災厄の時
忘れていた部分追加
1日遅れて追加の2000字分程度。
山が動いている。
それが最初に受けた報告である。
大地が隆起し。山を作っていた。
何か巨大な物が大地を穿った後のようにも見えた。
冒険者達はその現場を調査していた。
依頼主は魔法都市【ピュートンティア】の重役達からである。
危険度が高いので入念に準備をせよとの事だったが。
辿り着いてみればただの大きな穴である。
しかし異常な事態であるのは確認出来た。
どこをどうすれば、このような穴が穿たれるのか。
その穴は瓦礫で塞がれてはいるものの、彼等冒険者が知る道具。魔法。魔物。
そのどれを当てはめても、この様な大穴が突然現れる理由の説明が付かない。
確認出来た穴はどれもが大きすぎるのだ。
地図が書き換わる程の大穴が既に3つも続いている。
武力国家である【グラニール】が数日の内に滅んだという事と関係しているのだろうか。
冒険者達は知識の及ばぬ現象に、言い知れぬ不安を覚えるも調査を続けていた。
2日間の調査を終え、続いている穴の数。並び方。魔力の残り香。
彼等なりに調べられる全ての調査を終え、これ以上の調査は時間の無駄と判断し。
町へ戻ろうと、冒険者達は歩を進めていた。
地鳴りが酷い。
思えばこの地鳴りの回数が異常であるというのが、
今回の調査を依頼された事の発端だ。
山が出来ていた。大穴が開いていた。それ以外の異変は影も形も見当たらない。
魔物、魔人、はたまた魔王か。
それ等が関係しているのかとも思ったのだが、正直に何も分からない。
こんな状態では自分たちに出来る事は何もなかった。
せめて原因の魔物なり謎の組織なりが居座っていたのであれば楽な依頼だったのだが
それにしても、今日の地鳴りは特に酷い。
世界が崩壊するんじゃないのか?
大地が割れたりして?
ドラゴンでも出たか?
彼等は不安がるも、冗談交じりでそれ等の可能性を否定しあう。
隕石が落ちたかなー。
マグマでも吹き上がって来たりして。
どっちかっていうと財宝のあるダンジョンが向こうからやってきたとか。
冒険者達の歩む速度は明らかに遅くなっていた。
やっぱりおかしいよ、ありゃあ。
うん。ありえない。
俺達夢でも見てんのかな。
ただただ、呆然とするしかなかった。
身の危険を感じてはいたものの。何をどうすれば良いのか分からない。
逃げる?
しかないよな?
でもやっこさんこっち見つけたかも。
文字通り、大地を揺るがす咆哮がその場に生きる者全ての行動を止めてしまった。
山が動いていた。魔術師達が住まう塔よりもソレは大きかった。
アレはなんなんだ? 魔物なのか? ああ。そうか。アレならあのぐらいの大穴。
容易く作れるよな。報告に付け加えておくか。
だが、その報告はどこに?
アイツの、腹の中でしろとでも?
彼らの目の前に現れた魔物は、巨大な蛇のような魔物だった。
最後に一筆したそのメモを残し、冒険者はどこへなりとも逃げいていく。
その日、魔法都市【ピュートンティア】に生きる者は何も無くなった。
* * *
住民は普段と変わらぬ生活を送っていた。
聖都【グレイシア】は数ある国の中でも最大の防衛力を誇ると言われた都市である。
そしてその都市には【ガラドラル教会】という教団が存在した。
神殿騎士と呼ばれる強大な武力を持ち。
女神として【クレリア】を祭り上げ、教皇【ミューラン】を最高位に置いている教団である。
権力と権威。両方を兼ね備えた教団の信頼が、世界で最高の人口を誇る都市を作っていた。
魔物への対策。冒険者ギルドへの口利き。各国への援助。
民衆の不満という不満に目立って大きな穴はなく。
神殿騎士を目指し、剣術の真似事をする子供達が街を駆け巡るのも日常で良く見られる光景の一つとなっていた。
そんな聖都に信じられないような情報が舞い込んだ。
民衆の不安も情報の不確定さが噂を呼び。歯止めがきかないままに広がりを続けている。
教団の上層部は頭を悩ませた。
これは我々の手に負える事態なのか?
だがやらねばならぬ。
予言にあった災厄までの時にはあと数年の時がある筈だ。
なぜ、こうも早くに国や主要都市が落ちる?
予言された数日後には【グラニール】国が陥落。
その2年後には魔法都市【ピュートンティア】が落ちた。
さらにその2年後には【フェニエル】共和国が消え去った。
その3年後。【グレイシア】に次ぐ防衛都市とも呼ばれた【アースガルム】だが
先に述べた国々が消えた事に警戒していたにも関わらず消滅した。
正確な確認は行っていないが【ケロンカロン】の島民とも連絡が取れていない。
そして【マグナス】に登録されていた部族も全ての存在が無くなった事を確認した。
予言の災厄が10年後を指すのであれば。
今より数年後にはこの聖都が落ちるのではないか?
原因は分かっている。
山のように巨大な魔物が人間の集まる場所を数年の間隔にて襲っているのだ。
襲われた国や街。村等、規模に差はあれど、例外なく壊滅している。
分かっている事は巨大な蛇のような魔物であるという情報は得られたものの。
それが何処に行き。何処へ消えたかとまでは分からずに終わっている。
その魔物が神出鬼没である理由は幾つも考えられた。
地中から現れ出でるという説。
空間転移系のスキルを持っているという説。
もしくは魔人。魔王が召喚魔法にて呼び出しているという説。
証拠として信用するのであれば、冒険者が残したであろう報告書により。
地中から現れるというのが信憑性が高い。
空間転移系のスキルを持つのであれば。
我が【ガラドラル教会】の預言者【クレリア】のスキルを使えば対策が出来るかもしれない。
もしも魔人。魔王が関係しているのであれば。
残る戦力を総動員してでも戦う以外にあるまい。
どこかに、この状況を打破してくれる勇者はおるまいか。
絶望的な状況だが、希望はまだ残っている。
名声高き冒険者の数多くは現在この聖都に滞在している。
中にはユニークスキルを持つ者もいるらしい。
【グラニール】【ピュートンティア】【フェニエル】
【アースガルム】【ケロンカロン】【マグナス】
名の通った冒険者達の中にはそれ等の都市に滞在し。命を落とした者も数多くいるだろう。
それ等の場所がこの【グレイシア】に滞在する冒険者達の故郷だった者もいるだろう。
最早、情報を規制する意味等無い。
この聖都が人類最後の防衛線なのだ。
全ての民に。真実を伝えねばなるまい。
冒険者ギルドには既に通じてある。
予言による災厄の時が、この魔物の存在によるものならば。
この聖都を狙う前に、食い止めねばならん。
食い止めねば…災厄とは。
人類が滅亡する事を指していたのかもしれない。
* * *
体が…重い。
力が…入らない。
腹は減らないが…食欲だけは半端無い。
幾らでも食えそうだ…食えば食うだけ。デカクなる。
どこまでデカクなれる? 何度繰り返している?
…一体。自分は。何を。している?
視界が広すぎて…何か。何かが。なんというか。世界が違う。
駄目だ。外の世界は眩しすぎる。眠りに就くときは地面の中だ。
『世界樹干渉』のお陰か。それとも『土竜遊泳』のスキルの所為か。息苦しさは感じない。
むしろ地中に居るほうが、安心できる。温かい。体も軽い。
幾らでも眠れそうだ。むしろこのまま永久に眠り続けるのも悪くない。
しかし一度覚醒すれば外界から聞こえる音により眠りにつく事は難しい。
辺りを静かにさせねば眠れない。
この不快な騒音の原因はなんだろう?
感覚は全て閉ざしている筈。
自分が外へ出れば、どうなるか。どうなるんだったか?
まあいい。久しぶりの外だ。
月日の感覚などない。
眠るだけの怠惰な日々だったが。
体は動く。快調だ。眠りにつく前の疲労感はなんだったのだろう。
空腹感は無いものの。やはり何かを口に放り込みたい思いが強い。
本能なのだろうか。魔物として。生きる者全てを食らい尽くしたいという本能なのだろうか。
抗えない。
理性が中途半端には残っているが。
抗えない。
生物の波動を感じてしまう。
抗えない。
世界が違う。知っている世界と違う。頭部を動かし。世界を観察する。
抗えない。
何をしようとしているのか。分かっている。
抗えない。
もう何度目だろう。何も聞こえない。
抗えない。
本能が理性を上回っている。
抗えない。
寝ぼけているんだな。自分は。
抗えない。
抗えない。
抗えない。
また一つ。集落が消えた。
なんだ。なんの抵抗も無い。
また見つけた。
同じだ。一口で全てが無くなった。
もう一つあった。
あそこにも。こっちにも、まだまだ残っている。
地上を動くのは億劫だ。
地面を進む方が楽だ。
自分の体躯を支えてくれる。
こんなにも大地の中が気持ちが良いものだとは思わなかった。
ちょくちょく湖だか海だかにぶつかるが、いちいち気にしてはいられない。
ひんやりとした感覚で身を包まれてちょっとばかり目が冴える。だけど。
抗えない。
生命の集落だ。
凄い量だ。
抗えない。
あそこに向かったら。
抗えない。
全部食べられる?
抗う必要もない。
本能の赴くままに。
抗う理由は?
無きに等しい。
抗わない
抗わない
抗わない
満足な量とは言えなかった。
だけど、これ以上動くのは億劫だ。
怠惰感が体が動くのをこれ以上良しとしていない。
………今回は水の中が良い。
ひんやりとしてキモチイイ。
体が全部収まるのも動きたくなくなる理由だ。
これだけ大きいと寄生してくる生物もいそうだが。
スキルのお陰でその心配も無い。
中途半端に不快な思いをさせる生物は潰してしまえば良い。
目を閉じ。熱源感知を閉じ。その他の感覚全てを閉ざす。
今回も体の中から声のような騒音が聞こえてくる。
潰してしまっても良いが。
今日は気分が良い。
何かが自分の中で生きているようだが。
体内を掻き回される感覚も今回はキモチイイ。
不快ではない。
それ等を感じながらまた眠りにつこう。
運が良ければ、もう目が覚める事がなくなるかもしれない。
* * *




