から解放される為に不死を捨て。
自らの命を絶ってもらう系のお話しを聞いた覚えがある。
似たような状況なのだろうか。
生き続けられるが、今後もドラゴンは苦しみ続けるとか。
そうでなければ…命を絶って救ってもらうのも一つの選択だろうけれど。
判断が付かん。
「………」
そしてだんまりである。
暫く待つも口を開く気配はない。
ドラゴンは此方を見つめてくるだけ。
(なんとか言ってくれ。一度こうなったら納得行くまで手が出せん)
大方の想像は付くが、ドラゴンの口から聞かねば先に進むつもりはない。
何を思っているのか、何をしようとしているのか。
「ソノ通りダ。…ワタシはシヌ。
オマエニ負ケを…ミトメタノモソレガ理由ダ」
ザッ―――
(そうかい…分かったよ。トドメ刺してやるから…感謝するんだな)
まあ…今回は悪いが。食われたがりには…その通りにしてやろう。
正直な話、食欲を抑えるのも…一苦労だったんだ。
ドラゴンって………ウマイノカ?ってね。
「アア…スキニスルガイイ」
………ああ、自分が逆側でも別に良い。
っていう思考が、この行為に対して全く忌避感が沸かない。
それに元々備わっているスキルの所為もあるだろうね。
さてと…一切の抵抗もなく…食べてやる…方法は。
『星食い』…発動!
…魂が屈服しているのであれば。
このスキルの前にドラゴンとて例外ではあるまい。
切り札の一つであったが…せめてもの情けだ。
この強靭な生命力を持つドラゴンを一撃で葬れるスキル等…これしか思いつかん。
せめて…これ以上苦しませずに…我が身に取り込んでくれよう。
…
……
………
あっさりと…実にあっさりと。
何の抵抗もなく、吸い込まれた。
極上の魔力が…口内に、胃の腑に染み渡る。
………本当に。食べてしまったのか?
美味いとか、そういう次元ではない。
体が求めていた、本能が求めていた。それ以上の感覚が体内に巡り渡る。
ドラゴン以外…自分はもう何も食べられないのではないか。
今すぐにでもロードをしなおして…また食べ直したい。
今度はスキル等使わずに自らの牙で…舌で味わいなおしたい。
だが…理性で強引にでも拒否をする。
これっきりだ、この一回で終わりにしよう。
頭がおかしくなりそうだった。
自我がまた吹っ飛ぶ所だった。
この一回で留めておかねば、魔物の道しか歩めなくなる。
そうでなくても…未だに現状を理解できずに夢心地なのだし。
今感じられているのは。
魔物としてドラゴンを征服したという喜びが…半分。
やはりドラゴンは…
嘘を付いていたなと。
落胆したのがさらに半分。
さて…差し当たりはそうだな、あのドラゴンは。
2度と食わん。その方が楽しめる。
食べてしまった時のあの感情は思い出としてだけ…
心の底に留めておく事にしよう。
確か他に3体のドラゴンが居るといっていたが。
そいつ等を食う事になるのであれば別………?
―――確認 危険感知に反応あり。ドラゴン3体です。
はい。ロードお願いします。
勝てる訳が無いのでお姿だけを拝見し、撤退です。
指パッチンならぬ、触手パッチン。
ただの恰好付けね。もはや慣れたものよ。
やってくるドラゴンの姿は。
どれもこれもが、個性的な姿をしていた。
色もデカさも、まちまちだったが。
始祖竜ユミルを元にしていただけあって、似ている面も多かった。
強さも。同等なんだろう。
いや…それ以上だな。
まあ、勝ち筋は…一切無い。
守護者も早くしろと準備し訴えかけている所だし。
ほら、怒っちゃ嫌だよ。守護者ちゃん。ロードを頼む。
ザッ―――
という訳で、やってきました。ドラゴンに『星食い』をする前へ。
(そうかい…分かったよ。トドメ刺してやるから…感謝するんだな)
「ア………ナンダト!?」
あれ、反応が違うぞ?
どちらにしろ確実に同じ反応するって訳じゃないのは良くある事。
まあ、やる事は決まっている。
『触手』
『抗体作成』
『体液注入』
うーむ、口からはドラゴン側も抵抗があるだろう。
噛み千切られたら嫌だし。
皮膚はそもそも触手では貫通せん。
それに血管なんぞ見えんし。
いや、注射をイメージ=血管でもない筈だ。
とりあえず体内に入れてやればいいのか?
………なら、こっちか。
うむ、ちょっと抵抗はあるが致し方無し。
大人は そのままよ
良い子の みんなは Bボタンを押してね。
なんて注意書きをしてみたがどちらにしろ意味はない。
せーのでブスリ。勢いで行けばなんでも成功する筈さ。
「アア…?ドウイウコトダ?ナニヲシテイル?」
で、自分は何をしてるのだって?
効果があるか分かないので、無かった場合は謝る他ない。
(何って。勝ったのはこっちだろ。好きにさせろよ?)
結果を残せばなんとやら。
やるしかあるまい。此処まで来たら。
「アア…ワタシハ負ケタガ。ヤルナラ…サッサト」
ヤルナラさっさと『抗体作成』『体液注入』
ピュピュピュノピューってな。
自分の毒だし、抗体作ってみたよ。
スキルの状態を感じる限り。出来てはいるようだ。
(えーと。この辺か?それともこの辺。んー。こっちかな)
何事も。一線を越えると楽しくなるものだ。
ほれほれ、体内を弄ぶ感覚はどうじゃい?
抗体効果…体に注入的なイメージしかないし。
抗体って飲み物でもないよな。
でも口からとか、むしろそっちからの方が
個人的にエロスを感じる所があるのだが。
「イイカゲンニ………シロ!」
ああ、そうか。
ドラゴンなら持ってるよな。
ブレス攻撃だったか。
あの途方もない威力で体の部位を削っていたあの攻撃の正体は。
(ちょ…っ!)
その瞬間、私の意識が死んだ。頭が綺麗さっぱりまた無くなったよ。
でも再生するんだな、コレが。
うん、痛いけど、まあそれ以上の攻撃が来なかったので大丈夫だ。
「ヤハリ。コロス。危険ナヤツダ」
怒り心頭。顔が真っ赤であるな。
こう見ると可愛いもんだ。自分より小さいし。
でも本気で怒らせたら…実は危ないドラゴンちゃん。
(あーあー。お待ちお待ち。ぶち込んだのは自分の毒の抗体よ)
こうにも危機感が無いというのはなんとも別の意味で恐ろしい。
そのうち手痛いしっぺ返しがいつものようにとんでくるだろう。
「………? ア。。。…? カラダガ…ソウカ。。。」
ともあれ、今回は上手くいったようで何より。
怒りの矛先はこれ以上こちらに向けられる事はなかったようだ。
(使うのは初めてなんでね。効果があるかは知らん)
そもそも自己の毒がどの程度か知らないのが致命的なのだが。
周囲を見渡せば生物が今後住んでいけるかどうかも怪しい
毒々しいフィールドが出来上がっている。
我ながら凄まじい物を撒き散らしたものだ。
この場に居る2匹の魔物以外………誰も生きてる気配がしない。
現実味が無い。魔物として生きてきた中で我ながらに、何の実感もない。
目が覚めたら殺しにかかってきたドラゴンがやってきて、
喧嘩していたらいつの間にやら妙な関係になってる。
一体なんなんだろう。この状況は。
ドラゴンがもう戦わない理由とは。
戦い続ければ世界すら壊しかねん。と思っているのかもしれない。
戦えば戦うだけ毒を撒き散らし、お陰に不死身ときたもんだ。
こんな魔物となんて、勝っても負けても誰も戦闘なんかしたくなくなるな。
改めて思う、この世界の魔物ってなんなんだろう?
なんの為に作り出された?
少なくても魔物と人間とで分かれて争い続ける構図は出来ているものの。
魔物側が本気になればこの通り。世界の中の人間側があっさりと滅びる事になる。
それを防ぐために今目の前で何を考えているかも分からぬドラゴンが傍にいるようだが。
「何ヲ考エテイルカ 知ランガコレ以上ハ モウ戦エン 食ウナリナンナリ好キニシロ…」
毒を治してやったやったというのに結局変わらずか。
我が身より世界。なんだろうな。自分も無駄に破壊する気はないが。
このドラゴンの前で、戦わねば世界を破壊し尽くすまでだって言ってやったらどうなるか。
と思うも、コイツをヤルともう3体の竜種とやらに袋叩きにあう未来が見える。
つまり、これ以上好き勝手に暴れる事は難しい。
そう考えると流石にこの世界を続ける意味も無くなってきた。
おとなしくロードして、蛇として生れ落ちた時に戻るとするかな。
だけど…その前に今のこの姿。この巨大な体躯であるのなら。
ふと…思い立った事がある。毒素に塗れたこの世界。
今までに得た知識。スキル。この体を使ってであれば。
最後に一つ…実験してみるのも悪くない。
(特に戦うつもりも暴れるつもりもない)
(ただ…最期に一つ やりたい事が出来た)
罪滅ぼしとは言わない。
今から無くなる世界をどうこうしたいだなんて思っていない。
並行世界的な何かでこの先、自分が居なくなった後に続く世界を想像した訳でもない。
ただの興味本位。
現実離れしたこの世界で自分に何が出来るかを図るために知識を得るだけの事。
「ナンダ?コレイジョウ…世界ヲ壊ス気ナラ…」
ドラゴンが聞いてくる。
身構えて居るようだが。悪い事をする訳でもない。
今のこの世界を救えるかもしれない方法だ。
少なくても…人間や魔物が残っているのであれば。
生き延びる道を残しておいてやれるだろうという事が出来るかもしれない。
(離れているだけでいい 邪魔だけはしてくれるなよ)
自分が思い描く通りであれば出来ない事はない筈だ。
…ドラゴンも素直に言う事を聞いてくれたようだし、やるだけやってみるとしよう。
『世界樹干渉』
『体質変化』
『植物操作』
『抗体作成』
『液体操作』
『ラプラス感応』
…何故だか『ラプラス感応』も反応したが悪い結果には向かうまい。
大地に根を張る
体躯を支え、世界に根付く。
なるべく高く、世界を見渡さねば。
根を深く、割れた大地を繋ぎ留め…尚且つ広く。さらに深く。
世界が小さい。
今の自分にとって…世界の全てに体が届く。
世界が狭いのか、自分がデカクなりすぎただけなのかは分からない。
ドラゴンですら小さく感じるのだから後者であろう。
…思考が逸れた。問題あるまい。時は十分にある。
毒素の及ばぬ所に人間の都市を確認。
守ってやるべきか? 考えるまでもなく、やってやろう。
力の及ぶ限り。可能な限り。やってやる。
地盤が固まれば…あとは単純だ。
毒素を浄化し続ければ良い。
あとは流れに任せ、どの程度の効果があるのか観察していれば良い。
それ以上の事は出来ぬ。精度を高める事のみに集中すれば良い。
程なく生命に害を及ぼすであろう毒素は残らず消える事になる。
その程なく…がどの程度の時間なのかは分からなかったが。
感覚が既に欠如している自分の感性では正確な時の流れが分からず。
どの程度の時が流れたのか。
目的は達成出来ていたようだったので気にする事でもない。
命あるモノが生き延びる環境を作り出す事が出来た。
…となれば後は、この世界で居座り続ける意味はないし。
守護者よ、そろそろ飽きた。ロードを頼む。
―――確認 データ3をロード 後に獲得スキルをお知らせします
なんだか守護者の声を聞くのが久しぶりな気がした。
…何も知らぬ他人より、やはり身近な存在が自分を現実に引き戻す。
今回の世界は…もう2度と経験する事はあるまい。
悪い夢だった。そう言い聞かせよう。
ただ、ドラゴンと喧嘩しただけの世界。それだけで良い。
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ある意味一つのエンディングだけど、まだもうちょっとだけ続くんじゃ。




